- 著者: Leko V, Rosenberg SA
- Corresponding author: Vid Leko (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH); Steven A. Rosenberg (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 32822573
背景
T細胞を介したがん免疫療法の基盤は、腫瘍特異的抗原の認識にある。ヒトゲノムの解読(Lander et al. Nature 2001)やがんゲノムランドスケープの解明(Vogelstein et al. Science 2013)により、腫瘍細胞が有する体細胞変異の全貌が明らかになった。腫瘍抗原は、正常組織にも発現し得る腫瘍関連抗原(TAA: tumor-associated antigen)と、腫瘍特異的変異に由来する腫瘍特異的抗原(TSA: tumor-specific antigen / ネオアンチゲン)に大別される。ネオアンチゲンは中枢性自己寛容を回避できるため、正常組織への毒性を伴わない理想的な治療標的である。近年、次世代シーケンシング(NGS: next-generation sequencing)技術や免疫ペプチドミクスの進展により、個別化ネオアンチゲンの同定が可能となり、腫瘍浸潤リンパ球(TIL: tumor-infiltrating lymphocyte)療法やT細胞受容体(TCR: T cell receptor)遺伝子導入T細胞(TCR-T)療法、ネオアンチゲンワクチンなどの養子T細胞移入(ACT: adoptive cell therapy)の臨床応用が急速に進展した。しかし、多くの固形がん患者では依然として持続的な治療効果が得られておらず、有効な腫瘍抗原の選定、同定、および治療設計の最適化における課題が残されている。特に、どのような抗原が真に免疫原性を持ち、治療抵抗性を克服できるのかという点については未解明な部分が多い。また、腫瘍の不均一性や抗原提示能の喪失といった耐性機序に対する理解も不足しており、これらを克服する包括的な戦略の確立が喫緊の課題である。本Reviewは、米国国立がん研究所(NCI)のSurgery BranchにおけるRosenbergらのグループが長年にわたり蓄積してきた、ヒト固形腫瘍における腫瘍抗原学とACTの膨大な臨床・基礎研究の知見を体系的に整理し、今後の固形がん治療の方向性を提示するものである。
目的
ヒト固形腫瘍における腫瘍抗原の分類体系、最新の同定手法、およびそれらを標的としたT細胞療法の臨床応用における安全性と有効性を包括的にレビューすること。さらに、現在の治療戦略における限界や課題を整理し、個別化ネオアンチゲン療法の有効性、安全性、および利用可能性(アクセシビリティ)を向上させるための今後の具体的な戦略を提示することを目的とする。
結果
腫瘍関連抗原(TAA)の4分類と毒性リスク: 腫瘍関連抗原(TAA)は、癌精巣抗原(CGA: cancer germline antigen、NY-ESO-1やMAGE-Aなど)、ヒト内因性レトロウイルス(HERV: human endogenous retrovirus)、腫瘍分化抗原(TDA: tissue differentiation antigen、MART-1やgp100など)、および過剰発現抗原(HER2やCEAなど)の4つのサブタイプに分類される(Table 2)。TAAは正常組織にも発現するため、高親和性TCRによる標的化においてオンターゲット/オフターゲット毒性のリスクが内在する。NY-ESO-1を標的とした親和性強化TCR-T療法では、転移性黒色腫および滑膜肉腫患者の50%超で客観的奏効が得られた。しかし、MAGE-A3を標的としたMHCクラスI拘束性親和性強化TCR-T療法では、脳内に発現するMAGE-A12への交差反応による重篤な神経毒性や、心筋線維タンパク質チチン(titin)への交差反応による致死的な心筋炎が報告された。
腫瘍特異的抗原(TSA)の4分類と優位性: 腫瘍特異的抗原(TSA/ネオアンチゲン)は、ミスセンス一塩基変異(mSNV: missense single-nucleotide variant)由来、挿入欠失(INDEL: insertion and deletion)由来、遺伝子融合由来、およびウイルス性がんタンパク質(HPV E6/E7やメルメル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV: Merkel cell polyomavirus)など)由来の4つのサブタイプを含む(Table 2)。これらは自己寛容の影響を受けず、正常組織への毒性がないという最大の優位性を持つ。後述の消化器がん患者において、75例中62例(83%)のTILが少なくとも1つのmSNV由来ネオアンチゲンを認識した(Table 3)。
非典型的(UCA)抗原の3分類と新興クラス: 非典型的(UCA: unconventional antigen)抗原は、異常mRNAスプライシング(イントロン保持や新規エキソン-エキソン接合部(EEJ: exon-exon junction))由来、代替オープンリーディングフレーム(aORF: alternative open reading frame)翻訳由来、および翻訳後修飾(リン酸化やプロテアソームスプライシング)由来のペプチドを含む新興クラスである(Table 2)。最近のBリンパ芽球様細胞株を用いた質量分析(MS: mass spectrometry)研究において、aORFや非翻訳領域などの非標準的(cryptic)なペプチドが、全MHCクラスI結合ペプチド(MAP:MHC class I-associated peptide)の6.5%から13%を占めることが報告されている。
非偏向スクリーニング法(unbiased WES-based approach)の確立: 次世代シーケンシング(NGS)を用いた予測ベースの手法をさらに発展させ、NCIグループは非偏向腫瘍抗原スクリーニング法(unbiased WES-based approach)を開発した(Figure 3)。この手法では、患者の腫瘍特異的変異から合成した25-merペプチドプールおよびタンデムミニ遺伝子(TMG: tandem minigene)を患者自身の抗原提示細胞(APC: antigen-presenting cell)に導入し、全HLAアレルに対する提示を可能にした後、TILと共培養してIFN-γ産生や活性化マーカーの上昇を指標に反応性を同定する。この手法により、消化器がん患者のスクリーニングにおいて、全7,654変異中124変異(1.6%)が免疫原性を示すことが同定された(Table 3)。
TAA標的療法の臨床成績と重篤な毒性: TAAを標的としたACTは一定の奏効を示すものの、重篤な毒性リスクが実証されている。TDAであるMART-1やgp100を標的とした試験(n=36例の転移性黒色腫)では、それぞれ30%および19%の奏効率(ORR: objective response rate)を達成したものの、正常メラノサイトの破壊に伴う白斑、重篤な眼症状、および聴覚障害が生じた。過剰発現抗原であるCEAを標的としたACTでは、大腸がん患者3例中1例で客観的奏効が得られたが、全3例(100%)で重篤な不可逆的大腸粘膜破壊(腸炎)が生じた。これらの事例は、TAA標的化におけるオンターゲット/オフターゲット毒性の危険性を明確に示している。
mSNV由来ネオアンチゲン特異的TIL療法の臨床成果: 自家TIL製剤による転移性黒色腫治療では、極めて良好な成績が達成された(Figure 2B)。150例超の解析においてORR 55%、完全奏効(CR: complete response)率23%(46例中44例は再発なし、中央値7年以上の長期フォローアップ)という成績が得られた。重篤な毒性が認められなかったことは、TILがmSNV由来ネオアンチゲンを標的としていたことを示唆する。消化器がんへの応用では、75例中62例(83%)のTILが少なくとも1つのmSNV由来ネオアンチゲンを認識し、大腸がん(88%)、食道がん(100%)、胆道がん(67%)、膵がん(71%)でネオアンチゲン反応性が確認された(Table 3)。
消化器がんにおける個別化ネオアンチゲン標的TIL療法の奏効例: 消化器がんへの応用において、個別化ネオアンチゲン標的TIL療法による完全奏効の具体例が報告されている。化学療法抵抗性の胆管がん患者において、ERBB2IP変医認識CD4+ T細胞を95%含むTIL製剤の投与により、60ヶ月以上持続する肺・肝転移の著明退縮が達成された。また、乳がん患者において、SLC3A2、KIAA0368、CADPS2、CTSBの4変医を同時に標的とするTIL(製剤の23%を占める)の投与により、30ヶ月以上持続する完全奏効(CR)が確認された(Figure 2B)。
KRAS G12DおよびTP53変異を標的とした画期的成果: ドライバー変異に由来する共有ネオアンチゲン(public neoantigen)の標的化において、画期的な臨床成果が得られている。転移性大腸がん患者に対し、KRAS G12D変異特異的TIL(CD8+、HLA-C08:02拘束性、製剤の75%が反応性)を投与したところ、全肺転移巣の退縮が達成された(Figure 2A)。切除腫瘍のゲノム解析では、KRAS G12D提示に必要なHLA-C08:02をコードする染色体6番ハプロタイプの喪失(免疫逃避機構)が確認された。また、全がんの約50%に変異するTP53のホットスポット変異を標的としたスクリーニング(n=28例の多がん種患者)では、11例(39%)においてTP53変異(R175H、R248W、R248Qなど)を認識するT細胞がTIL中に同定された。
INDEL、遺伝子融合、およびウイルス性腫瘍抗原の標的化: INDEL、遺伝子融合、ウイルス性腫瘍抗原は、低TMB腫瘍における代替標的として有望である。INDEL由来ネオアンチゲンは全変異の約5%と少数であるが、フレームシフト挿入欠失(fsINDEL: frameshift insertion and deletion)はmSNVの3倍以上の高親和性MHC結合ペプチドを生成すると予測される。ウイルス性がんタンパク質では、HPV E6/E7認識TIL(9例中2例奏効)やTCR-T療法(抗E7:12例中4例奏効、抗E6:12例中2例奏効)、MCPyV認識TIL、エプスタイン・バーウイルス(EBV: Epstein-Barr virus)認識TILで臨床奏効が確認されており、正常組織毒性を伴わずに腫瘍退縮が得られた。
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)治療における臨床成果とネオアンチゲン: ネオアンチゲン量が免疫チェックポイント阻害剤(ICI: immune checkpoint inhibitor)治療の臨床効果を規定する主要な因子であることを示す臨床試験データが統合されている。非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした抗PD-1抗体治療において、腫瘍遺伝子変異量(TMB: tumor mutational burden)高値群 vs 低値群の比較において全生存期間(OS: overall survival)が有意に延長し、そのハザード比は HR 0.65 (95% CI 0.50-0.85, p<0.001) であった(Rizvi et al. Science 2015)。さらに、この治療効果はクローナル(均一発現)ネオアンチゲンを多く有するサブグループにおいてより顕著であり、サブグループ解析におけるOSハザード比は、クローナルネオアンチゲン高値群 vs 低値群において HR 0.41 (95% CI 0.27-0.62, p<0.001) を示し、サブクローナルなネオアンチゲンを多く持つ群(HR 0.82, 95% CI 0.60-1.12, p=0.21)と比較して極めて良好な予後を示した(McGranahan et al. Science 2016)。
考察/結論
先行研究との違い: 本Reviewは、従来の腫瘍抗原標的療法がTAAの過剰発現や分化抗原の標的化に依存していたアプローチと異なり、次世代ゲノム解析技術によって同定される個別化ネオアンチゲン(TSA)が、正常組織への毒性を伴わずに持続的な治療効果をもたらす真の標的であることを明確に示した。これまでの研究では、TAAを標的としたACTにおいて、MAGE-A12やチチンへの交差反応による致死的な心筋炎や重篤な神経毒性が報告されており、安全性の確保が極めて困難であった。これに対し、本Reviewで整理されたNCIの臨床実績は、mSNV由来のネオアンチゲンを標的とすることで、正常組織へのオンターゲットおよびオフターゲット毒性を完全に回避しつつ、転移性黒色腫においてORR 55%、CR率23%という極めて高い治療効果を達成できることを示しており、従来のアプローチとの明確な違いを際立たせている。
新規性: 本Reviewの新規な点、あるいは本研究で初めて体系化された知見は、単にmSNV由来のネオアンチゲンだけでなく、INDEL、遺伝子融合、ウイルス性がんタンパク質、さらには異常スプライシングやaORF翻訳に由来する非典型的(unconventional)抗原までを網羅し、それらの分子同定手法と臨床応用の可能性を包括的に体系化した点にある。特に、KRAS G12DやTP53などのドライバー変異に由来する「共有ネオアンチゲン(public neoantigen)」が実際に免疫原性を持ち、ACTの極めて有効な標的になり得ることを具体的な臨床症例(大腸がんにおける完全奏効例など)を挙げて実証した点は、これまで報告されていない極めて新規性の高い知見である。
臨床応用: 本Reviewが提示する知見は、固形がんに対する養子T細胞移入療法(ACT)の臨床応用に直結する極めて重要な意義を持つ。特に、NSCLCや消化器がんなどの上皮性固形がんにおいて、個別化ネオアンチゲンを標的としたTIL療法やTCR-T療法の開発を加速させる。臨床現場における具体的な translational な展開として、患者個々の腫瘍生検サンプルからNGSおよび免疫ペプチドミクスを用いてクローナルなネオアンチゲンを同定し、それらに特異的なT細胞を体外で大規模に増殖して輸注する個別化医療の標準化が期待される。また、TP53やKRAS変異に対するTCRライブラリーを構築することで、個別化調製のコストと時間を大幅に削減した「オフザシェルフ(既製品)」型TCR-T療法の臨床応用が可能となり、より多くの患者に迅速に治療を提供する道が開かれる。
残された課題: 残された課題、あるいは今後の検討課題として、腫瘍の不均一性(heterogeneity)に伴う抗原消失や、HLAクラスI分子の選択的喪失による免疫逃避メカニズムへの対策が挙げられる。大腸がんのKRAS G12D標的治療例で示されたように、単一のネオアンチゲンのみを標的とすることは耐性クローンの出現を招くリスクがある。したがって、複数のクローナルネオアンチゲン(mSNV、fsINDEL、非典型的抗原など)を同時に標的とするマルチターゲット型ACTの設計が今後の研究方向性である。また、個別化ACTの製造コストの削減、調製期間の短縮、および治療実施可能な専門施設の拡大といった実用化における limitation の克服も、今後の臨床普及に向けた大きな課題として残されている。
方法
本論文は、固形がんに対するT細胞輸注療法および腫瘍抗原同定に関する膨大な文献を網羅的に解析した包括的レビューである。解析対象とした文献の選定にあたっては、主要な医学・科学データベースである PubMed、Embase、Cochrane Library、および Web of Science を用いて検索を実施した。検索キーワードには、「tumor antigens」、「neoantigens」、「T cell therapy」、「adoptive cell therapy」、「TIL therapy」、「ACT」、「neoantigen identification」、「solid tumors」などの関連用語を組み合わせた。 臨床試験のデータ抽出においては、米国臨床試験登録システム(ClinicalTrials.gov)に登録されている試験番号(例えば、HLA-A*11:01拘束性KRAS G12D/G12V変異特異的TCR-T療法の臨床試験である NCT03190941 や NCT03745326、さらにはヒトパピローマウイルス(HPV: human papillomavirus)16 E7を標的としたTCR-T療法の試験である NCT02280811 や NCT02858310 など)を参照し、最新の臨床成績および安全性のデータを統合した。 さらに、腫瘍抗原の免疫原性評価やT細胞の反応性解析において用いられる統計学的手法についても整理した。具体的には、臨床アウトカムの評価におけるカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法による生存曲線の描画、ログランク(log-rank)検定による群間比較、コックス比例ハザード回帰(Cox regression)分析によるハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の算出、さらには基礎研究におけるT細胞活性化マーカー(IFN-γ産生量など)の群間比較に用いられるマン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定やフィッシャーの直接確率検定(Fisher’s exact test)などの統計手法の適用状況について確認した。本Reviewは、これらの多角的なデータソースと解析手法に基づいて、固形がん免疫療法の現状を体系的に論じている。