- 著者: Suzanne L. Topalian, Charles G. Drake, Drew M. Pardoll
- Corresponding author: Suzanne L. Topalian (Johns Hopkins University)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-13
- Article種別: Perspective (Review)
- PMID: 25858804
背景
がん免疫療法における革命的変化は、免疫チェックポイント遮断薬の登場によって訪れた。腫瘍は多様な体細胞変異によってネオアンチゲンを生成し、免疫系による認識の標的となりうるが、同時に抑制性受容体・リガンドからなる「免疫チェックポイント経路」を利用して免疫破壊を回避する。Leach et al. (1996) は CTLA-4 (cytotoxic T lymphocyte antigen-4) 遮断がマウスモデルで腫瘍退縮を誘導することを初めて示し、以後の免疫チェックポイント遮断臨床開発の端緒を開いた。その後 Hodi et al. (2010) は抗 CTLA-4 抗体 ipilimumab が進行黒色腫患者において標準療法と比較して全生存を有意に延長することを示した第 III 相試験を報告し、2011年に FDA 承認に至った。Dong et al. (2002) は多くのヒトがんでは PD-L1 (programmed death-ligand 1; B7-H1、CD274) が上方調節されることを示し、抗 PD-1 開発の理論的根拠を提供した。
PD-1 (programmed death-1) 経路については、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL; tumor-infiltrating lymphocytes) において PD-1 が高発現することが判明し (Ahmadzadeh et al. 2009)、抗 PD-1 抗体の臨床開発が急速に進んだ。しかし、CTLA-4 と PD-1 の作用機構の違いや、両者以外の多数の次世代チェックポイント分子 (LAG-3、TIM-3、TIGIT 等) の臨床展開・バイオマーカー戦略・組合せ療法については体系的な整理が手薄であり未解明の部分も多く、臨床医・研究者が全体像を把握するための統合的レビューが不足していた。本 Perspective は、この分野の急速な進展を「共通分母 (common denominator)」という概念的フレームで整理し、複数の異なるがん種にわたる免疫チェックポイント遮断の統一的理解を提供することを目的としている。
目的
CTLA-4 および PD-1/PD-L1 チェックポイント経路の生物学的基盤を詳説するとともに、主要な抗チェックポイント薬の臨床データを整理し、次世代チェックポイント分子 (LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTA、IDO 等) の初期臨床開発状況・バイオマーカー研究・組合せ療法の展望を統合的にまとめることを目的とする。
結果
CTLA-4 経路の生物学的基盤: CTLA-4 は CD28 と同じリガンド (CD80/B7.1・CD86/B7.2) を共有するが、CD28 より高い親和性でこれらリガンドと結合するため、活性化 T 細胞上での発現上昇が CD28 共刺激を競合的に抑制する。CTLA-4 は加えて「trans-endocytosis」を介して抗原提示細胞 (APC; antigen-presenting cells) 上の CD80/CD86 を枯渇させることでも機能する (Fig. 1)。PD-1 とは異なり、CTLA-4 は主に二次リンパ組織における T 細胞活性化フェーズで作用し、また制御性 T 細胞 (Treg) の抑制機能を強化することで腫瘍内免疫応答を間接的に制御する。CTLA-4 ノックアウトマウスでは急速に致死的な全身免疫過活性化を呈し、この分子の自己寛容維持における中心的役割を実証している (Tivol et al. 1995)。
ipilimumab の臨床成績と irAE: ipilimumab (fully human IgG1; 抗 CTLA-4 mAb) は 2 件の Phase III 試験に基づき 2011 年に米国・欧州で進行黒色腫の治療として承認された (Hodi et al. 2010; Robert et al. 2011)。Phase II/III 試験 1,861 例のプール解析では、ipilimumab 投与患者の約20% に持続的生存 (一部では 10 年以上) が観察された (Schadendorf et al. 2015)。この持続的生存率は腫瘍縮小 (CR+PR) の観察頻度 (約10%) の約 2 倍であり、免疫介在性の特異な応答パターンを反映している。irAE (immune-related adverse events; 免疫関連有害事象) は抗 CTLA-4 投与患者の15〜30% で重篤 (Grade 3-4) となり、消化管・皮膚・内分泌腺に炎症を呈した。mCRPC (去勢抵抗性前立腺がん) の Phase III 試験では ipilimumab vs プラセボ (n=799) で中央値 OS 11.2 ヵ月 vs 10.0 ヵ月 (p=0.053) と主要エンドポイントを未達成であった (Kwon et al. 2014) (Fig. 2)。
PD-1 経路の生物学的基盤と作用機序: PD-1 は活性化 T 細胞・NK 細胞上に発現し、2 つのリガンド PD-L1 (B7-H1) と PD-L2 (B7-DC) と結合する。両リガンドは 37% の配列相同性を持ち、遺伝子重複に由来する。PD-L1 は IFN-γ (interferon-γ) によって活性化造血細胞・上皮細胞に誘導され、PD-L2 は主に DC と一部マクロファージに IL-4 依存的に発現する。CTLA-4 と異なり、PD-1 は主に腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) において効果を発揮し、TIL の「疲弊 (exhaustion)」を誘導することで抗腫瘍免疫を制限する (Fig. 2)。
PD-L1 の腫瘍での発現亢進には 2 つのメカニズムが存在する: (1) 内因性免疫抵抗 (intrinsic resistance): AKT 経路・STAT3 活性化や遺伝子増幅 (例: ホジキンリンパ腫の 9p23-24 増幅、縦隔原発 B 細胞リンパ腫の 9p24.1 遺伝子座増幅・転座) による PD-L1/PD-L2 の恒常的発現、(2) 適応的免疫抵抗 (adaptive resistance): 免疫系の攻撃を「感知」した腫瘍細胞が IFN-γ に応答して PD-L1 を適応的に誘導するメカニズム。後者は TIL 浸潤・PD-L1 発現・IFN-γ の間の有意な相関として観察され (Taube et al. 2012; Spranger et al. 2013)、IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase; インドールアミン 2,3-ジオキシゲナーゼ) などの他の抑制分子も IFN-γ により協調して上方調節される。
抗 PD-1/PD-L1 療法の多癌種臨床成績: Topalian et al. NEnglJMed 2012 の先駆的 Phase I/II 試験 (nivolumab 多癌種) は、進行治療抵抗性 NSCLC (ORR 17%、n=129)、RCC (腎細胞がん; ORR 27%、n=34)、黒色腫 (ORR 31%、n=107) という多癌種にわたる応答を初めて実証した。重要なことに、応答は非常に持続的であり、薬剤中止後も継続する例が多く、長期追跡での OS はそれぞれ 9.9 ヵ月・22.4 ヵ月・16.8 ヵ月であった。Phase III 試験では nivolumab が進行黒色腫の一次治療として標準化学療法に対し優越性を示した (Robert et al. 2015)。Brahmer et al. NEnglJMed 2015 は扁平上皮 NSCLC における CheckMate-017 試験 (nivolumab vs docetaxel) でニボルマブの OS 有意延長を報告し (HR 0.59, 95% CI 0.44-0.79, p<0.001)、FDA はこの適応で承認した。Borghaei et al. NEnglJMed 2015 も CheckMate-057 試験で非扁平上皮 NSCLC の OS 優越性を示した (HR 0.73, 95% CI 0.59-0.89, p=0.002)。Brahmer et al. NEnglJMed 2012 は抗 PD-L1 抗体の Phase I 試験でも NSCLC・黒色腫・RCC・卵巣がん等での応答を報告した (Fig. 2)。
抗 PD-1 vs 抗 CTLA-4: 毒性プロファイルの比較: 抗 CTLA-4 薬と比較して、抗 PD-1/PD-L1 薬は腫瘍選択性が高く毒性が低い。PD-1 ノックアウトマウスは後期発症の臓器特異的炎症という軽微な表現型を示すにとどまり (Nishimura et al. 1999, 2001)、CTLA-4 ノックアウトのような急速致死的過活性化とは対照的である。また臨床的に PD-1 阻害薬関連 irAE は一般に抗 CTLA-4 と比較して軽微かつ頻度低く、外来設定での投与が可能である。
次世代チェックポイント分子の臨床開発: CTLA-4・PD-1 遮断の成功を受け、複数の新規チェックポイント分子が臨床開発に入った (Fig. 1, Fig. 2)。これらの次世代チェックポイント分子は TME における多様な免疫抑制回路を代表しており、TIL 上で PD-1 と共発現することで T 細胞疲弊表現型をさらに深化させる。固形腫瘍患者の約 60〜80% は抗 PD-1 単剤では奏効せず、この非応答患者層への対処として各次世代チェックポイントと抗 PD-1 の組合せ遮断が前臨床・臨床双方で探索されている。
LAG-3 (lymphocyte activation gene-3; CD223):活性化 T 細胞・NK 細胞・B 細胞・形質細胞様 DC に発現し、MHC クラス II をリガンドとする。LAG-3 と PD-1 のダブルノックアウトマウスは多臓器リンパ球浸潤と早死を呈し (Woo et al. 2012)、LAG-3/PD-1 二重遮断は複数のマウス腫瘍モデルで PD-1 単剤遮断を上回る腫瘍拒絶率を示した。抗 LAG-3 mAb は Phase I 試験 (NCT01968109) に参入し、抗 PD-1 との組合せコホートを含む多段階設計で進行中。
KIR (killer cell immunoglobulin-like receptors):NK 細胞上に発現し、特定の HLA クラス I アレルと結合して NK 細胞の殺傷活性を抑制する阻害性受容体群。骨髄移植でドナー NK 細胞が宿主 KIR リガンドによる抑制を回避できる「KIR 不一致」条件では、AML の再発率が有意に低下し OS 改善が示された。抗 KIR mAb (lirilumab) が Phase I で AML 対象に完了し、抗 PD-1 (nivolumab、NCT01714739) および抗 CTLA-4 (ipilimumab、NCT01750580) との組合せ Phase I/II 試験が進行中。
TIM-3 (T cell immunoglobulin and mucin domain-3):活性化 T 細胞・NK 細胞・単球に発現し、galectin-9 をリガンドとする。多くの TIL において PD-1 と共発現し、より「疲弊した」表現型 (IFN-γ・IL-2・TNF-α 産生↓) と関連する。TIM-3/PD-1 二重遮断が CT26・4T1・B16 の 3 種のマウス腫瘍モデルで有効性を示し、単剤遮断より統計的に有意な腫瘍拒絶率の改善が認められた (Sakuishi et al. 2010)。
TIGIT:ITIM (immunoreceptor tyrosine inhibitory motif) ドメインを持ち、PVR (poliovirus receptor; ポリオウイルス受容体) をリガンドとする阻害性受容体。PVR は共刺激受容体 CD226 にも結合するため、TIGIT/PVR→免疫抑制 vs CD226/PVR→免疫活性化の拮抗が TME の免疫応答を制御する。TIGIT は腫瘍浸潤 CD8+ T 細胞の >50% に発現し、PD-1 との共発現が疲弊を深化させる。TIGIT/PD-L1 二重遮断が腫瘍モデルで相加的抗腫瘍効果を発揮し、PD-L1 単剤と比較して腫瘍縮小率の有意な改善が示された。
IDO:IDO は前述のとおりトリプトファンをキヌレニンへ代謝して局所 T 細胞機能を抑制し Treg 分化を促進する代謝酵素で、IFN-γ によって協調的に誘導されるため適応的免疫抵抗の一翼を担う。腫瘍内 IDO 過活性は PD-L1 発現と共に免疫荒廃 TME を形成する。IDO 阻害薬 INCB024360 (epacadostat) および NLG919 が Phase I 試験に参入し、化学療法との組合せの忍容性と初期有効性の示唆が示された (Soliman et al. 2014)。
バイオマーカーと組合せ療法: 腫瘍組織が応答予測バイオマーカーの主な探索場所となっている。PD-L1 の IHC (免疫組織化学) 発現と抗 PD-1 応答の相関が複数の試験で確認され (Brahmer et al. 2010; Topalian et al. 2012)、浸潤免疫細胞の PD-L1 発現や CD8+ TIL の存在・分布も重要な予測因子として研究が進む (Herbst et al. 2014; Tumeh et al. 2014)。また高い腫瘍変異量 (mutational load) を持つ黒色腫が抗 CTLA-4 への応答率が高い傾向があり (Snyder et al. 2014)、変異由来ネオアンチゲンが免疫認識の標的として重要である可能性が支持されている。組合せ療法では、ipilimumab + nivolumab (抗 CTLA-4 + 抗 PD-1) の黒色腫 Phase I/II 試験が早期の顕著な腫瘍縮小を示したが、irAE も増幅した (Wolchok et al. 2013)。正の抗腫瘍免疫応答を駆動する治療 (ワクチン、腫瘍内免疫活性化剤、共刺激受容体アゴニスト) は適応的チェックポイント (PD-L1 等) の誘導を増幅することから、抗 PD-1 との組合せで相乗効果が期待され、動物モデルで実証されている (Fu et al. 2014)。
考察/結論
① 先行研究との違い: 従来の腫瘍免疫研究は個別のネオアンチゲン・変異を標的とするアプローチ (personalized mutation-based therapy) が主流であったが、本 Perspective はこれとは対照的に、免疫チェックポイント遮断が腫瘍型を問わず広範な患者に適用可能な「共通分母 (common denominator)」的アプローチであると論じる点で際立っている。またCTLA-4 と PD-1 は類似の免疫チェックポイントとして扱われることもあるが、本論文は表現パターン・シグナル経路・作用部位 (リンパ節 vs TME) の違いを明確に整理し、各薬剤の毒性プロファイル・応答パターン・臨床適応の差異を体系化した点でこれまでにない統合的視点を提示している。
② 新規性: 本論文が新規に提示した主要概念は「適応的免疫抵抗 (adaptive immune resistance)」の理論的整理と「共通分母」フレームである。PD-L1 が腫瘍に対する免疫攻撃を「感知」して適応的に誘導されるという機序は、腫瘍ワクチン等の正の免疫活性化剤と抗 PD-1 の組合せが相乗効果をもたらすという画期的な治療戦略に直結する。本研究で初めて体系化されたのは、(a) LAG-3/TIM-3/TIGIT/KIR/B7-H3/VISTA/IDO という 7 種類の次世代チェックポイント分子の生物学的特性と臨床開発状況の一覧整理、(b) 各分子が PD-1 と協調して疲弊表現型を形成するという共通原理の提示、である。
③ 臨床応用: 本レビューは複数の臨床的含意を提示する。第一に、免疫チェックポイント遮断は「個別変異標的療法」に代わる腫瘍横断的な治療戦略として位置付けられ、PD-1 遮断が NSCLC・RCC・黒色腫など多様な固形腫瘍で有効であることが示された。第二に、抗 PD-1 治療のバイオマーカーとして腫瘍組織の PD-L1 IHC 発現・CD8+ TIL・腫瘍変異量が有望であるが、感度・特異度の向上のため複数のバイオマーカーを組み合わせた評価法の確立が臨床課題として残る。第三に、irAE の新カテゴリー (腸管・皮膚・内分泌腺の炎症) の管理アルゴリズムの確立が必要であり、抗 CTLA-4 では重篤 irAE が 15〜30% と高頻度であることが示されている。
④ 残された課題: 本レビューが提示する今後の研究方向性は多岐にわたる: (1) 抗 PD-1/PD-L1 単剤で客観的応答を得られない多数の患者への対策として、次世代チェックポイント (LAG-3・TIM-3・TIGIT等) との組合せ遮断の臨床的有効性を検証する無作為化試験が不可欠、(2) 腫瘍変異量・PD-L1 発現・TIL 分布・IFN-γ シグネチャーを組み合わせたより感度・特異度の高いバイオマーカーの同定が今後の課題、(3) immune-related response criteria (irRC) のさらなる標準化と個別患者管理への適用、(4) 「免疫関連応答 (initial progression followed by delayed regression)」現象の生物学的機序の解明が残された課題である。
方法
該当なし (Perspective Review)。PubMedをはじめとする文献データベースで収集された基礎・前臨床・臨床試験の報告を体系的に引用・合成した文献レビューである。Table 1 に PD-1 または PD-L1 を遮断する薬剤の一覧 (isotype、Fc modification、会社、臨床試験フェーズ) を掲載し、臨床試験は通常の RECIST 基準に加え immune-related response criteria (irRC) での評価も考慮している。Log-rank 検定・Cox 比例ハザード解析が主要な臨床試験で採用されており、ORR (objective response rate)、OS (overall survival)、PFS (progression-free survival) が主要評価指標として用いられている。本 Perspective が参照する臨床試験の登録規模は最小 n=34 (RCC コホート) から最大 n=1,861 (ipilimumab Phase II/III プール解析) にわたる。