- 著者: Kartik Sehgal, Andrew Portell, Elena V. Ivanova, Patrick H. Lizotte, Navin R. Mahadevan, Jonathan R. Greene, Amir Vajdi, Carino Gurjao, Tyler Teceno, Luke J. Taus, Tran C. Thai, Shunsuke Kitajima, Derek Liu, Tetsuo Tani, Moataz Noureddine, Christie J. Lau, Paul T. Kirschmeier, David Liu, Marios Giannakis, Russell W. Jenkins, Prafulla C. Gokhale, Silvia Goldoni, Maria Pinzon-Ortiz, William D. Hastings, Peter S. Hammerman, Juan J. Miret, Cloud P. Paweletz, David A. Barbie
- Corresponding author: David A. Barbie; Cloud P. Paweletz; Juan J. Miret (Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, Massachusetts, USA)
- 雑誌: The Journal of clinical investigation
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 33151910
背景
オンコジーン標的療法 (EGFRi, BRAFiなど) において、薬剤耐性獲得のメカニズムとして、一時的に休眠状態やアポトーシス抵抗性を示すdrug-tolerant persister cells (DTPCs) の存在が知られている。これらの細胞は薬剤による殺傷を回避し、薬剤除去後に増殖を再開する。この現象は、抗菌薬耐性菌のパーシスター細胞の概念と類似している。DTPCsはしばしば上皮間葉転換 (EMT) を示し、IL-6などの生存促進性サイトカインシグナル経路を活性化することが報告されている (Sharma et al. Cell 2010, Hata et al. NatMed 2016)。
一方、PD-1阻害薬 (免疫チェックポイント阻害薬、ICI) 治療においても、同様のパーシスター細胞集団が存在するかどうかは未解明であった。先行研究では、乳がんモデルにおいてSnail高発現と間葉系プログラムが抗CTLA-4抵抗性に関与すること (Dongre et al. Cancer Res 2017) や、Ras変異肺がんモデルにおいてSnail活性化が好中球浸潤を介して抗PD-1抵抗性に関与すること (Faget et al. Cell Rep 2017) が報告されてきた。また、組織幹細胞が免疫認識を回避する休眠状態を持つことが示されており (Agudo et al. Immunity 2018)、EMTと幹細胞様表現型の連携によるICI回避の可能性が理論上存在した。
しかし、腫瘍免疫微小環境 (TIME) を再現する機能的モデルの不足により、免疫チェックポイント阻害を回避するパーシスター細胞集団の発見は妨げられてきた。特にin vivoでのパーシスター細胞の特性評価は困難であり、正確な反復生検が必要となる (Buqué & Galluzzi Trends Cancer 2018)。近年、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-Seq) や強化された初代腫瘍培養法といった新技術は、高解像度かつ動的な癌生物学の解析を可能にしている (Hwang et al. Exp Mol Med 2018)。我々の先行研究では、3Dコラーゲンマトリックスに埋め込まれた患者由来またはマウス由来のオルガノイド腫瘍スフェロイド (PDOTS/MDOTS) の短期マイクロ流体培養を用いて、免疫チェックポイント阻害に対するex vivo応答を評価する実現可能性を示した (Jenkins et al. Cancer Discov 2018)。このMDOTSシステムは、PD-1発現T細胞、複数の骨髄系細胞集団、樹状細胞、線維芽細胞、内皮細胞など、TIMEの主要な構成要素を保持していることが明らかになっている。しかし、これまでの表現型解析は生細胞/死細胞染色とサイトカインプロファイリングに限定されており、CD8+ T細胞活性化後の免疫回避のより根本的なメカニズムを解明するための高解像度解析が不足していた。
目的
本研究の目的は、マウス由来オルガノイド腫瘍スフェロイド (MDOTS) のex vivoマイクロ流体培養システムを用いて、抗PD-1治療6日後の生存腫瘍細胞を高解像度な単一細胞RNAシーケンス (scRNA-Seq) で解析することである。これにより、PD-1阻害後もCD8+ T細胞による殺傷に抵抗する免疫療法抵抗性細胞 (IPCs) 集団を同定し、その分子表現型、生存因子、および治療標的候補を明らかにすることを目指した。特に、DTPCsと同様のEMTおよび幹細胞様の特徴を持つ細胞集団がICI抵抗性に関与するかどうかを検証し、その脆弱性を標的とする併用療法をin vitroおよびin vivoで評価することを目的とした。最終的に、高解像度機能的ex vivoプロファイリングの力を実証し、持続的な抗PD-1応答からの免疫回避の根本的なメカニズムを解明し、特定の治療組み合わせによって標的可能な癌細胞サブポピュレーションとしてのIPCsを特定することを目指した。
結果
αPD-1治療により独特な転写状態が出現: MC38 MDOTSのバルクRNAシーケンス解析により、αPD-1治療後にはIgGコントロール群と比較して独特な転写状態が誘導されることが明らかになった。IFNγ応答遺伝子 (Gbp2, Gbp3, Irf1, Cxcl10など) はIFNγ処理で主に誘導されたが、αPD-1処理MDOTSではSocs3, Lif, Mmp2, Snai1などの間葉系/幹細胞様経路遺伝子が特異的に上方制御された (Figure 1E, Supplemental Table 1)。GSEAでは、TNFα/NFκBシグネチャとEMTシグネチャが上位パスウェイとして同定された (Figure 1E)。この転写変化はαPD-1+αCD8併用処理で完全に消失し、CD8+ T細胞依存性であることが確認された。qPCRおよび培養上清中のIL-6およびLIF ELISAでも同様の結果が得られた (Supplemental Figure 1C-F)。
scRNA-seqによりαPD-1抵抗性癌細胞クラスターを同定: MC38 MDOTSのscRNA-seq解析により、αPD-1処理特異的な4つのクラスター (クラスター1-4) が同定され、αPD-1処理細胞の大部分はクラスター1および2に属した (Figure 2A)。scRNA-seqではIgG処理群2543細胞とαPD-1処理群2626細胞を解析した。これら主要なαPD-1抵抗性クラスター1および2は、IFNγおよびIFNαシグネチャの顕著な下方制御を共有していた (Figure 2B, D)。クラスター1はE2F標的遺伝子およびG2M関連遺伝子の上方制御を示し、増殖性の表現型を示唆した。一方、クラスター2はこれらの遺伝子の強い下方制御を示し、休眠状態の表現型を示唆した (Figure 2C, D)。特にクラスター2はEMT Hallmarkシグネチャの有意な上方制御を示した (Figure 2D)。これらの結果は、MC38細胞の特定のサブセットが休眠性で間葉系の表現型を採ることでαPD-1療法を回避することを示唆した。
Snai1とLy6a (Sca-1) がIPCマーカーとして同定: 休眠状態に関連するクラスター2において、Snai1とLy6a (Sca-1) が最も有意に上方制御された転写産物として同定された (log2 FC >0.5, -log10 adjusted P >50) (Figure 3B)。in vivo MC38腫瘍のSnai1 mRNA in situ hybridization (ISH) では、αPD-1治療群の腫瘍壊死周囲領域にSnai1高発現腫瘍細胞のクラスターが有意に増加していることが確認された (Figure 3C)。αPD-1抵抗性のMSI-H大腸癌患者のscRNA-seq解析でもSNAI1+腫瘍細胞サブポピュレーションが同定された (Figure 3D)。さらに、Riaz et al. Cell 2017のメラノーマコホートにおいて、治療前腫瘍における高SNAI1発現 (>90パーセンタイル) は、ニボルマブ治療による持続的臨床的利益の欠如と有意に相関した (Fisher exact P=0.036) (Figure 3F, Table 1)。
Sca-1+ IPCsは既存の細胞集団であり、確率的に獲得される: MC38-ova細胞とOT-I CD8+ T細胞の共培養実験において、Sca-1+細胞はエフェクター/ターゲット (E/T) 比率の上昇に伴い富化され、免疫選択圧下で優勢な集団となった (Figure 4A)。これは、Sca-1+細胞が細胞傷害性T細胞による殺傷に対して相対的に抵抗性であることを示唆する。MC38細胞では約1%、CT26細胞では約3%のSca-1+細胞が既存集団として存在した (Figure 4B, n=5 experiments)。MC38 Sca-1+細胞とSca-1-細胞の全エクソームシーケンスでは、既知のMC38癌遺伝子変異は共有するものの、独立してソーティングされたサンプル間でゲノム異質性が高く、この細胞状態が確率的に獲得されることを示唆した (Figure 4C)。MHCクラスI H-2Kbの発現はSca-1+/-細胞間で差がなく、抗原提示の低下が抵抗性の原因ではないことが示された (Supplemental Figure 6A)。MC38 Sca-1+細胞は96時間以内にSca-1-細胞へと復帰するが、CT26やLLCではSca-1+細胞が持続的に維持され、モデル間で安定性に違いがあることを示した (Figure 4E, n=3 experiments)。
IL-6がIPCを拡大し、TNFαは細胞傷害性を示す: サイトカインスクリーニングの結果、MC38 Sca-1+細胞の増殖を促進できたのはIL-6とIFNγ (陽性対照) のみであった (Figure 5A, n=3 experiments)。IL-6はMHCクラスIの発現を上方制御せず、IPCの拡大が抗原性低下とは無関係であることを示唆した (Figure 5B)。IL-6はMC38 MDOTSでもSca-1+細胞を拡大させ (Figure 5C)、CT26、LLC、CMT167などの他のモデルでもSca-1+細胞の拡大を促進した (Figure 5D, n=4 for MC38/CT26, n=3 for LLC/CMT167)。一方、外因性TNFαはMC38 Sca-1+細胞の増殖を強力に阻害し、IL-6やIFNγによる拡大効果を打ち消した (Figure 5E, n=3 experiments)。TNFα処理は、proapoptotic遺伝子 (Fas, Traf1) の発現を誘導する一方で、αPD-1誘導TNFα/NFκBシグネチャとして同定されたprosurvival遺伝子 (Birc2, Birc3) も誘導され、TNFα細胞傷害性に対する保護機構を提供した (Figure 5F)。
モデル間のTNFα感受性の差異: LLC Sca-1+細胞はTNFαに最も感受性が高く、CT26は中程度、CMT167は抵抗性であった (Figure 5E)。IL-6の補充は、LLC、CT26、CMT167のSca-1+細胞を部分的に救済できた。MC38 MDOTSは濃度依存的なTNFα感受性を示したが、CT26 MDOTSでは有意な反応は認められず、これらの幹細胞様集団におけるTNF細胞傷害性閾値の差異が裏付けられた (Supplemental Figure 9E)。
SMAC mimetic LCL161併用によりαPD-1効果が回復: Birc2/3はCD8+ T細胞のTNF細胞傷害性閾値とαPD-1応答性に関与することが先行研究で示唆されていた (Manguso et al. Nature 2017, Vredevoogd et al. Cell 2019)。SMAC mimeticであるLCL161をTNFα治療に加えると、MC38 Sca-1+細胞はIL-6併用時でも完全に排除された (Figure 6A, n=3 experiments)。in vivoでのαPD-1とLCL161の併用療法は、MC38腫瘍においてSca-1+ IPCsを減少し、腫瘍細胞殺傷を増強し、αPD-1単独療法と比較して持続的な奏効を達成した (Figure 6B, C)。MC38腫瘍担持マウス (n=11 mice) において、併用療法群で単剤療法群と比較して有意な生存期間の改善と完全奏効が認められた (p<0.05)。これは、in vitroでのTNF細胞傷害性閾値とin vivoでの治療反応性が一致することを示した。CT26腫瘍担癌マウス (n=8 mice) では、併用療法により数値的には高いが統計的に有意ではない完全奏効率と持続的生存率が認められた (Figure 6D)。
考察/結論
新規性: 本研究は、PD-1阻害後の免疫回避メカニズムとして、免疫療法抵抗性細胞 (IPCs) の概念を分子・表現型・機能レベルで初めて確立した。MDOTSマイクロ流体培養を用いた高解像度ex vivoプロファイリングが、新規の治療機序解明パイプラインとして機能することを示した点も重要である。
先行研究との違い: 本研究は、オンコジーン標的療法におけるDTPCsの概念をICI療法に拡張し、EMT-幹細胞軸の免疫回避機序を統合的に明らかにした点で、これまでの研究と異なる。Snai1は抗CTLA-4抵抗性やKRAS変異肺がんにおける好中球浸潤促進に関与することが示されていたが、本研究ではαPD-1持続に特化したハイブリッド状態マーカーとして位置づけた。また、IPCsがIFN応答を下方制御していることは、Gao et al. Cell 2016やShin et al. CancerDiscov 2017、Zaretsky et al. NEnglJMed 2016で報告された免疫チェックポイント阻害抵抗性との関連性とも一致する。
治療標的としてのIPCs: 本研究は、IPCsが(1) Snai1+ Sca-1+ハイブリッドEMT/幹細胞様表現型を持つこと、(2) IL-6シグナルによって拡大すること、(3) TNFα感受性であるもののBirc2/3によって保護されていること、(4) SMAC mimeticであるLCL161との併用によってこの脆弱性を治療可能であること、という治療可能なターゲット像を提供した。Birc2/3は、Manguso et al. Nature 2017やVredevoogd et al. Cell 2019で免疫療法の活性を増強する標的として遺伝学的に同定されており、本研究の結果と一致する。
臨床応用: 本知見は、ICIとSMAC mimetic (LCL161, birinapant, debio1143など) の併用療法が有望な戦略であることを示唆する。これらのSMAC mimeticは既に臨床試験段階にある (NCT02890069, NCT03111992, NCT03270176)。SNAI1発現はメラノーマにおいてICI応答予測バイオマーカー候補となり得る (P=0.036)。また、IL-6/IL-6R標的薬 (トシリズマブ、サリルマブ) との併用も別の治療アプローチとして考えられる。Birc2/3発現はSMAC mimetic併用に反応する患者層別化の候補となり得る。Havel et al. NatRevCancer 2019が指摘するように、PD-1阻害と抗アポトーシス薬を組み合わせた精密医療を導く予測バイオマーカーの開発には、依然として満たされていない臨床的ニーズが存在する。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) ヒトSca-1ホモログの同定 (Ly6aはマウス特異的であるため)、(2) SMAC mimeticの全身性サイトカイン放出 (肝毒性など) のリスク管理、(3) 他のICI (抗CTLA-4、抗TIGITなど) におけるIPCの存在、(4) SNAI1+ IPCsのエピジェネティック制御 (EZH2など)、(5) IPC由来の獲得抵抗性と原発抵抗性の関係、(6) 個別化治療選択のためのSca-1/SNAI1 IHCバイオマーカー開発などが挙げられる。また、in vitroおよびex vivoで観察されたTNF細胞傷害性閾値の差異は、臨床試験で予想される応答のばらつきを説明する可能性があり、IPCsのTNF感受性の低い患者では、より高次の併用療法が必要となる可能性がある。
方法
モデル系: MC38 (MSI-H様大腸癌) およびCT26 (比較的ICI抵抗性大腸癌) のMDOTSを3Dコラーゲンマトリックス中で6日間培養した。治療群はIgGコントロール、IFNγ、抗PD-1 (αPD-1)、またはαPD-1+CD8中和抗体 (αCD8) 処理とした。MDOTSは、新鮮な腫瘍組織を細断し、コラゲナーゼ処理後、40-100 μMのスフェロイド画分を分離し、タイプ1ラット尾コラーゲンと混合して3Dマイクロ流体培養デバイスに播種することで調製した。
RNA解析: bulk RNA-seqおよびscRNA-seqを実施した。bulk RNA-seqは、マイクロ流体デバイスから直接細胞を溶解し、Agencourt RNAdvance組織分離キットを用いてRNAを分離後、Illumina exome capture kitでライブラリを調製し、Illumina NextSeq 500でシーケンスした。差次的発現解析はRパッケージのLove et al. GenomeBiol 2014を用いて実施し、パスウェイ解析はRパッケージのClusterProfilerとMSigDBのHallmark GeneSetsを用いて行った。scRNA-seqは、IgG処理群2543細胞、αPD-1処理群2626細胞を対象とし、10X Genomicsプラットフォームを使用した。in vivo MC38 scRNA-seqでは、CD45/CD90二重陰性細胞 (腫瘍細胞に富む) をソーティングして解析した。scRNA-seqデータは10x Genomics CellRanger v3.0.2で処理し、RパッケージSeurat v2.1.0で解析した。
In situ hybridization: αPD-1処理1週後のMC38腫瘍組織において、Snai1 mRNAの局在解析をRNAscope 2.5 HD duplex assayを用いて行った。
患者解析: αPD-1抵抗性MSI-H大腸癌患者腫瘍のscRNA-seqデータ (Gurjao et al. Cancer Immunol Res 2019) を解析し、SNAI1発現腫瘍細胞サブポピュレーションを同定した。また、Riaz et al. Cell 2017のニボルマブ治療メラノーマコホートにおいて、SNAI1発現と持続的臨床的利益 (durable clinical benefit) との相関を評価した。TCGAデータとの比較も行った。
機能アッセイ: MC38-ova細胞とOVA特異的細胞傷害性OT-I CD8+ T細胞の共培養実験 (エフェクター/ターゲット比率変動) を実施し、Sca-1+細胞の富化をフローサイトメトリーで評価した。MC38、CT26、LLC、CMT167細胞株におけるSca-1+CD44+細胞の割合をフローサイトメトリーで定量した。Sca-1+細胞とSca-1-細胞の全エクソームシーケンス (WES) を行い、ゲノム異質性を評価した。Sca-1+細胞におけるサイトカインスクリーニング (IL-6, HGF, FGF7, LIF, G-CSF, GM-CSF, M-CSF, VEGF, IFNγ, TNFα) を実施し、細胞増殖への影響を評価した。SMAC mimeticであるLCL161によるBirc2/3分解実験を行い、TNFα誘導細胞傷害性に対する影響を評価した。in vivoでは、MC38腫瘍担癌マウスにおいて、抗PD-1とLCL161の併用療法試験を実施し、腫瘍増殖抑制と生存期間への影響を評価した。統計解析にはGraphPad Prism (v8.0) またはMicrosoft Excelを使用し、多重t検定、Bonferroni補正、1-way ANOVA、Wilcoxon rank sum test、2-tailed Student’s t test、Kruskal-Wallis test、Fisher exact testなどを用いた。p値が0.05未満を有意とした。