• 著者: Yuka Inoue, Shoichi Hazama, Nobuaki Suzuki, Yukio Tokumitsu, Shinsuke Kanekiyo, Shinobu Tomochika, Ryouichi Tsunedomi, Yoshihiro Tokuhisa, Michihisa Iida, Kazuhiko Sakamoto, Shigeru Takeda, Tomio Ueno, Shigefumi Yoshino, Hiroaki Nagano
  • Corresponding author: Hiroaki Nagano (Yamaguchi University Graduate School of Medicine, Ube, Yamaguchi, Japan)
  • 雑誌: Cancer Science
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28075526

背景

大腸癌 (CRC) は世界的に罹患率および死亡率ともに上位を占める主要な悪性腫瘍であり、公衆衛生上の大きな懸念となっている。世界で3番目に多い癌であり、癌による死亡原因としては4番目に多いと報告されている Le et al. NEnglJMed 2015。日本においても、年間約12万5千例の新規CRC診断がある。転移性大腸癌 (mCRC) の治療において、上皮成長因子受容体 (EGFR) を標的とするキメラ型IgG1モノクローナル抗体であるcetuximabは、KRAS野生型症例において有効性が確認されている薬剤の一つである。

Cetuximabの主要な作用機序は、EGFR-リガンド相互作用の直接的な阻害とそれに続く下流シグナル伝達経路の抑制による抗増殖作用およびアポトーシス誘導作用であると考えられてきた。しかし、IgG1抗体であるcetuximabは、ナチュラルキラー (NK) 細胞やマクロファージなどの免疫細胞上に発現するFcγ受容体 (FcγR) を介した抗体依存性細胞傷害 (ADCC) もその抗腫瘍効果において重要な役割を果たすことが示唆されている。特に、CD56陽性細胞、主にNK細胞がcetuximab誘発ADCCの主要なエフェクターである可能性が報告されている (Marechal et al. 2010)。さらに、cetuximabと化学療法の併用により、免疫原性細胞死 (ICD) を誘導するという新たな免疫関連作用機序も報告されており、この機序は樹状細胞 (DC) の活性化と抗原提示の増強を通じてT細胞応答を促進する可能性がある Pozzi et al. NatMed 2016

腫瘍組織内への免疫細胞浸潤の数や密度がCRC患者の癌特異的生存率を決定する上で重要であることが、多くの研究で認識されつつある。特に、浸潤縁 (IM) における全身性のリンパ球/炎症細胞浸潤の証拠が最も強く、多くの研究がTリンパ球とそのサブセット (CD3+、CD4+、CD8+、CD45RO+、FOXP3+) およびマクロファージ (CD68) に焦点を当ててきた (Roxburgh et al. 2012)。腫瘍コアとIMにおけるCD3+リンパ球とCD8+細胞傷害性T細胞の両方の密度分布を考慮した予後スコアである「Immunoscore」は、TNM病期分類を上回る予後予測能を持つことが報告されている (Galon et al. 2012)。免疫浸潤の特性評価は、チェックポイント阻害療法を受けた患者の疾患転帰を予測するための情報も提供し、免疫化学療法に対する治療反応を予測するためにも重要であると考えられている。

著者らは以前、mCRCに対する化学療法とペプチドワクチンの併用療法に関する第I相試験を報告し (Hazama et al. 2014)、治療前後の腫瘍および血液リンパ球におけるT細胞レパートリー (TCR) の特性を解析した (Tamura et al. 2016)。その結果、腫瘍と血液リンパ球が同じ少数のTCRを共有していることが明らかになった。このことから、免疫療法を有効にするためには、血液から腫瘍部位へリンパ球を動員できる何らかの薬剤が必要であると結論付けられた。しかし、cetuximabが肝転移部位の腫瘍微小環境における免疫細胞浸潤に与える影響を、実際の切除検体を用いて詳細に評価した研究は不足しており、その免疫増強効果の臨床的証拠は未確立であった。このギャップが残されているため、cetuximabの免疫学的な側面をより深く理解し、新たな治療戦略を開発するためには、さらなる研究が必要である。

目的

本研究は、mCRC患者の肝転移切除検体を用いて、術前cetuximab投与が肝転移部位の腫瘍微小環境における免疫応答、特に炎症細胞浸潤に与える影響を定量的に評価することを目的とした。具体的には、cetuximabを含む化学療法群 (CT with Cmab群)、cetuximabを含まない化学療法群 (CT without Cmab群)、および化学療法なし群 (no CT群) の3群間で、ヘマトキシリン-エオシン (HE) 染色による炎症細胞浸潤スコアおよび免疫組織化学 (IHC) 染色によるCD3+、CD8+、CD56+細胞の浸潤密度を比較し、cetuximabの免疫増強効果の臨床的証拠を得ることを目指した。この評価を通じて、cetuximabが腫瘍微小環境の免疫細胞動員に与える影響を明らかにし、将来的な免疫療法との併用戦略の基盤を確立することを目指した。

結果

患者背景と治療群の概要: 本研究の対象となったmCRC肝転移切除症例53例の内訳は、術前治療なし群 (no CT群) が24例 (平均年齢 64.2歳)、cetuximabを含まない化学療法群 (CT without Cmab群) が16例 (平均年齢 62.4歳)、cetuximabを含む化学療法群 (CT with Cmab群) が13例 (平均年齢 64.4歳) であった (Table 1)。CT with Cmab群の化学療法レジメンはmFOLFOX6 (n=4)、XELOX (capecitabine and oxaliplatin) (n=8)、FOLFIRI (n=1) であり、客観的奏効率 (ORR) は13例中11例 (85%) で部分奏効 (PR) を示した。CT without Cmab群のORRはPRが5例、安定病変 (SD) が5例、病勢進行 (PD) が6例であり、CT with Cmab群と比較して奏効率が低かった。これは、研究期間中の化学療法レジメンの進歩と異なる分子標的薬 (ベバシズマブ vs cetuximab) の使用が影響しているため、単純な奏効率の比較は困難である。IHC解析の対象となった15例は、CT with Cmab群7例 (大部分がオキサリプラチンベース)、CT without Cmab群4例 (全例オキサリプラチンベースで全例PR)、no CT群4例 (ランダムに選択) であり、術前治療終了から手術までの期間に変動はあるものの、おおむね比較可能なコホートを構成していた。

HE染色による炎症細胞浸潤スコアの著明な差異: HE染色による4段階スコア評価では、CT with Cmab群において炎症細胞浸潤が他の2群と比較して有意に強く認められた (P < 0.001) (Table 2)。CT with Cmab群の13例中10例 (77%) がスコア3 (最高度:カップ状の帯状浸潤と腫瘍巣破壊) を示したのに対し、CT without Cmab群ではスコア3の症例は0例 (スコア0が6例、スコア1が5例、スコア2が5例) であり、no CT群でもスコア3は1例のみ (スコア0が5例、スコア1が9例、スコア2が9例) であった。特に注目すべき所見として、CT with Cmab群では炎症細胞が腫瘍辺縁部 (IM) だけでなく腫瘍内部にも深く浸潤し、腫瘍細胞巣そのものを破壊する所見 (destruction of cancer cell foci) が観察された (Figure 1d)。この腫瘍内浸潤パターンはCT単独群ではほとんど認められなかった。奏効例 (PR) のみに限定して比較した場合でも、CT with Cmab群の免疫浸潤優位性は有意に維持された (P = 0.005)。CT with Cmab群でスコア3が得られなかった2例はいずれもSD症例であり、免疫細胞浸潤の強度と治療奏効の間に正の相関が示唆された。

CD3+、CD8+、CD56+細胞の選択的増強: IHC解析 (15例) では、CT with Cmab群7例 vs CT without Cmab群4例 vs no CT群4例の比較において、CD3+ T細胞 (P = 0.003)、CD8+細胞傷害性T細胞 (P = 0.003)、CD56+NK細胞 (P = 0.001) のいずれもCT with Cmab群で有意に高密度の浸潤を示した (Table 3)。具体的には、CT with Cmab群7例中6例がCD3+ high density、6例がCD8+ high densityを示したのに対し、CT without Cmab群およびno CT群ではいずれも全例がlow densityであった (Figure 2)。CD56 (NK細胞マーカー) については、CT with Cmab群7例全例でpresent (陽性) であったが、CT without Cmab群では1例のみpresentで3例はabsent、no CT群では全4例がabsentであった (Figure 3)。CD56染色はcetuximabの有無によって2つの截然と異なるパターン (absent vs present) を示す「cetuximabシグネチャー」として観察されたことは、ADCCを主に担うNK細胞の局所動員がcetuximab特異的な現象であることを強く支持する。CD3+とCD8+の同時増加は、NK細胞ADCCを介した腫瘍抗原放出およびICD誘発がDCを介した適応免疫T細胞応答の二次誘導に繋がるというシナリオと整合し、cetuximabが自然免疫と適応免疫の双方を活性化する「免疫アジュバント」として機能することを示唆する。著者らの先行研究ではTCRレパートリー解析が実施されており、腫瘍内T細胞と末梢血T細胞が同一TCRを共有することが示されていた。cetuximabによるT細胞・NK細胞の腫瘍内動員は、この共有TCR活性化細胞の局所動員を促進する可能性があり、免疫療法 (ペプチドワクチン等) のプライマーとしての役割が期待される。

考察/結論

本研究は、mCRC肝転移切除検体という実際の臨床サンプルを用いて、術前cetuximab投与が腫瘍局所の免疫細胞浸潤を著明に増強することを示した。この知見は、cetuximabが単なるEGFRシグナル遮断薬としてだけでなく、免疫学的腫瘍応答増強剤として機能するという新規の概念を支持するものである。

新規性: 本研究で初めて、臨床検体においてcetuximabが肝転移部位への炎症細胞浸潤、特にCD3+ T細胞、CD8+細胞傷害性T細胞、およびCD56+ NK細胞の浸潤を強力に促進することを定量的に示した。特に、CD56+ NK細胞の浸潤がcetuximab投与群で顕著に増加していたことは、ADCCがcetuximabの免疫増強効果の重要な機序であることを強く示唆する。この発見は、これまで報告されていないcetuximabの免疫学的側面を明らかにするものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、cetuximabの作用機序としてEGFRシグナル伝達阻害が主に注目されてきたが、本研究は、cetuximabがIgG1抗体としてFc領域を介したADCCを誘導し、NK細胞やマクロファージが腫瘍細胞上のEGFRに結合したcetuximabのFc部分をFcγ受容体で認識して傷害を引き起こすという免疫学的側面を強調する点で、これまでの研究と異なる。また、化学療法との相乗効果による免疫原性細胞死 (ICD) の誘導も重要な機序として考えられる。Pozzi et al. NatMed 2016は、cetuximabと化学療法の組み合わせがcalreticulinの細胞表面発現、HMGB1放出、ATP分泌などのICDシグナルを誘発し、DCの活性化と抗原提示増強を通じてT細胞応答を促進する可能性を報告しているが、本研究はこれをヒトの臨床検体で裏付けるものである。

臨床応用: 本研究の臨床的意義は、cetuximabを含む化学療法レジメンが、単なるEGFRシグナル遮断を超えた免疫学的腫瘍応答増強剤として機能することを示した点にある。これは、免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせ戦略の合理的根拠を提供する。大腸癌においてペプチドワクチンなどの免疫療法が有効であるためには、腫瘍局所への免疫細胞の事前動員が必須であり、cetuximabがその「呼び水」として機能しうる。この観点から、cetuximab+化学療法後の免疫チェックポイント阻害薬投与というシーケンシャル戦略、あるいはcetuximab+化学療法+抗PD-1/PD-L1抗体の三者併用レジメンが今後の検討課題として示唆される。

残された課題: 本研究の制限として、後ろ向き観察研究であること、症例数が少ないこと、化学療法レジメンが群間で均一でないことが挙げられる。特に、CT without Cmab群の奏効率が低かったのは、レジメンの時代的変遷や異なる分子標的薬の使用が影響しており、厳密な比較には限界がある。また、免疫浸潤細胞の機能解析 (ex vivo活性化試験など) が行われていないこと、およびMSI-H/MMR欠損症例の比率について言及がなく、この特殊集団がcetuximabの免疫増強効果に与える影響が不明であることも今後の研究で解決すべき課題として残されている。

結論: 大腸癌肝転移切除53例を対象とした検討で、術前cetuximabを含む化学療法を受けた群は、化学療法単独群および化学療法なし群と比較して肝転移部位への炎症細胞浸潤が著明に増強されており (HEスコア P < 0.001)、IHCではCD3+ (P = 0.003)、CD8+ (P = 0.003)、CD56+NK細胞 (P = 0.001) の浸潤が有意に高かった。CetuximabはEGFRシグナル遮断に加えてADCCおよびICDを介した腫瘍局所免疫増強効果を持ち、この知見は免疫チェックポイント阻害薬や治療用ペプチドワクチン等との組み合わせ免疫療法の有効性増強戦略の根拠となる。

方法

患者と組織サンプル: 本研究の対象は、2002年から2016年にかけて山口大学医学部附属病院で肝切除術を受けたmCRC患者53例の肝転移部位からの連続切除検体である。術前化学療法による完全奏効 (CR) 症例は本研究から除外された。患者は術前治療に応じて以下の3群に分類された: 術前治療なし群 (no CT群、n=24)、cetuximabを含まない化学療法群 (CT without Cmab群、n=16)、cetuximabを含む化学療法群 (CT with Cmab群、n=13)。化学療法レジメンは、研究期間中に実施された治験プロトコルに従って選択された。最近の一次治療レジメンは、オキサリプラチンベースのmFOLFOXまたはXELOXレジメンに抗VEGF抗体または抗EGFR抗体を併用するものであった。特に、KRAS野生型mCRCに対しては、先行研究に基づきパニツムマブではなくcetuximabが選択された。IHC解析の対象となった15例は、CT with Cmab群7例、CT without Cmab群4例、no CT群4例であった。

病理学的評価 (HE染色): 全53例のHE染色標本を用いて炎症細胞反応を評価した。評価は、宿主間質と腫瘍の浸潤縁 (IM) の境界に焦点を当てて行われた。IMにおける炎症細胞反応の評価には、最も深く浸潤している領域が選択された。炎症細胞反応の全体的な評価およびリンパ球、好中球、好酸球の数は、4段階スコアリングシステムを用いて評価された。スコア0は炎症細胞の増加なし、スコア1はIMにおける軽度で斑状の炎症細胞増加で癌細胞巣の破壊なし、スコア2はIMにおける帯状の炎症細胞浸潤、スコア3はIMにおける非常に顕著な炎症反応でカップ状のゾーンを形成し、癌細胞巣の破壊が頻繁かつ常に認められるものと定義された。

免疫組織化学 (IHC): 53例中15例の肝転移検体について、CD3、CD8、CD56に対する免疫細胞浸潤を評価した。IHC染色は、自動染色機 (Bench Mark XT; Ventana Medical Systems) を用いて実施された。パラフィン包埋組織切片 (4 µm) は脱パラフィンおよび再水和後、Ventana Cell Conditioner 1を用いて100℃で60分間加熱し、抗原賦活化を行った。内因性ペルオキシダーゼ活性を不活化するため、37℃で4分間インヒビター処理を行った。一次抗体として、ヒトCD3 (ウサギモノクローナル抗体、クローン2GV6、Ventana、希釈なし)、CD8 (クローン4B11、Novocastra、1:100希釈)、CD56 (クローン1B6、Novocastra、1:50希釈) をそれぞれ16分、32分、32分間室温で反応させた。リン酸緩衝生理食塩水で洗浄後、ビオチン標識IgGを8分間、続いてストレプトアビジン標識西洋ワサビペルオキシダーゼを8分間反応させた。タンパク質シグナルはDABと過酸化水素で8分間発色させ、シグナル強度を増強するため銅で4分間処理した。CD3およびCD8のIMにおけるIHC染色は、低密度浸潤 (浸潤なし/弱いまたは中程度) または高密度浸潤 (強いおよび大量浸潤) の2段階で評価された。CD56のIMにおけるNK細胞反応は、IHC染色により検出され、陰性または陽性の2段階で評価された。CD56陽性細胞については、検出不能なCD56染色または陽性CD56染色の2つの明確な免疫学的パターンが観察された。

統計解析: 統計解析にはSPSSプログラム (バージョン20; SPSS, Chicago, IL, USA) を使用した。特に明記しない限り、Pearsonのχ²検定が用いられた。すべてのP値は両側検定であり、P < 0.05を有意差ありと判断した。