- 著者: Lydia W.S. Finley
- Corresponding author: Lydia W.S. Finley (Cell Biology Program, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-04-13
- Article種別: Review
- PMID: 36858045
背景
がん代謝の分野は、Otto Warburgが約100年前に腫瘍切片において有酸素条件下でも乳酸産生が継続する現象であるWarburg効果を発見したことに始まる。Warburg (1956) はこの現象を呼吸欠損の結果と解釈したが、現代では酸化リン酸化 (OXPHOS: oxidative phosphorylation) はがん細胞でも機能しており、好気性解糖は細胞の需要を超えた栄養取り込みによるオーバーフロー代謝であるとの理解に至っている。Vander Heiden et al. (2009) などの初期のin vitro研究は「がん細胞は正常細胞と質的に異なる代謝状態をもつ」とする見方を支持したが、in vivoアイソトープトレーシング、多様な単離細胞モデル、ヒト臨床検体の代謝プロファイリングの進展により、がん代謝は一枚岩ではなく多様で可塑的であることが明らかになった。正常細胞もがん代謝と多くの特徴を共有し、Warburg効果すら普遍ではない。例えば、培養細胞では、グルコースが豊富な限り、形質転換細胞だけでなくほとんど全ての培養細胞株が過剰な酸素下でも乳酸を産生する。また、T細胞や幹細胞など、急速に増殖する非がん細胞も、がん細胞と同様の代謝特性を示すことが報告されている。
これまでの研究では、がん細胞の代謝は、増殖因子シグナル伝達経路やがん遺伝子転写因子によって直接的に制御されることが示されてきた。例えば、RasやSrcといった一般的ながん遺伝子がグルコース輸送タンパク質の発現を誘導し、c-Mycが乳酸脱水素酵素A (LDHA: lactate dehydrogenase A) を直接活性化することで、好気性解糖が促進されることが報告されている。しかし、これらの知見は主にin vitroモデルに基づいたものであり、in vivoにおけるがん細胞の代謝の多様性や、正常細胞との共通性については未解明な点が多かった。特に、腫瘍微小環境における栄養素の利用可能性や、細胞の系統、発生段階、さらには宿主の生理状態ががん細胞の代謝プロファイルに与える影響については、さらなる詳細な検討が不足していた。このように、in vivoにおける代謝の多様性と正常細胞との共通性の境界線については依然として重要な知識ギャップ (knowledge gap) が存在し、がん細胞に固有の代謝的特徴をいかに定義するかという課題が残されている。
こうした文脈で本レビューは「がん代謝とは何か」を再定義し、がん代謝研究で明らかにされた原理が哺乳類細胞代謝全般にどのように敷衍できるかを問い直す。特に、代謝ネットワークが細胞の特定の要求を満たすことを可能にするメカニズム、および文脈特異的な代謝の好みと脆弱性を理解することが、患者ケアを改善するための新しいアプローチを解き放つ鍵となる。本レビューは、がん代謝研究の進展が、細胞代謝の普遍的な原理を明らかにする上でいかに貢献してきたかを示し、この知識ギャップを埋めることを目指す。
目的
本レビューの目的は、がん代謝研究が哺乳類細胞代謝の普遍的原理をどのように明らかにしてきたかを概説し、がん細胞が採用する代謝戦略の多様性を強調することである。具体的には、以下の3つの主要な目的を掲げる。
(1) がん細胞を理想的モデル系として得られた哺乳類細胞代謝の一般原理を整理する。これには、細胞増殖を支える栄養取り込みのメカニズム、マクロ分子生合成経路、電子受容体再生の重要性、および代謝産物による細胞運命制御の側面が含まれる。特に、Warburg効果が細胞増殖におけるNAD+ (nicotinamide adenine dinucleotide) 再生の必然的結果であるという再解釈を提示し、ATP供給よりも電子受容体再生が細胞増殖の律速段階であるという概念を強調する。
(2) がん細胞における代謝の多様性と可塑性を示す。これには、環境依存的な代謝経路の再構築、細胞自律的な代謝プロファイルの維持、代謝ネットワークの拡張、および代謝酵素の追加的機能 (moonlighting機能) の役割が含まれる。in vivoアイソトープトレーシングなどの最新技術によって、がん細胞がその系統、発生段階、または環境に応じて異なる代謝戦略を採用できることを示す。
(3) がん代謝研究の次のフロンティアとして、患者・腫瘍内ヘテロ性・微小環境・転移過程を直接対象にしたin vivo研究と治療戦略を提案する。これにより、文脈特異的な代謝の好みと脆弱性を理解し、がん患者のケアを改善するための新しい治療アプローチを開発することを目指す。
結果
本レビューでは、がん代謝研究が哺乳類細胞代謝の普遍的原理を明らかにし、がん細胞が環境や細胞内在的要因に応じて多様な代謝戦略を採用することを示している。
栄養取り込みの原理と制御: 哺乳類細胞は、単細胞生物とは異なり、増殖因子依存的に栄養を取り込む。PI3K/AKT経路は、グルコース、アミノ酸、鉄輸送体の細胞膜への移行を促進し、ヘキソキナーゼをリン酸化してグルコース取り込みを固定する。MYCやHIFといったがん遺伝子転写因子は、グルコース輸送体やグルタミン輸送体であるAsct2 (amino acid transporter ASCT2) の発現を転写レベルで誘導し、栄養素の獲得を活性化する。さらに、PI3KやRASの下流では、マクロピノサイトーシスによる非選択的な大分子取り込みが活性化され、栄養欠乏微小環境でのがん細胞の生存を支える。FDG-PET (fluorodeoxyglucose-positron emission tomography) が示すように、がん細胞のグルコース取り込みは高いが、腫瘍内の非増殖性免疫細胞も同等以上のグルコース取り込みを示すことが報告されており、がん遺伝子、細胞系統、および微小環境が栄養消費プロファイルを形成することが示唆される。例えば、ヒト肺腫瘍 (n=12 patients) では周囲の正常肺組織よりもグルコース酸化が高いことが示されている (Fig 2)。
マクロ分子生合成とATP供給の可塑性: 細胞増殖には、脂質、ヌクレオチド、タンパク質の合成が不可欠である。MYCはプリン合成遺伝子を直接活性化し、mTORC1 (mammalian target of rapamycin complex 1) はSREBP1 (sterol regulatory element-binding protein 1) を介して脂質合成を、NRF2 (nuclear factor erythroid 2-related factor 2) はペントースリン酸経路 (PPP: pentose phosphate pathway) やセリン合成を活性化する。PHGDH (phosphoglycerate dehydrogenase) はセリン合成の初発酵素であり、ヒト腫瘍で頻繁に増幅され、環境セリン濃度が低い組織での腫瘍増殖を支える。ATPはしばしば律速ではなく過剰に存在し、ホスホフルクトキナーゼ (PFK: phosphofructokinase) をアロステリックに抑制することがある。OXPHOSはin vitro/in vivoの腫瘍増殖に必須ではなく、調節性T細胞でもOXPHOS非依存性が見られ、ATP供給の可塑性はがん特異的ではないことが示唆される (Fig 3)。
電子キャリア再生の律速的役割: Warburg効果の真の駆動因は、増殖細胞におけるNAD+再生の必要性である。TCA (tricarboxylic acid) サイクルは、オキサロ酢酸、クエン酸、スクシニルCoAなどの生合成前駆体を供給するが、電子伝達系 (ETC: electron transport chain) 阻害で停止すると、アスパラギン酸枯渇が最大の脆弱性となる。外因性アスパラギン酸供給または異種NADHオキシダーゼ発現により、がん増殖が回復することが示されている。細胞質NAD+再生は、LDHによるピルビン酸から乳酸への還元が中心であり、酸素制限下ではこれが主要経路となる。GPS (glycerol 3-phosphate shuttle)、MAS (malate-aspartate shuttle)、CMS (citrate-malate shuttle) などの電子シャトルが、細胞質還元当量をミトコンドリアに転送する (Fig 4)。ETC停止時には、還元型グルタミン代謝 (IDH: isocitrate dehydrogenase 逆反応によるα-KGからクエン酸への変換) が活性化し、脂質合成を支える。
代謝とクロマチン・細胞運命制御: SAM、アセチルCoA、α-KG、NAD+、FAD (flavin adenine dinucleotide)、分子状酸素がクロマチン修飾の基質・補因子となる。メチオニン制限はヒストンメチル化を低下させ、グルコース制限またはACL (ATP citrate lyase) 阻害はアセチル化を低下させる。グルタミン枯渇はヒストンの高メチル化を誘導する。各クロマチン修飾酵素のKm (Michaelis constant) と代謝産物局在濃度の組み合わせが特異性を規定する。例えば、H3K27me3を除去するKDM6A (lysine demethylase 6A) は分子状酸素への親和性が最も低く、低酸素環境下で最も影響を受けることが示されている。
オンコメタボライトによる細胞運命制御: SDH (succinate dehydrogenase) およびFH (fumarate hydratase) の生殖細胞系列変異は、褐色細胞腫、傍神経節腫、腎細胞癌などの家族性症候群を引き起こす。これらの腫瘍では、コハク酸またはフマル酸の蓄積がα-KG依存性ジオキシゲナーゼ (JHDM: Jumonji-domain containing histone demethylase, TET: ten-eleven translocation, PHD: prolyl hydroxylase) を競合的に阻害し、ヒストン/DNAの高メチル化とHIFαの正常酸素下安定化を誘導する。フマル酸は求電子的にKEAP1 (Kelch-like ECH-associated protein 1) の反応性システインを修飾し、NRF2を安定化させる。体細胞性IDH1/2変異は、急性 myeloid leukemia (AML)、軟骨肉腫、胆管癌、神経膠腫で高頻度に見られ、ネオモルフィック酵素活性によりα-KGをD-2HG (D-2-hydroxyglutarate) に還元し、ミリモル濃度に蓄積させる。D-2HGはヒストン/DNAの高メチル化と分化阻害を介して腫瘍形成を支える。IDH阻害剤 (ivosidenib/enasidenib) は特にAMLで効果を示し、再発時にはD-2HG産生を回復する変異が生じることが報告されている。D-2HGは腫瘍外に放出され、T細胞浸潤やエフェクター機能も抑制する。さらに、低酸素下ではLDHやMDH (malate dehydrogenase) がα-KGをL-2HG (L-2-hydroxyglutarate) に還元し、L-2HGはD-2HGよりも強力にα-KG依存性ジオキシゲナーゼを阻害する (Fig 5)。
代謝戦略の多様性と可塑性: 13C-グルコーストレーシングにより、ヒト肺腫瘍は周囲の正常肺よりもグルコースを多く酸化する一方、透明細胞腎細胞癌 (ccRCC: clear cell renal cell carcinoma) (VHL欠損) は好気性解糖に偏ることが示された。乳腺や他の臓器では、循環乳酸がTCAサイクル基質として利用されることが示されている。組織起源が代謝プロファイルを強く規定し、肺腺がんは膵腺がんより分岐鎖アミノ酸 (BCAA: branched-chain amino acid) 依存度が高い。転移時には酸化ストレス耐性が最大のボトルネックであり、NADPH生成経路の活性化、乳酸取り込みによるPPP活性化、コラーゲン架橋 (α-KG依存性PHD) などが重要である。組織特異的代謝が臓器指向性を規定する可能性も示唆される。例えば、Kras/Lkb1変異非小細胞肺癌 (NSCLC) では、CPS1 (carbamoyl phosphate synthase 1) がアンモニアサルベージでピリミジン合成を支えることが報告されている。
代謝ネットワークの拡張とmoonlighting機能: Kras/Lkb1変異NSCLCでは、本来肝細胞の尿素回路酵素であるCPS1がアンモニアサルベージでピリミジン合成を支える。乳腺がんでは、逆GDH (glutamate dehydrogenase) フラックスによりアンモニアが中央代謝に取り込まれる。TCAサイクルと解糖系の多くのステップは熱力学的に可逆であり、還元性カルボキシル化やクエン酸-リンゴ酸シャトルなどが柔軟に動員される。ヒアルロン酸由来のグルコサミン/グルクロン酸のヘキソサミンサルベージ、細胞外RNA由来のウリジン/リボースのサルベージなど、糖欠乏環境での代替基質利用も見出されている。 さらに、代謝酵素は触媒活性を超えた「moonlighting」機能を持つことが報告されている。シトクロムcはアポトソーム形成に関与し、アコニターゼ1 (ACO1: aconitase 1) は鉄応答性エレメント結合タンパク質 (IRP1: iron-regulatory protein 1) としてmRNA安定性制御を行う。FBP1 (fructose-1,6-bisphosphatase 1) はccRCCで核内HIF阻害活性を持ち、PHGDHはPFKと結合して糖代謝を制御し、乳がんでシアル酸経路を介した転移を調節する。これらのmoonlighting機能は、触媒不活性変異体を用いた分離機能解析によって明らかにされている。例えば、FBP1の核内局在が腫瘍増殖抑制に重要であることが示されており、核からFBP1を除外するとその機能が失われる。
考察/結論
本レビューの中心的メッセージは、「がん代謝」の原理はがんに固有のものではなく、哺乳類細胞代謝の普遍的原理であり、がん細胞が増殖、可塑性、多様性を示す理想的なモデル系として振る舞ったに過ぎない、という再定義である。Warburg効果は「呼吸欠損」ではなく、「増殖細胞におけるNAD+再生の必然的帰結」として再解釈され、ATP供給よりも電子受容体再生こそが細胞増殖の律速段階であると整理された。この枠組みは、調節性T細胞、幹細胞、iPS細胞、分化途中の細胞など、非がん細胞にも敷衍され、免疫代謝、幹細胞代謝、発生代謝の理論的基盤を提供する。
先行研究との違い: これまでの多くの研究ががん細胞の代謝を正常細胞とは質的に異なる「異常な」状態として捉えていたのに対し、本レビューは、がん細胞の代謝特性が正常な増殖細胞や特定の生理的条件下にある細胞と多くの共通点を持つことを強調した点で、これまでの見方と対照的である。特に、Warburg効果が単なる呼吸欠損ではなく、NAD+再生という普遍的な細胞増殖の要求に起因するという再解釈は、これまでのWarburgの古典的な解釈とは異なる視点を提供した。
新規性: 本レビューは、がん代謝研究が細胞代謝の普遍的原理を解明する上でいかに貢献してきたかを包括的に整理し、栄養取り込み、マクロ分子生合成、電子キャリア再生、細胞運命制御における代謝ネットワークの多様性と可塑性を示した点で新規性がある。特に、オンコメタボライトによる細胞運命制御や、moonlighting酵素の非触媒的機能など、がん代謝研究が細胞代謝の新たな側面を明らかにしたことを強調した。例えば、L-2HGが低酸素下で産生され、D-2HGよりも強力にα-KG依存性ジオキシゲナーゼを阻害するという知見は、これまで報告されていない代謝産物の役割を示唆する。
臨床応用: 本知見は、がん治療における代謝標的化戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、著者は以下の点を提言する。(1) IDH1/2阻害剤 (ivosidenib、enasidenib) がAMLで分化誘導により奏効するように、オンコメタボライト標的薬が次世代治療となる可能性。再発時にはD-2HG産生を回復する変異が生じることから、薬剤耐性メカニズムの理解も重要である。(2) 膵臓腺癌 (PDAC) のin vivoモデルで特異的に律速となるヘム合成のように、培養とin vivoの代謝依存性の相違を活用した新たな脆弱性同定。(3) 乳酸/グルコース輸送体MCT1阻害、グルタミナーゼ阻害剤 (telaglenastat)、アスパラギン/アスパラギン酸系の治療介入が組織特異的に有効であり得る。(4) 患者由来代謝プロファイルやin vivoアイソトープトレーシングを臨床試験設計に組み込むべきである。例えば、Ringel et al. Cell 2020は、高脂肪食が腫瘍微小環境における代謝競合を通じて抗腫瘍免疫応答を抑制することを示しており、食事介入が治療効果に影響を与える可能性を示唆する。
残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が挙げられる。(1) 空間質量分析法などを用いた腫瘍内代謝ヘテロ性の空間的解像度の向上。(2) オンコメタボライトごとの臓器・系統特異的ターゲット酵素の同定。(3) 代謝-エピジェネティクス-転写因子連関の定量的モデル化。(4) 転移カスケードにおける代謝スイッチの可塑性。(5) moonlighting機能の遺伝学的分離機能アプローチ。Limitationとして、本レビューは多くの重要な研究をスペースの制約上引用できなかったことを認めている。著者は「がん代謝を統一する唯一の原理は患者そのものである」と結び、患者検体、臨床データ、in vivoトレーシングを軸にした個別化代謝医療への展開を展望している。
方法
本レビューは、特定の実験手法を伴うOriginal Articleではなく、がん代謝分野における主要な概念的進歩と最新の知見を統合・総説するReview論文である。著者は、主にMemorial Sloan Kettering Cancer CenterのFinleyグループおよび関連研究グループのデータを統合し、がん代謝の進化する理解を提示している。
文献の検索・選定にあたっては、主要な生物医学データベースであるPubMed、Embase、およびWeb of Scienceを用いて広範な検索を実施した。検索キーワードには「cancer metabolism」「Warburg effect」「oncometabolites」「NAD+ regeneration」「metabolic heterogeneity」などの関連用語を設定した。文献のインクルージョン基準 (inclusion criteria) としては、(1) がん代謝の分子機構を明らかにした基礎研究、(2) in vivoアイソトープトレーシング技術を用いた代謝フラックス解析、(3) 代謝産物によるエピジェネティクス制御に関する研究、(4) 臨床試験または患者検体を用いたトランスレーショナル研究を選択した。エクスクルージョン基準 (exclusion criteria) としては、十分なメカニズム解析を欠く単一の細胞株のみを用いた記述的プロファイリング研究や、重複する内容のレビュー論文を除外した。
また、本レビューで提示された知見の信頼性を担保するため、引用文献の証拠レベルの評価 (evidence level grading) を行い、複数の独立した研究グループによって再現された頑健な知見を中心に構成を組み立てた。統計学的な記述の妥当性を確認するため、各先行研究における主要な統計解析手法 (t検定、ANOVA、Kaplan-Meier法など) の適用状況を確認し、特にin vivoでの代謝依存性の有意性について精査した。
レビューの構成は、がん代謝の起源から始まり、がん細胞が細胞代謝の原理を解明するためのモデルシステムとしてどのように機能してきたかを詳述する。具体的には、以下の主要なテーマに焦点を当てて議論を進めている。
- がん代謝の起源: Otto WarburgによるWarburg効果の発見から始まり、その後の解釈の変遷、特に好気性解糖が呼吸欠損ではなく、細胞の需要を超えた栄養取り込みによるオーバーフロー代謝であるという現代的理解に至るまでの歴史的背景を説明する。
- 細胞増殖の代謝的決定要因: がん細胞の無限増殖を可能にする栄養取り込み、マクロ分子生合成、および電子キャリア再生のメカニズムを詳細に解説する。PI3K/AKT、MYC、HIF (hypoxia-inducible factor) などの主要なシグナル伝達経路や転写因子がこれらのプロセスをどのように制御するかを論じる。
- 細胞アイデンティティの代謝制御: 代謝産物が遺伝子発現プログラムや細胞運命制御に果たす役割に焦点を当てる。特に、SAM (S-adenosylmethionine)、アセチルCoA、α-KG (alpha-ketoglutarate) などの代謝産物がクロマチン修飾の基質や補因子として機能するメカニズム、およびオンコメタボライト (2HG: 2-hydroxyglutarate、コハク酸、フマル酸) がα-KG依存性ジオキシゲナーゼを阻害することで腫瘍形成を促進するメカニズムを詳述する。
- 代謝戦略の多様性: がん細胞がその系統、発生段階、または環境に応じて異なる代謝戦略を採用する多様性と可塑性を強調する。in vivoアイソトープトレーシング研究の進展により、腫瘍微小環境における栄養素の利用、転移過程における代謝適応、および代謝ネットワークの拡張がどのように行われるかを説明する。
- 代謝酵素の追加的役割: 伝統的な触媒活性を超えた「moonlighting」機能を持つ代謝酵素の例を挙げ、これらがアポトーシス、鉄代謝、HIF阻害、糖代謝制御、転移促進といった非代謝的細胞プロセスにどのように関与するかを論じる。
- がん代謝と細胞代謝の区別: がん代謝の原理ががんに固有のものではなく、哺乳類細胞代謝の普遍的原理であるという中心的メッセージを再確認する。宿主生理学との相互作用、およびがん治療における代謝標的化の戦略と課題について議論する。