• 著者: Reuben A, Gittelman R, Gao J, et al. (The University of Texas MD Anderson Cancer Center・Adaptive Biotechnologies)
  • Corresponding author: Jianjun Zhang / Ignacio I. Wistuba / P. Andrew Futreal (The University of Texas MD Anderson Cancer Center)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-07-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28733428

背景

免疫チェックポイント阻害療法 (ICI) は、CTLA-4、PD-1、PD-L1を標的とすることで、非小細胞肺がん (NSCLC) を含む多くの悪性腫瘍において長期奏効例を生み出し、がん治療に大きな変革をもたらした。しかし、これらの阻害薬の早期臨床試験では、未選択の患者集団における奏効率は20〜30%程度にとどまり、治療耐性メカニズムの解明が喫緊の課題として浮上した。PD-L1は現在唯一承認されているPD-1阻害薬のバイオマーカーであるが、低PD-L1発現腫瘍においても奏効が認められることから、PD-L1単独では治療効果を予測する上で限定的な価値しか持たないことが示唆されている (Herbst et al. Nature 2014)。

腫瘍内不均一性 (ITH) は、治療耐性メカニズムの重要な要因として認識されている。本研究グループの先行研究であるZhang et al. (Science 2014) は、局所肺腺がんにおける多領域全エクソームシーケンシング (WES) を用いて、ゲノムITHの程度が高いほど術後再発リスクが増加することを示した。さらに、McGranahan et al. (Science 2016) は、腫瘍内で不均一に存在する予測ネオアンチゲン (branch型) の割合が高い腫瘍ではICI応答性が低下することを報告し、普遍的に存在するclonal (trunk型) ネオアンチゲンに対するT細胞応答が最良のICI効果をもたらすという概念を提唱した。これらの研究は、ゲノムレベルでのITHが臨床転帰に影響を与える可能性を示唆している。

T細胞受容体 (TCR) の多様性やクローン性は、腫瘍特異的免疫応答の質を評価する重要な指標である。これまでの研究では、TCRクローン型の安定性がICI応答と相関することが報告されていた (Cha et al. SciTranslMed 2014; Tumeh et al. Nature 2014)。しかし、同一腫瘍の空間的に異なる領域間でTCRレパトアがどの程度異なるのか、またその腫瘍内不均一性 (TCR ITH) が術後再発と関連するのかについては、これまで全く未解明であった。局所がん切除後の残存微小転移の排除は、主に宿主のT細胞免疫に依存すると考えられるため、T細胞レパトアの空間的不均一性と術後再発の関係を解明することは、臨床的に極めて重要な課題であった。この領域における知識の不足が、効果的な術後補助療法や予後予測バイオマーカーの開発を妨げていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、局所肺腺がん患者11例から採取された多領域腫瘍組織において、TCRβ鎖レパトアの腫瘍内不均一性 (TCR ITH) を定量的に評価することである。具体的には、以下の2点を明らかにすることを目指した。(1) 予測ネオアンチゲンITH (trunk型およびbranch型) とTCR ITHとの相関関係を解析すること。(2) TCR ITHの程度が術後再発および無病生存期間 (DFS) とどのように関連するかを明らかにすること。これらの解析を通じて、TCRレパルトアの空間的不均一性が肺腺がんの生物学的特性および臨床転帰に与える影響を包括的に理解することを意図した。特に、TCR ITHが術後再発の独立した予測因子となりうるか否かを検証し、その臨床的意義を明らかにすることを目的とした。

結果

予測ネオアンチゲン景観の腫瘍内不均一性: 11例の肺腺がんにおいて、MHCクラスIネオアンチゲンの1% (Patient #317) から63% (Patient #356) がbranch型として同定された。平均して130の総MHCクラスI候補 (IC50 <500 nmol/L)、65の高親和性候補 (IC50 <50 nmol/L)、および106のMHCクラスII候補が予測された。特に、branch型MHCクラスIネオアンチゲンの割合が高い患者は再発率が高く (Mann-Whitney P<0.05)、中央値以上の群ではDFSが有意に短縮した (Kaplan-Meier log-rank P<0.05)。MHCクラスIIネオアンチゲンにおいても同様の傾向が確認され、branch型ネオアンチゲンは1% (Patient #317) から47% (Patient #270) の範囲で存在した。しかし、発現型ネオアンチゲンに限定した解析では、MHCクラスIIネオアンチゲンにおける有意差は消失し、これはMHCクラスII予測アルゴリズムの精度の限界を反映している可能性が示唆された (Fig. 1A-F, Supplementary Fig. S2A-S2F)。

T細胞浸潤とクローン性の腫瘍内不均一性: T細胞浸潤率は、全核細胞中の4% (Patient #292) から23% (Patient #472) と患者間で大きく異なった。同一腫瘍内の最多浸潤領域と最少浸潤領域の差は11% (Patient #283) から85% (Patient #270) に及び、T細胞浸潤の顕著なITHが示された。IHCとImmunoSEQという異なる手法で解析されたにもかかわらず、両手法によるT細胞密度ITHの間に強い相関が確認された (Supplementary Fig. S8D)。T細胞クローン性はPatient 292の0.045からPatient 317の0.169と幅があり、全11腫瘍でクローン性の領域間差が存在した (最大50%の差、Patient #4990)。これは、T細胞の反応性と拡張が腫瘍内で不均一に生じていることを示唆する (Fig. 2A-F)。腫瘍濃縮T細胞に限定した解析でも、TCRレパトアにおける顕著なITHが確認された (Supplementary Fig. S4A-S4F)。

TCRレパトアITHの定量とネオアンチゲンITHとの相関: T細胞クローンの大部分は個々の腫瘍領域に限定されており、全腫瘍領域で共有されたクローンは最大14% (Patient #356) 以下、最小では1% (Patient #4990) にとどまった。領域間MOIは患者ごとに0.48から0.98と幅広い値を示し、TCRレパトアのITHが患者間で異なることが明らかになった。患者間MOIはほぼ0であり、TCRレパトアの患者特異性が確認された。Branch型MHCクラスIネオアンチゲンの割合とMOIは有意な負の相関を示し (Spearman P<0.05)、ゲノムITHが高い (すなわちbranch型ネオアンチゲンが多い) 腫瘍ほどTCRレパトアのITHも高い (すなわちMOIが低い) という生物学的に整合的な関係が示された (Fig. 3A-B, Fig. 4B)。また、加齢とTCR ITH高値 (低MOI) との間に有意な正の相関が認められた (Spearman P<0.05) (Fig. 4A)。

最優位T細胞クローンの空間的保存: 11例中7例 (64%) の患者において、最優位T細胞クローンが全領域で支配的な地位を維持していたが、その頻度は領域間で大きく変動した。残りの4例では、最優位クローンのランクが領域間で大きく入れ替わり (最低12位まで低下、Patient #4990)、高度なTCR ITHを示した。しかし、いずれの患者においても上位5クローンは全領域で検出可能であり、これは最も免疫原性の高いtrunk型変異に対応するT細胞クローンが空間的に保存されるという概念と合致する。この所見は、腫瘍内の異なる領域間で免疫原性の違いが存在する可能性を示唆しつつも、最も重要な抗原に対するT細胞応答は維持されていることを示唆する。

TCR ITHと術後再発・DFSとの関連: 再発した4例 (Patient #270, #330, #356, #4990) は、非再発患者7例と比較してMOIが有意に低かった (TCR ITHが高い; Mann-Whitney P<0.05)。MOI中央値以上の群では、それ以下の群と比較してDFSが有意に延長した (Kaplan-Meier log-rank P<0.05)。この解析は、n=11 patientsのコホートで実施された。一方、IHCまたはImmunoSEQで測定されたT細胞密度のITHは、再発との有意な関連を示さなかった (Supplementary Fig. S10B, S10C)。この結果は、T細胞の量的不均一性よりも、質的不均一性 (クローン組成やレパトアの均一性) が術後転帰を規定する因子として重要であることを示唆する。T細胞密度単独、クローン性単独、年齢、性別、喫煙歴、病期、特定の変異、腫瘍サイズはいずれも再発との有意な関連を示さなかった (Fig. 4C-D)。

腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の組成: IHCによるCD4:CD8比の平均は2.38:1 (範囲1.0〜3.55) であり、全腫瘍でCD4+ T細胞が優勢であることが示された。これはCyTOFやフローサイトメトリーによる確認結果とも一致した。高いCD4+ T細胞比率は、MHCクラスIIネオアンチゲンITHの臨床的重要性を示唆するが、MHCクラスII予測アルゴリズムの精度的限界から、この仮説の検証にはさらなる制約が残った (Supplementary Fig. S8A-S8C)。

考察/結論

本研究は、局所肺腺がんにおけるTCRレパトアの腫瘍内空間的不均一性 (TCR ITH) を多領域解析によって初めて定量的に評価した。その結果、TCR ITHがゲノムITHおよび予測ネオアンチゲンITHと正の相関を示し、さらに術後再発と関連するという一連の新規な知見を提示した。この結果は、免疫応答の質的および空間的不均一性が、術後転帰を規定する独立した因子となりうることを示唆する。

先行研究との違い: 本研究は、先行研究であるZhang et al. (Science 2014) がゲノムITHの予後的意義を示したものの、免疫系の空間的評価を行っていなかった点と異なり、免疫学的側面からゲノムITHの臨床的影響を補完した。これにより、ゲノムITHからネオアンチゲンITH、TCR ITH、そして再発リスク増大へと続く連鎖的な仮説モデルを提示できた。また、McGranahan et al. (Science 2016) が提唱した「trunk型ネオアンチゲンへの応答が最良のICI効果をもたらす」という概念は、本研究で観察された最優位T細胞クローンの空間的保存という所見と整合性が高い。

新規性: T細胞密度のITHではなく、TCRレパトアのITH (クローン組成の均一性/不均一性) が再発予測因子となるという知見は、本研究で初めて示された重要な洞察である。これは、腫瘍内のあらゆる領域に対応できるT細胞クローンの空間的に均一な分布が、手術後の残存微小転移の排除に不可欠であることを示唆する。局所がん術後の転帰が宿主免疫に大きく依存するという前提のもとで、TCR ITHは患者の免疫応答の「質」を反映する新規な指標として機能しうる。

臨床応用: 本研究の知見は、肺腺がんの治療戦略に複数の臨床的含意をもたらす。第一に、CTLA-4ブロッケードによるT細胞トラフィッキング促進とPD-1ブロッケードによる腫瘍内T細胞活性化の組み合わせが、TCR ITHを低減し、空間的に均一な免疫浸潤を実現できる可能性がある。第二に、trunk型ネオアンチゲンを標的とした個別化癌ワクチンが、全腫瘍領域に共通するT細胞応答を誘導することで、空間的に均一な抗腫瘍免疫を達成できる可能性がある。第三に、腫瘍血管・リンパ管アーキテクチャーの不均一性もT細胞トラフィッキングを阻害し、TCR ITHに寄与する可能性があり、血管正常化療法との組み合わせも検討に値する。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、n=11 patientsという小規模なコホートでの解析であるため、大規模な前向きコホートでの検証が不可欠である。第二に、バルクTCRシーケンシングではT細胞サブセット情報が得られないため、CD4+ T細胞とCD8+ T細胞の各クローンの役割を区別できない点が今後の課題である。第三に、ICIで治療された患者での検証がなされていないため、ICI応答性との直接的な関連は不明である。再発例がわずか4例であるため、統計的検出力には限界がある。今後の研究方向性として、液体生検 (末梢血TCR、ctDNA) による非侵襲的ITH評価の実現可能性、周術期ICI療法におけるTCR ITH変化の評価、CT画像テクスチャ解析との統合的予後モデルの構築が重要な研究課題として残されている。

方法

症例および組織採取: 本研究では、外科切除された局所肺腺がん患者11例を対象とした。内訳は、リンパ節転移陰性 (N0) が8例、N2が1例、N1が2例であった。これらの患者のうち4例が術後再発し、7例は非再発であった。術直後に各腫瘍から2〜5か所の空間的に異なる領域を18ゲージ針コアで採取し、合計45領域の腫瘍サンプルを得た。HE染色スライドを用いて腫瘍細胞含有率が40%以上の標本のみを解析に供した。再発群と非再発群の間でフォローアップ期間に有意な差は認められなかった (中央値53ヶ月 vs 42ヶ月)。

TCRシーケンシング: Adaptive Biotechnologies社のImmunoSEQ Assayを用いて、FFPE由来DNAからTCRβ鎖CDR3領域を増幅し、高スループットシーケンシングを実施した。この手法はバイアス制御多重PCRを特徴とする。1サンプルあたり平均18,766 T細胞 (範囲 2,573〜51,206) から、平均8,400ユニークTCRβ鎖再編成が同定された。T細胞クローン性は、1からPielou’s evennessを引いた値として定義され、0は完全な均等分布、1は単一クローン支配を示す。

Morisita重複指数 (MOI) によるTCR ITH定量: 領域間のTCRレパトアの類似性を定量的に評価するため、Morisita重複指数 (MOI) を使用した。MOIはクローンの種類と頻度の両方を考慮する指標であり、0は完全な非重複、1は完全な一致を示す。各患者の腫瘍内領域間のMOIを算出し、TCR ITHの程度を評価した。また、患者間のMOIも算出し、TCRレパトアの患者特異性を確認した。この解析は、8例の末梢血サンプルでも並行して実施され、腫瘍濃縮T細胞のMOIも評価された。

ネオアンチゲン予測: 全エクソームシーケンシング (WES) データから得られた非同義変異情報に基づき、ネオアンチゲンをin silicoで予測した。MHCクラスIネオアンチゲンはNetMHC3.4アルゴリズムを用いて予測され、9/10merペプチドでIC50 <500 nmol/Lを結合候補とした (高親和性結合はIC50 <50 nmol/L)。MHCクラスIIネオアンチゲンはNetMHCIIpan3.1アルゴリズムを用いて予測され、12merペプチドを対象とした。HLAタイピングはPHLAT (Phylogenetic-based HLA Typing) 法によりHLA-A/B/CおよびHLA-DR/DQについて実施された。全腫瘍領域で検出される変異由来のネオアンチゲンをtrunk型、一部の領域のみで検出される変異由来のネオアンチゲンをbranch型と定義した。さらに、TCGAの遺伝子発現データを用いて、発現が確認されたネオアンチゲン (expressed neoantigens) の解析も行った。

免疫組織化学 (IHC): 10例のFFPE切片を用いて、CD3、CD4、CD8抗体による免疫染色を実施した。各腫瘍内の5か所の1 mm²領域において、陽性細胞密度 (個/mm²) を定量し、T細胞浸潤の空間的分布およびITHを評価した。

統計解析: データ解析には、Spearman相関分析、Mann-Whitney U検定、Kruskal-Wallis検定を用いた。無病生存期間 (DFS) の評価にはKaplan-Meier法とログランク検定を使用した。統計解析はGraphPad Prism 6.0を用いて実施された。