- 著者: Claire Vennin, Chiara M. Cattaneo, Leontien Bosch, Serena Vegna, Xuhui Ma, Hugo G.J. Damstra, Moreno Martinovic, Efi Tsouri, Mila Ilic, Leyla Azarang, Jan R.T. van Weering, Emilia Pulver, Amber L. Zeeman, Tim Schelfhorst, Jeroen O. Lohuis, Anne C. Rios, Johanna F. Dekkers, Leila Akkari, Renee Menezes, Rene Medema, Serena R. Baglio, Anna Akhmanova, Sabine C. Linn, Simone Lemeer, Dirk M. Pegtel, Emile E. Voest, Jacco van Rheenen
- Corresponding author: Jacco van Rheenen (Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, the Netherlands)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2023
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 37311414
背景
タキサン系薬剤であるドセタキセルやパクリタキセルは、乳癌をはじめとする様々ながん化学療法において中心的な役割を担う薬剤である。しかし、これらの薬剤は末梢神経障害、好中球減少性発熱、脳症などの不可逆的な副作用を伴うことが大きな臨床的課題となっている。大規模な乳癌患者コホートを対象としたメタ解析では、タキサン系薬剤の追加による5年生存率の改善はわずか約3%に留まることが報告されており、その臨床的ベネフィットは限定的である。このことは、タキサン系薬剤の全身毒性を回避しつつ、その抗腫瘍効果を最大限に引き出すための新たな治療戦略の開発が必要であることを示唆している。
これまでのin vitro(試験管内)研究では、タキサン系薬剤の主要な作用機序は微小管の安定化による有糸分裂異常を介した細胞死であるとされてきた。しかし、in vivo(生体内)モデルや患者腫瘍組織を用いた研究では、ドセタキセル投与24時間後の有糸分裂像の増加は限定的であり、有糸分裂阻害のみではその抗腫瘍効果を十分に説明できないことが示唆されている。このことは、in vivoにおけるタキサン系薬剤の抗腫瘍効果には、有糸分裂阻害とは異なる代替的な免疫介在性メカニズムが存在する可能性を示唆しているが、その詳細な分子機序はこれまで未解明であり、大きな学術的ギャップが存在していた。特に、タキサン系薬剤がT細胞に直接作用し、その細胞傷害性を誘導する非定型的なメカニズムについては、これまで十分に解明されておらず、この知識ギャップが残されている。
著者らは先行研究であるMATADOR(Microtubule Associated Taxane ADjuvant Oncological Registry)試験において、腫瘍浸潤リンパ球であるTIL (tumor-infiltrating lymphocyte) が高値の乳癌患者においてタキサン系薬剤の追加効果が顕著であることを報告しており(Kester et al. CancerRes 2022)、免疫細胞がタキサン系薬剤のin vivo抗腫瘍効果に関与する可能性が示唆されていた。腫瘍微小環境の不均一性がタキサン系薬剤の効果における患者間差異を説明しうるものの、T細胞がタキサン系薬剤の効果を媒介する具体的な分子機序は依然として不明なままであった。これらの先行研究は、タキサン系薬剤のin vivo効果がin vitroでの微小管安定化作用だけでは説明できないこと、そして免疫細胞がその効果に深く関与していることを示唆しているが、実証データが圧倒的に不足していた。
目的
本研究の目的は、タキサン系薬剤のin vivo抗腫瘍効果におけるT細胞の役割を詳細に解明することである。特に、有糸分裂阻害に依存しない新規の分子機序、すなわちT細胞由来の細胞外小胞であるEVs (extracellular vesicles) を介する細胞傷害メカニズムを同定することを目指した。さらに、これらの知見に基づき、タキサン系薬剤の全身毒性を回避しつつ、強力な抗腫瘍効果を発揮する新規治療戦略として、ex vivo(体外)でタキサン処理したT細胞を移植する養子免疫療法の開発を目的とした。この戦略は、タキサン系薬剤の副作用を低減しつつ、その治療効果を最大化する可能性を秘めている。
結果
T細胞がドセタキセルのin vivo抗腫瘍効果を媒介: KB1P腫瘍モデルにおいて、AC単独治療はIgG対照群およびT細胞枯渇群の両方で腫瘍量を大幅に減少させたが、AC + ドセタキセル(T)治療群では、T細胞枯渇群(n=6 mice)で完全奏効が消失した(p=0.005、log-rank test)。対照群(n=6 mice)ではAC + T投与により観察期間中腫瘍が検出されない完全奏効が達成された (Figure 1C)。CD4+ T細胞単独枯渇、CD8+ T細胞単独枯渇、およびCD4+CD8+双方の枯渇のいずれによってもドセタキセルの抗腫瘍効果が消失し、in vivoでの効果発揮にはCD4+およびCD8+ T細胞の両方が必要であることが判明した (Figure 1H)。MMTV-PyMTモデルでも同様の結果が再現された。これは、Kester et al. CancerRes 2022のMATADOR試験コホートで報告された「TIL高値乳癌患者におけるタキサン系薬剤追加効果」という臨床知見の機能的な分子根拠を提供する。さらに、AC + T治療群では、対照群やAC単独治療群と比較して、腫瘍内T細胞浸潤が増加していることがフローサイトメトリー解析により示された。
ドセタキセルはがん細胞ではなくT細胞を直接活性化: 非腫瘍担癌マウス脾臓から分離したT細胞を10 nmol/Lドセタキセルで72時間前処理(T細胞生存への影響なし、微小管密度増加確認)した後、未処理のKB1Pオルガノイドと共培養すると、オルガノイドのアポトーシス率が対照T細胞と比較して有意に増加した(CC3免疫蛍光染色、n=3 biological repeats、p=0.008) (Figure 2B)。一方、ドセタキセル前処理オルガノイドと対照T細胞の共培養では、細胞死の増加は認められなかった。これは、がん細胞の免疫特性変化がタキサン系薬剤の効果に寄与しないことを示唆する。パクリタキセル処理T細胞でも同様に腫瘍オルガノイドの細胞死が増加したが、カルボプラチン処理T細胞では増加が認められず、タキサン系薬剤特異的な効果であることが示された。ヒトJurkat T細胞と患者由来乳癌オルガノイド7株中5株で同様の結果が再現され(ドセタキセル5 nmol/L)、8種のヒト癌細胞株中6種で有効性が確認された。しかし、健常上皮細胞(MEC、RPE、HEK293T)ではアポトーシス誘導は認められなかった。
ドセタキセルはTCR非依存的にT細胞の細胞傷害活性を増強: 腫瘍未経験マウス脾臓T細胞を用いた実験において、LCK阻害剤(LCKi)でTCRシグナルをブロックしても、ドセタキセル処理T細胞によるオルガノイドの細胞死は阻害されなかった (Figure 2D-G)。TCR活性化の古典的マーカー(CD25、CD69など)はドセタキセル処理T細胞で変化がなかった(n=3 independent experiments)。さらに、成熟TCRを持たないNOD-SCID Il2rg-/-マウス(n=3 mice)由来のT細胞でも、ドセタキセル処理によりKB1Pオルガノイドの細胞死が増加したことで、TCR非依存性が遺伝学的に確認された。ライブ顕微鏡観察により、T細胞がオルガノイドに直接侵入することなく細胞死が起こることが確認された。
ドセタキセルはT細胞から細胞傷害性EVsを誘導して腫瘍細胞を死滅させる: ドセタキセル処理T細胞の分泌タンパク質量は、対照T細胞よりも有意に多かった(質量分析、n=3 biological repeats) (Figure 3E)。Gene Ontology解析により、その過剰発現タンパク質が細胞外小胞(EVs)のカーゴに該当することが同定された。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)でコンディショニング培地(CM)をEV画分(最大250 nm)と可溶性画分(SF)に分離すると、EV画分のみがKB1PおよびMMTV-PyMTオルガノイドにアポトーシスを誘導した(SFでは誘導なし、p=0.0003、n=3 biological repeats) (Figure 3H-I)。連続超遠心分離法でもEV濃縮画分が腫瘍オルガノイドの細胞死を再現した。ヒトJurkat T細胞(n=118 x 10^9 cellsから精製)のEV画分を用いた実験では、最高用量でアポトーシスが25%を超える用量依存的な細胞死誘導がMDA-MB-231細胞で確認された。パクリタキセル処理Jurkat T細胞とABCB1(Pgp; P-glycoprotein)過剰発現HeLa細胞の共培養では細胞死の抑制が認められず、T細胞内でのタキサン蓄積・放出による直接効果ではないことが示唆された。
Ex vivoタキサン処理T細胞の移植で全身毒性を回避しつつin vivo抗腫瘍効果を達成: ドセタキセルでex vivo前処理したCD4+ T細胞をKB1P担癌マウス(n=4 mice)に養子移植すると、対照T細胞移植群と比較して腫瘍増殖が有意に抑制され(p<0.05)、Kaplan-Meier生存曲線で有意な生存延長を示した(p<0.05) (Figure 5C, E)。MMTV-PyMTモデルでも同様の結果が再現された (Figure 5D, F)。3Dオルガノイドが2D細胞株よりもEV感受性が高いという違いは、2D細胞がアノイキス(低接着条件でのアポトーシス)への感受性が低いことと相関しており、EVを介した細胞死がアノイキス様機序を含む可能性を示唆している (Figure 4A)。ここで、3Dオルガノイドから樹立した2D細胞株では、EVsによる細胞死誘導が3Dオルガノイドと比較して有意に減少し(p=0.010、n=3 biological repeats、約2.5-foldの感受性低下)、アノイキス耐性を獲得していることが示された。
患者由来の腫瘍反応性T細胞においてもドセタキセルはEV放出を介して細胞傷害性を増強: 非小細胞肺癌(NSCLC)患者由来の腫瘍反応性T細胞と自己腫瘍オルガノイドを用いた共培養系において、ドセタキセル処理T細胞は腫瘍オルガノイドに対する抗腫瘍能を増強したが、健常オルガノイドに対しては増強しなかった (Figure 6C-D)。さらに、患者由来の腫瘍反応性T細胞がドセタキセル処理により細胞傷害性EVsを放出することも確認された。NSCLC患者2名および結腸直腸癌(CRC)患者1名由来のT細胞から単離されたEVsは、自己腫瘍オルガノイドにアポトーシスを誘導したが(p=0.020、n=3 biological replicates)、可溶性画分(SF)では誘導されなかった (Figure 6E-G)。健常オルガノイドではEVsによるアポトーシス増加は認められなかった (Figure 6H-I)。これらの結果は、ドセタキセルが患者由来のT細胞においても、細胞傷害性EVsの放出を介して腫瘍特異的な細胞死を誘導することを示している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、数十年間「微小管安定化 → 有糸分裂異常」として理解されてきたタキサン系薬剤のin vivo作用機序を根本的に書き換え、T細胞由来の細胞傷害性細胞外小胞(EVs)がTCR非依存的に腫瘍細胞死を誘導するという全く新しいmode of actionを解明した。これは、Kester et al. CancerRes 2022のMATADOR試験で示された「TIL高値患者におけるタキサン系薬剤追加効果」の分子的根拠を提供し、タキサン系薬剤の効果における患者間差異を説明する鍵概念となる。これまでのタキサン系薬剤による免疫原性細胞死誘導、抗原提示増強、制御性T細胞除去といった既知の免疫修飾作用とは根本的に異なり、直接的なT細胞EV放出機序を新規に同定した点が特に重要である。また、タキサン投与によるがん細胞由来のEV放出が転移を促進するという既報(Keklikoglou et al. NatCellBiol 2019)とは対照的に、T細胞由来のEVsは極めて強力な抗腫瘍活性を発揮することを示した。
新規性: 本研究で初めて、タキサン系薬剤がT細胞に直接作用し、TCR非依存的に細胞傷害性EVsの放出を誘導するというメカニズムを新規に明らかにした。CD4+およびCD8+ T細胞の両方が必要である点も、一般的なCD8+細胞傷害性T細胞のみの役割という常識を覆す新規の発見である。また、健常な上皮細胞にはアポトーシスを誘導せず、腫瘍細胞を選択的に標的とする点も、これまでの報告にはない特異性を示している。さらに、EVsを介した細胞死がアノイキス感受性と相関しているという知見(Zomer et al. Cell 2015)をさらに発展させ、3Dオルガノイドと2D細胞株における感受性の違いを明確に示した。
臨床応用: 本知見の臨床応用における最大の革新はex vivo T細胞処理戦略であり、全身的なタキサン系薬剤暴露を回避することで末梢神経障害や好中球減少性発熱などの不可逆的副作用を根本的に回避できる。これにより、患者のQOLを大幅に改善し、治療継続率を高めることが期待される。Adoptive cell transfer(養子細胞移植)ベースの新規免疫療法として、CAR-T(chimeric antigen receptor T)細胞療法類似の臨床開発が可能となる。これは、既存のT細胞療法を強化し、その抗腫瘍効果を最大限に引き出す可能性を秘めている。タキサン系薬剤感受性をT細胞のTIL密度というバイオマーカーで予測するプレシジョンオンコロジーへの展開が期待され、臨床現場における治療選択に大きな影響を与える。
残された課題: 今後の検討課題として、細胞傷害性EVsの活性分子の同定と量産プロトコルの確立、患者T細胞を用いたex vivo処理臨床プロトコルの最適化(用量、期間、T細胞種)、他のタキサン系製剤や他癌種での同機構検証、Phase I臨床試験設計における安全性・効果評価が挙げられる。また、EVsの細胞傷害性とアノイキス感受性の関連性についても、さらなる研究が必要である。健常細胞がタキサン処理T細胞に反応しない理由の解明も今後の検討課題であり、これらのlimitationを克服することが今後の方向性となる。
方法
本研究では、免疫適格マウス乳癌モデルとして、K14-Cre; Brca1 fl/fl; p53 fl/flから樹立されたKB1P (Brca1/Trp53欠失) マウスモデルおよびMMTV-PyMT (mouse mammary tumor virus-Polyoma Middle T) トランスジェニックマウスを用いてin vivo治療試験を実施した。治療群はドセタキセル単独、または抗CD4/CD8抗体によるT細胞枯渇とドセタキセル併用、あるいはAC(ドキソルビシン+シクロホスファミド)±ドセタキセル(T)とした。腫瘍組織からのT細胞分離および解析にはフローサイトメトリーを用いた。
T細胞の直接的な細胞傷害性評価のため、非腫瘍担癌マウス脾臓から分離したT細胞を10 nmol/Lドセタキセルで72時間前処理した後、未処理のKB1Pオルガノイドと共培養し、アポトーシス率をCC3 (Cleaved-caspase 3) 免疫蛍光染色で評価した。ヒトの状況への関連性を検証するため、ヒトJurkat T細胞株と乳癌患者由来オルガノイド(n=7株)および8種のヒト癌細胞株(肺腺癌細胞株A549、黒色腫細胞株A375、グリオーマ細胞株U251-MG、結腸直腸癌細胞株RKO、胆管癌細胞株EGI-1、肝細胞癌細胞株HuH7、乳癌細胞株MDA-MB-231、HeLa細胞株など)との共培養実験も実施した。健常上皮細胞としてMEC (mammary epithelial cells)、RPE (retinal pigment epithelium) 細胞、HEK293T細胞も評価対象とした。
T細胞の細胞傷害メカニズムを解明するため、プロテオミクス(質量分析)を用いてドセタキセル処理T細胞の分泌メディエーターを解析した。細胞外小胞(EVs)は、サイズ排除クロマトグラフィーであるSEC (size exclusion chromatography) と連続超遠心分離の2つの方法で単離し、NanoSightを用いたナノ粒子トラッキング解析により粒子径(最大250 nm)を確認した。T細胞受容体であるTCR (T cell receptor) 非依存性を確認するため、LCK (lymphocyte cell kinase) 阻害剤であるLCKiによるTCRシグナルブロック実験、および成熟TCRを持たないNOD-SCID Il2rg-/-マウス由来T細胞を用いた遺伝学的検証を行った。
治療戦略の開発として、ドセタキセルでex vivo前処理したT細胞をKB1PおよびMMTV-PyMT担癌マウスに養子移植し、in vivoでの抗腫瘍効果と生存期間を評価した。また、2D細胞株と3DオルガノイドにおけるEV感受性の違いを比較するため、KB1PおよびMMTV-PyMTオルガノイドから2D細胞株を樹立し、アノイキス(細胞外基質から解離することで誘導されるアポトーシス)感受性とEVsによる細胞傷害性を評価した。さらに、患者由来の腫瘍反応性T細胞と自己腫瘍オルガノイドを用いた共培養系を構築し、ドセタキセル処理がT細胞の抗腫瘍能に与える影響を検証した。統計解析には、線形混合効果モデル、Mann-Whitney U test、Log-rank Mantel-Cox検定などを用いた。