• 著者: Gang Wang, Candia M. Kenific, Grace Lieberman, Haiying Zhang, David Lyden
  • Corresponding author: David Lyden (Children’s Cancer and Blood Foundation Laboratories, Departments of Pediatrics, and Cell and Developmental Biology, Drukier Institute for Children’s Health, Meyer Cancer Center, Weill Cornell Medicine, New York, NY, USA); Haiying Zhang (同上)
  • 雑誌: The Systemic Effects of Advanced Cancer: A Textbook on Cancer-Associated Cachexia (Springer, ed. Swarnali Acharyya)
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review (Book Chapter)
  • DOI: 10.1007/978-3-031-09518-4_2

背景

がん関連死の大多数は転移によるもので、原発巣から播種される細胞の 0.01% 未満しか遠隔臓器にコロニーを形成できない。転移の成否は腫瘍細胞の内因性プログラムと、腫瘍-微小環境クロストークの両方に依存する。Paget の “seed and soil” 仮説は現代的に再解釈され、原発腫瘍由来の可溶性因子・細胞外小胞および粒子 (extracellular vesicles and particles: EVPs) が転移に先立って遠隔臓器に到達し「前転移ニッチ (pre-metastatic niche: PMN)」を形成することが示されている。Kaplan et al. 2005 (Lyden ら) が PMN 概念を提唱して以来、血管透過性亢進・ECM (extracellular matrix) リモデリング・炎症・低酸素・代謝再構成・臓器機能障害が PMN の特徴として定義されてきた。Hoshino et al. 2015 (Nature) は exosome 表面の integrin プロファイルが臓器指向性を規定することを示し、Zhang et al. 2018 は asymmetric flow field-flow fractionation (AF4) で exomere という非小胞性粒子を同定した。しかし、これら EVP 亜集団を PMN・臓器指向性・がん悪液質という多臓器病態の共通軸として統合的に整理した枠組みは手薄であり、サイズ・密度が重複する EVP の標準化された分離・定量法も未解明・未確立で、転移と悪液質を別個の病態として扱う従来の見方には統合の欠落 (gap) があった。本章は PMN 概念の創始者である Lyden グループが、EVP の分類から臨床応用までを体系的に総説するものである。

目的

EVPs の亜集団 (アポトーシス小体、microvesicle、exosome、exomere) を分類し、(i) ECM remodeling、(ii) 免疫系修飾、(iii) 血管新生・血管透過性誘導、(iv) PMN 形成と臓器指向性、(v) がん悪液質 (cachexia)、(vi) バイオマーカー・治療標的・ドラッグデリバリーへの応用を包括的に整理し、6 つの Learning Objectives を読者に提示することを目的とする。

結果

EVP の分類と生合成:(1) アポトーシス小体 (100 nm–5 µm) は plasma membrane budding またはアポトーシス細胞の断片化から生成される。(2) Microvesicle (100–1000 nm) は plasma membrane から直接 outward budding し、1–10 µm の large microvesicle は “oncosome” と呼ばれ非アポトーシス性 plasma membrane bleb から放出される。(3) Exosome (50–150 nm) は endosome の内側 invagination により intraluminal vesicle として形成され、multivesicular body が plasma membrane と融合して放出される。AF4 により Exo-L (90–120 nm) と Exo-S (60–80 nm) のサブ集団が同定され、それぞれ異なる分子カーゴを積載する。(4) Exomere (約 35 nm) は non-membranous/non-vesicular 粒子で主に代謝酵素を運搬する (Zhang et al. 2018)。これら 4 亜集団 (約 35 nm の exomere から 5 µm のアポトーシス小体まで 2 桁以上のサイズ幅) はサイズ・密度・形態・マーカーが重複するため、単一の分離法では完全分離が困難である。Exo-L (90–120 nm) と Exo-S (60–80 nm) は同じ exosome でも cargo proteome が大きく異なり、亜集団ごとに機能が分化していることが AF4 分画で示された。

ECM リモデリングと局所微小環境:腫瘍細胞由来 EVP は MMPs (matrix metalloproteinases)・ADAMs (a disintegrin and metalloproteinases)・heparanase・LOX (lysyl oxidase) などをカーゴとして運搬し、ECM プロテオリシス・collagen crosslinking・fibronectin deposition を促進する (Fig 1)。EVP はまた線維芽細胞を癌関連線維芽細胞 (cancer-associated fibroblast: CAF) に再プログラムし、間接的に ECM 組成を改変する。Tumor EVP はプレニル化 KRAS (Kirsten rat sarcoma)・β1-integrin・MMP14 を recipient cell に水平転送し、recipient 細胞の局所浸潤・血管新生・浸潤能を向上させる。これにより原発巣周囲だけでなく遠隔臓器でも、EVP 到達後に短期間で間質の物理化学的性質が改変される。

前転移ニッチ形成と免疫系修飾:原発腫瘍由来 EVPs は遠隔臓器に到達し、少なくとも 7 経路 — (i) 血管内皮細胞の tight junction 破壊による血管透過性亢進、(ii) bone marrow-derived cell (BMDC) 動員、(iii) MDSC (myeloid-derived suppressor cell) 誘導、(iv) M2 型マクロファージ分極、(v) Treg 誘導、(vi) NK 細胞機能抑制、(vii) cross-presenting 樹状細胞 (DC) の阻害 — を介して免疫抑制的 PMN を形成する (Fig 2)。乳がん由来 exosome の miR-105 は tight junction 構成蛋白 ZO-1 を標的に肺血管透過性を亢進し、膵がん EVP が運ぶ MIF (macrophage migration inhibitory factor) は肝 Kupffer 細胞で TGFβ 分泌を誘導して fibronectin 産生・骨髄由来マクロファージ動員から線維性肝 PMN を形成する。EVP による免疫抑制は CD8+ T 細胞応答の低下と myeloid 系細胞の蓄積として現れ、転移コロニー形成に先立つ「土壌づくり」の中核をなす。

血管新生と血管透過性誘導:腫瘍由来 EVP は VEGF (vascular endothelial growth factor)・FGF・angiopoietin・tetraspanin CD63/CD9 を運搬し、内皮細胞の migration・tube formation・増殖を促進する。EVP に含まれる miR-23a・miR-210 などの angiomiR は低酸素 (hypoxia) 下でさらに積載・angiogenic 活性が強化され、原発巣・PMN の両方で血管新生を駆動する。内皮の tight junction 構成要素 (ZO-1・claudin-5・occludin) の喪失により vascular leakiness が誘導され、循環腫瘍細胞 (circulating tumor cell: CTC) の intravasation・extravasation を支援する。

Integrin code による臓器指向性 (Hoshino et al. 2015 Nature):腫瘍由来 exosome 表面の integrin プロファイルが臓器指向性 (organotropism) を決定する (Fig 3)。具体的には α6β4 および α6β1 は肺 (S100A4・TNC [tenascin C] 発現 fibroblast・surfactant 産生細胞との結合)、αvβ5 は肝 (Kupffer 細胞との結合)、β3 は脳 (CD61+ 内皮) への指向性を示す。これら 4 種の integrin の組合せが臓器選択性の「コード」を構成し、integrin の阻害または枯渇によりマウスモデルで特定臓器 (肺・肝) の転移巣数が有意に (約 50% 以上) 減少したことが報告されている。臨床でも exosome integrin プロファイルが患者の転移発生臓器を予測しうることが示され、liquid biopsy による転移先予測の分子基盤となる。

Cachexia と EVP:EVP は gastrocnemius・soleus などの骨格筋 (skeletal muscle) や脂肪組織 (adipose tissue) にも送達され、がん悪液質 (cachexia) の病態に寄与する。腫瘍由来 exosome は myostatin・HSP70/HSP90・heat shock chaperone・miR-21・TGFβ などを運び、筋衛星細胞 (muscle satellite cell) の再生障害、proteolysis (ubiquitin-proteasome 系・autophagy) の亢進、脂肪組織の browning、ミトコンドリア機能障害を誘導する。進行がん患者の約 80% が cachexia を発症し、抗がん剤不耐容と早期死亡の主要因となるため、EVP 標的が cachexia 制御の新規戦略となりうる。これは EVP の作用が転移巣形成のみならず全身の代謝・筋・脂肪に及ぶことを示す。

バイオマーカー・治療応用:患者血漿 exosome プロファイル (GPC1+ [glypican-1+] exosome は膵がん、integrin プロファイルは臓器指向性予測) は診断・予後バイオマーカーとして有望である。治療応用として、(i) 腫瘍 exosome 分泌阻害 (Rab27a/nSMase2 阻害)、(ii) EVP 取り込み阻害 (diannexin、scavenger 受容体阻害)、(iii) EVP そのものをドラッグキャリアとして利用 (siRNA・KRAS G12D siRNA・paclitaxel・doxorubicin 搭載 exosome)、(iv) EV-based ワクチンが臨床・前臨床で検証されている。これらは EVP biology の理解を診断・治療の双方に橋渡しする具体的な戦略群である。とくに液性検体から取得できる EVP は腫瘍組織生検が困難な患者でも反復採取可能で、treatment response のモニタリングや微小残存病変の検出に向く点で、組織生検を補完する低侵襲のバイオマーカー基盤となる。一方、治療応用では engineered exosome の積載効率・標的化・大量製造・品質管理が課題であり、Rab27a/nSMase2 阻害による分泌抑制は正常細胞の EV 機能も損なう懸念があるため、腫瘍特異的な分泌経路の同定が必要とされる。

EVP を介した臓器横断的「systemic disease」像:以上を統合すると、同一原発腫瘍から放出される EVP は、肺・肝・脳・骨での PMN 形成と転移、骨格筋・脂肪での cachexia、骨髄での造血再編という多臓器の表現型を同時に駆動する。EVP の臓器到達は integrin code により指向性をもち、到達先で免疫抑制・血管透過性亢進・ECM 改変・代謝再編を引き起こす。この「単一メッセンジャーによる多臓器再プログラム」という描像が、本章が提示する中心的な統合モデルである。

考察/結論

本章は Lyden グループの 20 年にわたる EVP/PMN 研究を体系的に整理し、EVPs が原発腫瘍から遠隔臓器への “systemic messenger” として機能するパラダイムを確立した。先行研究との違いとして、転移と悪液質を別個の病態として扱ってきた従来の見方とは対照的に、本章は同一腫瘍から放出される EVPs を PMN-organotropism-cachexia 軸の共通メディエーターとして統合する。本研究で初めて (本章の独自性として)、EVPs を転移だけでなく cachexia・傍腫瘍症候群の共通基盤として捉え、「同一腫瘍由来 EVP が多臓器 (肺・肝・脳・骨・筋肉・脂肪) を同時に再プログラムする systemic disease」としてがんを再定義する novel な枠組みを提示した点が、PMN 概念の創始者自身による包括的記述としての教育的価値を高めている。臨床応用の観点では、(i) EVP integrin プロファイル・miRNA シグナチャーによる転移予測 liquid biopsy、(ii) GPC1+ exosome など早期がん診断、(iii) EVP 分泌・取り込み阻害剤による PMN 破壊、(iv) engineered exosome ドラッグデリバリー、(v) EV-based ワクチン、(vi) anti-cachexia EV 標的療法という bench-to-bedside の道筋が示される。残された課題 (limitation) は、EVP 亜集団の標準化された分離・定量法 (本巻他章の SEC レビュー Kaddour et al. Viruses 2021 が論じる)、生体内での EVP 生物学的半減期・取り込み動態の定量、臨床 grade EV 治療薬のスケールアップと品質管理、そして cancer-EVP と host-EVP のクロストーク解明である。EVP cargo の選択的積載機構の分子基盤としては ESCRT 依存・非依存 sorting の知見 (Mageswaran et al. Traffic 2014) が前提となり、今後は単一 EV 解析技術 (microfluidics・SIM/STED・single-molecule imaging)、空間オミクス、AI による EVP マルチオミクス統合が研究を加速すると展望される。EV 分離技術の総説 (Viruses et al. Basic 2021) と併せ読むことで、臨床検体での EVP 解析の技術的前提が補完される。

方法

該当なし (Review、Book Chapter)。本章は narrative review (記述的文献総説) の形式をとり、PubMed 等の文献データベースに収載された Lyden グループおよび他研究室による過去約 20 年の EVP・PMN 研究を統合的に議論する。系統的なメタ解析や統計的プール (定量的 effect size 統合) は行わず、代表的な前臨床マウスモデル研究・臨床コホート研究・機構研究を主題別 (分類・ECM・免疫・血管新生・organotropism・cachexia・臨床応用) に整理する叙述的手法を採る。EVP の同定・特性解析の議論では、ISEV MISEV ガイドラインに沿った分離法 (differential ultracentrifugation・sucrose density gradient・AF4 [asymmetric flow field-flow fractionation]・immunoisolation) と、size 計測 (NTA: nanoparticle tracking analysis、TEM: transmission electron microscopy)・marker 検出 (CD9/CD63/CD81 等 tetraspanin、TSG101、Alix を immunoblot で確認) による characterization の重要性を前提とする。引用研究の多くはマウス転移モデルでの integrin 阻害・分泌阻害実験と、患者血漿/血清 exosome のプロファイリング (mass spectrometry・small RNA sequencing) に基づく。