- 著者: Koya J, Saito Y, Kameda T, Kogure Y, Yuasa M, Nagasaki J, et al.
- Corresponding author: Keisuke Kataoka (kkataoka-tky@umin.ac.jp), National Cancer Center Research Institute, Tokyo
- 雑誌: Blood Cancer Discovery
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-07-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 34661162
背景
HTLV-1 (human T-cell leukemia virus type 1) は世界で500〜2000万人が感染するレトロウイルスであり、世界のがんの10〜15%がウイルス感染に起因すると推定されている (de Martel et al. Lancet Oncol 2012)。HTLV-1は主にCD4+ T細胞に感染し、感染から30〜50年の潜伏期を経て成人T細胞白血病/リンパ腫 (ATL; adult T-cell leukemia/lymphoma) を引き起こす。ATLは極めて予後不良のT細胞腫瘍であり、ウイルス感染→前悪性クローン増殖→ATL発症という多段階発がんモデルが提唱されてきた (Watanabe. Blood 2017; Kataoka et al. Nat Genet 2015)。無症候性キャリア (AC; asymptomatic carrier) においてドライバー変異を有するHTLV-1感染クローンが末梢血に検出されることは示されているものの (Rowan et al. Blood 2020)、PBMC (peripheral blood mononuclear cell) 中のプロウイルス保有細胞の割合は通常1〜5%未満であり、感染細胞の表現型・機能評価は困難であった。
ATL細胞ではCD274遺伝子 (PD-L1をコード) の3’-非翻訳領域 (UTR) を切断する構造多型 (SV; structural variant) が頻繁に認められ、PD-L1過剰発現を引き起こすことが報告されている (Kataoka et al. Nature 2016)。しかし、この遺伝的PD-L1過剰発現が腫瘍微小環境全体に与える影響—特に腫瘍細胞から非悪性細胞へのタンパク質転移の可能性—は未解明であった。腫瘍微小環境を構成する全免疫細胞サブセットの機能的不均一性、HTLV-1感染に伴う変化とATL白血病化に伴う変化の相違点については体系的な知見が手薄であり、単一細胞レベルでの解析が gap in knowledge として残されていた。
目的
HTLV-1感染者・前悪性AC・ATL患者にわたる多細胞エコシステムを、CITE-seq (cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing) と scTCR/BCR-seq (single-cell T/B-cell receptor sequencing) を統合したマルチモーダル単一細胞解析により包括的に解明する。具体的には (1) 前悪性クローン増殖の表現型・機能的基盤、(2) ATL悪性細胞のクローン進化と腫瘍内不均一性、(3) ウイルス感染と白血病化が非悪性造血細胞に及ぼす差異的影響、(4) CD274 SV によるPD-L1過剰発現の免疫微小環境への影響を明らかにすることを目的とする。
結果
FOXP3+Treg様前悪性クローンがATL発症起源を形成し、MHCクラスII減衰がクローン選択を促進する: 233,093 PBMCのCITE-seq解析 (Fig. 1) では、UMAP次元削減と TCRクローン性評価により悪性30クラスター (M01-30) と非悪性8クラスター (NM01-08) が同定された。非悪性CD4+ T細胞 (NM01、35,668細胞) の4サブクラスター解析では、HBZ (HTLV-1 bZIP factor)・FOXP3・CADM1 mRNA高発現とCD45RO+CD25+CD7-CD194+免疫表現型をもつHTLV-1感染/Treg様クラスター (CD4-3、CD4-4) が、HDでは総CD4+ T細胞の4%に対しACおよびATL患者では約1/3を占め、HTLV-1プロウイルス量と比例した (Fig. 3C, D)。STARTRAC-expanインデックス解析ではFOXP3+感染細胞がFOXP3-細胞より有意に高いクローン増殖を示し (Welch t検定、p<0.005、Fig. 4E)、Treg遺伝子シグネチャースコアが最高値を示した (Fig. 4J)。FOXP3+クラスターはCTLA4・LAG3の転写増強とCD73・CD39の免疫抑制タンパク質高発現を特徴とし、強力なTreg様免疫抑制表現型を示した (Fig. 4H, I)。RNA velocityと擬時間解析ではFOXP3+とFOXP3-間の一方向的分化フローは認められず可逆的な表現型可塑性が示された (Fig. 4G)。
クローン性細胞 (STARTRAC高スコア細胞) では非クローン細胞と比較してMHCクラスII経路遺伝子が有意に低下しており (Fig. 4L)、HLA-DR ADTレベルにも軽度の低下が確認された (Fig. 4M)。これはHTLV-1感染T細胞が過剰なMHCクラスII分子を下方制御することでT-T相互作用による免疫排除を回避し、クローン増殖を促進する機序を示唆している。重要なことに、34 ATLサンプルのうち17例 (50%) で感染/TregクラスターのTCRと悪性クラスターのTCRが一致しており (Fig. 4K)、ATLがFOXP3+前悪性クローンから発展することが直接確認された。また ACの1/3以上がATL関連体細胞変異またはクローン造血関連変異を保有しており、これらの変異がHTLV-1感染との協調でクローン増殖を加速することが示唆された。
mRNAとADT発現の細胞種特異的解離と悪性T細胞の多様な免疫分子プロファイル: 70抗体全体でmRNAとADT発現の相関係数を算出すると2/3以上の遺伝子で強い正の相関を示したが (Fig. 2A)、骨髄系細胞特異的にCD47・CD69・CD29/ITGB1など11マーカーで解離したADT上昇が認められた (Pearson相関、q<0.01、Fig. 2D)。さらに骨髄系細胞とNK細胞のADT/mRNA比を比較したVolcano plot解析では、CD11a/ITGAL・CD18/ITGB2など6マーカーが有意に高いADT/mRNA比を示し (Mann-Whitney U検定、q<10^-10、log2 fold change ≥ 1 (≥2-fold change)、Fig. 2E, F)、骨髄系細胞に特異的な転写後調節機構の存在が明らかになった。この骨髄系細胞特異的なADT解離上昇は他のpublic CITE-seqデータセットでも再現された。非感染CD4+ T細胞 (CD4-1/-2) との比較では悪性細胞 (M01-30) で681遺伝子が上方制御・91遺伝子が下方制御され、ADT解析でもPD-L1・CD73・CD39 (免疫抑制分子) とCD71・CD25・CD38 (活性化マーカー) が共上方制御された (Fig. 3H, I)。一方、CD3とCD62LはmRNA増加にもかかわらずADTレベルが低下する腫瘍特異的転写後調節が確認された。
scTCR-seqによるATLクローン進化の解明: ATL 34サンプルのscTCR-seq解析では、25サンプルで主要悪性クローンが2本のTCRを発現した (Fig. 5A)。非感染CD4+ T細胞では異なるV-Jペアの二本鎖TCRが均一分布するのに対し、悪性細胞の36%が同一V-Jペアを示しTRB増幅 (1サンプルで確認) による腫瘍特異的TCR重複が示唆された (Fisher正確検定、Fig. 5C)。TCR CDR3変異を有するサブクローンが5サンプルに認められ、独立したV-Jペアをもつ独立サブクローンが7サンプル (21%) で同定された (Fig. 5D)。経時的解析では、ATL02で急性転換後に新規独立クローンの出現と悪性シグネチャー増強が、ATL06では急性転換後に複数サブクローンの消滅によるクローン選択が視覚化された (Fig. 5J, K)。ATL03ではHLA-Bナンセンス変異を含むクラスター特異的変異 (p=5.8×10^-3) をもつサブクローン (ATL03M-2) が独立し、HLAクラスI発現喪失による免疫回避が示唆された (Fig. 5H, I)。
非悪性造血細胞の動的変化—ウイルス誘発性変化と腫瘍誘発性変化の相違: 非悪性細胞の細胞種別割合解析 (Fig. 6A, B) では、ATLで骨髄系細胞の著明な増加と B細胞の著明な減少が確認された。骨髄系サブクラスター解析 (NM08、11,698細胞) では、ATLで特にCD16+非古典的単球 (My-2) とCD1c+樹状細胞 (My-3) が増加し、活性化マーカーCD64の上昇とIFNγ・IFNα経路遺伝子の有意な上方制御が示された (Fig. 6D-F)。B細胞では特にスイッチメモリーB細胞 (CD27+IgD-) が有意に減少し、IFN経路遺伝子の上方制御とCD69低下が認められた (Fig. 6G-J)。NK細胞 (NM05、20,662細胞) ではACおよびATL患者でCD328 (SIGLEC7)+成熟NK細胞が減少し、NK機能不全がAC段階から既に進行していることが示された (Fig. 6K-N)。CD8+ T細胞 (NM02/03、21,595細胞) ではATLでEM (effector memory)・MAIT (mucosal-associated invariant T) 細胞が有意に減少し (p<0.05)、RNA velocityでEMRA (effector memory reexpressing RA) への強制分化の方向性が確認された (Fig. 6O-Q)。ATL細胞株 (TL-Om1・ATL43) との正常PBMC共培養では、骨髄系細胞CD64発現の有意な増加 (p<0.005) と活性化CD8+ T細胞 (CD25+HLA-DR+・CD69+HLA-DR+) 割合の有意な増加 (p<0.05) が誘導され (Fig. 6T-V)、腫瘍細胞自体が直接非悪性細胞の表現型変化を誘導することが示された。
CD274 SV腫瘍細胞からのPD-L1タンパク質の細胞間転移と免疫抑制波及: CD274 SV保有ATL患者8例 (全34サンプル中) では、悪性細胞のPD-L1 ADT高値 (Fig. 7A) とともに、非悪性B細胞・骨髄系細胞でのPD-L1 ADTが有意に増加する一方でmRNAレベルに変化がなかった (Fig. 7E)。このmRNA非依存的なPD-L1タンパク質増加の機序を検証するため、T細胞限定的にCd274 3’-UTRを欠失させたcKOマウス (Cd4-Cre交配) を新規作製した。cKO群 (n=9) ではWT群 (n=14) と比較してCD4+ T細胞でのPd-l1タンパク質過剰発現が骨髄系細胞のPd-l1表面タンパク質を有意に増加させ (mRNA変化なし、Fig. 7H)、ヒト患者データが再現された。PD-L1-GFP融合タンパク質共培養実験 (n=4) ではGFP単独対照と比較してPD-L1-GFPがHEK293T細胞・Jurkat T細胞からB細胞 (CD19+) および骨髄系細胞 (CD14+) へ有意に転移し (p<0.005)、受容細胞表面に発現した (Fig. 7I, J)。さらにPD-L1-GFP過剰発現HEK293T細胞の条件培地もGFP発現を誘導し (n=4、Fig. 7K)、エクソソームなど間接的機構による転移の存在も示された。転移したPD-L1-GFP融合タンパク質は活性化CD8+ T細胞の増殖を有意に抑制し (n=4、p<0.005、Fig. 7L, M)、細胞間PD-L1転移が直接的に抗腫瘍免疫を抑制することが実証された。
考察/結論
本研究はHTLV-1ウイルス発がんの全段階を網羅した最大規模のマルチモーダル単一細胞解析であり、これまでの研究では不明であった複数の機序を明らかにした。第一に、FOXP3+Treg様HTLV-1感染細胞が前悪性クローン増殖の主体であることを単一細胞レベルで直接示した点は新規な知見である。既報ではHTLV-1感染細胞のTreg様表現型は記述されていたが、FOXP3+/FOXP3-間の可逆的表現型可塑性、MHCクラスII下方制御によるクローン選択機序、および34サンプル中17例でのTCR共有によるATL起源の直接的証明は、本研究で初めて単一細胞レベルで確立された。
第二に、scTCR-seqによるATLクローン進化の可視化では、7サンプル (21%) で独立サブクローンが同一患者内に発生することが示された。サブクローン間での治療感受性・急性転換能の差異は、ATL患者の予後予測や治療戦略の個別化に対する臨床的意義が高い。従来のバルク解析では捉えられなかった腫瘍内不均一性の構造が本手法で初めて解明された点で既存研究と異なる。
本研究の最も革新的な知見は、CD274 SV腫瘍細胞からの遺伝的PD-L1過剰発現タンパク質が周囲非悪性細胞へ細胞間転移するという機序である。通常PD-L1発現はIFNγによる転写誘導が主経路であるとされているが (Topalian et al. NatRevCancer 2016)、本研究ではヒト患者データとマウスモデルで一致して、腫瘍細胞の遺伝的PD-L1過剰がmRNA依存なく周囲細胞の表面PD-L1を増加させることが示された。この細胞間タンパク質転移は、EGFRvIIIのマイクロベシクル転移 (Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008) やメラノーマエクソソームによるMET転移 (Peinado et al. NatMed 2012) と類似した細胞間コミュニケーション機構であり、ATL特異的な現象ではなく多様ながんの免疫微小環境形成にも関与する可能性が示唆される。臨床応用として、この細胞間PD-L1転移機序はATLにおけるPD-1/PD-L1阻害薬の選択・応答・耐性を理解するための新たな框架を提供し、PD-L1阻害薬を用いた治療戦略最適化に向けた具体的な根拠となる。
本研究の limitation として、解析対象が末梢血PBMCに限定されており、リンパ節・骨髄・組織浸潤腫瘍の微小環境全体は評価されていない。CD99・LGALS1の機能的役割は細胞株とマウスモデルで確認されたが、ATL患者コホートでの前向き検証は残された課題である。PD-L1細胞間転移の詳細な分子機構 (エクソソーム依存性か細胞接触依存性かの弁別) については更なる検討が必要である。今後の研究として、FOXP3+前悪性クローンを標的とした早期介入療法の探索、CD274 SV保有ATLに対するPD-1/PD-L1阻害薬の最適化、および本細胞間PD-L1転移機構の他固形がんへの普遍性の検証が期待される。
方法
健常ドナー (HD) 4例、HTLV-1無症候性キャリア (AC) 11例、ATL患者30例 (34サンプル、急性型19・慢性型12・くすぶり型3を含む経時的4例) から採取した末梢血PBMC 233,093細胞を解析対象とした。10x Genomics 5’ CITE-seqにより転写量と102種 (32種を除外し最終70種使用) の表面タンパク質を抗体由来タグ (ADT; antibody-derived tag) として同一細胞で同時定量した。平均で1細胞あたり1,422遺伝子 (4,477 UMI) および64抗体 (2,745 UMI) を検出した。scTCR/BCR-seqを同時実施し、T細胞の85%・B細胞の96%でTCR/BCR配列を取得した。全サンプルに標的シークエンス (targeted-seq)、n=32サンプルにはバルクRNA-seq・全エクソーム解析 (WES; whole-exome sequencing)・SNPアレイを実施して体細胞変異・コピー数異常 (CNA; copy number alteration) を検出した。次元削減 (UMAP) とクラスタリングにより細胞集団を同定し、TCRクローン性に基づいて悪性・非悪性クラスターを区別した。クローン増殖評価にはSTARTRAC-expa (single T-cell analysis by RNA-seq and TCR tracking expansion) 指標を用い、細胞分化動態はRNA velocity・擬時間軌跡解析で評価した。統計解析はR3.6.1を使用し、連続変数にはWelch t検定、カテゴリ変数にはFisher正確検定を適用、多重比較はBenjamini-Hochberg法で補正した。
CD99の機能はATL細胞株 TL-Om1 を用いたCRISPR-Cas9ノックアウト実験 (n=4、成長曲線は mean ± SD で示す、細胞周期解析・AKT/ERKリン酸化) で検証した。LGALS1の機能はBALL-1細胞への過剰発現と細胞傷害活性アッセイ (n=3)、およびE.G7-OVA移植マウスモデル (n=15〜17) で評価した。PD-L1の細胞間転移は、Cd274 3’-UTR条件付きノックアウト (cKO; conditional knockout) マウス (C57BL/6背景、Cd4-Creと交配、cKO群n=9 vs 野生型n=14) とPD-L1-GFP融合タンパク質を用いた共培養アッセイ (HEK293T細胞・Jurkat T細胞、n=4) で検証した。