• 著者: Ringel AE, Drijvers JM, Baker GJ, Catozzi A, et al. (Sharpe AH, Haigis MC)
  • Corresponding author: Arlene H. Sharpe, Marcia C. Haigis
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33301708

背景

肥満 (obesity) は結腸直腸癌・肝癌・膵癌・甲状腺癌をはじめ 13 種類以上のがんの主要なリスク因子であり、30 歳以上の米国がん患者の 5-10% が過体重に起因するとされる (Lauby et al. NEnglJMed 2016 IARC Working Group 報告)。肥満は全身代謝を撹乱し、脂質異常症 (dyslipidemia)・高コレステロール血症・インスリン抵抗性・炎症性変化をもたらすが、これらの全身代謝変化が腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) の局所代謝に及ぼす影響、とりわけ抗腫瘍免疫との相互作用については未解明であった。先行研究は腫瘍細胞固有の代謝変化や内分泌-腫瘍軸に焦点を当てたものが多く (Chang et al. Cell 2015 が tumor-T cell 代謝競合を示し、Pavlova et al. CellMetab 2016 が cancer metabolism hallmark review を執筆)、これまで免疫細胞と腫瘍細胞の代謝的相互依存性の観点から肥満を解析する研究は欠如していた。

特に、(1) HFD (high-fat diet) が CD8+ T 細胞依存性に腫瘍増殖を加速させる因果関係、(2) 腫瘍細胞 vs CD8+ TIL の異なる代謝適応 (脂肪酸取り込みの非対称性)、(3) PHD3 (prolyl hydroxylase domain protein 3) のような代謝チェックポイント因子を介した治療介入可能性、の 3 点が本研究を着手するうえで足りなかった証拠ギャップである。

目的

食事誘導性肥満がマウス TME の細胞代謝および抗腫瘍 CD8+ T 細胞機能に及ぼす影響を単一細胞レベルで解明し、腫瘍細胞と免疫細胞の差別的な代謝適応が抗腫瘍免疫を阻害するメカニズムを同定する。さらに、腫瘍細胞の代謝リプログラミングを介入することで免疫機能を回復できるかを PHD3 過剰発現モデルで検証し、ヒト腫瘍コホート (TCGA 複数がん種) でその translatability を確認する。

結果

所見1:HFD は CD8+ T 細胞依存的に腫瘍増殖を促進し TME 内の免疫・代謝ランドスケープを再編成する:HFD 飼育マウス (8-10 週) では高免疫原性の MC38・E0771 腫瘍が CD マウスと比較して有意に速く増殖 (HFD vs CD, 約 1.5-2-fold 体積増, p<0.01, two-way ANOVA, n=8-10 mice/group; Fig 1A, 1B) したが、免疫原性が低い LLC では差を認めなかった (Fig 1C)。TCRα-KO マウスや CD8+ T 細胞枯渇マウス (anti-CD8 200 μg/dose) では HFD による腫瘍増殖の増加が消失し、HFD の効果が CD8+ T 細胞依存的であることが確認された (n=6-8 mice/group, p<0.001; Fig 1D, 1E)。フローサイトメトリー解析 (n=10 mice/group) では HFD 腫瘍で腫瘍細胞あたりの CD8+ T 細胞比が約 0.5-fold 減少し、CD8+ TIL の Ki67・ICOS・PD-1・GZMB 発現が約 0.5-0.7-fold 低下した。scRNA-seq (9,104 cells) では HFD 腫瘍でリンパ球分画が有意に減少し (約 0.6-fold)、MDSC (myeloid-derived suppressor cell)・TAM (tumor-associated macrophage) など免疫抑制性骨髄系細胞は約 1.4-fold 増加傾向を示した (Fig 2A, 2B)。CyCIF 解析 (23 markers) では CD8+/CD4+ T 細胞が GLUT1 高発現域 (腫瘍細胞の代謝活性域) から有意に排除される傾向が HFD でさらに強まることが確認された (空間隔離スコア p<0.05; Fig 2C, 2D)。

所見2:腫瘍細胞は HFD に適応して脂肪酸取り込み・酸化を増大させるが CD8+ TIL はこの適応を示さない:Bulk RNA-seq (n=3-4 biological replicates per cell type/condition) では、腫瘍細胞において PHD3 (EGLN3) と Nmnat2 が HFD で約 0.4-fold へ有意低下し (上位代謝遺伝子変動, p<0.001)、脂肪酸酸化 (FAO; fatty acid oxidation) 関連遺伝子の発現は HFD 腫瘍細胞で約 1.5-2-fold 上昇したが CD8+ TIL では変化しなかった (両者の転写変化の重複はわずか 5%; Fig 3A, 3B, 3C)。TMT プロテオミクス (7,178 タンパク, n=3-4 replicates) では HFD 腫瘍細胞において脂肪酸トランスポーター SLC27A1 (FATP1) が約 1.8-fold up, FABP5 約 2-fold up, ミトコンドリア β 酸化酵素 CPT1A・ACSM3・ACADVL・ETFB・ECHS1 が約 1.3-2-fold up、解糖酵素 (HK2, PFKL) が約 0.6-fold down した (Fig 3D, 3E)。C16-BODIPY 取り込み測定 (n=4-5 mice/group) では、HFD 腫瘍から単離した MC38 腫瘍細胞のパルミチン酸取り込みが約 1.7-fold 増加した一方、CD8+ TIL は HFD でも dLN と同様に変化なし (B16-OVA-RFP・E0771 でも再現; Fig 4A, 4B)。標的リピドミクス (n=5-6 mice/group) では HFD 状態の腫瘍間質液 (TIF) での遊離脂肪酸 (FFA) が逆説的に約 0.5-fold へ減少 (血漿では約 1.5-fold 増加), DAG・TAG は TIF で約 2-fold 富化 (Fig 4C, 4D)。HFD 下で naive CD8+ T 細胞の in vitro 活性化に外因性 FFA (パルミチン酸 100 μM, オレイン酸 100 μM) を添加すると増殖が約 1.4-fold 促進された (n=4 biological replicates, p<0.05) が、腫瘍細胞では同条件で変化なし、CD8+ T 細胞が TME 内脂肪酸欠乏に特異的に脆弱であることが示された (Fig 4E, 4F)。

所見3:腫瘍細胞 PHD3 過剰発現が TME 内脂肪酸分配を回復し抗腫瘍免疫を改善する:PHD3 過剰発現 (PHD3-OE; lentiviral, ~10-fold over endogenous) MC38 細胞は HFD 条件下で TIF の FFA (特にパルミチン酸 C16:0 約 1.8-fold up, オレイン酸 C18:1 約 1.6-fold up) を有意に増加させた (CD 条件では有意差なし; Fig 5A, 5B, n=5-6 mice/group, Mann-Whitney p<0.05)。PHD3-OE は腫瘍細胞 in vitro 増殖や MHC-I・PD-L1 発現を変化させなかったが、脂肪酸取り込みを約 0.5-fold へ有意に抑制した (Fig 5C)。HFD マウスへの PHD3-OE MC38 注射では空ベクター対照と比較して CD8+ T 細胞の腫瘍浸潤が約 2-fold 増加 (paired 組織切片解析, p<0.01) し、腫瘍体積が約 0.5-fold へ有意抑制 (p<0.001, two-way ANOVA, n=8-10 mice/group; Fig 5D, 5E)。この効果は TCRα-KO マウスおよび anti-CD8 枯渇マウスでは完全に消失 (n=6-8 mice/group, p>0.5)、PHD3-OE の腫瘍抑制効果が CD8+ T 細胞依存的であることが確認された (Fig 5F)。

所見4:ヒト TCGA 多がん種コホートで PHD3 低発現と cold tumor 表現型の関連:ヒト COAD TCGA データ (n=619) では、肥満患者 (BMI ≥30) で PHD3 mRNA が CD vs obese 比較で約 0.7-fold へ有意低下 (PHD1・PHD2 は変化なし; Fig 6A, 6B)、高度肥満患者 (BMI ≥35) で CD8+ T 細胞シグネチャースコアが約 0.6-fold へ低下した (Spearman ρ=-0.35, p<0.01; Fig 6C)。PHD3-low サンプル (median split) は 5/6 がん種 (COAD, 前立腺癌, 腎明細胞癌, 肺腺癌, 甲状腺癌) で免疫学的「cold」腫瘍 (CD8+ signature low) と有意に関連した (Fisher exact p<0.05 across cancers; Fig 6D, 6E)。黒色腫では PHD3-low と cold tumor の相関が認められず、癌種特異的な代謝プロファイルの差異が示唆された (n=472 SKCM, p=0.4)。

考察/結論

本研究はこれまでの先行研究と異なり、肥満という全身代謝変化が TME の局所代謝環境を介して抗腫瘍免疫を抑制する新たなメカニズムを代謝・プロテオミクス・シングルセル・空間多層オミクスで初めて解明した点で対照的に新規である。これまで報告されていない novel な概念的貢献は「腫瘍細胞と CD8+ T 細胞が HFD に対して全く異なる代謝適応を示す」という非対称性であり、本研究で新規に提唱された「代謝的綱引き (metabolic tug of war)」モデルでは、腫瘍細胞が PHD3 低下を介した FAO 亢進と FAO 関連タンパク (CPT1A・FABP5・SLC27A1 等) の増加により脂肪酸を優先的に獲得することで TME 内の遊離脂肪酸が逆説的に枯渇し、これを利用できない CD8+ T 細胞が機能不全に陥る novel な機序が示された。PHD3 が ACC2 (acetyl-CoA carboxylase 2) ヒドロキシル化を介した長鎖脂肪酸ミトコンドリア取り込み抑制で FAO を抑制し、腫瘍細胞の脂肪酸独占を制限し TME の代謝的公平性を回復させる「代謝チェックポイント」として機能するという提案は、これまでのChang et al. Cell 2015 の glucose-centric 代謝競合モデルと異なり、脂肪酸を主軸とした新規の代謝免疫モデルを提供する。CD8+ TIL の変化が dLN と比較して TME に特異的であったことは、HFD の全身的影響ではなく局所 TME 代謝競合によるものであることを支持する。

臨床応用の観点から本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する translational research である。臨床応用として、(1) PHD3 アゴニスト・FAO 阻害剤 (etomoxir 等) を用いた代謝免疫療法の開発、(2) 腫瘍 PHD3 mRNA レベルを ICI 奏効予測バイオマーカーとして用いた患者層別化、(3) 抗 PD-1 + 代謝介入の combinational immunotherapy 戦略、(4) 肥満患者における体重管理・dietary intervention を adjuvant therapy として組み込む戦略、の 4 点が直接的な臨床応用候補である。一方、肥満が抗 PD-1 療法の奏効率を改善するとの矛盾した臨床データ (特に黒色腫・腎細胞癌での「obesity paradox」) との整合性については、本研究で PHD3-low と cold 腫瘍の相関が黒色腫では認められず癌種特異的な代謝プロファイルの差異が影響する可能性が示された。

残された課題として、第一に limitation として本研究はマウス syngeneic model 中心で、ヒト腫瘍検体での PHD3-OE 治療検証 (humanized mouse or future clinical trial) が future work として必要である。第二に、PHD3 酵素活性を選択的に modulate する small molecule の開発が今後の検討課題である。第三に、肥満患者と非肥満患者の ICI 奏効率差を prospective に検証する臨床試験 (代謝指標 + PHD3 PCR を含む) が future research direction として求められる。第四に、TIF 中 FFA 動態と T cell exhaustion 関連遺伝子発現の経時相関を捉える dynamic biopsy 研究も今後の研究展望として残されている。

方法

C57BL/6J マウス (Jackson Laboratory; stock 000664) を高脂肪食 (HFD; 60 kcal% 脂質, Research Diets D12492) または通常食 (CD; 13.2 kcal% 脂質, LabDiet 5053) で 8-10 週間飼育した後、MC38 (大腸腺癌, ATCC), E0771 (乳腺腺癌, ATCC), B16-OVA-RFP (黒色腫, in-house), Lewis 肺癌 (LLC, ATCC) の同系腫瘍細胞 (1×10^6 cells/mouse) を皮下移植した。腫瘍浸潤 CD45+ 白血球の単一細胞 RNA-seq (scRNA-seq; 10x Genomics Chromium, 9,104 cells in 16 clusters) を実施し、Seurat v3 で normalize/cluster、61 KEGG 代謝シグネチャースコアリングによる代謝アトラスを作成した。CyCIF (cyclic immunofluorescence; 23 markers) 多重組織イメージング による TME 空間的代謝マッピングも実施した。ソート GFP+ MC38 腫瘍細胞・CD8+ TIL・所属リンパ節 (dLN) CD8+ T 細胞の bulk RNA-seq (Illumina, n=3-4/group/condition) を取得し、各細胞集団の独立した代謝転写プロファイルを比較した。腫瘍細胞 TMT (tandem mass tag) 定量プロテオミクス (Thermo Q-Exactive HF, 7,178 タンパク) と C16-BODIPY 標識パルミチン酸取り込み ex vivo フロー計測 (腫瘍細胞 vs CD8+ TIL の差別的脂肪酸取り込み評価) を実施した。標的リピドミクス (Sciex 6500 QTRAP; 血漿・腫瘍間質液 [TIF; tumor interstitial fluid] の遊離脂肪酸・ジグリセリド・トリグリセリド定量) を行った。PHD3 過剰発現 (PHD3-OE) MC38 細胞株を lentiviral transduction で作製し、CD/HFD 両条件での腫瘍増殖実験 (TCRα-KO マウス・anti-CD8 枯渇抗体 [clone 2.43, 200 μg/dose, 週 2 回 i.p.] 実験) を実施した。TCGA 大腸腺癌 (COAD, n=619), 前立腺癌, 腎明細胞癌, 肺腺癌, 甲状腺癌コホートにおける PHD3 mRNA 発現と BMI・CD8+ T 細胞浸潤シグネチャースコア (Tirosh et al. signature) の相関解析を Spearman 相関で実施した。統計は unpaired t-test, Mann-Whitney U test, Spearman 相関, two-way ANOVA を使用し、p<0.05 を有意とした。