• 著者: Paul C. Tumeh, Christina L. Harview, Jennifer H. Yearley ほか
  • Corresponding author: Paul C. Tumeh / Antoni Ribas (UCLA / Jonsson Comprehensive Cancer Center)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-11-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25428505

背景

PD-1 (programmed death-1) 経路を標的とする免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は、様々な癌種において前例のない奏効率と持続的な臨床効果を示している Topalian et al. NEnglJMed 2012Brahmer et al. NEnglJMed 2012Hamid et al. NEnglJMed 2013Wolchok et al. NEnglJMed 2013Topalian et al. JClinOncol 2014。しかし、これらの治療に対する奏効を予測する信頼性の高い組織学的バイオマーカーは未確立であった。癌組織が宿主の免疫応答を抑制するメカニズムの一つとして、PD-1リガンド (PD-L1) の発現亢進と、抗原特異的CD8陽性T細胞上のPD-1との結合が挙げられる。この現象は「適応免疫抵抗性 (adaptive immune resistance)」と命名され、腫瘍細胞がT細胞の存在下でIFN-γなどのサイトカインに応答してPD-L1を発現することで、免疫細胞による殺傷から自身を保護しようとするメカニズムであると考えられている Pardoll et al. NatRevCancer 2012Spranger et al. SciTranslMed 2013

先行研究では、PD-L1が腫瘍細胞で構成的に発現する場合と、IFN-γ産生T細胞の存在下で誘導的に発現する場合があることが報告されている。特に、後者の適応免疫抵抗性がPD-1阻害療法の奏効に重要であるという仮説が提唱されていたが、この仮説を直接的に検証し、既存の腫瘍抗原特異的CD8陽性T細胞がPD-1/PD-L1軸によって抑制されている腫瘍がICIに反応するというメカニズムを細胞・分子レベルで実証した研究は不足していた。また、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の密度や局在が結腸直腸癌などの予後予測因子となることは知られていたが Galon et al. Science 2006、メラノーマにおけるPD-1阻害療法に対する奏効予測因子としての詳細な解析は未解明な点が多かった。本研究は、pembrolizumab治療を受けた進行メラノーマ患者の腫瘍生検サンプルを用いて、治療効果を予測する組織学的・免疫学的バイオマーカーを特定し、PD-1阻害の作用機序における適応免疫抵抗性の役割を解明することを目的とした。特に、CD8陽性T細胞の空間的分布、PD-1/PD-L1の近接性、およびT細胞受容体 (TCR) レパートリーの多様性が奏効とどのように関連するかを詳細に解析する必要があった。これらの情報が不足しており、臨床現場でPD-1阻害療法を最適化するための、より堅牢な予測バイオマーカーが求められていた。

目的

本研究の目的は、抗PD-1抗体であるpembrolizumabによる治療を受けた進行メラノーマ患者の治療前後の腫瘍生検サンプルを詳細に解析し、以下の点を明らかにすることである。(1) 治療前の腫瘍におけるCD8陽性T細胞の局在、密度、およびPD-1/PD-L1の物理的近接性が、治療奏効を予測するバイオマーカーとなり得るかを評価する。(2) T細胞受容体 (TCR) レパートリーのクローン性 (clonality) が、pembrolizumabに対する臨床的奏効と関連するかを検討する。(3) これらの免疫学的特徴を組み合わせた予測モデルを構築し、独立した検証コホートにおいてその予測性能を盲検下で検証する。これにより、PD-1阻害療法の作用機序における適応免疫抵抗性の役割を解明し、臨床的に有用な奏効予測バイオマーカーを特定することを目指した。特に、既存の腫瘍抗原特異的CD8陽性T細胞がPD-1/PD-L1軸によって抑制されている腫瘍がICIに反応するという仮説を直接的に検証し、臨床的意義のあるバイオマーカーを同定することを目標とした。

結果

ベースラインにおける免疫細胞密度と奏効の関連: pembrolizumab治療に対する奏効群 (n=22 patients) は、非奏効群 (n=24 patients) と比較して、治療前の腫瘍浸潤辺縁および腫瘍実質の両方において、CD8陽性T細胞 (p<0.0001)、PD-1陽性細胞 (p=0.0002)、PD-L1陽性細胞 (p=0.006) の密度が有意に高かった (図3a)。一方、CD4陽性T細胞密度には両群間で有意な差は認められなかった。CD8陽性T細胞密度とPD-L1陽性細胞密度は、腫瘍実質 (Spearman r=0.598, p<0.001) および腫瘍浸潤辺縁 (Spearman r=0.527, p<0.001) の両方で強い正の相関を示した。特に、CD8^high/PD-L1^highの象限に位置するサンプルは、奏効群を強く特徴づけるものであった (p<0.001)。これらの結果は、治療前の腫瘍微小環境における既存のCD8陽性T細胞の存在と、PD-1/PD-L1軸の活性化が奏効に不可欠であることを示唆している。先行する抗CTLA-4抗体イピリムマブ治療歴と、ベースラインのCD8陽性T細胞密度や治療奏効との間に有意な関連は認められなかった (Extended Data Table 3)。

治療中のT細胞増殖と腫瘍退縮: 奏効群では、治療中に腫瘍浸潤辺縁と腫瘍中心の両方でCD8陽性T細胞密度が並行して増加した (Spearman r=0.71, p<0.001) (図1c)。このCD8陽性T細胞密度の増加は、放射線学的腫瘍縮小率と強い負の相関を示した (Spearman r=-0.75, p=0.0002)。また、奏効群の治療中の生検サンプルでは、CD8と核増殖マーカーKi-67の二重陽性細胞、および細胞傷害性顆粒であるgranzyme B陽性CD8陽性T細胞が腫瘍実質に浸潤していることが確認された (図2、Extended Data Fig. 3a, b)。granzyme Bの発現は、奏効群の治療後生検で有意に高かった (p<0.0001)。これは、PD-1阻害が既存のT細胞の増殖とエフェクター機能を活性化し、腫瘍退縮を誘導することを示している。CD8陽性T細胞密度の増加は、腫瘍サイズ減少と強く相関しており、特に治療後20-60日でのCD8陽性T細胞密度の変化が顕著であった。

PD-1/PD-L1の近接性とpSTAT1発現: マルチプレックス免疫蛍光染色を用いた解析により、PD-1とPD-L1の物理的近接性 (適応免疫抵抗性の解剖学的指標) が、奏効群のベースラインサンプルで非奏効群と比較して有意に高いことが示された (p=0.005) (図3c)。これは、奏効する腫瘍では治療前からPD-1陽性T細胞とPD-L1陽性細胞が密接に相互作用しており、PD-1阻害がこの抑制を解除することで効果を発揮することを示唆する。さらに、IFN-γの下流エフェクター分子であるリン酸化STAT1 (pSTAT1) の発現は、奏効群のベースライン (p=0.002) および治療中 (p<0.0001) の腫瘍浸潤辺縁において、CD8陽性T細胞浸潤領域に局在して高発現していた (Extended Data Fig. 3c, d, e)。奏効群では治療中のpSTAT1発現もベースラインと比較して有意に高かった (p=0.022)。この結果は、IFN-γ–PD-L1軸が奏効群で活性化していることを裏付けている。

TCRレパートリーのクローン性: ベースラインの腫瘍サンプルにおけるTCR-β鎖レパートリーの解析では、奏効群 (n=12 patients) は非奏効群 (n=11 patients) よりも有意にクローン性が高いことが示された (p=0.004、normalized 1-Pielou’s evenness) (図3d)。これは、奏効する腫瘍では、特定の腫瘍抗原に特異的なT細胞クローンが蓄積していることを示唆する。治療後のクローン性変化を比較すると、奏効群では抗PD-1療法後に10倍以上のクローン拡張が認められたのに対し、非奏効群ではそのような傾向は観察されなかった (Extended Data Fig. 6b, c)。T細胞浸潤密度とTCRレパートリーのクローン性との間には、R^2=0.04という低い相関しか認められず、両者が独立した予測因子であることを示唆している (Extended Data Fig. 6a)。

予測モデルの構築と検証: フォワードステップワイズロジスティック回帰分析により、侵襲辺縁におけるCD8陽性T細胞密度が、臨床的奏効を予測する最良の単一予測因子として選択された (Extended Data Table 4a)。この予測モデルを、Gustave Roussyの独立した検証コホート15例に適用した結果、奏効した9例中9例を正確に予測し、非奏効の5例中4例を予測した (偽陽性1例、安定疾患1例を奏効と予測)。これは、感度100%、特異度80%に相当する高い予測性能を示している (Extended Data Table 4b)。ROC曲線解析では、侵襲辺縁のCD8陽性T細胞密度がAUC 0.86を示し、高い予測能力を有することが確認された。

考察/結論

本研究は、抗PD-1抗体pembrolizumabによる治療奏効が、既存の腫瘍抗原特異的CD8陽性T細胞の存在と、PD-1/PD-L1を介した適応免疫抵抗性の抑制を必要とすることを細胞・分子・空間の三層で実証した。

先行研究との違い: これまでの研究ではPD-L1発現が奏効予測因子として注目されてきたが Taube et al. ClinCancerRes 2014、本研究はPD-L1発現が単なる静的なバイオマーカーではなく、抗原特異的T細胞浸潤の存在を示す間接的なマーカー、すなわち適応免疫抵抗性の指標として位置付けられるべきであることを示した点で、先行研究とは異なる視点を提供している。特に、PD-1とPD-L1の物理的近接性が奏効群で有意に高いという所見は、この適応免疫抵抗性が治療効果に直接的に関与していることを強く示唆する。

新規性: 本研究で初めて、治療前の腫瘍浸潤辺縁におけるCD8陽性T細胞密度、PD-1/PD-L1の近接性、およびTCRレパートリーのクローン性が、pembrolizumabに対する奏効を予測する最適な指標となることを新規に同定した。特に、侵襲辺縁のCD8陽性T細胞密度に基づく予測モデルは、独立した検証コホートにおいて高い精度で奏効を予測し、その臨床的有用性を初めて実証した。これは、PD-1阻害が既存のCD8陽性T細胞に対する適応免疫抵抗性を解除することで効果を発揮するというメカニズムを明確に示した点で、非常に新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、PD-1阻害療法の奏効予測バイオマーカーの開発と臨床応用への道筋を提示する。特に、侵襲辺縁のCD8陽性T細胞密度は、免疫組織化学 (IHC) ベースで容易に測定可能であり、ROC解析でAUC 0.86に相当する高い予測性能を示したことから、臨床現場での実装が期待される。これにより、治療前に奏効が期待できる患者を特定し、不必要な治療を避けることで、患者の負担軽減と医療資源の最適化に貢献できる可能性がある。また、IFN-γ経路の活性化がPD-L1発現を誘導し、適応免疫抵抗性を形成することを示唆するpSTAT1の高発現は、PD-L1阻害と組み合わせたI型インターフェロン炎症反応の誘導が、免疫細胞浸潤の少ない「cold tumor」に対する新たな治療戦略となり得る臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で示されたバイオマーカーの多施設共同研究によるさらなる検証が必要である。また、PD-L1が癌細胞、骨髄由来細胞、活性化T細胞のいずれに発現しているかという相対的な分布が、治療結果にどのように影響するかは未解明であり、今後の研究で詳細に解明する必要がある。さらに、本研究はメラノーマに焦点を当てたものであるため、他の癌種においても同様のメカニズムが作用するかどうかを検証することも重要な課題である。Limitationとして、本研究のコホートサイズは比較的小さく、特にTCRレパートリー解析のサンプル数 (n=23 patients) が限られていた点が挙げられる。また、治療後の生検サンプルは一部の患者に限定されており、経時的な変化の包括的な理解にはさらなるデータが必要である。

方法

本研究では、UCLAでpembrolizumabの投与を受けた進行メラノーマ患者46例を研究コホート (Institutional Review Board (IRB) study number 11-003066) とし、Gustave Roussyで治療を受けた15例を独立した検証コホート (IRB study number 11-040) とした。pembrolizumabは、2 mg/kg q3w、10 mg/kg q3w、または10 mg/kg q2wのいずれかの用量で静脈内投与された。腫瘍の評価は、RECIST v1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) および免疫関連奏効基準 (irRC) Wolchok et al. ClinCancerRes 2009 に基づき、初回投与後12週、16週、その後12週ごとに行われた。腫瘍生検は、治療前 (ベースライン) と治療開始後20〜60日 (一部は60〜120日、または120日超) に取得された。

組織学的解析では、S100免疫染色を用いて腫瘍浸潤辺縁 (invasive margin) と腫瘍実質 (tumour parenchyma) を区別した。CD8、CD4、PD-1、PD-L1、Ki-67 (核増殖マーカー)、granzyme B、pSTAT1の発現は、定量的免疫組織化学 (IHC) 法により定量された。特に、PD-1とPD-L1の物理的近接性 (proximity) を評価するため、マルチプレックス免疫蛍光染色 (multiplex immunofluorescence) を用い、10,000個のランダムディスクサンプリングによりPD-1とPD-L1の共局在を評価した。この解析では、個々の細胞におけるCD8とPD-1の共発現も評価され、CD8陽性T細胞がPD-1発現の主要な細胞源であることが確認された。T細胞受容体 (TCR)-β鎖のCDR3領域は、次世代シーケンシング技術であるImmunoSeq (Adaptive Biotechnologies) を用いてシーケンスされ、Shannonエントロピーに基づく正規化されたクローン性 (normalized clonality) が算出された。この手法により、TCRレパートリーの多様性とクローン拡張が定量的に評価された。

統計解析には、Wilcoxon順位和検定、Fisherの正確確率検定が用いられた。奏効と非奏効を区別する予測モデルを構築するため、フォワードステップワイズロジスティック回帰分析が実施され、侵襲辺縁におけるCD8陽性T細胞密度が最も優れた予測因子として選択された。このモデルは、Gustave Roussyコホートの15例に対して盲検下で検証され、その予測性能 (感度、特異度) が評価された。ROC (Receiver Operating Characteristic) 曲線解析も行われ、各マーカーの予測能力が評価された。また、主要成分分析 (Principal Component Analysis) を用いて、CD8、PD-1、PD-L1、CD4の各マーカーの変動を解析した。統計的有意水準はp<0.05と設定された。