• 著者: Ron Sender, Yael Weiss, Yuval Navon, Irit Milo, Niv Azulay, Lena Keren, Shai Fuchs, Daniel Ben-Zvi, Elad Noor, Ron Milo
  • Corresponding author: Ron Milo (Department of Molecular Cell Biology, Weizmann Institute of Science, Rehovot, Israel)
  • 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-10-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37871201

背景

ヒト免疫系は感染防御・恒常性維持・がん免疫監視において中心的役割を担う複雑な細胞ネットワークであるが、その全体的な定量的構成は未解明のままであった。先行研究はいずれも特定臓器または特定細胞種に限定されており(Wherry et al. NatImmunol 2011)、フロー サイトメトリーや組織学的手法を用いた定量研究は手法・基準の不統一のためクロス比較が困難であった。特に齧歯類データからヒトへの外挿に依存した推計が多く、ヒト固有の免疫細胞分布の実態は未解明のギャップとして残されていた。従来の全細胞数推定ではBianconi et al. (2013)が末梢血リンパ球のみを計上し骨髄内細胞を過少評価していた点や、Trepel (1974)が齧歯類データ外挿でリンパ球を約5 × 10^11個と推計した古典的研究があるが、包括的なヒト全身免疫細胞の定量的センサスは存在しなかった。腸管が最大の免疫臓器であるという広く信じられた仮説(Combes et al. Cell 2022)の検証も重要な課題であった。

目的

73 kg男性の標準参照ヒトを対象に、全11種類の主要免疫細胞(T細胞・B細胞・NK細胞・形質細胞・好中球・好酸球・好塩基球・マスト細胞・マクロファージ・単球・樹状細胞)の全身組織分布における絶対数・細胞質量・95%信頼区間を包括的に定量し、免疫系の統合定量的地図を作成することを目的とした。また60 kg女性および32 kg(10歳)の小児への外挿、加齢・肥満・感染応答における変動の定量的推計も実施した。

結果

全免疫細胞数・総質量と主要組織分布:73 kg標準参照男性(20〜30歳・176 cm・健常)の全身免疫細胞総数は1.8 × 10^12個(95% CI 1.5–2.3 × 10^12)、総質量は1.2 kg(95% CI 0.8–1.9 kg)と推計された(Fig. 2)。細胞密度は骨髄とリンパ系(リンパ節・脾臓・胸腺・扁桃)で最高値を示し、上皮臓器(消化管・皮膚・肺)は1桁低い均質な密度であり、脂肪組織・骨格筋は上皮臓器のさらに2桁低い密度であった。最多の免疫細胞は骨髄に7.4 × 10^11個(95% CI 6–9 × 10^11、全体の約40%)、リンパ系に7.2 × 10^11個(95% CI 5–10 × 10^11、約39%)が存在し、両者で全体の約80%を占めた(Fig. 1A)。消化管は全免疫細胞の約3%(5 × 10^10個、95% CI 3–9 × 10^10)に過ぎず、腸管が最大の免疫臓器とする通説を否定した。皮膚(n=約8 × 10^10個)・肺(n=約7 × 10^10個)・消化管はそれぞれ全体の3〜4%であり、末梢血中は全免疫細胞のわずか約2%(n=約4 × 10^10個)であった。血液が体内細胞の約90%を占めながら白血球はその0.1%にすぎず、大多数の免疫細胞は組織に常在することが確認された。脂肪組織と骨格筋は体内全細胞質量の約75%を占めるが、免疫細胞数は全体のわずか0.2%であった(Table 1)。

細胞種別の絶対数・組織分布の詳細:リンパ球は全免疫細胞の40%(n=7.6 × 10^11個、95% CI 5–12 × 10^11)を占め、そのうちT細胞が60%(n=5 × 10^11個、95% CI 3–7 × 10^11)、B細胞が約33%(n=3 × 10^11個、95% CI 2–4 × 10^11)を占めた(Fig. 3)。T細胞・B細胞・樹状細胞はリンパ系(リンパ節・脾臓)に主に分布し(リンパ球の約85%がリンパ系に局在)、形質細胞(n=2 × 10^10個)の約70%は消化管に局在することが示された。好中球は全免疫細胞の43%(n=8 × 10^11個、95% CI 7–10 × 10^11)を構成し、その約80%は骨髄に存在し末梢血への動員は全好中球の10%未満であった。非顆粒球系骨髄系細胞(マクロファージ・単球・樹状細胞)は全体の約15%を占め、マクロファージ(n=2 × 10^11個、95% CI 1.3–3 × 10^11)は全組織に広く分布し、肝臓では免疫細胞の約70%(n=5 × 10^10個、95% CI 4–7 × 10^10)、肺では約40%を占めた。マスト細胞(n=9 × 10^10個)は皮膚・肺の免疫細胞の各約30%を担い、結合組織・上皮臓器の固有層に主局在した。NK細胞(n=2 × 10^10個)の約30%は肝臓に分布し特定臓器への偏在が明らかとなり、好塩基球(n=2 × 10^9個)は最少数の免疫細胞種であった。

数と質量の乖離:マクロファージの支配的質量寄与:細胞数分布と質量分布は大きく乖離し、その主因は細胞サイズの著しい不均一性であった(Fig. 5)。リンパ球と好中球は細胞数の約75%を占めるが、細胞1個あたり数百ピコグラムと小型であり、総質量への寄与は約30%にとどまった。一方、マクロファージは細胞数の約10%に過ぎないが1個あたり数ナノグラム(リンパ球の3〜10倍)の大型細胞であるため、総免疫細胞質量600 g(95% CI 300–1,400 g)として全体の約49%を占めた。樹状細胞も100 g(95% CI 40–300 g)として全体の約9%を担い、顆粒球全体の質量寄与は約25%であった(Fig. 4)。骨髄と細胞数でも40%・質量でも30%と最大の免疫臓器であったが、質量面ではリンパ系(27%)・肺・肝臓(各約10%)が続いた。

参照標準女性・小児への外挿と加齢・肥満影響:60 kg参照女性では1.5 × 10^12個・総質量約1 kg、32 kg(10歳)小児では1 × 10^12個・総質量約600 gと推計された。細胞種・組織別の相対分布は性・年齢依存の組織質量比例性が支配的であり、大きくは変わらなかった。加齢では骨髄免疫細胞が最大40%減少し全体の最大20%減少をもたらす可能性があること、また肥満では脂肪組織マクロファージ密度の線形増加により脂肪組織マクロファージ総数が10倍以上増加する可能性が定量的に示された。感染応答における脾腫(2倍体積増)は全リンパ球の最大10%増加をもたらし得る一方、局所リンパ節腫大(最大10節で2〜2.5倍径増)は全リンパ節リンパ球の最大20%・全リンパ球の最大10%の増加に相当すると推計された。

考察/結論

本研究は免疫細胞の全身定量的センサスをヒトで初めて実施した新規な研究であり、3種独立した測定手法(文献組織学・多重イメージング・DNAメチル化デコンボリューション)を統合することで、単一手法では不可能な包括的・信頼性の高い定量的地図を提供した。これまでの研究が特定臓器や特定細胞種に限定されていたことと異なり、本研究では全組織・全主要細胞種を単一フレームワークで統合解析した点が画期的である。

先行研究との重要な相違点として、腸管が最大の免疫器官であるとする広く受け入れられていた教科書的認識を本研究は否定した。我々の解析では腸管は全免疫細胞の約3%・リンパ球の約5%を含むに過ぎず、骨髄とリンパ系(リンパ節・脾臓)が免疫細胞数の約80%を占めることが示された。ただし形質細胞(抗体産生B細胞)については腸管が全体の約70%を占め「液性免疫の最大臓器」であることは支持された。また、本研究で初めてマクロファージの質量的支配性が定量化され、細胞数では10%に過ぎないマクロファージが総質量の約50%を占めるという驚くべき発見は、質量ベースのシステム解析が細胞数ベースとは全く異なる生物学的洞察を与えることを示した。

臨床的意義として、本研究が提供する定量的基準値は免疫系の薬理学的モデリング・免疫調整療法の用量設定・加齢や肥満が免疫力に与える影響の定量的予測に直接活用できる。例えばがん免疫療法の効果予測モデル(Combes et al. Cell 2022)や腫瘍微小環境の組成定量(Salcher et al. CancerCell 2022)において、組織ごとの正常免疫細胞数の基準線として本研究のデータが参照基盤となる。

残された課題として、本解析は性別・年齢依存のデータが不足していたため性差・加齢効果を系統的に組み込めておらず、女性の免疫系が男性より強いことが知られる中で定量的な性別分布推計は今後の重要課題である。また、メチル化デコンボリューション法は顆粒球(特に好中球)を過少評価する傾向があり、方法論的改善が必要である。マクロファージの細胞体積は組織によって1桁近く異なるが、教科書的推定値に基づいた本研究の質量推計には大きな不確実性が残る。さらに本研究は健常参照人を対象としており、がん・自己免疫・慢性感染症などの疾患状態における免疫細胞分布変化の定量的把握は今後の検討課題である。高精度・大規模の多重イメージングとシングルセル技術の進展により、より詳細な免疫細胞サブセットの体内分布地図の完成が期待される。

方法

3つの独立した手法を統合した定量解析を実施した。第1手法として文献調査に基づく組織学的推計: PubMedおよびGoogle Scholarデータベースを用いて各免疫細胞種と各組織・臓器の組み合わせに関する文献を網羅的に収集し、フローサイトメトリーおよびHE染色切片から細胞密度(cells/g組織)を算出した。面積あたり細胞数n、切片厚T、細胞径Dを用い式 ρ = n / [A × (T + D)] で体積密度を算出後、組織比重1.03 g/mL(脂肪組織0.91)で重量密度に変換した。ヒトデータが不足する組織ではマウス・ラット・サルデータからの外挿または同群類似臓器の幾何平均を用いた。第2手法として多重イメージング(MIBI-TOF: Multiplexed Ion Beam Imaging by Time-of-Flight): Liu et al. (2022)の脾臓・リンパ節・胸腺・扁桃(n=各2〜5ドナー)の16マーカー多重データを解析し、z-score>1.96のアウトライアー除去後に各臓器の細胞密度を算出して対数空間でのInverse-variance weighting meta-analysisにより文献値と統合した。第3手法としてメチロームベースデコンボリューション: Loyfer et al. (2023)のDNA(deoxyribonucleic acid)メチル化アトラスを用い、組織ごとの相対細胞分画をアンカー細胞種の絶対数で換算して検証に利用した。細胞質量の推計にはGoogle Scholar文献収集による各細胞種の径データから球形仮定で体積を算出し、細胞比重1.07 g/mLを乗算した。不確実性伝播は対数正規(lognormal)分布の乗算誤差(ferror)形式でモデル化し、線形性のない加算はBootstrapping(n=1,000サンプル)で伝播した。標準参照臓器質量はICRP 2002(International Commission on Radiological Protection)を使用した。検証データとして、Tabula Sapiensコンソーシアム(Dataset S2: 2ドナー、約60歳、HE染色)の組織学的データを利用したTabula Sapiens独立検証を実施した。外挿の妥当性確認のため、pet shopマウスと共飼育したlaboratoryマウスにおける組織別免疫細胞増加(肝臓・腸管・腎臓で25〜100%増加)のデータも参照した。コード・解析データはGitLab(https://gitlab.com/milo-lab-public/distribution-of-immune-cells)で公開した。