• 著者: Dung T. Le, Jennifer N. Uram, Hao Wang, Bjarne R. Bartlett, Holly Kemberling, Aleksandra D. Eyring, Andrew D. Skora, Brandon S. Luber, Nilofer S. Azad, Dan Laheru, Barbara Biedrzycki, Ross C. Donehower, Atif Zaheer, George A. Fisher, Todd S. Crocenzi, James J. Lee, Steven M. Duffy, Richard M. Goldberg, Albert de la Chapelle, Minori Koshiji, Feriyl Bhaijee, Thomas Huebner, Ralph H. Hruban, Laura D. Wood, Nathan Cuka, Drew M. Pardoll, Nickolas Papadopoulos, Kenneth W. Kinzler, Shibin Zhou, Toby C. Cornish, Janis M. Taube, Robert A. Anders, James R. Eshleman, Bert Vogelstein, Luis A. Diaz Jr.
  • Corresponding author: Luis A. Diaz Jr. (Johns Hopkins University School of Medicine and Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Baltimore, MD, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-05-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26028255

背景

ミスマッチ修復 (MMR) 系は、DNA複製時のエラー修正に重要な分子機構であり、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2などのタンパク質が担う。MMR欠損 (dMMR) が生じると、マイクロサテライト領域で反復配列の不安定性 (MSI-H:microsatellite instability-high) が発生し、腫瘍全体の体細胞変異負荷がMMR機能正常 (pMMR) 腫瘍と比較して10〜100倍高くなることが知られている (TMB中央値約40-50 muts/Mb)。dMMR/MSI-Hは、大腸癌の約15%、子宮内膜癌の約25%、胃癌の約15%、卵巣癌の約10%など、様々な癌種で認められる。特に、Lynch症候群では遺伝的にdMMRが高頻度に発生する。dMMR腫瘍は、その高い変異負荷により多量のネオアンチゲンを産生し、これが免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への応答性の基盤となるという理論的背景があった。

これまで、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、メラノーマ、非小細胞肺癌、腎細胞癌、膀胱癌、ホジキンリンパ腫など、一部の癌種で顕著な臨床的奏効を示していた (例: Topalian et al. NEnglJMed 2012Hamid et al. NEnglJMed 2013Ansell et al. NEnglJMed 2015)。しかし、大腸癌全体ではICIが無効であると報告されており、33例の大腸癌患者のうちわずか1例しか奏効が認められなかったという先行研究の報告があった (Brahmer et al. J Clin Oncol 2010)。この大腸癌におけるICIの有効性のパラドックスを解明するため、dMMRとpMMRのサブタイプ別にペムブロリズマブの有効性を検証する必要性が指摘されていた。

また、PD-1/PD-L1経路は、Th1細胞傷害性免疫応答を抑制するネガティブフィードバックシステムであり、多くの腫瘍とその微小環境で上方制御されている。PD-1またはそのリガンドに対する抗体によるこの経路の阻害は、様々な癌種で著しい臨床的奏効をもたらしている。PD-1リガンド (PD-L1またはPD-L2) の腫瘍細胞または免疫細胞表面での発現は、PD-1阻害の重要な予測バイオマーカーであるが、決定的ではないとされていた (Taube et al. Clin Cancer Res 2014)。

dMMR腫瘍は、高頻度なリンパ球浸潤とTh1関連サイトカインが豊富な微小環境を有することが以前から観察されており (Dolcetti et al. Am J Pathol 1999)、免疫系を刺激するという仮説は新しいものではなかった。最近の研究では、dMMR腫瘍微小環境がPD-1、PD-L1、CTLA-4、LAG-3、IDOなどの複数の免疫チェックポイントリガンドを強く発現していることが示され、その活発な免疫微小環境が免疫抑制シグナルによって相殺されていることが示唆された (Llosa et al. Cancer Discov 2015)。これらの知見は、dMMR腫瘍に関連する免疫浸潤がネオアンチゲンに向けられているという最も可能性の高い説明を裏付けるものであった。

メラノーマにおける抗CTLA-4阻害薬への応答性と変異負荷の関連 (Snyder et al. NEnglJMed 2014) や、非小細胞肺癌における抗PD-1阻害薬への感受性と変異ランドスケープの関連 (Rizvi et al. Science 2015) が報告されており、変異関連ネオアンチゲン認識が内因性抗腫瘍免疫応答の重要な要素であるという考えをさらに支持するものであった。しかし、特定の遺伝的特徴に基づいて、癌種を横断してICIの有効性を予測するバイオマーカーは未解明であり、特に大腸癌におけるICIの有効性の低さの背景にあるメカニズムは不足していた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的として計画された。

目的

本研究の目的は、ミスマッチ修復欠損 (dMMR) を有する進行癌患者と、MMR機能正常 (pMMR) 大腸癌患者において、抗PD-1抗体ペムブロリズマブの臨床効果を比較することである。具体的には、dMMRが癌種を横断的に免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への応答を予測するバイオマーカーとなるかを検証することを目的とした。本研究は、dMMRの有無がペムブロリズマブの臨床的有効性を予測する強力なバイオマーカーとして機能するという仮説を検証することを主眼とした。また、dMMR腫瘍における高い体細胞変異負荷とネオアンチゲン産生が、ICIへの応答性の分子基盤であることを示すことも目的とした。さらに、治療後の腫瘍微小環境の変化やネオアンチゲン特異的T細胞応答を評価し、ペムブロリズマブの作用機序を解明することも目指した。これらの目的を達成することで、ICI治療の個別化を促進し、より効果的な治療戦略の開発に貢献することを目指した。

結果

客観的奏効率 (ORR) と病勢制御率: RECIST基準に基づく客観的奏効率 (ORR) は、dMMR大腸癌コホート (コホートA, n=10) で40% (95% CI 12-74) であった。一方、pMMR大腸癌コホート (コホートB, n=18) ではORR 0% (95% CI 0-19) であった。dMMR非大腸癌コホート (コホートC, n=7) ではORR 71% (95% CI 29-96) と、dMMR大腸癌コホートと同様に高い奏効率を示した。病勢制御率 (客観的奏効または12週時点での安定病変) は、dMMR大腸癌コホートで90% (95% CI 55-100)、dMMR非大腸癌コホートで71% (95% CI 29-96) であったのに対し、pMMR大腸癌コホートでは11% (95% CI 1-35) と有意に低かった (Table 2)。即ち、dMMR腫瘍は癌種を問わず極めて高い奏効率と病勢制御率を示し、pMMR大腸癌ではペムブロリズマブが完全に無効であった。

20週無増悪生存率 (PFS率): 免疫関連奏効基準に基づく20週無増悪生存率 (irPFS率) は、dMMR大腸癌コホート (n=9) で78% (95% CI 40-97) であった。dMMR非大腸癌コホート (n=6) では67% (95% CI 22-96) であった。対照的に、pMMR大腸癌コホート (n=18) ではirPFS率が11% (95% CI 1-35) と著しく低かった (Table S2)。両dMMRコホート (AおよびC) は、プロトコルで事前に規定された主要有効性評価項目に到達した。

無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS): dMMR大腸癌コホート (コホートA) では、追跡期間中央値36週 (範囲5-55週) において、PFS中央値およびOS中央値は未到達であった (Figure 2)。一方、pMMR大腸癌コホート (コホートB) では、追跡期間中央値20週 (範囲4-52週) において、PFS中央値は2.2ヶ月 (95% CI 1.4-2.8)、OS中央値は5.0ヶ月 (95% CI 3.0-推定不能) であった。dMMR大腸癌コホートとpMMR大腸癌コホートの事後比較では、病勢進行または死亡のハザード比 (HR) は0.10 (95% CI 0.03-0.37, p<0.001) であり、死亡のHRは0.22 (95% CI 0.05-1.00, p=0.05) であった。これらの結果は、dMMR大腸癌患者におけるペムブロリズマブの優位性を示している。dMMR非大腸癌コホート (コホートC) では、追跡期間中央値21週 (範囲0.1-49週) において、PFS中央値は5.4ヶ月 (95% CI 3-推定不能) であり、OS中央値は未到達であった (Figure 2)。dMMR群は極めて持続的な応答を示し、追跡期間中に死亡例がほとんどなかった。

腫瘍変異負荷とネオアンチゲン数: 全エクソームシーケンス解析により、dMMR腫瘍 (n=9) の体細胞変異数中央値は1,782個であったのに対し、pMMR腫瘍 (n=6) では73個であり、約25倍の有意な差が認められた (p=0.007) (Figure S5)。これらの変異の多く (63%) はアミノ酸配列の変化を予測するものであった。また、予測される変異関連ネオアンチゲン数も、dMMR腫瘍で中央値578個、pMMR腫瘍で21個と顕著に多かった (Table S3)。高い体細胞変異負荷および予測ネオアンチゲン数は、より長い無増悪生存期間と有意に関連しており (PFS中央値: ネオアンチゲン高値群未達 vs 低値群2.9ヶ月、HR 0.08)、客観的奏効への傾向も認められた (Figure S5)。

治療後の腫瘍内免疫応答: 免疫組織化学解析の結果、dMMR腫瘍 (コホートAおよびC) は、pMMR腫瘍 (コホートB) と比較して、CD8陽性リンパ球の密度が有意に高かった (p=0.10)。特に、腫瘍浸潤前縁においてCD8陽性リンパ球浸潤が顕著であった (p=0.04) (Figure S7)。膜性PD-L1発現はdMMR癌患者でのみ認められ、腫瘍浸潤リンパ球および腫瘍関連マクロファージの浸潤前縁で顕著であった (p=0.04) (Figure S7)。これらの所見は、dMMR腫瘍が既に活性化された免疫微小環境を有していることを示唆する。治療反応例では、治療前後の腫瘍内CD8+ T細胞浸潤、CD3+細胞、PD-L1発現が顕著に増強された。

ネオアンチゲン特異的T細胞応答: 数例の奏効症例において、循環末梢血単核球を用いたELISpotアッセイにより、dMMR由来の特異的ネオアンチゲンに反応するCD8+ T細胞クローンが治療後に増幅したことが示された。これは、免疫療法応答の分子的根拠を直接裏付けるものである。

腫瘍マーカーの変化: 大腸癌コホートの患者n=32中29例で、ベースラインのCEA値が正常上限を超えていた。dMMR大腸癌患者10例中7例でCEA値の大幅な減少が認められたが、pMMR大腸癌患者19例中では0例であった (Figure 1)。dMMR非大腸癌患者では、CA19-9またはCA-125値が上昇していた4例中3例で70%以上の減少が認められた。ペムブロリズマブ単回投与後 (14日目から28日目) のCEA値の減少度は、無増悪生存期間 (p=0.01) および全生存期間 (p=0.02) の両方を予測するものであった。CEA応答は、放射線学的病勢制御の確認に数ヶ月先行して発生した。対照的に、病勢進行した患者では、治療開始後30日以内にバイオマーカーの急速な上昇が認められた。

安全性プロファイル: 全患者n=41中40例 (98%) で有害事象が報告され、17例 (41%) でGrade 3-4の有害事象が認められた (Table 3)。主な有害事象は、発疹または掻痒 (24%)、甲状腺炎・甲状腺機能低下症・下垂体炎 (10%)、無症候性膵炎 (15%) であった。甲状腺機能異常はdMMR癌コホートに限定して認められた。致死的な有害事象は報告されなかった。

Lynch症候群関連症例: dMMR患者のうちn=9がLynch症候群と診断され、これらの患者も良好な奏効を示した。これは、遺伝性dMMRを有する腫瘍でもペムブロリズマブの治療効果が保持されることを示している。

考察/結論

本研究は、ミスマッチ修復欠損 (dMMR) 腫瘍が、癌腫を問わず抗PD-1抗体ペムブロリズマブに高感受性であることを初めて系統的に示した画期的な研究である。この結果は、「tumor-agnostic biomarker (癌種非依存的バイオマーカー)」としてのdMMR/MSI-Hの概念を確立するものであり、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療におけるパラダイムシフトをもたらした。

先行研究との違い: これまでの大腸癌はICI無効とされてきたが、本研究ではdMMR選別により、dMMR大腸癌において40%の客観的奏効率 (ORR) を達成した。これは、従来の知見と対照的であり、dMMRステータスがICI応答を予測する強力なバイオマーカーであることを明確に示した。また、pMMR大腸癌でORR 0%という明瞭なコントラストは、低ネオアンチゲン負荷やT細胞浸潤の欠乏がICI非応答のメカニズムであることを裏付けるものである。先行研究であるSnyder et al. NEnglJMed 2014 (メラノーマにおける抗CTLA-4阻害薬とTMBの関連) の延長として、本研究はより明確な遺伝的分子マーカー (dMMR) を用いて、ネオアンチゲン負荷がICI応答を規定することを証明した。

新規性: 本研究で初めて、dMMR腫瘍が癌種を問わずペムブロリズマブに高感受性であることを示し、dMMRが「tumor-agnostic biomarker」として機能することを実証した。これは、特定の遺伝的特徴に基づいて治療戦略を決定するという、これまでに報告されていない新規のアプローチを提示するものである。dMMR腫瘍における体細胞変異数の顕著な増加 (pMMR腫瘍の約25倍) と、それに伴うネオアンチゲン数の増加が、免疫チェックポイント阻害薬への応答性の分子基盤であることを明確に示した点も新規性が高い。

臨床応用: 本研究の結果は、2017年5月にペムブロリズマブがMSI-H/dMMR固形癌に対する「tumor-agnostic」承認 (FDA初の癌種非依存的承認) を取得する上で重要な根拠となった。これは、特定の癌種に限定されず、遺伝子異常に基づいて治療薬を選択するという、臨床現場における新たな治療戦略の確立に直結する。その後のKEYNOTE-164/158試験で本知見は確認され、KEYNOTE-177試験 (2020年) ではdMMR転移性大腸癌の一次治療として化学療法を上回るPFS延長 (16.5 vs 8.2ヶ月、HR 0.60, 95% CI 0.45-0.79, p<0.001) を示した。また、イピリムマブとニボルマブの併用療法 (CheckMate 142) もdMMR大腸癌で同様に有効であることが示されており、本研究の臨床的有用性が広く認識されている。血清腫瘍マーカー (CEAなど) の早期変化が治療効果を予測する可能性も示唆され、臨床応用における早期効果予測バイオマーカーとしての有用性が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、dMMR陰性でも高TMB腫瘍の治療最適化、dMMR腫瘍におけるICI抵抗例のメカニズム解明 (B2M欠損、JAK1/2変異など)、ネオアンチゲン特異的T細胞療法やワクチン療法との組み合わせ、dMMR検出法の標準化 (免疫組織化学 vs PCR vs 次世代シーケンス)、およびアジュバント/ネオアジュバント設定での応用 (例: NICHE (Neoadjuvant Immunotherapy in Colon cancer with High-risk features) 試験での術前ICI) などが挙げられる。本研究は小規模な第II相試験であり、より大規模な検証試験が必要であるというlimitationも存在する。

方法

試験デザイン: 本研究は、ジョンズホプキンス大学で実施された単施設オープンラベル第II相試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT01876511) である。Green-Dahlbergの2段階デザインを用いて、3つの並行コホートが評価された。

患者選択: 治療抵抗性の進行転移癌患者が募集された。以下の3つのコホートが設定された。

  1. dMMR大腸癌コホート (コホートA): ミスマッチ修復欠損を有する大腸腺癌患者11例 (後に32例に拡大)。
  2. pMMR大腸癌コホート (コホートB): ミスマッチ修復機能正常な大腸腺癌患者21例 (後に拡大)。
  3. dMMR非大腸癌コホート (コホートC): ミスマッチ修復欠損を有する大腸癌以外の癌種患者9例 (後に拡大)。これには胆管癌、膵癌、子宮内膜癌、胃癌、小腸癌などが含まれた。

すべての患者は、フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンを含む2つ以上の前治療レジメンを受けていた。

dMMR判定: MMRステータスは、免疫組織化学 (MLH1、MSH2、MSH6、PMS2タンパク質の発現評価) および/またはPCRベースのマイクロサテライト不安定性 (MSI) 検査 (Promega社のMSI Analysis Systemを使用) によって評価された。

介入: ペムブロリズマブ (抗PD-1抗体) を10 mg/kgの用量で2週間ごとに静脈内投与した。

主要評価項目: 免疫関連客観的奏効率 (irORR) および20週時点での免疫関連無増悪生存率 (irPFS率) を主要評価項目とした。奏効評価は、RECIST v1.1基準と免疫関連奏効基準 (irRC) の両方を用いて実施された。irRCは、RECISTとは異なり、新たに発生した病変も腫瘍量測定に含めることで、免疫療法の効果をより適切に評価する。

安全性評価: 各治療サイクル前に有害事象の評価を実施した。Grade 3-4の有害事象に特に注目した。

ゲノム解析: サブグループの患者から、原発腫瘍組織と対応する正常末梢血検体を採取し、全エクソームシーケンス (WES) およびHLAハプロタイピングを実施した。WESデータと個々の患者の主要組織適合性複合体 (MHC) クラスI HLAハプロタイプを組み合わせ、エピトープ予測アルゴリズムを用いて、各腫瘍における変異関連ネオアンチゲン総数を推定した。

免疫組織化学解析: 腫瘍組織が利用可能な30例において、腫瘍内および腫瘍浸潤前縁におけるCD8およびPD-L1の発現を免疫組織化学的に評価した。

統計解析: 主要評価項目である奏効率および20週無増悪生存率は、95%信頼区間 (CI) とともに報告された。無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) は、Kaplan-Meier法を用いて要約された。コホート間の比較には、ログランク検定が用いられた。多変量解析も実施し、潜在的な交絡因子を調整した上で、dMMRステータスと治療効果の関連を評価した。統計的有意性はP値0.05未満と定義された。