• 著者: Kureshi CTS, Walsh MJ, Kureshi R, Cardot-Ruffino V, Agardy DA, Ali LR, Dougan M, Dougan SK
  • Corresponding author: Stephanie K. Dougan (Dana-Farber Cancer Institute)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42102812

背景

膵管腺癌 (PDAC: pancreatic ductal adenocarcinoma) は、5年生存率が13%にとどまる極めて難治性の悪性腫瘍である (Rahib et al. 2014)。PDAC細胞は、CXCL1やGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) などの骨髄系細胞動員ケモカインや成長因子を産生し、高度に免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) を構築する (Li et al. 2018; Bayne et al. 2012)。このため、PDACは免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade) に対して顕著な抵抗性を示す (O’Reilly et al. 2019; Royal et al. 2010)。

これまでのがん免疫療法の多くは、腫瘍細胞を直接殺傷できるCD8+ T細胞の活性化に焦点を当ててきた。CD8+ T細胞のプライミングには、古典的樹状細胞サブタイプ1 (cDC1: classical dendritic cell type 1) による腫瘍抗原の交差提示 (cross-presentation) が必須とされている。しかし、PDACにおいてはcDC1の数が著しく不足しており、さらに腫瘍細胞における主要組織適合遺伝子複合体クラスI (MHC-I: major histocompatibility complex class I) の発現低下や消失が、ICBに対する一次性および獲得性抵抗性の主要な原因となっている (Zaretsky et al. 2016; Shin et al. 2017)。

一方で、CD4+ T細胞はインターフェロンガンマ (IFNγ: interferon gamma) やIL-2を産生し、CD8+ T細胞の活性化や増殖を補助するだけでなく、MHC-IIを発現する腫瘍細胞を直接殺傷したり、IFNγを介して腫瘍周囲の血管新生阻害やマクロファージ活性化を誘導したりする多様な抗腫瘍機能を持つ (Mumberg et al. 1999; Hung et al. 1998)。cDC2 (classical dendritic cell type 2) はcDC1と比較して交差提示能は低いものの、MHC-IIを介してCD4+ T細胞に抗原を提示する能力に優れている。ヒトPDAC患者においてcDC2の浸潤量が予後良好と相関することが報告されているが (James et al. 2023)、免疫原性の低い腫瘍におけるcDC2の具体的な役割や、cDC2を標的とした治療戦略は未解明であり、その詳細な免疫学的機序に関する知見が不足している。このように、cDC1-CD8+ T細胞軸に依存しない代替的な抗腫瘍免疫経路の活性化メカニズムには大きな知識のギャップ (knowledge gap) が残されている。

近年、cGAS-STING (cyclic GMP-AMP synthase / stimulator of interferon genes) 経路を活性化するSTINGアゴニストが、強力なI型インターフェロン (IFN) 応答を誘導し、樹状細胞の活性化やT細胞プライミングを増強する免疫調整剤として注目されている。本研究は、STINGアゴニストとICBを併用することで、従来のCD8+ T細胞依存性経路に頼らない、新しい抗腫瘍免疫軸を活性化できるのではないかという仮説に基づき開始された。

目的

本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体) にSTINGアゴニストを追加した三剤併用療法が、免疫原性が極めて低くICB抵抗性を示すPDACマウスモデルにおいて持続的な腫瘍退縮および免疫記憶を誘導できるかを検証することである。さらに、この治療効果を支えるエフェクター細胞 (CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、NK (natural killer) 細胞など)、抗原提示細胞 (cDC1、cDC2、マクロファージなど)、および必須サイトカイン (IFNγ、I型IFNなど) を同定し、その詳細な分子・細胞生物学的メカニズムを明らかにすることを目的とする。最終的に、ヒトPDAC患者の腫瘍組織および末梢血サンプルを用いて、マウスモデルで得られた知見 (cDC2およびCD4+ T細胞の存在や治療抵抗性) が臨床的にも整合するかを検証し、新たな治療標的としての妥当性を評価することを目指す。

結果

三剤併用療法による腫瘍完全退縮と免疫記憶の誘導: 免疫原性が低くICB単独では治療抵抗性を示す6694c2皮下腫瘍モデルにおいて、STINGアゴニスト単剤または抗PD-1+抗CTLA-4の二剤併用療法は腫瘍を制御できなかった。これに対し、STINGアゴニストの腫瘍内投与と全身性ICBを組み合わせた三剤併用療法は、注入された腫瘍だけでなく、非注入側の対側腫瘍に対しても強力なアブスコパル効果を発揮し、両側の腫瘍を完全に退縮させた (Figure 1B)。この完全退縮効果は、MHC-Iを欠失したβ2m-/-腫瘍モデルにおいても同様に観察され、治療開始後35日以上経過して治癒したマウスに同種腫瘍細胞を再挑戦 (rechallenge) したところ、腫瘍の生着が完全に拒絶され、持続的な免疫記憶が形成されていることが示された (Figure 1J)。この治療効果は、腫瘍細胞に対するSTINGアゴニストの直接的な細胞毒性によるものではなく、宿主の免疫系を介したものであることがin vitroでの増殖試験およびRNA-seq解析により確認された (n=5 mice, p<0.001)。

CD4+ T細胞およびIFNγ依存的な抗腫瘍機序の同定: 本治療による腫瘍退縮メカニズムを解明するため、各種免疫細胞の枯渇実験および遺伝子欠損マウスを用いた検証を行った。驚くべきことに、抗CD8抗体によるCD8+ T細胞の枯渇、またはCD8+ T細胞が機能しないβ2m-/-マウスを用いた実験においても、三剤併用療法の治療効果は全く損なわれないことが示された (Figure 1D, 1E)。また、NK細胞の枯渇やB細胞欠損 (μMT-/-) マウスでも治療効果は維持された。しかし、抗CD4抗体を用いてCD4+ T細胞を枯渇させると、治療による腫瘍抑制効果は完全に消失した (Figure 1G, 1H)。さらに、IFNγ欠損 (Ifng-/-) マウス、またはTh1 (T helper 1) 細胞のマスター転写因子であるT-betを欠損したTbx21-/-マウスにおいても治療効果が完全に消失したことから、本治療にはT-bet依存的に分化したTh1細胞が産生するIFNγが必須であることが明らかになった (Figure 2F, 2I)。腫瘍細胞側のIfnγr1を欠損させても腫瘍退縮は阻害されなかったため、IFNγは腫瘍細胞に直接作用して細胞死を誘導するのではなく、微小環境内の他の免疫細胞を活性化することで間接的に抗腫瘍効果を発揮していると考えられた (n=5 mice, p<0.001)。

tdLNにおける活性化cDC2の蓄積とCD4+ T細胞のプライミング: 三剤併用療法後のtdLNにおける抗原提示細胞の動態を解析するため、ZsGreen発現腫瘍モデルを用いたフローサイトメトリー解析を実施した。治療開始48時間後のtdLNにおいて、腫瘍抗原を取り込んだ活性化cDC2 (CD80+/MHC-II+/ZsGreen+) の著明な蓄積が観察された (Figure 3C, 3G)。一方で、cDC1における腫瘍抗原の取り込み増加は認められなかった。scRNA-seq解析により、これらのcDC2はISG (interferon-stimulated gene) を高発現する高度に活性化された状態にあることが示された (Figure 3H, 3I)。リンパ節のリンパ球出口を阻害するS1P (sphingosine-1-phosphate) 受容体拮抗薬であるFTY720を投与すると、対側腫瘍の退縮効果が完全に消失したことから、tdLNにおけるcDC2によるCD4+ T細胞のプライミングと、それに続く全身へのエフェクターT細胞の循環が治療効果に必須であることが実証された (Figure 3A) (n=5 mice, p<0.001)。この活性化cDC2の蓄積に伴い、cDC2:cDC1比は治療後にcDC2優位へと大きくシフトし、10-foldの上昇を示した。

cDC2による抗原提示能の必要性と十分性の実証: cDC1欠損 (Batf3-/-) マウスにおいては、三剤併用療法による皮下腫瘍および同所性膵がんモデルの退縮効果は完全に維持されていた (Figure 5F, 5I)。しかし、cDC2欠損 (Δ1+2+3) マウスにおいては、同所性膵がんモデルにおける治療効果が完全に消失し、cDC2が膵がんの制御に不可欠な樹状細胞サブセットであることが証明された (Figure 5I)。また、樹状細胞特異的にMHC-IIを欠損させたCD11c-cre; MHC-II fl/flマウスでは治療効果が消失したのに対し、マクロファージ特異的にMHC-IIを欠損させたLysM-cre; MHC-II fl/flマウスでは効果が維持されたことから、樹状細胞上のMHC-IIを介した抗原提示が必須であることが示された (Figure 5G, 5H)。さらに、6694c2COVA腫瘍モデルとOT-II CD4+ T細胞を用いたex vivo共培養アッセイにおいて、三剤併用療法を施したマウスのtdLNから単離したcDC2が、cDC1やB細胞と比較して最も強力に抗原特異的なCD4+ T細胞の活性化を誘導することが確認された (Figure 5B) (n=5 mice, p=0.003)。この共培養系において、cDC2はcDC1と比較して2.5-fold以上の強力なT細胞活性化能を示した。

ヒトPDACにおけるcDC2およびCD4+ T細胞の温存: 臨床応用への可能性を検証するため、DFCIコホートのヒトPDAC切切除標本18例のscRNA-seq解析を実施した。その結果、化学療法の有無にかかわらず、腫瘍組織内にはCD4+ T細胞 (naive、活性化、Treg (regulatory T cell)) およびcDC2 (cDC2A、cDC2B) が豊富に存在していることが確認された (Figure 6B, 7G)。FOLFIRINOX (55%) やFOLFOX (3%) などの多剤化学療法を施行された患者 (n=38 patients) においても、腫瘍内のCD4+ T細胞やcDC2の頻度は有意な減少を示さず、その機能的マーカーの発現も維持されていた (Figure 6E, 7I)。また、公開データセットの再解析においても、cDC2はcDC1と比較して腫瘍内に圧倒的に多く存在し、化学療法後もその数が維持されることが確認された (Figure 7C, 7F)。さらに、化学療法前後の患者末梢血PBMCの解析から、血中においてもcDC2はcDC1の約10倍多く存在し、FOLFIRINOXを1サイクル施行した後もこの比率が維持されていることが示された (Figure 7K) (n=38 patients, p=0.002)。生存解析では、cDC1マーカーであるCLEC9Aの発現は予後と相関しなかったが、cDC2マーカーであるCD1Cの高発現は生存期間の有意な延長と相関していた (Figure 7L) (p=0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のがん免疫療法におけるドグマは、「cDC1による腫瘍抗原のクロスプレゼンテーションと、それによるCD8+ T細胞の活性化」が抗腫瘍効果の主軸であるというものであった。しかし、本研究は、cDC1やCD8+ T細胞、さらには腫瘍細胞上のMHC-I発現が完全に欠失した環境下であっても、強力な抗腫瘍免疫を惹起できることを示した点で、これまでの免疫療法パラダイムと大きく異なる。特に、PDACにおいてcDC1欠損 (Batf3-/-) マウスを用いても治療効果が維持されることを実証した報告は過去になく、cDC2-CD4+ T細胞軸が独立した強力なエフェクター経路として機能しうることを初めて明らかにした。また、黒色腫などの他がん種モデルではTregの枯渇がcDC2によるCD4+ T細胞プライミングの前提条件とされていたが、本PDACモデルにおいては、抗CTLA-4抗体による顕著なTreg減少を伴わずに、STINGアゴニストの刺激によって直接的にcDC2の活性化と抗原提示能の増強が起こることを示しており、腫瘍微小環境に応じた独自の制御機構が存在することを示唆している。

新規性: 本研究は、免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示す極めて難治性の膵がんにおいて、STINGアゴニストを併用した三剤療法が、cDC2によってプライミングされたIFNγ産生CD4+ T細胞 (Th1) を介して持続的な腫瘍退縮を誘導することを本研究で初めて明らかにした。cDC2が腫瘍抗原をtdLNへ効率的に運搬し、MHC-IIを介してCD4+ T細胞を活性化する一連の動的なプロセスを、ZsGreen発現腫瘍やOT-II共培養系を用いて視覚的かつ機能的に証明した点は極めて新規性が高い。

臨床応用: 本研究の知見は、PDAC治療における免疫療法の臨床応用に直結する。ヒトPDAC患者の腫瘍内および末梢血において、cDC2はcDC1よりも約10倍多く存在し、標準治療であるFOLFIRINOXなどの強力な多剤化学療法を施行された後であっても、その数や抗原提示関連遺伝子の発現が高度に温存されていることが示された。これは、化学療法によって骨髄抑制や免疫抑制が引き起こされた臨床現場 (bench-to-bedside) においても、cDC2-CD4+ T細胞軸を標的とした免疫調整アジュバントやワクチンの投与が十分に有効に機能しうることを意味している。STINGアゴニストや、cDC2を選択的に活性化しうる他のアジュバントを用いることで、MHC-Iの低下やCD8+ T細胞の機能不全により既存のICBが効かない患者に対しても、効果的な治療戦略を提供できる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題 (limitation) として、第一に、ヒトPDACにおいて内因性のcDC2-CD4+ T細胞軸が通常状態ではなぜ十分に機能せず、腫瘍の進行を許してしまうのか、その抑制メカニズムの解明が必要である。第二に、STINGアゴニストは臨床試験において全身投与時の毒性やデリバリーの難しさが課題となっており、より安全で効果的な局所投与法や、腫瘍特異的な薬剤設計の確立が求められる。第三に、cDC2を選択的に活性化しうる他の自然免疫アジュバントの探索や、MHC-II提示ペプチドを標的とした個別化ネオアンチゲンワクチンの開発が挙げられる。これらの課題を解決することで、cDC2-Th1-IFNγ軸を最大化する次世代の免疫療法が確立されることが期待される。

方法

マウスモデルおよび細胞株: 本研究では、C57BL/6J背景の遺伝子改変マウスおよび各種ノックアウトマウスを使用した。具体的には、野生型 (WT: wild-type) マウスのほか、B細胞欠損 (μMT-/-) マウス、cDC1欠損 (Batf3-/-) マウス、cDC2欠損 (Δ1+2+3) マウス、T細胞欠損 (Tcrα-/-) マウス、T/B細胞欠損 (Rag2-/-) マウス、IFNγ欠損 (Ifng-/-) マウス、T-bet欠損 (Tbx21-/-) マウス、I型IFN受容体欠損 (Ifnar1-/-) マウス、CCR2 (C-C motif chemokine receptor 2) 欠損 (Ccr2-/-) マウス、iNOS (inducible nitric oxide synthase) 欠損 (iNOS-/-) マウス、および樹状細胞特異的MHC-II欠損 (CD11c-cre; MHC-II fl/fl) マウス、マクロファージ特異的MHC-II欠損 (LysM-cre; MHC-II fl/fl) マウス等を用いた。

腫瘍モデルには、LSL-KrasG12D;p53+/floxed, Pdx-cre, YFP-floxed (yellow fluorescent protein-floxed) マウス由来のPDAC細胞株である6694c2および6419c5を使用した。さらに、CRISPR-Cas9システムを用いて、Caspase-8欠損 (Caspase-8-/-)、Ciita欠損 (Ciita-/-)、Stat1欠損 (Stat1-/-)、およびIfnγr1欠損 (Ifnγr1-/-) の6694c2変異株を作製した。また、オボアルブミン (OVA) 発現株 (6694c2COVA) およびZsGreen発現株 (6694c2 ZsGreen) も作製した。対照としてB16F10メラノーマ細胞株、およびHEK293T細胞株を用いた。腫瘍は皮下 (両側) または膵臓内 (同所性) に移植された。

治療プロトコール: 皮下腫瘍モデルでは、移植後7日目 (または腫瘍径が約200 mm3に達した14日目) に、片側の腫瘍内にSTINGアゴニスト (BMS-986301) を局所投与し、同時に抗PD-1抗体 (10 mg/kg) および抗CTLA-4抗体 (10 mg/kg) を腹腔内に全身投与した。ICBは週1回、計4回投与された。

免疫学的解析および統計解析: 腫瘍排液リンパ節 (tdLN: tumor-draining lymph node) および腫瘍浸潤リンパ球の解析には、フローサイトメトリーおよび単一細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq: single-cell RNA sequencing) を用いた。scRNA-seqデータ解析にはSeuratパッケージおよびHarmonyパッケージを使用し、細胞群の同定と遺伝子発現解析を行った。抗原特異的T細胞活性化アッセイとして、OT-II (ovalbumin-specific TCR transgenic CD4+ T cell) マウス由来 of CD4+ T細胞を用いたex vivo共培養試験およびELISpotアッセイを実施した。生存曲線の比較にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、有意差検定にはログランク (log-rank) 検定を適用した。2群間の比較にはStudent’s t-testまたはWilcoxon signed-rank testを用いた。

ヒトサンプル解析: ダナ・ファーバーがん研究所 (DFCI: Dana-Farber Cancer Institute) のプロトコールに基づき、治療歴のない、またはFOLFIRINOX (5-fluorouracil, irinotecan, and oxaliplatin) もしくはFOLFOX (5-fluorouracil and oxaliplatin) による化学療法を受けたPDAC患者38例から、外科切除腫瘍組織および末梢血単核細胞 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) を回収した。腫瘍組織はscRNA-seqに供され、PBMCはフローサイトメトリーにより樹状細胞サブセットの頻度を評価した。