• 著者: Chew Chai, Eliya Sultan, Souradeep R. Sarkar, Lihan Zhong, Dania Nanes Sarfati, Orly Gershoni-Yahalom, Christine Jacobs-Wagner, Hawa Racine Thiam, Benyamin Rosental, Bo Wang
  • Corresponding author: Benyamin Rosental (Ben Gurion University of the Negev), Bo Wang (Stanford University)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-02
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.1016/j.cell.2026.05.008

背景

細胞毒性は、病原体・異常細胞・悪性クローンを排除するための中核的免疫機能である。動物において既知の細胞毒性細胞はすべて造血系由来であり、細胞傷害性T細胞 (CTL) とナチュラルキラー (NK) 細胞は細胞接触依存性の顆粒放出機構で標的を殺傷し、好中球は活性酸素種 (ROS)・プロテアーゼ・細胞外DNAトラップ (NET) などの拡散性薬剤を展開する (Adrover et al. CancerCell 2023)。いずれのメカニズムも造血幹細胞系譜から発生するという共通点を持ち、細胞毒性がこの系譜に固有の機能であるか否かは未解明であった。

一方、哺乳類では適応免疫系のCTLがインスリン前駆体やサイログロブリンなどのホルモン過剰分泌細胞を認識して排除する「ホルモン監視」機能が知られており、その破綻が1型糖尿病や橋本甲状腺炎などの自己免疫疾患につながることが示されている (Milo et al. 2023; Korem Kohanim et al. 2020)。適応免疫を欠く基底動物においても同様のホルモン監視が行われているならば、造血系とは全く異なる系譜の細胞が関与するはずであるが、その細胞実態は未知であった。

プラナリア扁形動物 Schmidtea mediterranea は高い再生能を持ち、体内に豊富な増殖性体性幹細胞 (neoblast) を含む。neoblastは数日ごとに分裂して組織のターンオーバーと再生を支えており、哺乳類の増殖性臓器と同様にソマティック変異やホルモン不均衡のリスクにさらされている。しかしプラナリアのホルモン監視機構はT細胞が行うような分化済みホルモン分泌細胞の除去だけでなく、変異neoblastも排除しなければならないという特殊な制約がある。ここで何が機能しているのかという問いに対する分子・細胞実体が不足しており、本研究の出発点となった。

目的

本研究は、プラナリアのホルモン監視・免疫防御を担う新規細胞毒性細胞型の同定とその細胞死機構の特性解析、さらに進化的保存性の評価を目的とした。具体的には、(1) アクチビン過剰刺激によって引き起こされる炎症反応の細胞基盤を明らかにすること、(2) 新規細胞死機構ruptosisを既知の細胞死経路から機能的・分子的に区別すること、(3) 分泌性腺細胞という非造血系細胞が細胞毒性を持つ可能性を検証すること、および (4) ruptoblast様細胞の進化的分布を明らかにすることを目指した。

結果

アクチビン-2 (ACT-2) による炎症性シグナル誘発: プラナリアに組換えACT-2タンパク質 (10 μg/mL) を注射すると、3分以内に注射部位の細胞でリン酸化Smad2/3 (p-Smad2/3) が対照と比較して約3-fold以上増加し、p38-1の活性化 (p-p38-1) も誘導された (Figures 1C, 1D)。actR1/actR2のRNAiノックダウン (n=3 生物学的レプリケートを各5動物) により両シグナルが著明に低下したことで、これらがアクチビン受容体下流であることが確認された。TUNEL (TdT-mediated dUTP Nick End Labeling) 染色では注射3時間後に注射部位での細胞死が増加し、p38-1 RNAiにより抑制されたことから (Figure 1E、n=10 動物)、アクチビン過剰→p38媒介炎症という経路が実証された。

遺伝的キメラにおける爆発的炎症反応とruptoblastの発見: 無性生殖型 (A) と有性生殖型 (S) の S. mediterranea を正中線で融合させたキメラ (A:S) では、融合後14日前後 (dpf) に約40%が融合部位に病変を形成し、その後全身崩壊へ進行した (Figure 2E、n=3 独立実験)。病変形成キメラでは全身でp-Smad2/3とp-p38-1が対照 (同型融合) 比で2-4-fold顕著に上昇し (Figure 2F)、p38-1 RNAiが病変を防いだことでアクチビン-p38経路の因果性が示された。解離細胞をACT-2に曝露したex vivoアッセイでは、細胞の<3%を占めるFACSゲート集団P5において約60-70%がACT-2曝露後2-5分以内に爆発的溶解を示した (Figures 3B, 3E)。この細胞は細胞死後に周囲細胞をpropidium iodide (PI) 取り込みで殺傷し、殺傷半径は約100 μmに達した一方で顆粒拡散範囲は約30 μmに留まった (Figure 3H、n=30 ruptosisイベント解析)。PI取り込みタイミングがruptoblastからの距離に従ってべき乗則 (指数約0.7) に従うことから (Figure 3G)、拡散性殺細胞因子の超拡散的広がりが示唆された。本研究はこの爆発的細胞死を「ruptosis」、この細胞集団を「ruptoblast」と命名した。

Ruptosisは既知の細胞死・細胞毒性機構と機構的に区別される: Ruptosisは複数の検証から既知経路と異なることが示された (Figure 3J、Table S1)。細胞不透過性カルセイン染色では、完全な細胞爆発直前まで原形質膜の透過性上昇が認められず、ネクロプトーシス・自殺型NETosis・ガスダーミン媒介パイロトーシスに特徴的な段階的ポア形成を否定した (Figure 3K)。テトラメチルローダミンメチルエステル (TMRM) によるミトコンドリア電位モニタリングでは、細胞破裂前にミトコンドリア脱分極は検出されなかった (Figure 3L)。CellROX染色によりROS蓄積も認められなかった (Figure 3M)。一方、Fluo-4 AMによる細胞内Ca²⁺モニタリングでは原形質膜破裂直前に急峻なCa²⁺上昇が確認された (Figure 3N)。アポトーシス (Z-VAD-FMK/Z-DEVD-FMK)、ネクロプトーシス (ネクロスタチン-1+Z-VAD-FMK)、パイロトーシス (VX-765/Ac-YVAD-CMK カスパーゼ阻害剤)、フェロプトーシス (デフェロキサミン) 各阻害剤はいずれもruptosisに影響しなかった (Figure S4C)。既知の孔形成タンパク (perforin、saposin様タンパク質)、ネクロプトーシス (RIPK1)、パイロトーシス (ガスダーミン)、フェロプトーシス (GPX4) の機構を担う遺伝子はruptoblastで発現していなかった (Figure 4C)。これはCTLが免疫シナプスを介した接触依存性顆粒放出で標的を殺傷するメカニズム (Hammer et al. AnnuRevImmunol 2019) とも、好中球のNETosisとも明確に異なる、全く新規の細胞死経路であることを示した。

Ruptoblastの分子同定:腺・分泌系細胞であることの確認: P5細胞のscRNA-seqにより16個の転写的に異なる細胞集団が同定され、ACT-2処理サンプルで最も顕著に減少した集団はクラスター11、13、15であった (Figure 4B)。クラスター11と13は既知マーカーに基づき傍実質腺/分泌細胞として注釈された一方、クラスター15はcathepsin陽性の食食細胞であった。各集団特異的転写因子のRNAi (fer3l-1でクラスター11を、nkx2lでクラスター13を、ets-1でクラスター15を除去) のうち、fer3l-1 RNAiのみがACT-2注射部位の細胞死 (TUNEL陽性細胞数) およびp38活性化を有意に低下させた (Figures 4E, 4F)。したがってクラスター11がruptoblastであることが確定した。Ruptoblastは造血系免疫細胞マーカーを欠き、腺/分泌細胞ファミリーに属する非造血系の新規細胞毒性細胞型であることが示された。

Ruptoblastの広域細胞毒性:細菌・哺乳類細胞の殺傷: 単一ruptoblastは周囲の約45%の細菌 (E. coli、GFP消失+PI取り込みで確認) を殺傷し、GFP消失は約45秒以内に急峻に起きた (Figures 5F-5H)。哺乳類細胞との共培養実験では、ACT-2刺激後にHEK293細胞およびRAW264.7マクロファージが〜200 μm範囲で急速に死亡し、単一ruptoblastが約60-70個の標的細胞を殺傷した (Figure 6A)。RAW264.7細胞ではカスパーゼ-1活性化によるパイロトーシスが誘発され (Figure 6B)、VX-765またはAc-YVAD-CMKによる前処置で細胞死が有意に減少した (Figures 6C, 6D)。なお、ACT-2活性化を経た後のruptoblast溶解液は細胞毒性を示したが、機械的破壊 (ACT-2非活性化) による溶解液では殺細胞活性が認められなかった (Figures 6F, 6G)、これはruptosisによる毒性因子の活性化がACT-2シグナリングに依存することを示す。非ruptoblast (P4) 細胞由来上清は細胞毒性を示さず、活性は15分後に消失することから (Figures S6E, S6F)、殺細胞活性の厳密な時空間的限定性が実証された。

ER由来Ca²⁺とアクトミオシン骨格による爆発性の制御: PLC阻害剤U-73122とIP₃受容体拮抗薬Xestospongin Cの組み合わせにより細胞内Ca²⁺上昇が完全に消失し、ruptosisが完全に抑制された (Figure 7A)。これによりERがCa²⁺の一次供給源であることが確立された。細胞内Ca²⁺キレーターBAPTA-AM処置では核崩壊は進行したものの原形質膜の破裂と顆粒放出が有意に減少し (Figures 7C, 7D)、Ca²⁺がruptosisの核とは独立した細胞質コンポーネントを担当することが示された。アクチン重合阻害剤ラトランクリンA (LatA) 処置ではCa²⁺上昇が遅延・減弱し、原形質膜破裂が〜60-80秒 (対照) から〜160秒へと大幅に遅延した (Figure 7E)。ブレビスタチン (ミオシンII阻害) でも同様の緩慢な細胞膨張が観察された。高張条件 (400 mOsm/L スクロース) ではCa²⁺上昇が完全に抑制され、ruptosisが完全に阻害された (Figure 7F)。これらの結果から、アクトミオシン骨格がER由来Ca²⁺放出を急峻な高振幅スパイクへと増幅することで爆発的細胞破裂を実現するモデルが提唱された (Figure 7G)。

進化的保存性:両側動物特異的な古代免疫細胞型: fer3l-1ホモログと約30個の高発現ruptoblast遺伝子 (actR、ppib/c、sspo、galnt など) が、他のヒラムシ類・環形動物・アクール虫類 (両側動物の姉妹群) で共発現することがscRNA-seqデータを用いた比較解析で示された。一方、cnidaria (HydraNematostella)、脊椎動物、ハエ、線虫では認められなかった (Figure 7H)。このことはruptoblastが外節動物と後口動物で二次的に失われた両側動物特異的な古代免疫細胞型である可能性を示唆し、再生能を持つ動物 (Lophotrochozoa に多い) の特殊な要求に応えて進化した免疫戦略である可能性を提示した。

考察/結論

① 先行研究との違い: これまでの細胞毒性免疫学は造血系由来の細胞—CTL、NK細胞、好中球—を中心に理解が形成されてきた。これと異なり、ruptoblastは腺/分泌系という非造血系細胞型から派生し、既知の孔形成タンパク (perforin)、アポトーシス、NETosis、ネクロプトーシス、パイロトーシス、フェロプトーシスのいずれの分子機構も用いない。CTLが免疫シナプスを介した接触依存性の局所殺傷を行うのとは対照的に、ruptosisは接触非依存性で〜100 μmの広域にわたる拡散性殺傷を実現する。好中球NETosisが細胞死にDNA崩壊を伴い時間スケールが時間単位であるのと相違し、ruptosisは原形質膜破裂前にDNAトラップ形成がなく、2-5分という超高速の細胞破壊を示す。また、アクチビンは生殖や再生を制御するホルモンとして知られていたが、本研究で初めて炎症性サイトカインとして機能し得ることが示された点も従来知見との大きな相違点である。

② 新規性: 本研究はruptoblastという新規な非造血系細胞毒性細胞型と、ruptosisという新規な細胞死プログラムを初めて記載した。ruptosisはER由来Ca²⁺とアクトミオシン骨格の協調増幅という独自の機構的基盤を持ち、これまでに報告されていない細胞死の様式を定義するものである。非canonical的な殺細胞機構への関心は近年高まっており、タキサンが in vivo で非canonical的T細胞細胞毒性を誘発するという報告 (Vennin et al. CancerCell 2023) と並んで、ruptosisは免疫学的に全く異なる文脈で「非canonical」殺傷の機構的多様性をさらに拡張した。また、アクチビンが炎症性サイトカインとして機能するという新規な役割と、planaria での同種異系拒絶反応 (allorejection) の初の実証も本研究の新規貢献である。さらに、ruptoblastが両側動物全体で保存されているという発見は、脊椎動物の造血系免疫細胞とは独立した古代免疫戦略の存在を初めて明示するものであり、免疫進化の多様性に関する理解を根本的に拡張する。

③ 臨床応用: 本知見の臨床応用は直接的ではないが、ruptosisによる広域かつ非接触性の殺細胞機構は工学的細胞毒性の新たな設計原理を提供しうる。ruptoblast由来の殺細胞因子はACT-2活性化依存的に放出され、in vitroで単一ruptoblastが60-70個の哺乳類細胞を殺傷する潜在的能力を持つ。この因子の同定 (分子量30-100 kDaのタンパク質と推定) が達成されれば、病原菌や悪性腫瘍細胞を標的とする広域抗菌・殺腫瘍薬剤の開発への橋渡しが期待される。また、follistatin (fst) によるruptosis抑制は天然の「サイトカインストーム」予防機構を示すものであり、過剰炎症の制御という臨床的に重要な文脈でも意義がある。

④ 残された課題: 第一に、アクチビン-p38シグナリング、ER、細胞骨格コンポーネント、Ca²⁺調節経路がいかにして爆発的破裂を実現するかの詳細な機構は未解明であり、薬理学的阻害剤と蛍光Ca²⁺レポーターでは時空間分解能と分子特異性が不十分である。第二に、ruptosisの主要殺細胞因子の実体が不明であり、30-100 kDaのタンパク質が候補と推定されるが、活性化に翻訳後修飾 (タンパク質分解・ジスルフィド再配置など) が必要な不安定タンパク質であることが技術的な同定の障壁となっている。第三に、ruptoblast様細胞が他の底性動物でどのような機能を持つか、また進化過程での喪失・修正の分子基盤が未解明である。さらに今後の研究として、ruptoblastがどのように上流から non-self を感知してアクチビン分泌が誘発されるのか、cathepsin陽性食食細胞との細胞間連絡機構の詳細、およびruptoblastの制御不全が再生動物の病態生理にどう寄与するかの検証が必要である。

方法

モデル生物として無性生殖型 Schmidtea mediterranea (CIW4クローン系統) を使用した。ACT-2 (アクチビン-2) 組換えタンパク質 (Cusabio Cat# CSB-YP3606GOQ1) を後腸分岐間の実質組織に注射した。Western blottingにてp-Smad2/3 (Cell Signaling Technology 18338S) およびp-p38-1 (#4511S) を定量した。TUNEL染色で細胞死を評価し、BrdUパルスチェイス実験で新生ruptoblastを追跡した。遺伝的キメラ (A:S) は正中線融合プロトコルで生成し、PCR-RFLP法による遺伝子型判定と非性系統特異的RNAウイルスSmedTVの分布で細胞混合を評価した。Bulk RNA-seqはBowtie2でマッピング、DESeq2で発現解析を実施した (NCBI BioProject PRJNA1233892)。細胞解離後にCalcein UltraBlue AM染色とFSCゲーティングでFACSによりP5細胞 (<全細胞の3%) を濃縮・ソートし、scRNA-seqを実施した (PRJNA1233887); DESeq2、SoupX、Harmonyで解析。RNAiはdsRNA経口投与で実施 (fer3l-1、p38-1、act-2、nkx2l、ets-1、fst)。タイムラプス顕微鏡でruptosisの動態を記録し、CellMask (膜)、SiR-actin (F-アクチン)、SiR-DNA (核)、Fluo-4 AM (Ca²⁺インジケーター)、TMRM (テトラメチルローダミンメチルエステル、ミトコンドリア電位指示薬)、CellROX (ROS)、PI (propidium iodide) で多重標識した。薬理学的阻害剤: ホスホリパーゼC (PLC) 阻害剤U-73122、イノシトール三リン酸 (IP₃) 受容体拮抗薬Xestospongin C、細胞内Ca²⁺キレーターBAPTA-AM、アクチン重合阻害剤ラトランクリンA (LatA、Latrunculin A)、ブレビスタチン (ミオシンII阻害)、VX-765/Ac-YVAD-CMK (caspase-1阻害ペプチド)。哺乳類殺細胞アッセイ: HEK293細胞およびRAW264.7マクロファージとruptoblastを共培養しACT-2 (10 μg/mL) で刺激 (n=3 independent experiments)。細菌殺細胞: GFP発現 E. coli とruptoblastを共培養し蛍光消失+PI取り込みで評価。病原菌感染試験: Pseudomonas (0.6×10⁸ CFU/mL) への曝露と生存率モニタリング (n=10 動物/グループ)。進化解析: OrthoFinder、eggNOGデータベース、FoldseekによるFer3l-1ホモログの同定。統計: two-sided t-test (t検定)、SDをエラーバーとして表示。