- 著者: Combes AJ, Samad B, Tsui J, Chew NW, Yan P et al. (Combes AJ, Krummel MF, Corresponding authors; Combes・Samad 共同筆頭著者)
- Corresponding author: Alexis J. Combes (alexis.combes@ucsf.edu), Matthew F. Krummel (matthew.krummel@ucsf.edu); UCSF Immunoprofiler Initiative, Department of Pathology, UCSF
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2022
- Epub日: 2021-12-30
- Article種別: Original Article (Resource)
- PMID: 34963056
背景
腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) は組織起源・ドライバー変異・浸潤免疫細胞構成において著しい不均一性を示す。これまでの「hot」対「cold」二分法 (Galon et al. Science 2006 による大腸癌 Immunoscore が代表) や、TCGA (The Cancer Genome Atlas) と CIBERSORT を組み合わせたバルク RNA-seq 由来の低解像度景観解析 (Thorsson et al. ImmunityTCGA 2018 の 6 immune subtype 提示) では、TME の全貌を捉えるには不十分であった点が未解明であった。CIBERSORT のような細胞株由来シグネチャーは腫瘍内免疫細胞の定量精度が低く、また単一のがん種に偏った解析では複数の臓器を横断する共通免疫パターンの検出が困難であった。
多様ながん種を横断して再現可能な高解像度の腫瘍免疫アーキタイプを体系的に同定することは、免疫療法応答の患者層別化および新規標的探索に不可欠と考えられた。先行する Thorsson et al. ImmunityTCGA 2018 は 6 つの免疫サブタイプをバルク RNA-seq のみで同定したが、これまでフローサイトメトリーによる定量的バリデーションを欠いており、アーキタイプの生物学的実体としての確認が不足していた。本研究を着手するうえで足りなかったのは、(1) 新鮮腫瘍検体のフローサイトメトリーと bulk RNA-seq を標準化プロトコルで統合する大規模 multi-cancer データセット、(2) ソート細胞由来シグネチャー vs 細胞株由来 CIBERSORT の定量精度直接比較、(3) flow + RNA-seq 両モダリティで再現される pan-cancer 免疫アーキタイプ分類、(4) TCGA 大規模独立コホートでの外部検証、の 4 点である。UCSF Immunoprofiler Initiative (IPI) は新鮮腫瘍検体のフローサイトメトリーと RNA-seq を標準化プロトコルで統合する多施設共同プロジェクトとして設立され、本研究はその集大成として 12 がん種 364 例のマルチモーダルデータを活用した。
目的
UCSF Immunoprofiler Initiative (IPI) として、標準化プロトコルで収集した 12 がん種の新鮮腫瘍検体を対象に、高解像度フローサイトメトリーおよびトランスクリプトームデータを統合し、がん種を越えて再現される dominant な腫瘍免疫アーキタイプの体系を確立する。さらに独立コホート (TCGA n=4,341) での検証を行い、各アーキタイプと生存予後・免疫応答遺伝子発現プログラムとの関連を明らかにすることを目的とする。
結果
所見1:IPI 由来ソート細胞シグネチャーが CIBERSORT 定量精度を有意に上回る:IPI ソート細胞 RNA-seq から構築した T 細胞・骨髄系・間質細胞の遺伝子シグネチャー (それぞれ 25・29・21 遺伝子) は、フローサイトメトリー定量値との高い Spearman 相関 (T 細胞 ρ=0.91, 骨髄系 ρ=0.90, 間質 ρ=0.94, all p<0.001, n=300+ patient samples) を示した (Fig 1B, 1C)。これは CIBERSORT (細胞株由来シグネチャー) を用いた場合 (ρ=0.4-0.6) と比較して有意に高い推定精度であり (Fisher Z transform p<0.001)、腫瘍組織から直接採取した細胞由来シグネチャーの優位性が確認された (Fig 1D)。同シグネチャーを TCGA データ (n=4,341 tumors, 33 cancer types) に適用した際も各がん種の中央スコアは IPI と概ね一致し (Spearman ρ>0.7 for 9/13 cancers; 肺・肝・GBM・膵は例外的乖離あり)、プロトコルを越えた汎用性が示された (Fig 1E)。
所見2:3 特徴量クラスタリングによる 6 アーキタイプ同定と生存予後との関連:IPI (n=364 patients) と TCGA (n=4,341 patients) の双方で Louvain 法 (DBI 最小化) により 6 クラスターが得られた: Immune Rich (IR), Immune Stromal Rich (IS), T cell Centric (TC), Myeloid Centric (MC), Immune Desert (ID), Immune Stromal Desert (ISD; Fig 2A, 2B)。これらはがん種に偏らず複数組織起源にまたがって存在 (一部のがん種は特定アーキタイプへの偏りあり), TCGA 全がん種の 5 年全生存多変量 Cox 解析では Immune Rich (n=782 patients) vs ID (n=634) で HR 0.55 (95% CI: 0.42-0.71, p=1.19E-15, log-rank) と有意に生存良好であった (Fig 2C, 2D)。個別がん種 (メラノーマ・腎癌・膀胱癌・大腸癌等) でも生存層別化に有用であった (各 HR 0.6-0.7, p<0.05) が、GBM や PDAC では傾向が弱かった (HR>0.8, p>0.1)。
所見3:6/10 特徴量拡張クラスタリングによる 12 アーキタイプとその固有免疫プログラム:CD4・CD8・Treg 特徴量を加えた 6 特徴量解析 (DBI 最小化: 8 cluster) では IR・IS アーキタイプが CD4/CD8 比により細分化され、化学誘引物質ケモカイン (XCL1, XCL2, CCL4, CXCL13 等) の発現パターンも各サブクラスターで特異的に分離した (Fig 3A, 3B)。骨髄系 4 亜集団 (macrophage, monocyte, cDC1, cDC2) を加えた 10 特徴量解析では最終的に 12 アーキタイプが得られた (Fig 4A)。各アーキタイプは同定に使用していない追加細胞型との差異的関連を示し: NK 細胞は IR アーキタイプに濃縮 (IR vs ID, 約 3-fold up, p<0.001), マスト細胞は IS-Rich アーキタイプに濃縮 (約 2-fold up), 形質細胞は T cell Centric Macrophage Bias アーキタイプに濃縮 (Fig 4B)。IR CD8 Macrophage Bias アーキタイプは type 1 応答遺伝子 (IFNG, TNF, IL-1B) の発現が約 2-3-fold up と高く、IS/ID CD8 アーキタイプでは T 細胞 exhaustion (PDCD1, CTLA4, ENTPD1) と M2 様マクロファージ (PD-L1, CD163, MRC1) が共存するという独特のプログラムを示した (Fig 4C)。CD8 豊富な ID アーキタイプで T 細胞消耗スコアが高く (CTLA4+PD-1+CD38+ cells, n=42 patients, exhaustion score 約 1.8-fold up vs IR, p<0.001) 腫瘍細胞の MHC I 発現低下 (約 0.5-fold) を伴っており、複合的免疫回避機構が示唆された (Fig 4D)。cDC1/cDC2 比は IR アーキタイプ内で CD4/CD8 比と相関したが、間質高密度アーキタイプではこの相関は認められなかった。T cell Centric DC Rich アーキタイプでは B 細胞 (MS4A1+) が最多 (約 5-fold up vs ISD, 三次リンパ構造との関連が示唆), TC Macrophage Bias アーキタイプで形質細胞が約 3-fold 濃縮された (Fig 4E)。
所見4:各アーキタイプ固有のケモカインシグネチャーと TCGA での外部検証:12 アーキタイプは TCGA dataset (n=4,341 patient tumors, 33 cancer types) への適用でも再現された (Spearman ρ>0.65 between IPI and TCGA per archetype, Fig 5A)。各アーキタイプ特有のケモカインシグネチャー (IR: XCL1/XCL2/CXCL13 high; IS: CCL2/CCL5 high; ID: CXCL14 only) が IPI・TCGA の両コホートで高い再現性を示した (Fig 5B)。乳癌 basal/luminal 分類・大腸癌 CMS (consensus molecular subtype) 分類等の既存分子サブタイプとの部分的整合も確認された (Fig 5C, 5D)。TCGA 生存解析では腫瘍免疫アーキタイプによる生存層別化は個別がん種によって差があり、腎癌 (KIRC, HR 0.42, 95% CI: 0.28-0.62, p<0.001 IR vs ID)・メラノーマ (SKCM, HR 0.50, 95% CI: 0.32-0.78, p=0.002) 等で特に有用であった一方、膵癌 (PAAD, HR 0.85, p=0.4) では差が限定的であった (Fig 5E)。モノサイト/マクロファージ比はアーキタイプ間で大きく変動 (IR CD8 MacBias vs IR CD8 MonoBias で約 2-fold 差), IR CD8 MacBias で Treg 頻度が約 1.5-fold 高いという対比も観察された (Fig 5F)。
考察/結論
これまでの先行研究 (Thorsson et al. ImmunityTCGA 2018 の TCGA バルク RNA-seq 6 サブタイプ、Galon et al. Science 2006 の Immunoscore、NatRevCancer 2018 の cancer immunity cycle review) と本研究は対照的にがん免疫研究のパラダイムシフトに寄与するいくつかの重要な新規貢献を行った点で異なる。これまで報告されていない novel な貢献として、第一に新鮮腫瘍 FACS ソート由来シグネチャーが CIBERSORT 等の従来法を Spearman ρ=0.91 vs ρ=0.4-0.6 で有意に上回ることを定量的に証明し、定量精度の「ground truth」直接比較を行った先駆的報告となった点が新規である。第二に、これまでの「hot/cold」二分法を超える 12 アーキタイプフレームワークを提示し、各アーキタイプが固有の免疫構成・ケモカインシグネチャー・遺伝子発現プログラムを持つことを示した novel な発見である。第三に、本研究で新規に同定されたアーキタイプ (例: T cell Centric DC Rich 三次リンパ構造関連型, IS CD8 Exhaustion 型, IR CD8 MacrophageBias type 1 応答型等) は腫瘍生物学の既存分子分類と整合しながら、より機能的な免疫学的視点を提供する相補的層別化ツールとして機能する。
臨床応用の観点から本研究の意義は大きく、bench-to-bedside に直結する translational resource である。臨床応用として、(1) IR CD8 MacrophageBias 型 (type 1 応答活性化) には ICB 単剤の優先層別化、(2) IS/ID CD8 型 (TGFβ シグナルによる排除型免疫抑制) には TGFβ 阻害剤 + ICB 併用 (bintrafusp alfa 等)、(3) T cell Centric 型 (B 細胞/DC 豊富, 三次リンパ構造類似) には局所 in situ ワクチン療法、(4) Immune Desert 型 (MHC I 低下 + T 細胞 exhaustion 共存) には epigenetic 療法 (HDAC 阻害剤・DNMT 阻害剤) や養子免疫細胞療法、の 4 戦略が直接的な臨床応用候補である。IPI リソースはオープンアクセスで公開され (https://www.immunoprofiler.org)、prospective 臨床試験への組み込みやコンパニオン診断開発の基盤として機能する。
残された課題として、第一に limitation として本研究は cross-sectional 観察に限定されており、免疫応答の時間的ダイナミクスや治療介入後の変化を捉えていない点が future work として必要である。第二に、アーキタイプと免疫療法応答予測との前向き検証 (prospective ICB clinical trial での層別化精度評価) が今後の検討課題である。第三に、一部のがん種 (GBM・PDAC は RNA-seq のみ等) でコホートサイズが限定的なこと、空間的次元 (浸潤パターン) が解析されていないこと、cDC3 (LAMP3+/FSCN1+/CCR7+) のフローサイトメトリー検証ができなかったことが今後の研究展望として残されている。第四に、単一細胞解析・空間トランスクリプトーム解析 (Visium, Xenium, CODEX) との統合により、各アーキタイプの細胞間相互作用ネットワークと治療感受性の予測精度向上が future direction として重要である。
方法
コホート構成: UCSF Immunoprofiler Initiative (IPI) として 12 がん種 (メラノーマ MEL, 肺腺癌 LUAD, 膵管腺癌 PDAC, 腎癌 KID, 膀胱癌 BLAD, 頭頸部癌 HEP, 肝細胞癌 HEP, 大腸癌 CRC, GBM, 卵巣癌 OV, 子宮内膜癌 UCEC, 神経膠腫 GIN) から 364 の新鮮手術検体を標準化プロトコルで処理した (MEL 33/37例 RNA/Flow paired, KID 62/50例, がん種別詳細は Fig 1A)。ヒト材料は UCSF IRB 承認下、書面同意取得済み。ソート細胞 RNA-seq: 6 集団 (live, T conventional [Tconv], regulatory T cell [Treg], myeloid, stromal, tumor) に FACS ソート (BD FACSAria III) して bulk RNA-seq (Illumina NovaSeq) を実施した (n=3-10 patients per cell type)。ソート細胞 RNA-seq から構築した遺伝子シグネチャー (T 細胞: 25 遺伝子, 骨髄系: 29 遺伝子, 間質: 21 遺伝子) のフローサイトメトリー定量値との相関を Spearman 相関係数で検証した。Flow パネル: 多パラメータ (30 markers; CD3, CD4, CD8, FoxP3, CD25, CD11b, CD11c, CD14, CD16, CD56, HLA-DR, PD-1, PD-L1, CTLA-4, TIM-3, LAG-3, CD38, CD163, MRC1, Ki67 等) 免疫表現型を BD Symphony で定量した。段階的クラスタリング解析: 教師なし Louvain 法を 3 段階で段階的に特徴量を増やして適用: (1) 3 特徴量 (T cell, myeloid, stromal) → (2) 6 特徴量 (+Treg, CD4, CD8) → (3) 10 特徴量 (+ macrophage, monocyte, cDC1, cDC2)。各段階で Davies-Bouldin Index (DBI) を最小化するクラスター数を選択した。TCGA 外部検証: TCGA dataset (n=4,341 patient tumors, 33 cancer types) へシグネチャーを適用して独立検証した。T 細胞消耗 (exhaustion) スコアは CTLA4・PDCD1・HAVCR2・CD38・LAG3 との高相関遺伝子 (TOX 含む 11 遺伝子) を用いて構築した。骨髄系亜集団の解析には scRNA-seq substudy (3,880 cells, 10x Chromium) から 5 種類のシグネチャーを同定した。生存解析は TCGA 全がん種の 5 年全生存について Kaplan-Meier (log-rank) と多変量 Cox 比例ハザードモデル (age, sex, stage, cancer type で調整) を実施した。統計は p<0.05 を有意とし FDR 補正 (Benjamini-Hochberg) を実施した。