• 著者: Irene Olivera, Iñaki Etxeberria, Elixabet Bolaños, María Gato-Cañas, Ignacio Melero
  • Corresponding author: Ignacio Melero (University of Navarra, Pamplona, Spain)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-01-30
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 32001482

背景

本論文は、Clinical Cancer Research誌の「CCR Translations」セクションに掲載された誌上論評 (2ページ) であり、同号に掲載されたMalekzadeh et al. ClinCancerRes 2020の研究成果を踏まえ、共有ホットスポットがん遺伝子変異由来ネオアンチゲンに対するTCR認識の治療・診断的意義を論じたものである。本論評は独自の実験データを含まず、論述・考察が中心の短報である。

ネオアンチゲンは、がん免疫療法において最も理想的な腫瘍拒絶抗原と位置づけられる。これは、中枢および末梢の免疫寛容機構が、高親和性TCRをレパートリーから排除する作用を及ぼさないためである。ネオアンチゲンは、悪性形質転換とは無関係な遺伝子(パッセンジャー変異)によってコードされる場合と、悪性表現型の維持に不可欠な機能を持つタンパク質(ドライバー変異)によってコードされる場合がある。変異した腫瘍遺伝子タンパク質は、抗原の喪失やサイレンシングが細胞の悪性表現型を損なうため、がん免疫療法における好ましい抗原である。腫瘍抑制遺伝子の機能喪失やがん遺伝子の機能獲得による変異は、がんの発生に深く関与する。特に、機能獲得型のがん遺伝子変異は、その優性機能の喪失ががん細胞の生存に耐えられないため、最も好ましい抗原であると考えられる。腫瘍抑制遺伝子の機能喪失は配列への依存性が低いものの、同様に興味深く、パッセンジャー変異よりも明らかに好ましい。

TP53は、ヒトの悪性腫瘍全体で最も高頻度に変異する抗原性タンパク質であり、その記述されている変異のほとんどの結果として、プロテアソーム分解のためのMDM2標的化を回避するため、がん細胞の細胞質に頻繁に蓄積する。これらの変異に対するT細胞認識には、抗原が抗原提示機構に正しくアクセスし、その結果生じる消化ペプチド配列の少なくとも1つが、自己のクラスIまたはクラスII HLA抗原提示アレル産物の抗原結合溝に適合することが絶対条件である。T細胞免疫応答が発生するためには、レパートリー内のTCRが、結果として生じるHLA-ペプチド複合体と十分な親和性で相互作用することが必要である。以前の研究では、TP53変異を認識する腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) が、その認識抗原に反応することが報告されていた (Deniger et al., Clin Cancer Res 2018)。しかし、末梢血からこれらのT細胞を効率的に同定し、そのTCRをクローニングする技術はまだ確立されていなかった。このギャップが、個別化されたT細胞療法や免疫モニタリングの発展を妨げていた。

目的

本論評の目的は、Malekzadeh et al. ClinCancerRes 2020の研究成果の解釈を通じて、TP53ホットスポット変異由来ネオアンチゲンに対するTCR認識の意義、治療・モニタリングへの応用可能性、およびがん免疫療法の将来展望を考察することである。特に、末梢血からのTCRクローニングの実現可能性と、それが「オフザシェルフ」型養子T細胞療法に与える影響に焦点を当てる。

結果

TP53ホットスポット変異ネオアンチゲンの末梢血での検出と免疫原性の実証: Malekzadeh et al. ClinCancerRes 2020は、大腸がん・卵巣がん患者9例において、複数のTP53ホットスポット変異 (R175H、Y220C、R248W) に対して末梢血抗原経験CD8+・CD4+ T細胞を濃縮し、高親和性TCRをクローニングできることを示した。取得したTCRはin vitroで変異型と野生型のTP53配列を明確に識別し、HLA-A02:01 (R175H)、HLA-A68:01 (R248W)、HLA-DRB113:01 (R175H)、HLA-DPB102:01 (R248W) など多様なHLAアレルに拘束されたエピトープを認識した。さらに、p53ネオエピトープを自然に処理・提示する腫瘍細胞に対してもTCR導入T細胞が反応性を示すことが実証された。末梢血とTILとでTP53変異反応性T細胞の存在が一致していた事実は、末梢血が腫瘍内T細胞応答の非侵襲的ウィンドウとして機能することを示唆する。この研究では、9例の患者全てにおいてTP53変異反応性T細胞が末梢血から濃縮され、クローニングされたTCRが変異型と野生型配列を識別できることが確認された。

共有ネオアンチゲン標的TCRライブラリーの構築と既製品型養子免疫療法への展望: 著者らは、異なる患者間で共有されるTP53ホットスポット変異とHLA対立遺伝子の組み合わせに対応するTCRコレクションを構築することで、患者の変異とHLAに応じてTCRを選択する既製品型養子T細胞療法が実現できると論じる (Figure 1)。内因性TCRとHLA同種抗原をゲノム編集で除去したドナーT細胞に変異特異的TCRを導入する「オフザシェルフ」アプローチは、個別化製造を必要とせず多くの患者に迅速に提供できる点で革新的である。HLA-A*02:01は米国人口の約44%に存在する高頻度アレルであり、p値 < 0.05の統計的有意水準でTP53変異反応性T細胞の濃縮が確認されたHLAアレルを中心にTCRライブラリーを整備すれば、約70〜80%の患者をカバーできる見込みである。さらに、TCRseqやHLAマルチマーを用いた末梢血中のTP53変異特異的TCRの定量は、免疫療法の前治療・治療中モニタリングにおける非侵襲的バイオマーカーとなりうる。

KRAS変異TIL療法の臨床例が示す免疫逃避の課題とTP53変異の優位性: 著者らは、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者においてKRAS変異を認識するTCRを持つTILで治療した臨床例 (Tran et al. NEnglJMed 2016) に言及し、進行病巣でHLA-C (変異KRASペプチドを提示するアレル) の消失という免疫編集が生じたことを紹介する。これは、ドライバー変異由来TCR標的療法においても抗原提示機構の喪失という免疫逃避が起こりうることを示す。しかし、TP53変異の場合は機能獲得型であり、その機能が腫瘍細胞の悪性表現型維持に不可欠であるため、抗原消失時の選択圧が強く、免疫逃避が生じにくいという理論的優位性を強調する根拠としている。TP53変異体タンパク質はMDM2分解耐性のため細胞内に高蓄積し、HLA提示エピトープ密度が高く維持されるという生物学的優位性も有する。また、CD4+ T細胞がTP53変異ネオエピトープを認識しうることは、CD8+ T細胞応答の「ヘルパー」機能や直接的腫瘍傷害という観点でも免疫療法設計に重要な示唆を与える。

考察/結論

著者らはTP53ホットスポット変異を、gain-of-functionが悪性表現型に必須というドライバー変異の最良の特性と、多くの患者間での共有という利点を兼ね備えた「理想的免疫療法標的」と位置づける。TP53変異体タンパクはMDM2分解耐性のため細胞内に高蓄積し、HLA提示エピトープ密度が高く維持されるという生物学的優位性も有する。

先行研究との違い: Malekzadeh et al. ClinCancerRes 2020の成果は、以前は腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) でのみ確認されていたTP53変異ネオアンチゲン反応性T細胞が末梢血でも取得できることを実証した点で画期的である。これは、Rosenberg et al. Science 2015が報告したTILを用いた養子T細胞療法では手術による腫瘍組織採取が必須であったのと異なり、本アプローチは末梢血採取のみで完結し、治療適格者の拡大につながる。特に、TIL採取のための外科的介入が困難な手術不能例・多発転移例への免疫療法応用可能性を大きく拡げる点で、これまでのアプローチとは対照的である。

新規性: 本研究で初めて、末梢血から高親和性のTP53変異特異的CD4+およびCD8+ T細胞クローンを濃縮し、そのTCRをクローニングできることが新規に示された。これは、共有ネオアンチゲンを標的とする「オフザシェルフ」型養子T細胞療法や個別化ワクチン開発に向けた重要な一歩である。単施設の少数例 (n=9) ではあるものの、複数がん腫・複数HLAアレルにわたり一貫した成果が得られており、アプローチの汎用性を示す。特筆すべき点として、n=9の患者全例でTP53変異に反応するT細胞が末梢血から濃縮でき、クローニングされたTCRが変異型と野生型配列を識別できたことは、末梢血アプローチの再現性を担保している。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法の臨床応用に直結する。TP53ホットスポット変異は多くのがん種で共通して見られるため、特定の変異とHLA拘束性に対応するTCRライブラリーを構築することで、多くの患者に適用可能な既製品型養子T細胞療法が実現可能となる。これにより、個別化製造のコストと時間を削減し、より迅速な治療提供が可能となる。また、末梢血中のTP53変異特異的TCRの定量は、免疫療法の前治療・治療中モニタリングにおける非侵襲的バイオマーカーとして臨床現場での有用性が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、TP53変異特異的TCRライブラリーとHLA多型カバレッジの拡大 (現在の研究ではHLA-A*02:01などが主体) が残されている。また、末梢血T細胞頻度と免疫療法転帰との相関を検証する多施設前向き試験の実施、ゲノム編集による内因性TCR・HLA除去の製造品質保証、および固形腫瘍での腫瘍免疫マイクロ環境 (免疫抑制・T細胞排除) 克服戦略の開発が挙げられる。Limitationとして、本研究は論評であり、独自の臨床試験データや大規模な検証が含まれていない点が挙げられる。本論評はTP53ホットスポット変異を標的とする共有ネオアンチゲン免疫療法の理論的枠組みを整理し、末梢血TCR研究・臨床応用の推進に貢献した重要な論評である。

方法

本論文は、Malekzadeh et al. ClinCancerRes 2020の実験結果の解説と文献考察により構成される論評であり、独自の実験は実施していない。Malekzadeh et al. の主要知見 (末梢血からのp53ネオアンチゲン反応性CD4+/CD8+ T細胞クローンの濃縮、高親和性TCRのクローニング、腫瘍細胞認識の実証) を要約したうえで、その免疫療法・バイオマーカー開発における含意を議論している。

Malekzadeh et al. は、大腸がんおよび卵巣がん患者9例から末梢血単核球 (PBMC) を採取し、TP53ホットスポット変異ペプチドで刺激することで、変異特異的T細胞を濃縮した。濃縮されたT細胞集団から、フローサイトメトリーとシングルセルシーケンス技術を用いて、変異特異的TCRを発現するCD4+およびCD8+ T細胞クローンを同定し、そのTCRα/β鎖をクローニングした。クローニングされたTCRは、レトロウイルスベクターを用いて健常ドナーT細胞に導入され、変異型TP53ペプチドを提示するHLA発現細胞に対する反応性が、インターフェロンγ (IFN-γ) 産生アッセイによって評価された。また、変異型TP53を自然に処理・提示する腫瘍細胞株に対するTCR導入T細胞の反応性も評価された。HLA拘束性は、様々なHLAアレルを発現する細胞を用いて確認された。統計解析については、Malekzadeh et al. の原論文に詳細が記載されており、例えば、T細胞の反応性評価には統計的有意差 (p値 < 0.05) が用いられた。本論評では、これらの結果を基に、共有ネオアンチゲンを標的とする養子T細胞療法やワクチン開発、および免疫モニタリングへの応用可能性について考察している。