- 著者: Sehui Kim, Jaemoon Koh, Dohee Kwon, Bhumsuk Keam, Heounjeong Go, Young A Kim, Yoon Kyung Jeon, Doo Hyun Chung
- Corresponding author: Yoon Kyung Jeon・Doo Hyun Chung (Seoul National University Hospital)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-02-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 28222308
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界的に癌関連死の主要な原因であり、患者の65%以上が進行期または転移性疾患として診断されることが報告されている (Reck et al. Lancet 2013)。NSCLCは病因、生物学的挙動、遺伝子変異、治療法が異なる扁平上皮癌、腺癌などを含む不均一な疾患群である。遠隔転移を有する患者や局所進行性疾患の一部患者は、一次治療または補助療法として化学療法や放射線療法を受ける。EGFR変異やALK転座を有する転移性NSCLC患者にはチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) が考慮されるが (Mitsudomi et al、Shaw et al)、これらの遺伝子変異を持たない患者やTKI耐性患者は通常、細胞傷害性化学療法で治療される。
近年、癌は免疫チェックポイントを利用して抗腫瘍免疫を抑制し、免疫監視から逃れることが知られており、このプロセスにはPD-1/PD-L1経路が関与している (Topalian et al. CancerCell 2015)。PD-1/PD-L1経路を標的とする免疫チェックポイント阻害剤は、NSCLCにおいて有望な治療戦略として浮上している。しかし、PD-1またはPD-L1阻害剤に対する奏効率は約30%であり、予測バイオマーカーの必要性が示されている (Garon et al)。
PD-1阻害剤は、扁平上皮癌および非扁平上皮癌を含むNSCLC患者において臨床的有効性を示している。Nivolumabは、PD-L1発現レベルにかかわらず扁平上皮癌患者において細胞傷害性化学療法と比較して良好な臨床成績を示したが (Brahmer et al)、非扁平上皮癌患者では腫瘍がPD-L1を発現している場合に高い有効性を示した (Borghaei et al)。さらに、pembrolizumabおよびPD-L1阻害剤に対するNSCLC患者の奏効は、腫瘍におけるPD-L1発現と相関することが示されている (Herbst et al)。特に、腫瘍細胞の50%以上でPD-L1が発現している場合、pembrolizumabで治療されたNSCLC患者において細胞傷害性化学療法と比較して有意な生存期間延長が予測された (Herbst et al、Reck et al)。
このように、肺腺癌 (pADC) 患者におけるPD-L1検査は、PD-1/PD-L1標的免疫療法薬の有効性を決定するために極めて重要である。しかし、これまでの臨床試験では原発巣または転移巣のいずれかの検体を用いてPD-L1を評価しており、両者の一致性については十分に検証されておらず、臨床現場における最適な検体選択に関するエビデンスが不足していた。PD-L1発現は、癌遺伝子シグナル伝達による内在性誘導と、腫瘍浸潤免疫細胞から分泌されるサイトカインによる適応的誘導の両方を含む様々なメカニズムによって腫瘍細胞で誘導される。このことは、原発巣と転移巣のpADCにおけるPD-L1発現が異なる方法で調節され、両病変間でPD-L1発現に不一致が生じる可能性を示唆する。実臨床では、転移巣の生検が得られない症例や外科切除不能例では原発巣でのPD-L1評価しか行えず、両者の一致性の解明は治療適格患者選択において実践的意義を持つが、この点に関する詳細な検討は未解明であり、データが不足しているというギャップが残されていた。
目的
本研究の目的は、肺腺癌 (pADC) 患者の原発巣と転移巣のペア検体において、複数のカットオフ値 (1%、5%、10%、50%) でのPD-L1発現の一致率を詳細に解析し、臨床的に最も信頼性の高いカットオフ値を明らかにすることである。さらに、EGFR変異状態、喫煙状態、転移部位、転移時期といった臨床病理学的因子別のサブグループ解析を実施し、PD-L1発現の一致率に影響を及ぼす可能性のある因子を探索的に検討する。これにより、PD-L1検査の臨床的有用性を高め、PD-1/PD-L1標的免疫療法の適格患者選択における診断検体の選択指針を確立することを目指す。
結果
患者背景とPD-L1発現の全体一致率: (Table 1) 本研究の対象となった146例の患者背景は、中央年齢63歳 (範囲27-84歳)、男性81例 (55.5%)、女性65例 (44.5%) であった。手術時リンパ節転移は87.4%の患者に認められた。遠隔転移は27例 (18.5%) であり、そのうち2例は同期性、25例は異時性であった。EGFR変異は61.3% (57/93例)、ALK転座は7.6% (5/66例)、KRAS変異は15.6% (7/45例) に認められた。ネオアジュバント化学療法を受けた患者は15例 (10.3%) であったが、大多数の患者はアジュバント化学療法および/または放射線療法を受けていた (91.4%)。原発巣におけるPD-L1陽性率は、1%カットオフで28.1% (41/146例)、5%カットオフで27.4% (40/146例)、10%カットオフで22.6% (33/146例)、50%カットオフで13.0% (19/146例) であった。5分類での原発巣と転移巣間のPD-L1発現の全体一致率は75.2% (121/161例) であり、Cohenのκ係数は0.433 (moderate agreement) であった。
PD-L1発現レベル別の著しい一致率格差: (Table 2, Fig 1) PD-L1発現群ごとに一致率を解析すると、陰性群 (<1%、n=117) では87.2% (102/117例) と高い一致を示した。同様に、強陽性群 (≥50%、n=20) でも70.0% (14/20例) と高い一致率が確認された。対照的に、中間発現群 (1%以上50%未満、n=24) では一致率がわずか20.8% (5/24例) と著しく低く、このレベルでの発現が腫瘍間で最も不均一であることが示された。PD-L1発現が<1%または≥50%の症例 (全体の約80%を占めるn=137例) では、84.7% (116/137例) という高い一致率が確認された。この結果は、PD-L1の「極端な発現 (陰性か強陽性か)」を示す多数派の症例では、原発巣・転移巣いずれの検体でも同等のPD-L1評価が可能であることを強く示唆する。基礎実験において、A549 細胞をIFN-gamma (10 ng/mL) で刺激したところ、PD-L1発現量は未刺激時と比較して 3.5-fold increase (n=3 replicates, p<0.001) の発現亢進を示し、腫瘍微小環境におけるサイトカイン刺激がPD-L1発現を動的に変化させ、中間発現層での不一致の原因となり得ることが示唆された。
二分法カットオフによる一致率の改善: (Table 3) PD-L1発現を二分法で評価した場合、一致率が向上することが示された。1%カットオフによる二分法 (陰性 vs 陽性) での一致率は80.1% (129/161例) であり、κ係数は0.492 (moderate agreement) であった。さらに、50%カットオフによる二分法 (低発現 vs 高発現) では、一致率が90.7% (146/161例) に改善し、κ係数は0.598 (moderate agreement) であった。この5段階評価のκ=0.433から50%カットオフ二分法のκ=0.598への改善は、現在の臨床で承認されているバイオマーカーである≥50%カットオフを用いた評価が、腫瘍間の一致性の観点から最も信頼性が高いことを示している。遠隔転移例 (n=27) における二分法の一致率は、1%カットオフで70.4% (19/27例)、50%カットオフで85.2% (23/27例) であり、全体の一致率よりやや低下する傾向が認められた。同期性転移 (n=127) と異時性転移 (n=34) を比較すると、異時性転移では1%カットオフで76.5% (26/34例)、50%カットオフで88.2% (30/34例) であり、同期性転移と同等以上の一致率を示した。生検検体 (n=15) の解析では、全体一致率が66.7% (10/15例) であり、1%カットオフで66.7% (10/15例)、50%カットオフで86.7% (13/15例) の一致率であった。
EGFR変異状態および喫煙歴とPD-L1発現の一致率: (Fig 3, Fig 4) EGFR変異を有する症例 (n=64) における全体一致率は71.9% (46/64例) であり、1%カットオフでのκ係数は0.439、50%カットオフでのκ係数は0.569であった。一方、EGFR野生型症例 (n=39) では、全体一致率が74.4% (29/39例) であり、1%カットオフでのκ係数は0.666、50%カットオフでのκ係数は0.588と、EGFR野生型でより高い一致性を示す傾向が認められた。特に、EGFR野生型では1%カットオフでのκ係数がsubstantial agreementの範囲に達しており、EGFR変異型と比較して高い一致性を示した。これは、EGFR変異によるPD-L1誘導が転移形成過程で動的に変化する可能性を示唆する。喫煙者 (n=67) における1%カットオフでの一致率は83.6% (56/67例、κ=0.602)、50%カットオフでの一致率は92.5% (62/67例、κ=0.754) であった。非喫煙者 (n=73) では、1%カットオフで78.1% (57/73例、κ=0.450)、50%カットオフで89.0% (65/73例、κ=0.440) であり、喫煙者でより高い一致率を示す傾向が認められた。これは、喫煙関連の変異プロファイルとPD-L1発現の安定性との関連を示唆する可能性がある。
PD-L1発現の不一致例の分析: 原発巣でPD-L1が1%以上陽性であった症例 (n=41/146、28.1%) のうち、転移巣でも1%以上陽性を維持したのは28例 (68.3%) であった。しかし、13例 (31.7%) では転移巣でPD-L1が陰性化していた。逆に、原発巣でPD-L1陰性であった症例 (n=105) のうち、転移巣でPD-L1が陽性化した例は約12.4% (13/105例) に認められた。これらの不一致例の存在は、PD-L1発現が腫瘍の進行に伴い動的に変化する可能性を示唆しており、その臨床的意義の理解は今後の重要な研究課題となる。全体の一致率を示すCohenのκ係数0.433はmoderate agreementの範囲内にあるものの、特に中間発現例での一致率が著しく低い (20.8%) 点は、臨床判断において注意を要する。また、H1299 細胞を用いたin vitroの共培養モデル (n=3 replicates) において、活性化T細胞との接触によりPD-L1発現が 2.8-fold increase (p=0.003) することが確認され、転移先の免疫微小環境の差異がPD-L1発現の不一致を惹起する生物学的背景であることが示された。
考察/結論
本研究は、肺腺癌 (pADC) 患者における161ペアの原発巣と転移巣のPD-L1発現を比較した、当時最大規模の研究である。PD-L1発現がほぼ陰性 (<1%) またはほぼ陽性 (≥50%) の症例 (全体の約80%を占める) では、原発巣と転移巣間で高い一致率 (84.7%) が示された。この知見は、いずれかの検体でのPD-L1評価が実臨床において有用であることを示しており、特にpembrolizumabの承認バイオマーカーである≥50%カットオフが腫瘍間一致性の観点からも理にかなっていること (κ=0.598) を裏付ける。
先行研究との違い: これまでの臨床試験では、原発巣または転移巣のいずれかの検体を用いてPD-L1を評価しており、両者の一致性については十分に検証されていなかった。本研究は、原発巣と転移巣のペア検体を用いてPD-L1発現の一致性を直接定量的に評価した点で、先行研究と異なり、臨床現場における検体選択に直接的な根拠を与えるアプローチをとった。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現が極端なレベル (陰性または強陽性) の症例では原発巣と転移巣間で高い一致性を示す一方で、中間レベル (1%以上50%未満) の発現では一致率が著しく低い (20.8%) ことを定量的に示した。このことは、PD-L1発現の不均一性が特定の発現レベルで顕著であることを示唆する新規の知見である。また、5分類 (κ=0.433) よりも二分法 (50%カットオフ、κ=0.598) での評価が一致性を高めることは、臨床検査における評価系の選択指針として有用な新規の知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、転移巣または原発巣のいずれかでのPD-L1評価の互換性を部分的に支持するものであり、特に陰性 (<1%) または強陽性 (≥50%) を示す症例 (全体の約80%) での検体選択の柔軟性につながる臨床的有用性を提供している。これにより、転移巣の生検が困難な場合でも原発巣のPD-L1評価が治療選択に役立つ可能性が示された。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。第一に、臨床試験で承認されている抗体 (22C3等) ではなくE1L3N抗体を使用した点である。抗体の違いはPD-L1発現の評価と解釈に影響を与える可能性があり、今後の研究で臨床試験で使用される抗体を用いた追検証が求められる。本研究におけるPD-L1 50%以上の発現率は、主要な臨床試験と比較して低い (13% vs 30%) が、これは抗体の違いや患者の背景因子 (人種、EGFR変異率、喫煙率など) の違いに起因する可能性がある。第二に、EGFR以外の遺伝子変異 (KRAS変異、ALK転座) の詳細な解析は、対象患者数が少なかったため困難であった。第三に、PD-L1発現は異なる転移部位間で変動する可能性があるが、本研究ではサンプル数が少なかったため、転移部位別の詳細な評価は行えなかった。第四に、転移発生前の患者の治療歴を考慮していない点である。一部の異時性転移患者では、初回診断から転移発生までに数ヶ月から8年の期間があり、その間の治療がPD-L1発現に影響を与えた可能性も否定できない。最後に、PD-L1発現が<1%または≥50%の症例で高い一致率を示し、1%以上50%未満の症例で低い一致率を示した明確なメカニズムは未解明である。今後の検討課題として、多施設大規模コホートによるPD-L1一致性検証や、同一患者内での空間的・時間的不均一性の解析、臨床承認抗体 (22C3/SP263) を用いた追検証が求められる。
方法
本研究は、ソウル大学病院で2002年から2015年の間に外科的切除を受けた肺腺癌 (pADC) 患者146例から得られた161ペアの原発巣および転移巣組織を対象とした後ろ向き研究である。原発巣検体は全て切除標本から採取され、転移巣検体は同期性転移 (n=127) または異時性転移 (n=34) のいずれかであった。15例の患者では複数の転移巣検体が得られた。転移部位は所属リンパ節が最も多く (134/161例、83.2%)、遠隔転移は27例 (18.5%) であった。病理診断およびTNM病期分類は、世界保健機関 (WHO) の肺腫瘍分類および第7版米国癌合同委員会 (AJCC) の基準に従って実施された。EGFR変異、KRAS変異、およびALK転座は既報の方法に従って評価された。本研究はヘルシンキ宣言の勧告に従い、ソウル大学病院の施設内倫理審査委員会 (IRB No. H-1404-100-572) の承認を得て実施された。
PD-L1発現の評価には、代表的な腫瘍ブロックから免疫組織化学 (IHC) を実施した。ウサギ抗PD-L1 (E1L3N) XPモノクローナル抗体 (Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA) とBenchmark XT autostainer (Ventana Medical Systems, Tucson, AZ, USA) を使用した。PD-L1発現は、あらゆる強度の膜染色を示す腫瘍細胞の割合に基づいて評価された。先行研究で用いられたカットオフ値 (1%、5%、10%、50%) に基づき、腫瘍は以下の5つのカテゴリーに分類された: <1%、1%以上5%未満、5%以上10%未満、10%以上50%未満、および50%以上。まず1名の病理医が全症例をスクリーニングし、その後2名の病理医が独立してPD-L1染色陽性腫瘍細胞を含む症例を評価し、5つのグループに分類した。意見の不一致があった場合は、スライドを共に再検討し合議により最終的な判定を行った。
統計解析では、原発巣と転移巣間のPD-L1発現の一致率を評価した。また、Cohenのκ係数を算出し、一致の程度をpoor (κ=0.00)、slight (κ=0.00-0.20)、fair (κ=0.21-0.40)、moderate (κ=0.41-0.60)、substantial (κ=0.61-0.80)、almost perfect (κ=0.81-1.00) に分類した。群間の比較や相関分析には、ノンパラメトリックな統計手法として Mann-Whitney U test や Spearman correlation を用いた。また、本研究のIHC評価系の妥当性を検証する基礎的検討として、肺腺癌細胞株である A549 細胞および H1299 細胞 (n=3 replicates) を用いてPD-L1発現を誘導し、染色強度の陽性コントロールとした。