- 著者: Juan Fu, David B. Kanne, Meredith Leong, Laura Hix Glickman, Sarah M. McWhirter, Edward Lemmens, Ken Mechette, Justin J. Leong, Peter Lauer, Weiqun Liu, Kelsey E. Sivick, Qi Zeng, Kevin C. Soares, Lei Zheng, Daniel A. Portnoy, Joshua J. Woodward, Drew M. Pardoll, Thomas W. Dubensky Jr., Young Kim
- Corresponding author: Young Kim (ykim76@jhmi.edu) (Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery and Department of Oncology, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA); Thomas W. Dubensky Jr. (tdubensky@adurobiotech.com) (Aduro Biotech Inc., Berkeley, CA, USA)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 25877890
背景
がん免疫療法において、免疫系のエフェクターアームを標的とした治療法が開発されてきたが、能動的なワクチン戦略の効力と特異性を調節する上では自然免疫系の活性化が極めて重要な役割を果たす。樹状細胞などの APC (antigen-presenting cell: 抗原提示細胞) を活性化するアジュバントとして、主に MyD88-TRIF シグナル経路を刺激する因子が臨床試験に用いられてきたが、これらのがんワクチン製剤は十分な臨床的有効性を示してこなかった。GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor: 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子) 分泌型全細胞ワクチン (GVAX) は APC を動員して腫瘍抗原提示を増強するが、腫瘍微小環境における免疫寛容を完全には克服できず、単剤での治療効果は限定的であった。近年、同種 GM-CSF 分泌ワクチンとメソテリン発現リステリア菌ワクチンを組み合わせたプライムブースト療法が膵癌患者の生存期間延長を示し、腫瘍抗原、APC 拡大サイトカイン、および APC 活性化ベクターを組み合わせる概念の有効性が示されている。
STING (stimulator of interferon genes: インターフェロン遺伝子刺激因子) は、細胞質内の CDN (cyclic dinucleotide: 環状ジヌクレオチド) センサーとして機能し、TBK1 (TANK-binding kinase 1: TANK結合キナーゼ1)/IRF3 (interferon regulatory factor 3: インターフェロン調節因子3)/I型 IFN (interferon: インターフェロン) シグナルカスケードを活性化する重要な自然免疫受容体である。細菌由来の CDN である CDG (cyclic di-GMP) や CDA (cyclic di-AMP)、あるいは宿主 cGAS (cyclic GMP-AMP synthase) 由来の cGAMP は、STING を直接活性化する PAMP (pathogen-associated molecular pattern: 病原体関連分子パターン) である。先行研究において、がん免疫療法の有効性を高めるために自然免疫と適応免疫を同時に増強するアプローチが模索されてきたが Morgan et al. Science 2006、既存のアジュバント技術では確立された固形腫瘍の強力な免疫抑制を打破するには不十分であった。また、Scholler et al. SciTranslMed 2012 や Yoshimura et al. CancerRes 2006 などの先行研究でも、強力な免疫応答を維持しつつ安全に腫瘍を退縮させる手法の開発が試みられてきたが、ヒト STING には複数の一塩基多型アレルである HAQ (H71-A230-R232-293Q) や REF (reference) 等が存在し、標準的な 3’,5’ 結合を持つ細菌由来 CDN は HAQ アレルを持つ集団を十分に活性化できないという課題が残されていた。このように、全患者集団をカバーしつつ、確立された抵抗性腫瘍を退縮させる強力な自然免疫活性化能を持つがんワクチンの開発は未解明な課題であり、臨床応用における大きな知識ギャップとなっていた。本研究では、このアジュバント活性化能の不足を克服するため、新規合成 CDN 誘導体を配合したがんワクチン (STINGVAX) プラットフォームを設計し、その治療効果の検証を試みた。
目的
本研究の目的は、強力な自然免疫活性化能を持つ新規合成 CDN 誘導体を開発し、これを GM-CSF 産生全細胞ワクチンと組み合わせた「STINGVAX」が、確立されたマウス腫瘍モデルに対して示す抗腫瘍効果を STING 依存性および CD8+ T細胞依存性の観点から検証することである。また、ヒト STING の全アレル型 (WT、HAQ、WT/REF、HAQ/REF) を強力に活性化できる最適な合成 CDN の構造を同定し、STINGVAX 治療によって誘導される適応免疫耐性機構を解明する。さらに、STINGVAX と PD-1 (programmed death 1) 阻害薬との併用療法により、従来の免疫チェックポイント阻害単剤では治療抵抗性を示す確立された難治性腫瘍を退縮・根治させることが可能かを評価し、臨床応用への基盤を確立することを目的とする。
結果
STINGVAXによる強力な抗腫瘍効果とSTING/CD8+ T細胞依存性: 確立された B16 メラノーマ、CT26 大腸がん、SCCFVII 扁平上皮癌、および Panc02 膵がんモデルにおいて、STINGVAX 投与は GM-CSF ワクチン単独または CDN 単独投与と比較して、有意に腫瘍増殖を抑制した (Fig. 1B, Fig. 2)。B16 メラノーマモデル (n=10 mice per group) において、STINGVAX (20 ug CDA) 投与群の腫瘍体積は、PBS コントロール群と比較して約 0.2 cm3 にまで強力に抑制された (p<0.001) (Fig. 1B)。この抗腫瘍効果は、STING 欠損マウス (goldenticket) において完全に消失したことから、宿主の STING 経路活性化が必須であることが証明された (Fig. 1E)。さらに、CD8+ T細胞を除去したマウス、および IFNAR-/- マウスにおいても STINGVAX の治療効果が消失したため、CD8+ T細胞と I 型 IFN シグナルが治療効果の主要なメディエーターであることが示された (Fig. 1F)。腫瘍微小環境の解析では、STINGVAX 治療により CD8+IFN-gamma+ TIL (tumor-infiltrating lymphocyte: 腫瘍浸潤リンパ球) の数が有意に増加し (2.5-fold increase) (Fig. 1C)、in vivo CTL アッセイにおいて腫瘍特異的標的細胞に対する特異的殺傷能が約 60% に達した (GM-CSF ワクチン単独群では約 20%) (Fig. 1D)。転移性膵がんモデル (Panc02) においても、STINGVAX 投与群は生存期間の有意な延長を示した (n=10 mice per group) (Fig. 2C)。
合成CDN誘導体によるSTING活性化能と抗腫瘍効果の増強: リン酸ジエステラーゼによる分解耐性を持つ Rp,Rp-ジチオ修飾体 (RR-S2 CDA) は、正準結合を持つ CDA と比較して、マウス DC2.4 細胞 (n=5 replicates) における IFN-beta 誘導能を約 1000-fold 増加させ (正準 CDA では約 300-fold) (Fig. 3B)、優れた安定性を示した (Fig. 3C)。in vivo において、RR-S2 CDA を配合した STINGVAX は、正準 CDA 配合ワクチンと比較して、B16 メラノーマおよび TRAMP 前立腺がんモデル (n=10 mice per group) において有意に高い抗腫瘍効果を発揮し、腫瘍体積をさらに約 50% 減少させた (Fig. 5A)。この効果増強は、樹状細胞における IRF3 の強力なリン酸化 (Fig. 5B) および IFN-alpha 産生能の増強 (Fig. 5C) と相関していた。
ML-RR-S2-CDAによる全ヒトSTINGアレル型の活性化: 非標準的な 2’,5’-3’,5’ 混合結合構造を有する合成 CDN 誘導体 (ML-RR-S2-CDA) は、ヒト STING の多型に対応し、すべての主要なアレル型を活性化した。THP-1 細胞 (HAQ アレル保有) において、ML-RR-S2-CDA は正準 CDN よりも強力に IRF3 活性化を誘導した (Fig. 4A)。さらに、WT、HAQ、WT/REF、HAQ/REF の異なるアレル型を持つ 4 人の健康ドナー由来 PBMC (n=4 donors) を用いた検証において、ML-RR-S2-CDA はすべてのドナーにおいて TNF-alpha および IFN-beta の産生を強力に誘導した (Fig. 4D)。特に HAQ アレル保有ドナーにおいて、ML-RR-S2-CDA は TNF-alpha 産生を約 8000 pg/ml まで誘導したのに対し、正準 CDA では約 2000 pg/ml にとどまった (Fig. 4D)。また、ヒト樹状細胞 (n=5 replicates) において、ML-RR-S2-CDA は HLA-ABC、CD80、CD83、CD86 の発現を LPS 同等レベルにまで上方制御し (Fig. 4C)、MLR において CD8+ T細胞の IFN-gamma 産生を強力に促進した (Fig. 4E)。
STINGVAXとPD-1阻害薬の併用による治療抵抗性腫瘍の根治: STINGVAX 治療を行ったマウスの腫瘍局所を解析したところ、CD8+IFN-gamma+ T細胞の浸潤に伴い、腫瘍細胞における PD-L1 の発現が著しく上方制御されていることが判明した (Fig. 6A)。この PD-L1 誘導は抗 IFN-gamma 中和抗体の投与によって消失したため、適応免疫耐性 (adaptive immune resistance) 機構によるものであることが示された。この知見に基づき、STINGVAX (RR-S2 CDA) と抗 PD-1 抗体の併用療法を検証した。PD-1 阻害単剤では全く治療効果を示さない難治性の確立された B16 メラノーマモデル (n=10 mice per group) において、併用療法は有意な腫瘍退縮効果を示した (p=0.008 vs STINGVAX (CDA) + 抗PD-1) (Fig. 6B)。さらに、確立された CT26 大腸がんモデル (n=10 mice per group) においては、STINGVAX (RR-S2 CDA) と抗 PD-1 抗体の併用により、10/10 mice (100%) において完全な腫瘍退縮 (根治) が達成された (Fig. 7)。完全退縮を示したマウスに CT26 腫瘍細胞を再移植したところ、腫瘍の生着は認められず、長期的な腫瘍特異的免疫記憶が形成されていることが確認された。
考察/結論
本研究は、強力な自然免疫活性化能を持つ STING アゴニスト (CDN) を GM-CSF 分泌細胞性ワクチンと組み合わせた「STINGVAX」が、確立された複数のマウス腫瘍モデルに対して強力な抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。さらに、STINGVAX 治療によって腫瘍微小環境内に誘導される適応免疫耐性 (PD-L1 の上方制御) を逆手に取り、PD-1 阻害薬と併用することで、単剤抵抗性の確立腫瘍を 100% 根治させ、長期的な免疫記憶を誘導できることを示した。
先行研究との違い: 従来の GM-CSF ワクチン (GVAX) 単独では、確立された固形腫瘍に対する抗腫瘍効果が極めて限定的であった。これに対し、本研究の STINGVAX は、STING 経路の活性化を介して樹状細胞を強力に成熟させ、CD8+ T細胞のプライミングを劇的に増強した点で、これまでのワクチン療法と大きく異なる。また、Topalian et al. NEnglJMed 2012 や Brahmer et al. NEnglJMed 2012 が PD-1/PD-L1 阻害療法の臨床的有効性を示した一方で、本治療法は、PD-1 阻害単剤では効果が認められない「冷たい腫瘍 (cold tumor)」を、STINGVAX によって「熱い腫瘍 (hot tumor)」へと変換し、根治へと導いた点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、STING 活性化に伴う CD8+ T細胞の腫瘍浸潤が、IFN-gamma 依存的な PD-L1 の上方制御を引き起こすという適応免疫耐性メカニズムを、がんワクチン治療の文脈において新規に実証した。この現象は Taube et al. SciTranslMed 2012 や Taube et al. ClinCancerRes 2014 の報告とも整合するが、ワクチンと PD-1 阻害薬の相乗効果の分子基盤として提示されたのは本研究が初めてである。さらに、ヒト STING の HAQ 多型を含む全アレル型を強力に活性化できる非標準混合連結型 CDN (ML-RR-S2-CDA) を新規に開発し、その有用性を示した点は、臨床応用における最大の障壁を克服する画期的な成果である。
臨床応用: 本研究の成果は、がん免疫療法の臨床現場に極めて重要な臨床的含意をもたらす。GM-CSF 分泌細胞性ワクチンはすでに複数の臨床試験で安全性が確認されており、新規合成 CDN (ML-RR-S2-CDA) との配合製剤である STINGVAX は、容易に製剤化が可能である。Wolchok et al. NEnglJMed 2013 が示すように、免疫チェックポイント阻害薬の単剤効果が限定的な患者群に対し、STINGVAX との併用療法は、極めて有望な translational な治療選択肢となる。
残された課題: 今後の検討課題として、非自己発生腫瘍モデルや、よりヒトに近い遺伝子背景を持つトランスジェニックモデルでの検証が必要である。また、CDN がワクチン細胞と共局在して APC に取り込まれる詳細な細胞内動態や、潜在的な全身性炎症反応 (サイトカインストームなど) に対する安全性プロファイルの確立が、今後の臨床開発における重要な課題として残されている。
方法
マウス腫瘍モデルとして、C57BL/6 由来の B16 (メラノーマ)、Panc02 (膵がん)、TRAMP (前立腺がん)、C3H/HeOUJ 由来の SCCFVII (扁平上皮癌)、および BALB/c 由来の CT26 (大腸がん) の確立された皮下腫瘍モデルを使用した。STINGVAX は、致死量照射 (150 Gy) を施した GM-CSF 分泌腫瘍細胞 (10^6 cells) と、2 から 200 ug の各種 CDN を混合し、4℃で 30 分間インキュベートして調製した。これを皮下腫瘍の対側 (近位) に投与した。STING 経路依存性の評価には、STING 機能欠失変異を持つ goldenticket (gt/gt) マウス (C57BL/6J-Tmem173gt/J) を用いた。細胞依存性の検証には、抗 CD4 (GK1.5) および抗 CD8 (c2.43) モノクローナル抗体を用いた in vivo T細胞除去、および IFN-alpha/beta 受容体ノックアウト (IFNAR-/-) マウスを使用した。
合成 CDN の開発において、リン酸ジエステラーゼ耐性を付与する Rp,Rp-ジチオ修飾 (RR-S2 CDA) および、ヒト STING の HAQ アレルに対応する 2’,5’-3’,5’ 非標準混合連結型 (ML-RR-S2-CDA) を設計・合成した。ヒト系での評価として、THP-1 細胞 (HAQ アレル保有) および、異なる 4 種の hSTING アレル (WT、HAQ、WT/REF、HAQ/REF) を有する健康ドナー由来の PBMC (peripheral blood mononuclear cell: 末梢血単核細胞) を用いて、TNF-alpha および IFN-beta の産生量を ELISA および qRT-PCR で定量した。さらに、ヒト単球および樹状細胞 (DC) における MHC class I (HLA-ABC) および共刺激分子 (CD80、CD83、CD86) の発現をフローサイトメトリーで解析した。DC による T細胞活性化能は、混合リンパ球反応 (MLR) において CD8+ T細胞の IFN-gamma 産生能を測定することで評価した。
PD-1 ブロッキング併用療法では、腫瘍が触知可能となった時点 (投与開始時) で STINGVAX と抗 PD-1 抗体 (G4、100 ug/mouse、週 2 回腹腔内投与) を併用投与し、腫瘍体積を経時的に測定した。腫瘍体積は、長径 (mm) x 短径 (mm) x 高さ (mm) x 0.5326 x 0.01 の式を用いて算出した。統計解析には、2 群間比較として paired t-test を用い、生存曲線は Kaplan-Meier 法により作成して log-rank テストで有意差を検定した。