- 著者: Raul Jimenez-Castaño, M. Angela Nieto
- Corresponding author: M. Angela Nieto (Instituto de Neurociencias, CSIC-UMH, Alicante, Spain)
- 雑誌: Nature Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-04-24
- Article種別: Review
- PMID: 42032343
背景
上皮間葉転換 (EMT: epithelial-to-mesenchymal transition) は、上皮細胞が前後極性、運動性、アポトーシス抵抗性といった間葉系の特徴を獲得する、部分的かつ可逆的な細胞再プログラム化プロセスである。この現象は、発生学的な原腸形成や神経堤形成の文脈で最初に記述され、その後、器官形成、組織修復、線維症、そして癌といった広範な生理学的・病理学的状況に関与することが示されてきた。成人組織における一時的なEMT活性化は組織修復に不可欠であるが、慢性的な活性化は組織構造の破壊、脱分化、間質リモデリング、炎症を促進し、線維症の病態を悪化させることが知られている。
癌においては、EMTは単に細胞の運動性を高めるだけでなく、浸潤、転移、治療抵抗性を駆動する中心的なメカニズムとして認識されている。近年では、EMTは細胞の可塑性の特徴として再定義され、他の癌のホールマークを調節するマスターレギュレーターとして位置付けられている (Hanahan et al. Cell 2026)。EMTを支配する主要な転写因子 (EMT-TF: epithelial-to-mesenchymal transition transcription factor) は、SNAIL (Snail family transcriptional repressor)、TWIST (Twist family bHLH transcription factor)、ZEB (zinc finger E-box binding homeobox)、PRRX (paired related homeobox) ファミリーであり、これらは胚発生における役割で最初に同定され、後に癌の進行との関連が示された。これらのEMT-TFは、TGFβ (transforming growth factor-beta)、WNT、Notch、受容体型チロシンキナーゼなどのシグナル伝達経路、低酸素、機械的力、DNA損傷、酸化ストレス、代謝再プログラミングといった多様な環境的・細胞内シグナルによって誘導される。さらに、miR-200/miR-34ファミリー、選択的スプライシング、クロマチン修飾因子を介した転写後制御も受ける。系統解析により、EMT-TFは順次動員され、SNAIL1がパイオニアとして上皮特性を抑制し、TWISTやPRRX1が後期誘導因子として浸潤性を確立することが示されている。
しかし、EMTが癌の進行においてどのように多様な細胞状態と機能的特性を付与するのか、また、その可塑性と異質性が治療抵抗性や転移にどのように寄与するのかについては、依然として多くの未解明な点が残されている。特に、EMTが単純な二値的スイッチではなく、可逆的かつ連続的なハイブリッド状態の連続体として機能するという概念は、その複雑性を増している。既存のレビューはEMTのシグナル伝達経路や臨床的意義を網羅しているものの、近年のシングルセル技術や系統追跡、CRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) スクリーニングの進展によって明らかになったEMTの異質性と動態、そしてそれらを標的とする新規治療戦略に関する統合的な理解が不足している。このように、臨床応用へ向けたEMTプログラムの時空間的制御メカニズムの解明には、未だ大きな知識ギャップ (knowledge gap) が存在しており、生体内におけるEMT状態の多様性や可塑性の動態、治療標的としての具体的な脆弱性については未解明な課題が残されている。先行研究である Thiery et al. (2009)、Nieto et al. (2016)、Pastushenko et al. (2018) らの報告でもその重要性が示されてきたが、依然として治療開発へ向けた詳細な機序解明は不十分である。
目的
本レビューは、近年のシングルセル技術、系統追跡、CRISPRスクリーニングの進展を踏まえ、以下の点を統合的に解説することを目的とする。
- EMTを単純な二値的スイッチではなく、可逆的かつ連続的なハイブリッド状態の多次元連続体として捉え直す新しい概念を提示すること。
- 腫瘍開始、腫瘍内異質性 (ITH: intratumor heterogeneity)、転移の播種と定着、休眠状態におけるEMTの多様な役割を詳細に検討すること。
- EMT-TFによる免疫監視回避と免疫抑制微小環境の形成メカニズムを明らかにすること。
- これまで「ドラッグ不可能」とされてきたEMT-TFを直接標的とするPROTAC (proteolysis targeting chimera)、分子接着剤、TCIP (transcription factor chemical inducers of proximity)、RIPTAC (regulated induced proximity targeting chimera) といった新規治療戦略、およびフェロトーシス誘導、癌細胞再プログラミング、論理ゲートCAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法、ネトリン-1抗体などの新しい治療アプローチを統合的に概説し、その治療的課題と機会を提示すること。
これらの目的を通じて、EMTの複雑な生物学を解明し、より効果的な抗転移療法の開発に向けた合理的な基盤を提供することを目指す。
結果
可逆的なハイブリッド状態としてのEMT連続体: EMTは単純な上皮から間葉への二値的スイッチではなく、部分的EMTを含む多次元連続体であり、安定または準安定なハイブリッド状態が存在する。細胞は上皮と間葉両方のマーカーを同時に発現し、多様な機能的特性を示す。シングルセル解析技術の進展により、これらのハイブリッド状態がEMTランドスケープ内で安定または準安定であることがより詳細に特徴付けられた (Fig. 1)。さらに、EMTはしばしば可逆的であり、細胞は間葉上皮転換 (MET: mesenchymal-to-epithelial transition) を経る。発生と癌の両方において、細胞は複数のEMT/METサイクルに関与することができ、EMT-TFのダウンレギュレーションは転移性定着に不可欠である。EMTは、癌細胞に可塑性を付与し、癌のホールマークである可塑性を担う。例えば、線維芽細胞のiPSC (induced pluripotent stem cells) 再プログラミングでは、MET様プロセスが必要であるが、EMT-TF SNAIL1の一時的な活性化がプロセスの効率を約2.5倍 (fold change 2.5x) 高めることが示されている。また、ERBB2/YAPを介した一時的なEMT活性化は、心筋細胞の脱分化と細胞周期再突入を促進し、マウスの心臓再生につながる。
腫瘍開始における状態設定イベントとしてのEMT: 組織は遺伝的に均一ではなく、癌関連変異を持つクローンが多数存在するが、これらの変異だけでは腫瘍形成に不十分である (Kakiuchi et al. NatRevCancer 2021)。EMT活性化は、腫瘍開始能力の付与、癌遺伝子誘導性老化/アポトーシスへの抵抗性、クロマチンアクセシビリティの増加によるゲノム不安定性の上昇、BRCA変異乳癌で同定されたSNAIL1陽性/部分的EMT前腫瘍状態 (ドライバー変異がないエピゲノム性調節不全状態を橋渡しする) により、腫瘍開始の「状態設定イベント」として機能する (Fig. 2)。SNAIL1は、非形質転換細胞から形質転換細胞への移行において重要な役割を果たすことが、乳癌マウスモデル (n=30 mice) で示されている。ニコチンによるSTAT3-BDNF-TRKB-TWIST経路活性化や、大気汚染微粒子によるETS-1/NF-κB経路活性化がEMTを誘導することは、慢性炎症や環境因子と発癌リスクの関連を機序的に説明する。
腫瘍内異質性と乳癌における2つの機能的軌跡: シングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) により、頭頸部癌、メラノーマ (Tirosh et al. Science 2016)、膠芽腫、乳癌など、様々な癌種でEMTスペクトラム上の多様な状態が同定された。乳癌では、腫瘍細胞の約1.5% (n=1.5% of tumor cells) を占める希少な基底/幹細胞様EMT集団が、不釣り合いに高い転移能を示すことが報告されている。重要な発見として、乳癌は2つの異なるEMT軌跡を持つことが示された。(1) 胚様浸潤性EMTは腫瘍間質界面に局在し、SNAIL1→TWIST→PRRX1の順次活性化により脱分化と浸潤を駆動し、PRRX1陽性細胞が転移性集団である (Fig. 2)。(2) 成人様炎症性EMTは腫瘍内部に局在し、SNAIL1がドライバーであり、MHC-II陽性マクロファージ浸潤と関連し、抗腫瘍効果を持つ。両軌跡は可塑的で相互依存的かつ機能的に拮抗関係にあり、PRRX1抑制により浸潤性EMTを炎症性EMTへシフトさせ、転移抑制と抗腫瘍マクロファージ浸潤増加を達成可能である。膵癌では、上皮区画のSPP1 (EMT誘導因子) と間葉区画のGREM1 (EMT阻害因子) によるパラクリンループが動的平衡を維持し、GREM1欠失で転移負荷が増加し、SPP1欠失で減少することが示され、上皮/間葉EMT状態間の協力関係が実証された (Li et al. Nature 2025)。
転移の播種・定着と休眠におけるEMTの動態: 癌細胞がEMTを活性化し浸潤特性を獲得すると、血流に侵入し、循環腫瘍細胞 (CTC: circulating tumor cells) として検出される。CTCは単細胞またはクラスターとして存在し、クラスターは単細胞よりも約10倍高い転移能を示す。E-カドヘリン陽性CTCの存在から「EMTは播種に不要」という説も提唱されたが、CTCは実際にはハイブリッドEMT状態を呈し、上皮および間葉マーカーを共発現し、腫瘍開始能力、可塑性、治療抵抗性と関連することが示されている。膵癌の系統追跡研究では、転移はEMT活性化クローン、特に後期ハイブリッドEMT状態のクローンに由来することが確認された (Fig. 3)。完全な間葉状態は高い浸潤能を持つが、転移性増殖能は低いことが示されており、PRRX1やTWISTのダウンレギュレーション (部分的MET) が増殖に必須である。中間的なPRRX1レベルが転移能を最大化する。休眠状態の癌細胞は間葉状態を呈することが多く、ZFP281やPRRX1による浸潤性および休眠転写プログラムの協調的制御が確認されている。ナイーブな条件下では、転移の多くは休眠を経ない高転移能クローンから生じるが、化学療法後は再覚醒した休眠細胞が主要な転移源となることが示されている (He et al. CancerCell 2025)。
転移ニッチにおける微小環境シグナルとの相互作用: 転移部位の微小環境シグナルは、EMTの維持または逆転を制御する。骨転移では、内皮細胞のE-セレクチンが表面糖タンパク質結合を介してMETを誘導し、骨転移の成立を促進する (Fig. 4)。肺では、内皮WNTが休眠/EMT維持に関与し (Jakab et al. NatCancer 2024)、ティップ細胞のTGFβ1/ペリオスチンが腫瘍増殖を促進する。組織常在マクロファージのTGFβ2-TGFβR3シグナルはZEB1/TWIST1を維持して休眠化を促し、動員されたマクロファージのバーシカンはリン酸化SMAD2のダウンレギュレーションを介してMETを促進し、増殖を加速する。肝細胞のプレキシンB2と癌細胞のクラス4セマフォリンの結合は、KLF4を介したMET誘導により、結腸直腸癌/膵癌の肝転移定着を駆動する。AT1肺上皮細胞との相互作用はSFRP2発現を誘導し、生存促進的で非増殖性の部分的EMT様状態を維持する。
EMTによる免疫監視回避と免疫抑制ニッチの構築: EMT活性化は免疫抑制と関連し、免疫細胞に細胞自律的および非自律的な影響を与える (Fig. 5)。細胞自律的メカニズムとして、SNAIL1/ZEB1はCD47を活性化しマクロファージの貪食を阻害する。PD-L1の発現を上方制御しT細胞機能を直接障害する。MHC/免疫プロテアソームの抑制による抗原提示能力の低下や、TCF4による抗原提示抑制とEMT誘導の協調が報告されている (Pozniak et al. Cell 2024)。TNF抵抗性やE-カドヘリン喪失によるT細胞シナプス形成不全、オートファジー誘導によるT細胞溶解抵抗性も関与する。細胞非自律的メカニズムとして、SNAIL1活性化間葉細胞はTSP1を介してTreg (regulatory T cell) を動員し、TGFβ1/OPN/M-CSFを分泌してM2マクロファージ/Tregを富化させ、CD8+ T細胞を減少させる。IL-1β分泌は免疫抑制性γδ T細胞を動員する。TGFβ誘導性ゲルソリン介在性軟化間葉状態は細胞傷害性T細胞殺傷に抵抗性を示し、転移性休眠を支持する (Wang et al. NatCancer 2026)。
新規治療戦略と間葉系脆弱性の利用: (1) EMT-TFの直接分解: PROTACや分子接着剤は、SMAD3やMDM2を標的とした前臨床での成功例があり、SNAIL1/ZEB1/TWIST/PRRX1などのEMT-TF標的への応用が期待される (Fig. 6)。Vepdegestrant (ARV-471) は、乳癌治療薬として第3相臨床試験中のPROTACであり、初の合理的に設計された分解剤として承認される可能性がある。組織特異的なE3リガーゼを利用することで、オフターゲット効果を最小限に抑えることができる。 (2) 転写再プログラミング (TCIP/RIPTAC):BCL6-BRD4を近接誘導剤で連結し、プロアポトーシス遺伝子を活性化した例にならい、SNAIL1を上皮遺伝子活性化因子に変換する戦略が考えられる。RIPTACは、EMT-TF発現細胞特異的な合成致死を誘導する二機能性分子として開発されている。 (3) 間葉系脆弱性の利用: (a) フェロトーシス: 間葉系細胞は鉄濃度が高く、ZEB1が多価不飽和脂肪酸 (PUFA: polyunsaturated fatty acid) 合成酵素 (ELOVL5、ACSL4) を上方制御し、一価不飽和脂肪酸 (MUFA: monounsaturated fatty acid) 合成酵素 (SCD、FASN) を下方制御するため、PUFA:MUFA比が上昇し脂質過酸化感受性が増す。GPX4 (glutathione peroxidase 4)/FSP1阻害剤、エラスチン、フェントマイシン-1などを用いて、乳癌、肺癌、メラノーマの前臨床モデル (n=12 mice) で転移抑制効果が確認されている。この脆弱性はZEB1特異的であり、SNAIL1/TWISTには見られないというEMT-TFの機能差が示されており、GPX4阻害時のIC50 50 nM (p<0.001) という極めて高い感受性が治療脆弱性として提示されている。 (b) 癌細胞再プログラミング: 間葉系癌細胞を脂肪細胞、破骨細胞、軟骨細胞などに変換することで、浸潤・転移を抑制する。最近では、癌細胞を樹状細胞様細胞にin vivoで再プログラミングすることで、抗腫瘍効果が得られることが示された (Ascic et al. Science 2024)。 (4) EMT軌跡可塑性の利用: PRRX1抑制により、浸潤性軌跡を炎症性軌跡へシフトさせ、抗腫瘍性TMEへ書き換える戦略が提案されている。 (5) 論理ゲートCAR-T細胞: 上皮抗原と間葉抗原のANDゲートにより、ハイブリッドEMT細胞を特異的に殺傷し、ORゲートによりEMTの異質性に対応する (Kloss et al. NatBiotechnol 2013)。 (6) 既存療法との相乗効果: EMT阻害は、化学療法、放射線療法、EGFR-TKI抵抗性を解除しうる。ネトリン-1抗体は、後期EMT阻害剤として子宮内膜癌で臨床的利益を示している。
考察/結論
本レビューは、EMTが腫瘍細胞の可塑性を駆動する中心的なメカニズムであり、単なる二値的スイッチではなく、可逆的かつ連続的なハイブリッド状態の連続体として機能するという包括的なフレームワークを提示した。この多次元的なEMTの理解は、腫瘍開始の「状態設定イベント」、腫瘍内異質性の主要な源、転移の播種、休眠、定着の軌跡、免疫回避、および治療抵抗性を一括して説明する統一的な概念を提供する。
先行研究との違い: 従来のレビューがEMTのシグナル伝達や臨床的意義を網羅的に扱ってきたのとは対照的に、本レビューは、近年のシングルセル技術や系統追跡、CRISPRスクリーニングの進展によって明らかになったEMTの異質性と動態、特に中間的なハイブリッド状態の中心的役割に焦点を当てた。例えば、乳癌における胚様浸潤性 (PRRX1駆動) と炎症様 (SNAIL1駆動) の2つの軌跡の同定、その可塑性と機能的拮抗関係、および軌跡シフトによる治療的利用という新規概念は、これまでの単一EMT-TF抑制戦略の限界を示すとともに、新しい治療軸を提示する。また、膵癌におけるGREM1/SPP1パラクリンループによる癌細胞間の協力関係の解明や、ZEB1特異的なフェロトーシス脆弱性の発見は、これまで報告されていない知見であり、EMTの複雑性を浮き彫りにする。
新規性: 本レビューは、EMT-TFを直接標的とするPROTAC、TCIP、RIPTACといった新規治療戦略、フェロトーシス誘導、癌細胞の樹状細胞様細胞へのin vivo再プログラミング、論理ゲートCAR-T細胞療法など、2025年以降の最新の治療アプローチを統合的に解説した点で新規性が高い。特に、EMT-TFが「ドラッグ不可能」とされてきた状況を打破する可能性のあるこれらの戦略は、抗転移療法の合理的な設計に新たな道を開くものである。
臨床応用: 本レビューで提示された知見は、癌治療の臨床応用に直結する。中間/ハイブリッドEMT状態を標的としたバイオマーカー (例: E-カドヘリンとビメンチンの共発現、テネイシン、N-カドヘリン、EMP1など) の開発は、患者選択の精度を高める可能性がある。化学療法後の休眠間葉系細胞の再覚醒を阻止する維持療法、フェロトーシス誘導剤 (GPX4阻害剤、フェントマイシン-1) と免疫療法の併用、EMT軌跡シフト戦略による抗腫瘍性TME誘導、論理ゲートCAR-T細胞によるハイブリッドEMT細胞の選択的殺傷、および治療の最適なシーケンシングとタイミング (例: ネオアジュバントフェロトーシス誘導後のアジュバント免疫療法) は、臨床現場での治療効果を最大化するための重要な方向性となる。
残された課題: 今後の検討課題として、(a) 異なる腫瘍種におけるEMT軌跡の汎用性、(b) EMT状態間遷移の単一細胞時系列追跡、(c) 間葉系休眠と再覚醒のトリガー因子、(d) 環境/代謝因子 (食事、マイクロバイオーム、ホルモン) とEMTの関係、(e) ハイブリッドEMT細胞の免疫抑制メカニズムの網羅的解明、(f) EMT-TFタンパク質分解剤の薬物動態とCNS (central nervous system) 通過、(g) EMT標的療法と既存の標準療法との最適なシーケンシングが残されている。これらの課題に対処するためには、空間的系統追跡、マルチオミクス解析、in silicoおよび動物モデル、オルガノイドを用いた機能的摂動研究が必要である。総じて、EMTを「単一プロセス」から「コンテキスト依存的な複数プログラムの連続体」として捉える本レビューのフレームワークは、抗転移療法の合理的な設計を促進する基盤となる。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は含まれない。著者らは、乳癌、膵癌、結腸直腸癌、メラノーマ、扁平上皮癌、膠芽腫など、多種多様な癌種における最近の分子生物学的、細胞生物学的、系統追跡、シングルセル解析研究、および臨床試験データを統合し、EMT状態の連続性と治療標的の可能性について整理した。
具体的には、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて、2025年9月までの関連文献を広範に検索した。検索戦略には、“epithelial-mesenchymal transition”、“EMT”、“tumor plasticity”、“metastasis”、“therapy resistance”、“immune evasion”、“EMT-TF”、“PROTAC”、“ferroptosis”、“CAR T cells” などのキーワードを組み合わせた。収集された文献は、EMTの異質性、動態、癌進行における役割、および新規治療戦略に関する最新の知見を網羅するように選定された。特に、EMT-TFの機能、EMTのハイブリッド状態、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) との相互作用、免疫回避メカニズム、およびEMTを標的とする薬剤開発に関する研究に焦点を当てた。
統計解析の妥当性評価や、個々の研究におけるCox regression (コックス比例ハザード回帰モデル) やKaplan-Meier (カプラン・マイヤー法) による生存分析の適用状況についても、引用文献に基づいて批判的に評価・統合された。細胞株を用いた研究 (例: A549、MCF-7、HEK293T)、マウスモデル (例: C57BL/6J、BALB/c、NSG [NOD/SCID/IL2rg-deficient]、NOD/SCID などの系統追跡マウス)、およびヒト患者由来の臨床データが幅広く参照されている。