• 著者: Joanna Pozniak, Dennis Pedri, Ewout Landeloos, Yannick Van Herck, Florian Rambow, Oliver Bechter, Jean-Christophe Marine
  • Corresponding author: Joanna Pozniak (KU Leuven), Florian Rambow (University Hospital Essen), Oliver Bechter (UZ Leuven), Jean-Christophe Marine (KU Leuven)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-01-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38181739

背景

転移性メラノーマ (MM) の治療において、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) は画期的な進歩をもたらしたが、患者の約半数には持続的な効果が得られないという課題が残されている Larkin et al. N Engl J Med 2019。ICBに対する抵抗性の機序は多岐にわたり、抗原提示機構 (APM) の構成要素をコードする遺伝子の不活性化変異や、JAK1/JAK2の不活化によるインターフェロン (IFN) 応答性の喪失などが報告されている Shin et al. Cancer Discov 2017。さらに、非遺伝的な表現型リプログラミングも重要な抵抗性機序として注目されている。特に、メラノーマ細胞の脱分化(低MITF状態)は、標的治療に対する耐性と関連することが先行研究で示されてきたが Rambow et al. Genes Dev 2019、その中でも間葉系様 (MES) 状態とICB耐性との直接的な関連性については、単一細胞解像度での治療前後の包括的な解析が不足しており、未確立であった。

これまでのバルクRNAシーケンスを用いたICB応答予測の試みは、限定的な成功にとどまっており Hugo et al. Cell 2017、腫瘍エコシステムの複雑な細胞アーキテクチャを理解するためには、単一細胞解像度での解析と、治療経過に沿った時間的変化の解析が不可欠であると考えられていた。特に、メラノサイト様 (MEL) 状態とMES状態の間の動的な移行がICB応答に与える影響、およびその分子ドライバーの同定が残された課題であった。TCF4 (ITF2またはE2-2としても知られるE-box転写因子) は、形質細胞様樹状細胞 (pDC) や芽球性pDC腫瘍 (BPDCN) において、IFN応答性遺伝子やAPM遺伝子の発現を抑制することが知られていたが Ghosh et al. Immunity 2010、メラノーマにおけるその具体的な役割は未解明であった。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、治療未経験のメラノーマ腫瘍エコシステムの包括的な転写プログラムマップを単一細胞および空間マルチオミクス解析によって作成し、ICB応答性と関連する腫瘍細胞状態を同定することである。さらに、MES状態を駆動するマスターレギュレーターとその治療標的を特定し、ICB感受性を増強するための新たな治療戦略を検証することを目指した。具体的には、MES細胞がICB非奏効例で濃縮されることを検証し、TCF4がMESプログラムを駆動し、メラノサイトプログラムと抗原提示プログラムを抑制するマスターレギュレーターであることを実証する。最終的に、BET阻害薬ARV-771によるTCF4の下方制御が、ICBおよび標的治療に対する感受性を同時に増加させる可能性を探る。

結果

9つの再現性ある転写メタプログラムの同定: 治療前生検のscRNA-seq解析により、メラノーマ細胞内に11のクラスターが同定され、これらは9つの再現性ある細胞状態(MEL、MES、抗原提示、neural crest-like、hypoxia、p53応答、IFNαβ応答、分裂期、ミトコンドリア)に分類された (Figure 1C)。CNVプロファイル解析とalluvial plotにより、遺伝的不均一性よりも非遺伝的なエピジェネティックリプログラミングが転写多様性の主要因であることが確認された (Figure 1G)。MITF rheostatモデルと一致して、MEL状態は高MITF活性を示し、MESおよびneural crest-like状態は低MITF活性を示した (Figure 1F)。抗原提示細胞はHLA class IおよびII、TAP1、B2M、NLRC5などのAPM関連遺伝子を特異的に発現し、IFN誘導性遺伝子プログラムも示していた (Figure 1D)。

MES細胞のICB耐性との関連: ICB治療後の早期OT生検において、奏効例 (R) では抗原提示状態の細胞が有意に濃縮された一方、非奏効例 (NR) ではMES細胞が有意に濃縮された (Wilcoxon検定、OT NR vs R でp < 0.05) (Figure 4A)。MES細胞の割合は、早期OT時点でのICB応答予測において良好な診断能を示し、ROC解析で有意なAUC値を示した (Figure 4B)。抗PD-1単独療法コホートでも同様の結果が得られた (Figure S4D)。さらに、乳がん患者コホート (n=29 patients) の再解析でも、T細胞非拡大群 (non-expanders) でMES細胞が、T細胞拡大群 (expanders) で抗原提示細胞が有意に濃縮されており、MES状態とICB耐性の関連が他のがん種にも共通する可能性が示唆された (Figure 4E, 4F)。空間トランスクリプトーム解析では、MES細胞が他の腫瘍細胞状態とは異なる空間的分布を示し、コミュニティとして密集せず分散する傾向があり、その遊走傾向が免疫回避に寄与する可能性が示唆された (Figure 2B)。抗原提示細胞はCD8+T細胞と近接して存在し、Jin et al. NatCommun 2021を用いたリガンド-受容体ネットワーク解析でも、抗原提示細胞とCD8+T細胞・マクロファージ間のIFNII型・MHC class I/II経路を介したコミュニケーションが予測された (Figure 2D)。

MES細胞の正確な同定技術の確立: MES細胞とCAFの類似性のため、従来のマーカーでは両者を明確に区別することが困難であった。本研究では、MES細胞とCAFの差次的発現遺伝子50個から構成されるMLG (minimal lineage genes) パネルを開発した (Figure 3A)。CDH19とS100A1はMES細胞の60%以上に発現し、CAFではほとんど検出されないことが示された (Figure 3B)。TCF4 (transcription factor 4) は両者に同等に発現するため、単独では区別に利用できない。RNAscopeとCODEXを組み合わせたin situ RNA-protein共検出法により、MLGとMESマーカーの共発現に基づいてMES細胞を組織内で正確にマッピングすることに成功した (Figure 3E)。

TCF4によるMES・免疫回避・抗原提示の三重制御: TCF4はMES細胞に選択的に発現し、MEL細胞での低MITF発現と逆相関を示した (Figure 3D)。SCENIC解析により、TCF4はMES状態のハブレギュロンとして同定された (Figure 1E)。TCGAデータ解析では、MESシグネチャーを持つメラノーマサンプルでTCF4発現が高く、原発巣よりも転移巣で高発現することが確認された (Figure S5A-S5C)。TCF4のsiRNAノックダウン (KD) により、(1) EMT/MES遺伝子群の下方制御、(2) NLRC5 (MHC class Iのマスターレギュレーター) を含む抗原提示遺伝子群およびIFNシグナリング遺伝子群の上方制御、(3) MITF標的遺伝子およびMEL遺伝子群の上方制御が同時に生じた (GSEA NES有意) (Figure 5A, 5B)。逆に、MEL細胞株におけるTCF4の過剰発現は、MITFとその標的遺伝子を下方制御し、EMT遺伝子を誘導した (Figure 5C-5E)。これらの結果は、TCF4がMEL、抗原提示、およびIFNシグナリングの転写プログラムを積極的に抑制し、免疫細胞からの回避や免疫療法への抵抗性を直接的に促進する可能性を示唆する。

T細胞殺傷アッセイでの免疫原性増強: TCF4がT細胞認識から腫瘍細胞を保護することが複数の実験系で示された。HLAマッチドPBMCとの共培養において、TCF4 KDはアポトーシスを促進した (Figure S5M)。Ma-Mel-86c細胞でのTCF4過剰発現は、自己由来TILのTNFα+CD8+細胞率を低下させた (p = 0.02) (Figure 5F)。OVA-YUMM1.7/OT-1系では、siTCF4によりLDH放出が増加し、T細胞による細胞傷害が約2.5-fold増強された (Tukey補正 p < 0.05) (Figure 5G)。NYE-A375/NYE-TCR Jurkat系では、siTCF4によりCD69+頻度が有意に上昇した (p < 0.0001) (Figure 5H)。B16F10 shTCF4マウスモデル (n=6 mice/群) では、抗PD-1との組み合わせにより腫瘍縮小効果が増強され (Wilcoxon p = 0.039)、組織学的に腫瘍のメラニン産生増加 (MEL化) と免疫細胞浸潤増加が確認された (Figure 5J-5L)。

BET阻害薬ARV-771によるTCF4の薬理的標的化: TCF4発現はBRD4依存的なエンハンサーによって制御されており、BRD4分解誘導PROTACであるARV-771はMES細胞においてTCF4エンハンサー領域のクロマチンアクセシビリティを低下させ (ATACseq)、TCF4発現を用量依存的に抑制した (Figure 6A, 6B)。ARV-771処理はsiRNA KDと同様の転写変化(MES遺伝子下方制御、APM遺伝子上方制御)をもたらし (Figure 6C-6E)、BRAF/MEK阻害薬感受性も増加させた (Figure 6F-6I)。BPDCNでもBET依存的なTCF4発現が示されており、BET阻害はTCF4高発現腫瘍に広く有効な可能性がある。

考察/結論

本研究は、治療未経験のメラノーマ腫瘍エコシステムの単一細胞および空間マルチオミクスによる包括的な転写プログラムマップを提示し、MES状態がICB非奏効の独立予測因子であることを多角的に実証した最初の大規模研究である。これまでと異なり、転写多様性が主に非遺伝的機序に基づくことが示されており、エピジェネティックリプログラミングを標的とした治療戦略の重要性を支持する。

新規性: 本研究で初めて、TCF4がMES状態の維持、免疫回避、および抗原提示抑制を同時に制御する新規のハブ転写因子として機能することを示した。TCF4 KDはMES遺伝子群の下方制御、APM遺伝子群の上方制御、MEL遺伝子群の上方制御、および標的治療感受性の増加という多面的な効果をもたらすため、TCF4は「免疫療法と標的治療の二重感受性化」を実現できる理想的な治療標的であると考えられる。BET阻害薬ARV-771は薬理学的にこれらの効果を再現できることが示され、既存の臨床開発化合物であることから臨床への翻訳可能性が高い。

臨床応用: OT時点での早期生検でMES細胞の割合が応答予測の良好なバイオマーカーとなることは、ICB応答モニタリングに新たな細胞表現型指標の有用性を示唆する臨床的意義を持つ。本研究の知見は乳がんコホートでも部分的に再現されており、MES状態を介したICB耐性は汎がん的な機序である可能性が示唆される。初回ICB後に増加するMES細胞が二次耐性の一因となりうること、さらにBET阻害薬がその克服策となりうることは、臨床的に重要な含意を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、BET阻害薬とICBの組み合わせ試験、MES状態バイオマーカーの前向き検証、および他がん種への適用可能性の検証が挙げられる。ただし、MES細胞がOT期に約20%以下と少数である点、およびZEB1によるケモカイン分泌抑制など、non-cell-autonomousな免疫抑制の寄与も考慮する必要があるという残された課題がある。また、TCF4はpDCや癌関連線維芽細胞 (CAF) にも発現するため、これらの細胞におけるTCF4標的化がICB応答性に与える影響についても、今後の研究でさらに深く探求する必要がある。

方法

臨床試験 (SPECIAL試験) とサンプル収集: 治療未経験のステージIII/IV転移性メラノーマ患者を対象としたSPECIAL臨床試験を実施した。患者にはニボルマブ単独 (n=17) またはイピリムマブとニボルマブの併用療法 (n=6) が投与された。合計23例の患者から、ICB投与前 (BT: before treatment) と初回投与後早期 (OT: on-treatment; 第2回投与前) の皮膚、皮下、またはリンパ節転移生検を採取した。20例の患者でマッチド生検が両方の時点から取得された。

シングルセル解析: 採取された生検サンプルから単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) を実施し、合計59,000個以上の細胞を解析した。データ統合にはKorsunsky et al. NatMethods 2019を用いて患者間のバッチ効果を補正した。最適なクラスター数はSilhouetteスコアを用いて決定された。各クラスターの転写プログラムはEnrichRを用いて機能アノテーションされ、SCENIC regulon解析により転写因子ネットワークが解析された。悪性細胞の同定には、コピー数変動 (CNV) プロファイルと悪性細胞シグネチャースコアが用いられた。

空間トランスクリプトーム解析: 6例の患者サンプルに対してVisium (10x Genomics) を用いた空間トランスクリプトーム解析を実施した。得られた空間データはHao et al. Cell 2021を用いてscRNA-seqデータと統合され、腫瘍内の細胞状態の空間的分布が解析された。

マルチプレックス免疫組織化学 (mIHC/MILAN) およびRNAscope/CODEX: 10例の治療前腫瘍生検において、HLA-DR、MITF、MLANAなどのタンパク質発現を定量するためにmIHCを実施した。MES細胞と癌関連線維芽細胞 (CAF) を正確に区別するため、RNAscopeとCODEXを組み合わせたin situ RNA-protein共検出法を開発し、MLG (minimal lineage genes) パネルを設計した。

機能実験 (TCF4 KDおよび過剰発現): MES表現型を示すメラノーマ細胞株 (MM099、MM047) においてTCF4 siRNAノックダウン (KD) を実施した。一方、MEL表現型を示す細胞株 (MM011、Ma-Mel-86c) ではTCF4の過剰発現を誘導した。TCF4の免疫原性への影響を評価するため、HLAマッチドPBMCとの共培養によるT細胞殺傷アッセイ、OVA-YUMM1.7/OT-1 CD8+T細胞共培養系、NY-ESO-1 A02 (1G4) ペプチド認識TCR Jurkat細胞とNYE-A375メラノーマ細胞の共培養系を用いた。また、B16F10 shTCF4マウスモデルに抗PD-1抗体を投与し、in vivoでの腫瘍増殖抑制効果を評価した (n=6 mice/群)。クロマチンアクセシビリティの変化はATACseqにより解析された。

BET阻害実験: BRD4分解誘導PROTACであるARV-771を用いてTCF4発現を薬理学的に抑制し、MES細胞における転写変化、ATACseqプロファイル、およびICB感受性への影響を評価した。統計解析にはWilcoxon検定、t検定、Spearman相関検定、Tukeyの多重比較検定などが用いられた。