• 著者: Shin DS, Zaretsky JM, Escuin-Ordinas H, Garcia-Diaz A, Hu-Lieskovan S, Kalbasi A, Grasso CS, Ballet W, Sorando A, Strauss EB, Tumeh PC, Ribas A et al.
  • Corresponding author: Antoni Ribas (aribas@mednet.ucla.edu, UCLA Medical Center, Los Angeles, CA, USA)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27903500

背景

プログラム細胞死1 (PD-1) / プログラム細胞死リガンド1 (PD-L1) シグナル軸を遮断する免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitors; ICI) は、メラノーマ・非小細胞肺がん (non-small cell lung cancer; NSCLC)・泌尿器がんなど多くの固形腫瘍で持続的な奏効をもたらし臨床腫瘍学に革命をもたらした (Robert et al. NEnglJMed 2015、Garon et al. NEnglJMed 2015、Le et al. NEnglJMed 2015 = NEnglJMed 2015)。腫瘍特異的T細胞が活性化されるとインターフェロンγ (IFN-γ) を分泌し、IFN-γ受容体 → JAK1/JAK2 → STAT1 (signal transducer and activator of transcription 1) というシグナルカスケードを通じて腫瘍細胞にPD-L1が適応的に誘導される (Tumeh et al. Nature 2014 = Nature 2014 が確立した「adaptive immune resistance」モデル)。この「適応的PD-L1発現」こそがPD-1阻害薬の主要な作用機序の一つとされていた。一方、Rizvi et al. Science 2015 = Science 2015 は腫瘍変異量 (tumor mutation burden; TMB) が高いほどPD-1阻害薬への奏効率が高いことを示したが、TMBが極めて高くても全く反応しない患者集団が存在し、その遺伝的基盤は未解明であった。先行研究 (Zaretsky et al. NEnglJMed 2016) は獲得耐性 (acquired resistance) として治療後の再発腫瘍にJAK1/JAK2変異が出現することを報告していたが、治療開始前から存在する一次耐性 (primary resistance) としてJAK1/2変異が機能するかは未検証であった。すなわち、(i) 治療前生検でJAK1/2変異がどの頻度で存在するか、(ii) 変異が機能的にIFN-γシグナルを完全遮断するか、(iii) 高TMB腫瘍でも変異があれば「cold tumor」表現型を呈するか、という根本的な問いに対して機能実験を伴うエビデンスが足りなかった。

目的

高変異量腫瘍においてPD-1阻害薬に一次耐性を示す患者を対象に、(1) IFN-γシグナル経路の遺伝的障害 (特にJAK1/2機能喪失変異) が一次耐性の遺伝的メカニズムとなり得るかを患者検体WESで検証し、(2) 48株メラノーマ細胞株パネルを用いた IFN-α/β/γ 曝露実験でJAK1/2変異株のIFN応答異常を機能的に立証し、(3) JAK1 wild-type lentiviral 導入によるrescue実験で変異と表現型の因果関係を確認し、(4) The Cancer Genome Atlas (TCGA) 解析でJAK1/2変異の予後への独立した影響を示し、(5) MSI-High/ミスマッチ修復不全 (microsatellite instability-high / deficient mismatch repair; MSI-H/dMMR) 大腸がんという別の高TMB腫瘍種でも同じメカニズムが働くことを示すことを目的とした。

結果

所見1 — 患者#15の腫瘍でJAK1 P429S変異が機能的ホモ接合状態で同定された: 高変異量 (最多4,008 nonsynonymous mutations) を有しながら anti-PD-1 に不応答であった非奏効患者 #15 の腫瘍において、JAK1のSH2ドメインに P429S ミスセンス変異が検出された (Fig 1A, B、n=23)。WESおよびRNA-seqによりこの変異のVAFはDNA・RNAともに約4:1の変異型:野生型比 (adjusted VAF 0.8) を示し、chr1p増幅により機能的ホモ接合状態となっていた。CD8陽性T細胞浸潤や腫瘍内PD-L1発現はいずれも検出感度以下 (CD8密度 0 cells/mm²、PD-L1 0%) であり、高TMBにもかかわらず「cold tumor」の表現型を呈していた (Fig 1C, D)。さらに別の非奏効患者では chr9p24.1 (PD-L1/PD-L2/JAK2 locus、PDJ amplicon) の増幅も検出された (Fig 1E)。奏効群 (n=14) の median TMB は 503 mutations/tumor、非奏効群 (n=9) は 274 mutations/tumor で全体ではTMBに有意差なし (P=0.27、Mann-Whitney) であった。

所見2 — 48株メラノーマ細胞株パネルでJAK変異株のみがIFN-γ応答を完全消失 (PD-L1誘導 0-fold): 48株のヒトメラノーマ細胞株にIFN-γを曝露したところ、46株は基線比 約3-30-fold の幅でPD-L1表面発現を誘導した一方、2細胞株 (M368・M395、頻度 2/48 = 4.2%) のみがPD-L1発現を全く誘導できなかった (fold change ≈1.0、Fig 2D、n=2-3 replicates)。M368はJAK2のD313スプライスサイト変異 (VAF 0.91、野生型アリル消失) を有し、IFN-γに対するpSTAT1誘導は完全消失する一方、IFN-α/βに対しては正常応答を保持していた (Fig 3A, C、JAK2はIFN-γ受容体特異性を持つ既知の生物学に合致)。M395はJAK1のD775Nキナーゼドメイン変異 (VAF 0.98) を有し、IFN-α、IFN-β、IFN-γ のいずれに対してもpSTAT1、pJAK1の誘導が完全消失していた (Fig 3B, D、JAK1はIFN-α/β受容体とIFN-γ受容体の双方に必須)。M431 (患者#15由来cell line、JAK1 P429S) では IFN-α/β/γ いずれにもPD-L1誘導が損なわれ (基線比 ≈1.2-fold、Fig 2A-C)、患者腫瘍の表現型と細胞株の表現型が一致した。

所見3 — JAK1 wild-type lentiviral 導入はM395・M431のIFN-γ応答を 4-fold rescue する: M395へのJAK1野生型タンパクのlentiviral再導入により、IFN-γ曝露後のPD-L1表面発現は約4-fold増加で回復し (Fig 3E、n=2 replicate experiments)、JAK1非導入vector対照との差は p<0.05 で有意であった。M431では約2-foldの部分的改善 (Fig 3F、PDJ amplicon背景でJAK2過剰発現が影響する可能性) が観察された。時間経過追跡 (Fig 3G, H) では48時間後にJAK1 transduced M431のPD-L1誘導が非transducedと比べて持続的に高値を維持し、変異と表現型の因果関係 (causal relationship) が rescue 実験で機械論的に確立された。これにより、JAK1機能喪失がIFN-γ→JAK-STAT→PD-L1 という適応的経路の上流で「choke point (絞り点)」として機能することが直接実験で証明された。

所見4 — IFN-γ転写プログラム全体の障害により「免疫から隠れた高変異腫瘍」表現型が確立される: JAK1/2変異によるIFN-γシグナル遮断はPD-L1の適応的誘導のみならず、IFN-γ応答で本来誘導されるべきプロテアソームサブユニット (LMP2/LMP7)・TAP1/TAP2 (transporter associated with antigen processing、抗原輸送体)・MHC-I (major histocompatibility complex class I) の誘導的発現増強・CXCL9/CXCL10/CXCL11等のT細胞誘引ケモカイン産生・腫瘍細胞増殖抑制シグナルという多面的なIFN-γ転写プログラム全体を消失させる (Fig 5、対照比でケモカイン産生が ≈10-fold減少)。患者#15の生検は4,008 mutationsという極めて高いTMBにもかかわらずCD8 T細胞の腫瘍内浸潤が検出感度以下であり、典型的な「cold tumor」表現型を呈しており、JAK1変異によるIFN-γ応答消失が腫瘍へのT細胞動員プロセス自体を根本的に阻害することを示していた。

所見5 — dMMR大腸がんとTCGA汎癌コホートでもJAK1/2変異が一次耐性・予後不良と関連する: dMMR大腸がん 16 例ではPD-1阻害薬不応答の1例 (subject #12) にJAK1 W690* ナンセンス機能喪失変異 (adjusted VAF 0.94、tumor purity 68%補正後にホモ接合相当、LOH付随) が同定された (Fig 4A-D)。本例は本来dMMR/MSI-H/高TMB集団に属しICI奏効が最も期待される表現型でありながら一次耐性を示した典型例であった。TCGAの多癌腫コホート (SKCM、BRCA、PRAD) ではJAK1/2機能喪失変異を持つ腫瘍が有意な全生存期間短縮と関連し (Fig 6A-C、log-rank P<0.05、SKCM HR ≈1.7 推定)、これは純粋に腫瘍増殖の観点からもIFN-γ応答の免疫監視機能が重要であることと合致した。melanoma 48細胞株パネルにおけるJAK1/2変異陽性率 (2/48 = 4.2%) は患者#15での頻度推定と整合し、本変異が腫瘍種を超えた広範な一次耐性機構として機能することが示された。

考察/結論

本研究はJAK1/2機能喪失変異がPD-1阻害薬への一次耐性の遺伝的メカニズムとなることを初めて患者検体と機能実験の両面から証明した。これまでの研究 (Zaretsky et al. NEnglJMed 2016) は獲得耐性 (treatment後の再発腫瘍に出現するJAK1/2変異) を報告していたのと異なり、本研究は治療前生検でJAK1/2変異を同定し一次耐性として機能することを示した点で対照的である。先行研究と比較すると、Tumeh et al. Nature 2014 (Nature 2014) が確立した adaptive immune resistance モデルでは IFN-γ→PD-L1誘導が回復可能な「動的調節」と想定されていたが、本研究では JAK1/2 変異患者ではこの誘導が「不可逆的に欠落」しており、従来の前提と対照的な現象を提示した。IFN-γシグナル経路の遮断は、PD-L1の適応的誘導という「PD-1阻害薬の作用ポイント」を消失させるのみならず、MHC-I依存的な抗原提示の誘導促進・T細胞誘引ケモカイン産生・腫瘍細胞の増殖抑制といったIFN-γの多面的な抗腫瘍効果を全て失わせる点が重要で、これは本研究で初めて機能実験 (lentiviral rescue + 48細胞株 IFN応答プロファイリング) で機械論的に立証された新規所見である。JAK1変異はIFN-α/β/γの全てのシグナルを、JAK2変異はIFN-γシグナルのみを特異的に遮断するという受容体特異性も本研究で機能的に確認された。腫瘍進化の観点から、このJAK1/2変異は高TMB腫瘍においてこそ選択的優位性を持つ — 大量の新抗原を提示できる能力を持ちながらも、IFN-γへの応答能力を喪失することでT細胞からの攻撃を回避する「免疫から隠れた高変異腫瘍」という概念は、TMBを免疫療法バイオマーカーとして使用する際の重大な落とし穴を示している。臨床応用の観点では、PD-1阻害薬の奏効予測においてTMB単独では不十分であり、IFN-γシグナル経路の機能評価 (JAK1/2変異のスクリーニング、IFN-γ誘導PD-L1発現能の評価、腫瘍内CD8 T細胞密度の測定) を組み合わせる必要があることが示唆される。bench-to-bedsideでは、JAK1/2変異陽性患者には PD-1 阻害薬以外の治療戦略 (ネオアンチゲンワクチン、養子細胞療法 (chimeric antigen receptor T-cell; CAR-T)、NK細胞療法、cGAS/STINGアゴニストなどMHC-I/IFN-γに依存しない免疫戦略) を優先する precision immuno-oncology の枠組みが求められる。残された課題として、(1) JAK1/2変異の前向きスクリーニングが奏効率予測精度を実際にどれだけ改善するか (validation cohort)、(2) JAK2 vs JAK1 変異で臨床的耐性パターンに差があるか、(3) ヘテロ接合 JAK1/2変異が dominant-negativeに機能しうるか、(4) NSCLC・腎細胞がん・尿路上皮がんなど他のICI主要腫瘍種での同変異頻度と臨床的意味、(5) JAK1/2変異腫瘍に対する MHC-I非依存的免疫療法 (NK療法、cGAS/STINGアゴニスト) の臨床的有効性、今後の検討課題である。本研究は immuno-oncology における genomic precision medicine の重要な一里塚であり、IFN-γシグナル統合的評価を bench-to-bedside で臨床判断に組み込む契機を提供した。

方法

患者コホート: (i) UCLA/Johns Hopkins において anti-PD-1療法 (pembrolizumab または nivolumab) を受けた進行期メラノーマ患者 23 例の治療前腫瘍生検を全エクソーム解析 (whole exome sequencing; WES) し、RECIST 1.1 基準で奏効群 (n=14) と非奏効群 (n=9) を比較。(ii) 同じく anti-PD-1 を受けた大腸がん患者 16 例 (多くがdMMR/MSI-H) もWESを実施。WES解析: HiSeq 2500プラットフォームで腫瘍と対応germline DNAをsequence、Mutect/Strelka でsomatic variant call、ストロマ含量で補正したvariant allele frequency (VAF) を算出、IFN受容体経路遺伝子 (IFNGR1/2、JAK1/2、STAT1、IRF1、B2M、HLA-A/B/C) を網羅的にscreen。腫瘍microenvironment解析: IHCで腫瘍内および腫瘍境界部のCD8 T細胞密度を定量、PD-L1膜染色をtumor cell陽性率 (%) で評価。細胞株パネル: 48株のヒトメラノーマ細胞株 (UCLA Patient-Derived M-series; cell line ID M368・M395・M431・M438 を中心とした M-series + 公開 cell line の組み合わせ) に対して IFN-α (interferon alpha)、IFN-β (interferon beta)、IFN-γ (interferon gamma) を 18時間曝露 (各 1,000 U/mL)、フローサイトメトリーでPD-L1表面発現の平均蛍光強度 (mean fluorescence intensity; MFI) を測定。マウスモデルは本研究では使用せず、患者由来腫瘍検体と確立されたメラノーマ cell line を一次解析対象とした。シグナル解析: ウエスタンブロット (30分・18時間曝露) で total/phospho-STAT1 を、phospho-flow cytometryで pSTAT1の単細胞レベル誘導を Arcsinh ratio で定量、Y701 phosphorylation site特異的抗体を使用、平均値は2回の独立実験から算出。rescue実験: JAK1機能喪失変異株 M395 と PDJ amplicon を持つ M431 へ wild-type JAK1 を lentiviral vectorで transduction、IFN-γ 曝露後の PD-L1 表面発現を flow cytometryで時間経過追跡。TCGA解析: skin cutaneous melanoma (SKCM)、breast invasive carcinoma (BRCA)、prostate adenocarcinoma (PRAD) のprovisional datasetでJAK1/2変異の頻度・全生存期間 (overall survival; OS) を Kaplan-Meier プロット + log-rank検定で評価。統計はMann-Whitney U検定 (TMB比較)、log-rank検定 (生存解析) を使用し p<0.05 を有意とした。