• 著者: Martin Reck, David F Heigener, Tony Mok, Jean-Charles Soria, Klaus F Rabe
  • Corresponding author: Martin Reck (LungenClinic Grosshansdorf, Germany)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2013
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 23972814

背景

2008年における全世界の肺がん新規発症数は160万例であり、これは同年の全がん発症数の13%を占めた。さらに同年の死亡数は140万例に達し、全がん死亡の18%を占めるという極めて深刻な状況であった。2010年には死亡数が150万例へとさらに増加し、全がん死亡の19%に達したと報告されている。非小細胞肺癌 (NSCLC) は全肺がんの約80%を占め、その65%以上の患者が診断時にすでに局所進行または遠隔転移を有する状態で発見される。1990年代後半までの進行肺がん治療は、組織型に関わらずプラチナ製剤ベースの併用化学療法が一律に行われており、その後の治療選択肢は極めて限定されていた。第三世代細胞毒性薬(ゲムシタビン、ビノレルビン、ドセタキセル、パクリタキセル)の導入により、臨床試験における全生存期間 (OS) の中央値は8ヵ月から12ヵ月以上へと改善したものの、2002年にはCarney氏が「従来の化学療法ではこれ以上の効果向上は見込めない」と指摘し、治療効果の頭打ち(プラトー)が広く認識されるようになった。しかし、その後、EGFR遺伝子変異やEML4-ALK融合遺伝子などのドライバー変異の発見と、それらを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の開発が肺がん治療のパラダイムを一変させた Lynch et al. NEnglJMed 2004Paez et al. Science 2004。これらの遺伝子変異は、特に非喫煙者の腺癌で高頻度に認められ、NSCLCの生物学的特性と薬剤感受性を決定する重要な因子であることが明らかになった。

しかしながら、2013年当時、実臨床における分子検査の標準的な運用フローや、TKIに対する獲得耐性メカニズムの体系的な分類は未解明な部分が多く、治療選択におけるcontroversialな議論が続いていた。また、早期がんに対する鏡視下手術や体幹部定位放射線治療の長期予後データ、さらに局所進行期における同時化学放射線療法の至適レジメンに関するエビデンスは未確立であり、包括的な治療ガイドラインの策定に向けた情報が不足していた。特に、有効な標的遺伝子を持たない患者群への対応や、新規免疫療法の臨床的位置づけについては、十分なデータが整理されておらず、臨床現場における意思決定を支える体系的レビューが決定的に不足しているという課題が残されていた。本論文は、これらの重要な学術的・臨床的ギャップを埋めるため、診断、病期分類、および治療における最新の進歩を包括的に整理・総括したものである。

目的

本レビューは、NSCLCの診断、病期分類、外科的治療、補助化学療法、局所進行期治療、および転移性NSCLC治療(化学療法、維持療法、組織型依存治療、EGFR-TKI、ALK阻害薬)の各分野における2013年時点の最新の発展を包括的に概括する。さらに、患者個々のバイオマーカーや組織型に基づく個別化治療 (personalised therapy) の概念を整理し、実臨床における具体的な治療アルゴリズムを提示するとともに、獲得耐性克服や免疫療法などの次世代治療に向けた臨床的展望を明らかにすることを目的とする。

結果

超音波内視鏡による縦隔病期分類の向上: FDG-PETは、縦隔リンパ節病変および遠隔転移の検出において高い価値を持つことが示された。その感度は68-100%と幅があるものの、陰性的中率が高く、陽性所見の場合には組織学的確認が必須である。縦隔病期分類における最も重要な進歩は、EUS (endoscopic ultrasound: 内視鏡的超音波検査) と EBUS (endobronchial ultrasound: 気管支内超音波検査) の導入と普及である。これらの技術は高い感度と特異性を示し、特にEUSとEBUSの組み合わせは、従来の縦隔鏡検査に匹敵する陽性的中率を有し、将来的な次世代の金標準として期待された (Fig 2)。未検出の縦隔転移がNSCLC患者の最大28%に存在するという背景から、これらの非侵襲的かつ正確な縦隔病期分類法の確立は、適切な治療計画の立案に不可欠である。

早期NSCLCにおける外科治療とSBRTの選択: 医学的に手術可能な早期 (Stage I・II) NSCLC患者に対する標準治療は依然として手術である。しかし、医学的に手術不能な患者に対しては、体幹部定位放射線治療であるSBRT (stereotactic body radiotherapy) が有効かつ忍容性の高い代替治療として確立された。VATS (video-assisted thoracoscopic surgery: 胸腔鏡下手術) は開胸手術と比較して低侵襲であり、回復期間が短いことが複数のデータシリーズで示された。VATSと開胸手術を直接比較する前向きランダム化試験は当時存在しなかったものの、腫瘍学的転帰は同等であることが一貫して報告された。術中の縦隔リンパ節の系統的評価は、正確な術後病期分類と治療計画のために必須であり、コンセンサス会議によってその基準が定義された。

術後補助化学療法の生存ベネフィット: プラチナ製剤ベースの補助化学療法は、複数の大規模メタ解析によってその有効性が確認された。LACEメタ解析 Pignon et al. JClinOncol 2008 では、5年生存率が4.0%向上し、全生存期間の有意な改善 (HR 0.86, 95% CI 0.81-0.91, p<0.001) が示され、主にStage IIおよびIIIの患者で効果が認められた。一方、Stage Iの患者を対象としたCALGB 9633試験 (n=344) では、パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法による有意な生存ベネフィットは示されなかった。日本では、経口フッ化ピリミジン系薬剤であるテガフール・ウラシルが補助化学療法として広く用いられ、6試験のメタ解析で有意な全生存期間の改善 (HR 0.74, 95% CI 0.61-0.88, p<0.001) が報告された。術前化学療法も全生存期間に有意な効果 (HR 0.84, 95% CI 0.77-0.92, p<0.001) を示した。

局所進行期における同時化学放射線療法の標準化: 化学放射線療法がStage III NSCLC治療の基盤であり、化学療法単独と比較して全生存期間を有意に改善することがメタ解析で示された (HR 0.89, 95% CI 0.81-0.98, p=0.017)。さらに、同時化学放射線療法は逐次療法よりも優れており (HR 0.84, 95% CI 0.74-0.95, p=0.004)、毒性増加を許容できる患者には同時投与が標準治療となった。Stage IIIにおける手術の役割については議論が継続しており、van Meerbeeck試験 (n=579) とAlbain試験 (n=396) の結果から、手術と化学放射線療法の全生存期間は同等であることが示された。しかし、Albain試験の探索的解析では、肺葉切除を受けた患者の転帰が化学放射線療法単独よりも有意に良好である可能性が示唆された。

転移性NSCLCに対するプラチナ製剤と維持療法: 転移性NSCLCに対する化学療法は、16試験のメタ解析により全生存期間を有意に改善することが確立された (HR 0.77, 95% CI 0.71-0.83, p<0.001)。これにより、1年生存率が20%から29%へ向上した。プラチナ製剤ベースのダブレット療法が標準であり、カルボプラチンと比較してシスプラチンが奏効率 (HR 1.37, 95% CI 1.16-1.61, p<0.001) と生存期間 (HR 1.12, 95% CI 1.01-1.23, p=0.03) で優れるが、毒性が高いことが示された Schiller et al. NEnglJMed 2002 (Table 1)。維持療法については、ペメトレキセド (PFS HR 0.50, 95% CI 0.42-0.61, p<0.001; OS HR 0.79, 95% CI 0.65-0.95, p=0.012) やエルロチニブ (PFS HR 0.71, 95% CI 0.62-0.82, p<0.001; OS HR 0.81, 95% CI 0.70-0.95, p=0.008) によるスイッチ維持療法が有意な効果を示した。

組織型および遺伝子変異に基づく個別化治療: ペメトレキセドとベバシズマブの有効性は非扁平上皮癌に限定されることが確立された Scagliotti et al. JClinOncol 2008。ベバシズマブは非扁平上皮癌においてPFS (HR 0.72, 95% CI 0.66-0.79, p<0.001) とOS (HR 0.90, 95% CI 0.81-0.99, p=0.03) を改善したが、扁平上皮癌では致死的出血のリスクが高く、使用が制限された Sandler et al. NEnglJMed 2006 Ferrara et al. NatRevDrugDiscov 2004。 EGFR変異陽性NSCLCに対しては、IPASS試験のサブグループ解析により、ゲフィチニブが化学療法よりも有意にPFSを改善することが示され (HR 0.48, 95% CI 0.36-0.64, p<0.001)、EGFR変異がTKI治療の予測バイオマーカーとして確立された Mok et al. NEnglJMed 2009。その後、大規模ランダム化比較試験でも同様の腫瘍応答率とPFS改善が確認された Rosell et al. LancetOncol 2012 Maemondo et al. NEnglJMed 2010。 EML4-ALK転座陽性NSCLCに対しては、クリゾチニブのランダム化第3相試験 (PROFILE 1007, n=347) で、化学療法と比較して有意な腫瘍応答率とPFS延長 (7.7ヵ月 vs 3.0ヵ月, HR 0.49, 95% CI 0.37-0.64, p<0.001) が示された Shaw et al. NEnglJMed 2013 (Fig 3, Table 2)。

獲得耐性克服と免疫療法の新たな展望: EGFR-TKIに対する獲得耐性の主要なメカニズムは、T790M変異やMET増幅などのバイパス経路の活性化であることが特定され、第3世代EGFR-TKIや抗体薬の開発が進められた。ALK陽性NSCLCのクリゾチニブ耐性には、ALK遺伝子変異やEGFR・KRASなどのバイパス経路の活性化が関与し、第2世代ALK阻害薬が開発中であった。免疫療法については、抗原依存性および非依存性免疫療法の臨床試験が進行中であることが言及された。特に、抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体による免疫チェックポイント阻害療法が、前治療歴のある患者で印象的な奏効率を示すことが報告され Topalian et al. NEnglJMed 2012 Brahmer et al. NEnglJMed 2012、複数の第3相試験で検証が進められていた。

考察/結論

本レビューは、2013年時点におけるNSCLC管理の包括的な現状を提示し、複数の重要な転換点を明確に示した。

先行研究との違い: 従来のNSCLC治療が主に組織型のみに基づいて行われ、一律のプラチナ製剤ベースの化学療法が適用されていたのとは対照的に、本レビューはEGFR変異やEML4-ALK転座などの分子プロファイルに基づいて治療を選択する「個別化医療」への本格的な移行を強調している。このアプローチは、患者個々の遺伝子背景を治療選択に反映させる点で、これまでの治療パラダイムと大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、特定のドライバー遺伝子変異(EGFR変異やALK融合遺伝子)を有するNSCLCが「oncogene addicted lung cancer」という独立した生物学的・臨床的エンティティとして定義され、それぞれに対応する特異的TKI(ゲフィチニブ、エルロチニブ、クリゾチニブ)を第一選択薬として位置づける妥当性が包括的に示された。これは、従来の細胞毒性抗がん剤による治療限界を打破する新規性の高い概念である。

臨床応用: 本知見は、日常の臨床現場における意思決定プロセスに直接的な臨床応用をもたらした。具体的には、進行非扁平上皮NSCLC患者の診断時において、EGFR変異検査およびALK融合遺伝子検査の実施が必須となり、陽性例に対しては第一選択治療として分子標的薬を投与するフローが確立された。また、組織型に応じたペメトレキセドやベバシズマブの使い分け、および維持療法の導入も、臨床的有用性を最大化するための標準治療として定着した。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に分子標的薬に対する獲得耐性(EGFR T790M変異やMET増幅など)の克服に向けた次世代薬の開発が挙げられる。第二に、扁平上皮癌やKRAS変異陽性例など、未だ有効な分子標的治療が存在しない患者群に対する新規治療戦略の確立が必要である。第三に、免疫チェックポイント阻害薬の最適なバイオマーカー選定と、臨床現場における最適な使用順序の解明が、今後の重要な研究方向性として残されている。

方法

本レビューにおける文献検索は、Cochrane Library、Medline (PubMed)、Clinicaltrials.gov、ASCO.org、ESMO.org、IASLC.org、およびGoogle Scholarを対象データベースとして実施された。検索キーワードには、「Non-small cell lung cancer」または「lung cancer」を基本とし、これに「epidemiology」、「survival」、「prognosis」、「biomarker」、「predictor」、「staging」、「mediastinoscopy」、「endoscopic ultrasound」、「positron-emission tomography (PET-CT)」、「adjuvant therapy」、「chemotherapy」、「radiation」、「radiotherapy」、「targeted therapy」などの専門用語を組み合わせて検索を行った。検索対象期間は直近5年間(2008年〜2013年)に発表された文献を中心に設定されたが、当該分野の発展において極めて重要な意義を持つ古典的な文献や大規模臨床試験も除外せずに対象に含めた。

著者らは、検索によって得られた関連論文を精査し、その結果に基づいて本レビューを記述した。本レビューは、既存のランダム化比較試験 (RCT) データ、メタアナリシス、学会ガイドライン、およびレビュー記事を統合し、エビデンスレベルの高い情報を優先的に採用した。特定の統計解析手法やPRISMAフローチャートは使用していないが、各治療モダリティの有効性と安全性に関する主要な臨床試験の結果を詳細に評価した。例えば、全生存期間 (OS) や無増悪生存期間 (PFS) の比較には、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (95% CI) が用いられ、その統計的有意性はCox regression (コックス比例ハザード回帰モデル) やKaplan-Meier (カプラン・マイヤー法) に基づくログランクテスト (log-rank test) で評価された。エビデンスの質は主にランダム化比較試験の結果に基づいて評価され、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムに準拠した形式で各推奨の強度が考慮された。