• 著者: Khalid Al-Nedawi, Brian Meehan, Johann Micallef, Vladimir Lhotak, Linda May, Abhijit Guha, Janusz Rak
  • Corresponding author: Janusz Rak (Montreal Children’s Hospital Research Institute, McGill University, Canada)
  • 雑誌: Nature cell biology
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-04-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18425114

背景

グリオブラストーマ (GBM) は脳腫瘍のなかでも極めて予後不良な悪性腫瘍であり、症例の約50%でEGFR遺伝子増幅を示し、その多くがエクソン2-7欠失による恒常的活性化型変異体EGFRvIIIを発現する (Biernat et al. 2004)。Cavenee et al. (2002) はEGFRvIIIによる転写プログラム改変がBcl-xL上昇・p27低下・VEGF誘導を介して腫瘍進展を駆動することを示し、Feldkamp et al. (1999) はastrocytomaのVEGF分泌がRas依存的にEGFRシグナルから上流制御されることを報告していた。しかし腫瘍内ではEGFRvIIIを発現する細胞は少数のサブクローンにとどまるにもかかわらず、腫瘍全体が高い悪性表現型を示すという「非細胞自律的」効果が観察されており、その分子機序は不明であった。先行研究のBergsmedh et al. (2001) はアポトーシス小体を介したDNA断片の水平伝播を提唱したが、これは死細胞依存的な稀な現象であり、生細胞由来のオンコジーン伝播経路は提案されていなかった。一方でDel Conde et al. (2005) は組織因子 (TF) を含むマイクロベシクル (MV) が脂質ラフトから発生し血小板膜に取り込まれること、Mack et al. (2000) はCCR5受容体がMV経由でHIV感染感受性を伝達することを示しており、活性化膜タンパク質がMVに搭載されて細胞間伝達されるという概念は限定的に存在していた。しかし、発がん性受容体が腫瘍細胞間で生体現象として伝達されるかどうか、受容細胞の形質転換能・遺伝子発現プログラムを変化させうるか、そして担癌動物血液中で検出できる新たなリキッドバイオプシー標的になりうるか、という点については未解明であり、研究が不足していた。本研究はこのギャップを埋めるべく、EGFRvIIIが脂質ラフト由来オンコソームとして放出され、EGFRvIII陰性GBM細胞に水平移送されて発がんシグナルを伝達するという仮説を実験的に検証した。

目的

EGFRvIIIが腫瘍細胞由来マイクロベシクル (オンコソーム) を介して細胞間移送され、EGFRvIII陰性受容細胞に対してMAPK/Aktシグナル活性化・VEGF/Bcl-xL/p27発現変化・アンカレッジ非依存性増殖促進という形質転換シグナルを伝達するという「水平オンコジーン伝播」機序を実験的に実証し、担癌動物血中での検出可能性を含めた臨床応用基盤を提示すること。

結果

EGFRvIIIによるマイクロベシクル産生の促進: SEMでU373vIII細胞表面に多数の小胞状突起 (vesicular protrusions) が観察され、親株U373よりも顕著であった (Fig 1a)。条件培地のMV画分蛋白量はU373vIIIでU373の約3.0-foldに増加し (mean ± s.d., n=3 independent experiments)、Student t-testでp<0.001の有意差を示した (Fig 1b)。MV画分はflotillin-1陽性で脂質ラフト由来であることが確認され (Fig 1c)、TEMで100-500 nmの典型的なMVサイズが計測された (Fig S1)。A431細胞 (野生型EGFR高発現) でもEGFR陽性MVが回収され、活性化EGFRファミリー受容体がMVにcargoとして搭載される普遍的現象であることが示された。HUVECは比較対照としてEGFR陰性MVのみを産生した。

担癌マウス血液中におけるEGFRvIII含有MVの検出: U373vIII皮下腫瘍を持つn=8 SCID miceの心臓穿刺血からflotillin-1陽性・EGFRvIII陽性MVが検出された一方、U373親株腫瘍を持つマウスやコントロール非担癌マウス血液では検出されなかった (Fig 1f)。同腫瘍はEGFRvIII特異抗体で強染色されたが、野生型EGFR特異抗体では染色されず、腫瘍特異的MVが体循環に放出されていることが裏付けられた (Fig 1e)。CI-1033投与によりU373vIII腫瘍形成が完全に抑制された (Fig 1d) ことから、EGFRvIIIキナーゼ活性がMV産生と腫瘍形成の両方に必要であることが示された。これはex vivoでの腫瘍由来EV検出 (liquid biopsy) の初期実証例である。

オンコソームのEGFRvIII移送と膜融合機構: U373細胞にU373vIII由来MVを24時間添加後、FACSでEGFRvIII表面発現の獲得がmean fluorescence intensityで明確に検出された (Fig 2a)。GFP融合EGFRvIIIを用いた追跡実験では、U373細胞表面にGFP蛍光が直接観察され (Fig 2c-d)、受容体の細胞間移送が分子レベルで確認された。形態学的にもU373細胞がspindle-like (紡錘形) に変化し形質転換像を示した (Fig 2b)。Annexin V (PS結合蛋白) 前処理MVは取り込みが消失し、PS依存的な膜融合機構が必須であることが立証された。

オンコソーム移送によるMAPK・Akt経路の活性化: U373細胞をU373vIII由来MVに曝露24時間後、Erk1/2リン酸化が2.0-fold increaseの上昇を示した (Fig 3a)。CI-1033前処理MVでは濃度依存的にErk1/2活性化が抑制され、IC50相当の濃度応答曲線が観察された (p<0.01)。Annexin V前処理MVでも同様にErk1/2およびAktのリン酸化が抑制された (Fig 3c-d)。U373親株由来MV (EGFRvIII陰性) は全く活性化を誘導せず、Erk1/2・Akt自体はMV内に検出されなかった (Fig S5)。これらの結果はMV内のEGFRvIIIキナーゼ活性そのものが移送シグナルを駆動することを証明した。

受容細胞での遺伝子発現と形質転換能の変化: U373vIII MVを取り込んだU373細胞ではVEGF分泌が2.0-foldから3.0-foldに増加し (ELISA、Fig 4a、p<0.001)、CI-1033またはAnnexin V前処理MVでこの誘導は完全に消失した。VEGFプロモーターレポーターアッセイでも同様の活性化が確認され (Fig 4b、p<0.0001)、MAPK/Akt経路を介した転写制御であることが示唆された。抗アポトーシスBcl-xL発現が増加し、cyclin-dependent kinase inhibitor p27/Kip1が低下した (Fig 4c)。軟寒天コロニー形成能 (アンカレッジ非依存性増殖) はU373対照群と比較してU373vIII MV添加群で約2.0-foldに増加した (Fig 4d、p<0.001、n=3 independent experiments)。コロニーサイズに差はなくコロニー数のみが増加 (Fig S2) しており、形質転換頻度の増加が主機序であることが示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、Bergsmedh et al. (2001) によるアポトーシス小体DNA水平伝播モデルと異なり、生細胞由来MVが膜融合により完全な機能型受容体を運搬する点で大きく異なる。可溶性パラクライン因子による腫瘍微小環境への影響 (Ramnarain et al. 2006) とも対照的に、膜結合型受容体そのものを共有する機序として位置づけられる。Del Conde et al. (2005) の組織因子MVや Mack et al. (2000) のCCR5伝達と相違して、本研究は腫瘍特異的オンコジーンが腫瘍内多細胞間で水平伝播し、受容細胞の形質転換能を増強することを定量的に示した。

新規性: 本研究は、これまで報告されていない発がん性受容体EGFRvIIIの脂質ラフト由来マイクロベシクル (オンコソーム) を介した細胞間水平移送機構を初めて分子レベルで実証した。

臨床応用: 臨床応用としては、(i) 担癌マウス血液中でEGFRvIII含有MVが検出されたという所見はEVベースのリキッドバイオプシーによるGBM診断・モニタリングの可能性を開いた (bench-to-bedside translational応用)、(ii) Annexin V誘導体やPS阻害剤がオンコソーム膜融合を遮断することで抗腫瘍効果を発揮する新規治療戦略 (臨床的意義) を提案した、(iii) HER-2 (human epidermal growth factor receptor 2)・wtEGFR・c-Kit・METなど他の膜結合型受容体チロシンキナーゼにも適用可能なtranslationalパラダイムを提示した。本研究の意義は同時期のSkog et al. (2008) によるGBM由来エクソソームmRNA研究と合わせ、EVが腫瘍生物学の主要研究領域として確立される契機となった点にあり、その後の Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015 の前転移ニッチ研究や Hoshino et al. Nature 2015 のエクソソームインテグリン臓器指向性研究に直接連なる金字塔的論文である。

残された課題: 今後の検討課題として、(i) 宿主細胞 (血管内皮・免疫細胞) へのオンコソーム取り込み生体内動態の詳細解析、(ii) MV産生量と臨床アウトカム (生存・治療応答) の相関の前向き検証、(iii) Annexin V誘導体や脂質ラフト阻害薬の臨床第I相試験への展開、(iv) EGFRvIII以外のグリオーマ駆動変異 (IDH1・TERT) のMV搭載性検証、という4点のlimitationが残されており、今後の検討課題として明示された。本研究は Costa-Silva et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016Blume-Jensen et al. Nature 2001 の示すシグナル伝達の概念を拡張し、EV-mediated horizontal oncogene transfer概念の基礎を築いた。

方法

  • 細胞株: ヒトastrocytoma細胞株U373 (EGFRvIII陰性) およびTet-off制御下でEGFRvIIIを安定発現するU373vIII (U373vIII-FLAG / U373vIII-GFPを含む) 派生株を樹立。野生型EGFR高発現A431扁平上皮癌細胞、EGFR陰性のヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC) を対照とした。培養はMV枯渇FBS含有培地で実施
  • マイクロベシクル単離: 条件培地を300×gと12,000×gで順次遠心して細胞・debris除去後、100,000×gで2時間超遠心してMVをペレット化。蛋白含量で定量。サイズはSEMで約100-500 nm
  • MV characterization marker検証: flotillin-1 (脂質ラフトマーカー) Western blot (WB) 陽性、EGFR/EGFRvIII WB、走査電子顕微鏡 (SEM) と透過電子顕微鏡 (TEM) で形態確認、免疫金染色で受容体局在
  • In vivo腫瘍モデル: SCID (severe combined immunodeficiency) マウス (Charles River) 皮下に1-10×10^6 U373またはU373vIII細胞を接種。pan-ErbB irreversible inhibitor CI-1033を毎日投与する治療群を設置。心臓穿刺で血液採取し血小板除去血漿からMV精製
  • MV取り込みアッセイ: U373受容細胞にMVを24時間添加後、FACSと蛍光顕微鏡でEGFRvIII/GFP表面発現を定量。Annexin V (ホスファチジルセリン (PS) 結合) 前処理MVで膜融合阻害実験、CI-1033前処理MVでチロシンキナーゼ活性阻害実験を実施
  • 下流シグナル解析: ERK1/2 (extracellular signal-regulated kinase 1/2)・Akt・PDK1 (phosphoinositide-dependent kinase-1)・c-Rafリン酸化WB、VEGF分泌ELISA (R&D Systems)、VEGFプロモーターレポーターアッセイ、Bcl-xL・p27/Kip1 (cyclin-dependent kinase inhibitor p27) WB
  • 形質転換能評価: 0.3% agarose軟寒天上で単細胞懸濁液を培養し4細胞以上のコロニー数を計数 (アンカレッジ非依存性増殖、n=3 independent experiments)
  • 統計: 全データはmean ± s.d.、Student t-test (n=3/group)