• 著者: Motzer RJ, Banchereau R, Hamidi H, Powles T, McDermott D, Atkins MB, et al. (Huseni MA, Rini B)
  • Corresponding author: Robert J. Motzer (motzerr@mskcc.org), Mahrukh A. Huseni (huseni.mahrukh@gene.com)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-11-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33157048

背景

腎細胞癌 (RCC) は、2018年に世界で40万人以上が診断され、約17.5万人が死亡した悪性腫瘍であり Bray et al. CACancerJClin 2018、約25%の患者が初診時に転移性疾患として発症する。淡明細胞型 (ccRCC) がRCCの75%を占め、その病態生理の根底にはVHL遺伝子の機能喪失によるHIFの異常な蓄積と血管新生プログラムの活性化があることが知られている。このため、VEGF経路阻害薬であるスニチニブや、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) であるニボルマブ+イピリムマブ、あるいはアテゾリズマブ+ベバシズマブなどの併用療法が進行RCCの標準治療として確立されている。しかし、これらの治療法は全ての患者に有効ではなく、個々の腫瘍の分子的特性に基づいた治療選択の根拠はこれまで十分に確立されていなかった点が課題として残されている。

IMmotion151試験は、アテゾリズマブ (抗PD-L1抗体) とベバシズマブ (抗VEGF抗体) の併用療法とスニチニブ単独療法を比較した第III相無作為化試験であり、合計915例の患者が登録された。この試験の事前設定バイオマーカー解析では、IMmotion150第II相試験で提唱されたAngiogenesisおよびT-effector遺伝子発現シグネチャーが治療効果予測に有用であることが示唆されていた McDermott et al. NatMed 2018。しかし、これらのシグネチャーのみではRCCの複雑な生物学的異質性を完全に捉えるには不十分であり、より包括的かつ精緻な分子サブタイピングが必要とされていた。先行研究では、RCCの免疫細胞浸潤と予後との関連が報告されているが Rooney et al. Cell 2015、大規模なコホートにおける治療反応性との直接的な関連は未解明であった。

本研究は、IMmotion151試験の大規模コホートから得られた823例の腫瘍サンプルを用いた包括的なマルチオミクス解析を実施した。これにより、転写プロファイルとゲノム変異プロファイルを統合し、血管新生阻害単独療法または免疫チェックポイント阻害薬併用療法に対する異なる臨床転帰を規定する分子基盤を詳細に解明することを目指した。特に、腫瘍の微小環境における免疫細胞浸潤、血管新生、代謝経路、間質成分などの多様な生物学的特徴を捉えることで、既存の臨床リスク分類では捉えきれない治療反応性の分子メカニズムを明らかにすることが重要な課題であった。この大規模なデータセットを用いた教師なしクラスタリングにより、RCCの分子異質性をより高い解像度で分類し、個別化された治療戦略の開発に貢献する新たな知見を提供することが期待された。

目的

本研究の目的は、IMmotion151第III相試験に登録された進行性腎細胞癌 (RCC) 患者823例の治療前腫瘍サンプルから得られたRNAシーケンスデータとゲノム変異プロファイルを統合的に解析することである。具体的には、非負値行列因子分解 (NMF) を用いた教師なしクラスタリングにより、転写的に定義される堅牢な分子サブタイプを同定し、これらのサブタイプがアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法とスニチニブ単独療法に対する臨床転帰 (客観的奏効率 [ORR] および無増悪生存期間 [PFS]) を差次的に規定するかを検証する。さらに、各分子サブタイプに特徴的な血管新生、免疫、細胞周期、代謝、間質関連の遺伝子発現シグネチャーを詳細に解析し、特定のゲノム変異 (PBRM1、CDKN2A/B、TP53など) と分子サブタイプおよび治療反応性との関連性を明らかにすることで、精密医療に基づく治療選択の分子根拠を確立することを目指す。特に、肉腫様転化を伴うRCC (sRCC) の分子特性と治療反応性の関連も詳細に解析し、sRCC患者における免疫チェックポイント阻害薬含有レジメンの優位性を分子レベルで解明することも目的である。

結果

NMFクラスタリングにより転写的に異質な7つの分子サブタイプが同定され、血管新生・免疫・代謝シグネチャーで特徴付けられる: IMmotion151コホートの823例の腫瘍RNA-seqデータに対するNMF解析により、7つの堅牢な分子サブタイプが同定された (Figure 1A)。これらのクラスターは、血管新生、免疫、代謝、細胞周期、間質関連の遺伝子発現シグネチャーにおいて明確な差異を示した (Figure 1B-1D)。クラスター1 (Angiogenic/Stromal、n=98、12%) とクラスター2 (Angiogenic、n=245、30%) は、高い血管新生シグネチャーとVEGF経路関連遺伝子の発現で特徴付けられた。これらはMSKCC/IMDC予後良好群に濃縮される傾向があった (Figure 2A)。クラスター1は、FAP、FN1、POSTN、MMP2などの線維芽細胞関連間質遺伝子の発現が特に高く、推定される線維芽細胞の存在量も高かった。クラスター2は中程度のT-effectorシグネチャーと、CPT2、PPARAなどの脂肪酸酸化 (FAO)/AMPK経路関連遺伝子の高い発現を示した。クラスター3 (Complement/ω-oxidation、n=156、19%) は、血管新生および免疫シグネチャーが比較的低く、C3、C1S、C1Rなどの補体カスケード関連遺伝子の発現が高かった。クラスター4 (T-effector/Proliferative、n=116、14%)、クラスター5 (Proliferative、n=74、9%)、クラスター6 (Stromal/Proliferative、n=106、13%) は、細胞周期転写プログラム (G2M、E2Fターゲット、MYCターゲット) の高い発現と、低い血管新生シグネチャーで特徴付けられた。血管新生シグネチャーと細胞周期シグネチャーの間には負の相関 (R = -0.50, p < 0.001) が認められた。クラスター4は、高いT-effector、JAK/STAT、IFNα/γシグネチャー、および最高のPD-L1 IHC発現 (Figure 1E) を示し、適応免疫細胞および自然免疫細胞の浸潤が最も高かった。クラスター5は、FAS/ペントースリン酸経路関連遺伝子の発現が最も高く、TFE融合遺伝子を持つ腫瘍が15例含まれていた。クラスター6は、上皮間葉転換 (EMT) 転写モジュールとコラーゲンおよび線維芽細胞関連間質遺伝子の高い発現を示した。クラスター7 (snoRNA、n=28、3%) は、C/D box snoRNA (SNORDs) の発現が特徴的な小規模なサブグループであった。

分子サブタイプはアテゾリズマブ+ベバシズマブ対スニチニブへの差次的奏効を規定し、ゲノム変異プロファイルとも整合する: 各分子サブタイプにおけるアテゾリズマブ+ベバシズマブ (A/B) 対スニチニブのPFSハザード比 (HR) は以下の通りであった (Figure 2D)。クラスター1 (Angiogenic/Stromal) ではHR = 1.11 (95% CI: 0.65–1.88, p=0.708)、mPFS A/B 15.3ヶ月 vs. スニチニブ 13.9ヶ月であり有意差は認められなかった。クラスター2 (Angiogenic) ではHR = 1.16 (95% CI: 0.82–1.63, p=0.397)、mPFS A/B 13.8ヶ月 vs. 14.2ヶ月であり有意差は認められなかった。クラスター3 (Complement/ω-oxidation) ではHR = 0.92 (95% CI: 0.63–1.34, p=0.666) であった。一方、クラスター4 (T-effector/Proliferative) ではHR = 0.52 (95% CI: 0.33–0.82, p = 0.005) であり、ORRはA/Bで52.0% vs. スニチニブで19.4% (p < 0.001) とA/Bが有意に優位であった。mPFSはA/Bで10.9ヶ月 vs. 6.1ヶ月であった。クラスター5 (Proliferative) ではHR = 0.47 (95% CI: 0.27–0.82, p = 0.007) であり、ORRはA/Bで26.2% vs. スニチニブで3.1% (p < 0.001) とA/Bが有意に優位であった。mPFSはA/Bで8.3ヶ月 vs. 4.3ヶ月であった。クラスター6 (Stromal/Proliferative) ではHR = 0.81 (95% CI: 0.52–1.25, p=0.331)、mPFS A/B 6.8ヶ月 vs. 5.2ヶ月であり有意差は認められなかった。クラスター7 (snoRNA) ではHR = 0.10 (95% CI: 0.01–0.77, p = 0.028) であった。これらの結果は、PD-L1 IHC発現およびMSKCCリスクスコアとは独立であることが多変量解析で確認された (Table S4)。IMmotion150コホートでの検証により、分子サブタイプの堅牢性が確認された。

ゲノム変異プロファイルと治療反応性の関連: ゲノム変異解析では、PBRM1変異腫瘍がAngiogenicサブタイプ (クラスター2) に濃縮され、高いAngiogenesisおよびFAO/AMPKシグネチャーと相関した (Figure 3C, 3D)。PBRM1変異腫瘍のスニチニブ治療PFSは非変異腫瘍より有意に良好であり (HR = 0.67; 95% CI: 0.51–0.87; p = 0.003; mPFS 11.2ヶ月 vs. 6.9ヶ月) (Figure 4A, 4C)。一方、CDKN2A/B欠失はクラスター4/5/6に濃縮し、スニチニブで著明に不良な予後を示したが (HR = 2.04; 95% CI: 1.47–2.83; p < 0.001; mPFS 4.1ヶ月 vs. 9.7ヶ月)、A/B治療では有意な利益が得られた (HR = 0.63; 95% CI: 0.41–0.96; mPFS 8.3ヶ月 vs. 4.1ヶ月; ORR 42% vs. 20%, p = 0.045) (Figure 4A, 4B, 4C)。TP53変異も同様にA/B治療で非有意ながら良好な傾向を示した。ARID1AおよびKMT2Cの機能喪失変異も、A/B治療で有意なPFS延長と関連した (ARID1A HR = 0.50; 95% CI: 0.26–0.96; mPFS 20.7ヶ月 vs. 6.8ヶ月; KMT2C HR = 0.47; 95% CI: 0.27–0.83; mPFS 13.8ヶ月 vs. 7.0ヶ月)。これらの結果は、特定のゲノム変異が治療選択のバイオマーカーとなりうることを示唆している。

肉腫様転化RCCは特異な分子プロファイルにより抗血管新生薬よりICI含有レジメンで優れた奏効を示す: 肉腫様RCC (sRCC、n=134) は、非肉腫様RCC (non-sRCC) と比較して、低い血管新生およびFAO/AMPKシグネチャーと、高い細胞周期、間質、T-effector、Myeloid Inflammationシグネチャーを示した (Figure 5D)。DGE解析では、sRCCで2,917遺伝子が過剰発現し、6,309遺伝子が低発現していた (Figure 5A)。PD-L1 IHC陽性率はsRCCで63%と、non-sRCCの39%と比較して有意に高かった (p < 0.001) (Figure 5E)。ゲノム変異解析では、sRCCにおけるPBRM1変異頻度は低く (29% vs. 50%, p = 3.33×10⁻⁵)、CDKN2A/B欠失 (26% vs. 15%, p = 0.004) とPTEN欠失 (20% vs. 11%, p = 0.009) は高かった (Figure 5F)。臨床的には、sRCCにおいてA/Bがスニチニブを大きく上回り (ORR 49% vs. 14%, p = 7.7×10⁻⁵)、高い免疫浸潤、PD-L1発現、低PBRM1変異、低血管新生という分子プロファイルがICI感受性の分子的根拠として示された (Figure 5G, 5H)。

考察/結論

本研究は、進行性腎細胞癌 (RCC) 患者823例を対象としたIMmotion151第III相試験の包括的な分子解析であり、大規模な無作為化臨床試験においてRCCの分子サブタイピングとそれに対応した治療効果予測の枠組みを初めて確立した。

先行研究との違い: これまでの小規模なRCCデータセットにおける遺伝子発現に基づくサブグループ化の報告 Liberzon et al. CellSyst 2015 と異なり、本研究でははるかに大規模なコホートを用いることで、より高い解像度で7つの堅牢な分子サブタイプを同定し、それぞれのサブタイプが異なる代謝プロファイルを持つことを明らかにした。また、既存のIMDCリスク分類では捉えきれない、分子レベルでの治療反応性の差異を詳細に解明した点で、これまでの報告と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、血管新生シグネチャーが低いが免疫活性化および細胞周期関連遺伝子発現が高いT-effector/Proliferativeサブタイプ (クラスター4) およびProliferativeサブタイプ (クラスター5) において、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法がスニチニブ単独療法と比較して有意なPFS延長とORR改善をもたらすことを示した。これは、免疫活性化が存在しない場合にはPD-L1阻害薬の上乗せ効果が限定的であるという「免疫応答性の前提」を支持する新規の知見である。さらに、PBRM1変異がスニチニブ奏効の予測因子として、またCDKN2A/B欠失がアテゾリズマブ+ベバシズマブ奏効の予測因子として機能することをゲノムレベルで明らかにした点も新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、RCC患者の分子層別化と個別化治療戦略の開発に大きく貢献する。血管新生シグネチャーが高い腫瘍 (クラスター1/2) では両治療アームで良好な予後を示すが、アテゾリズマブ+ベバシズマブとスニチニブの間にPFSの差は認められなかったことから、これらの患者群では血管新生阻害薬が治療の中心となる可能性が示唆される。一方、免疫活性化サブタイプ (クラスター4/5) ではアテゾリズマブ+ベバシズマブの明確な優位性が示されており、これらの患者には免疫チェックポイント阻害薬を含むレジメンが優先されるべきである。PBRM1変異腫瘍におけるHIF-2α阻害薬 (ベルズニチブなど) の探索的活性を支持する根拠としても重要であり、CDKN2A/B欠失腫瘍におけるCDK4/6阻害薬とICI併用の探索的根拠を提供する。肉腫様RCCの分子的特性 (低血管新生・高免疫浸潤・高PD-L1発現) がICI感受性の分子的根拠として解明されたことは、臨床現場での治療選択に直接的な影響を与える。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で同定された分子サブタイプに基づくプロスペクティブな治療割り付けの検証が必要である。IMmotion151がアテゾリズマブ+ベバシズマブのみを検証しているため、ニボルマブ+イピリムマブなどの他のICI含有レジメンへの分子サブタイプ情報の外挿にはさらなる検証が求められる。また、RNA-seqによる7サブタイプ分類をルーティン臨床検査として実装するには、RNA-seqの標準化と閾値設定のプロスペクティブな検証が課題となる。さらに、TFE3/TFEB融合を持つクラスター5への特異的アプローチの開発や、肉腫様転化RCCに対するICI主体レジメンのさらなる最適化も今後の研究方向性として挙げられる。

方法

コホートとサンプル: IMmotion151第III相試験の患者915例のうち、治療前腫瘍サンプルが利用可能であった823例 (90%) を解析対象とした。このコホートには、ccRCC非肉腫様転化688例、ccRCC肉腫様転化110例、非ccRCC肉腫様転化24例、およびccRCC肉腫様転化不明1例が含まれた。全ての腫瘍サンプルは登録前2年以内に採取されたものである。主要評価項目はORRおよびPFSとした。

RNAシーケンスと分子サブタイピング: 治療前腫瘍組織からRNAを抽出し、TruSeq RNA Access技術を用いたRNAシーケンスを実施した。得られたリードはGRCh38ヒト参照ゲノムにアラインメントされ、遺伝子発現レベルはTPM (transcript-per-million) 補正後にlog2変換された。最も変動の大きい上位10%の遺伝子 (3,074遺伝子) を用いて、非負値行列因子分解 (NMF) による教師なしクラスタリングを適用し、7つの分子サブタイプを同定した。クラスターの堅牢性は、IMmotion150第II相試験コホートのRNAシーケンスデータを用いて、Random Forest分類器により検証された。

転写シグネチャー解析: 各NMFクラスターの生物学的特徴を理解するため、MSigDb (Molecular Signatures Database) のhallmark遺伝子セット Liberzon et al. CellSyst 2015 と、既報のAngiogenesis、T-effector、Myeloid Inflammationシグネチャーを用いて、QuSAGE (Quantitative Set Analysis for Gene Expression) 解析を実施した。さらに、細胞周期、間質、補体カスケード、スモール核小体RNA (snoRNA)、脂肪酸酸化 (FAO)/AMPKシグナル伝達、脂肪酸合成 (FAS)/ペントースリン酸経路などの代表的な遺伝子シグネチャーを定量化し、各クラスターにおける発現プロファイルを評価した。xCellアルゴリズムを用いて、腫瘍微小環境における免疫細胞および間質細胞サブセットの相対頻度を推定した。

ゲノム変異解析: 715例の腫瘍サンプルに対して、Foundation Medicine Oneアッセイによる標的ソマティック変異およびコピー数解析を実施した Frampton et al. NatBiotechnol 2013。これにより、最大395の癌関連遺伝子のコーディングエクソンと、頻繁に再配列する最大31遺伝子のイントロンにおけるゲノム変異 (短変異、二対立遺伝子欠失、増幅、再配列) を評価した。各遺伝子の変異プロファイルは、変異あり (コピー数欠失または増加を含む) または変異なしに二分された。

統計解析: 全ての解析はR v3.6.1を用いて実施された。連続変数の比較には、2群間では両側Mann-Whitney U検定、3群以上ではKruskal-Wallis検定を用いた。カテゴリ変数の比較にはPearsonのカイ二乗検定を用いた。生存解析にはCox比例ハザードモデルとKaplan-Meier曲線を使用し、log-rank検定で群間比較を行った。多変量解析では、治療アーム、PD-L1 IHC発現、MSKCCリスクスコアを共変量として含め、分子サブタイプが独立した予測因子であることを確認した。FDR調整p値が0.05未満を統計的に有意とした。