• 著者: Jean-Christophe Beltra, Sasikanth Manne, Mohamed S. Abdel-Hakeem, Makoto Kurachi, Josephine R. Giles, Zeyu Chen, Valentina Casella, Shin Foong Ngiow, Omar Khan, Yinghui Jane Huang, Patrick Yan, Kito Nzingha, Wei Xu, Ravi K. Amaravadi, Xiaowei Xu, Giorgos C. Karakousis, Tara C. Mitchell, Lynn M. Schuchter, Alexander C. Huang, E. John Wherry
  • Corresponding author: E. John Wherry (University of Pennsylvania, Philadelphia)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-04-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32396847

背景

CD8+ T 細胞疲弊 (exhaustion) はがん免疫療法 (cancer immunotherapy) の主要な障壁であり、PD-1 (Programmed cell Death-1) 経路ブロッケードへの応答は疲弊 T 細胞 (Tex、exhausted T cells) のサブセット分布に依存することが示唆されていた (Topalian et al. NEnglJMed 2012)。先行研究では Tex 集団は PD-1 発現レベル (PD-1 int vs PD-1 hi) や転写因子 TCF1 (T cell factor 1) の有無により二段階または三段階の階層として捉えられていた (Im et al. Immunity 2016Miller et al. Nature 2019)。しかし異なる研究間でマーカーの不一致があり、Tex の完全な発生生物学は 未解明 であった。特に Tox (HMG タンパク質、High Mobility Group protein) が Tex の疲弊特異的エピゲノム景観を確立することは知られていた (Khan et al. Nature 2019Alfei et al. Nature 2019) が、Tex 確立後における Tox の役割は 不明 であった。さらに PD-1 ブロッケードは既存の転写回路を一時的に活性化するが長期的なエピゲノム再プログラミングをもたらさないという重要な臨床的限界 (Pauken 2016) が指摘されており、疲弊 Tex のどのサブセットが PD-1 軸阻害に応答するかを細胞解像度で定義することが、ICI (immune checkpoint inhibitor) 効果改善の必須要件として残された gap であった。

目的

慢性 LCMV (Lymphocytic Choriomeningitis Virus) clone 13 感染マウスモデルとマウス B16 腫瘍・ヒト黒色腫 TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 解析を組み合わせ、Tex 細胞の完全な発生階層を定義し、各サブセット間の移行を支配する転写・エピゲノム制御機構を解明する。

結果

Ly108 と CD69 の 2 マーカー組み合わせで 4 種 Tex サブセットを同定し、マウス・ヒト腫瘍で汎種間保存性を確認:慢性 LCMV clone 13 感染マウス CD8+ T 細胞 (n=8 mice/time point、d30pi) で、まず PD-1 int と PD-1 hi の 2 集団に分け、TCF1 発現で PD-1 int TCF1+・PD-1 int TCF1-・PD-1 hi TCF1- の 3 段階に細分化した (Fig 1A)。PD-1 int TCF1- 細胞が PD-1 hi または PD-1 int TCF1+ より高頻度 (約2倍以上) で in vivo 増殖兆候 (Ki67+ 約60%) を示した (Fig 1B)。CD69 が PD-1 int TCF1- (CD69-) と PD-1 hi (CD69+) を区別し、CD69 発現は Tox・Eomes と正相関、T-bet (T-box transcription factor TBX21) と負相関を示した (Fig 1C, n=10 mice、Pearson r=0.78、p<0.001)。CD69 と Ly108 (Slamf6、TCF1 の代替マーカー) の組み合わせで 4 サブセットを定義: Progenitor 1 (Ly108+CD69+、静止・組織局在性、Ki67 約5%)、Progenitor 2 (Ly108+CD69-、増殖性・循環アクセス高、Ki67 約45%)、Intermediate (Ly108-CD69-、Ki67 約60%、T-bet hi)、Terminal (Ly108-CD69+、Ki67 約3%、Tox hi/Eomes hi) (Fig 1D-H)。この 4 サブセットパターンは LCMV 慢性感染の全時点 (day 15-100)・複数臓器 (spleen、liver、lung)、マウス B16 腫瘍 (n=12)、ヒト黒色腫 TIL (n=10 患者) で保存されており、急性 LCMV Arm 感染では認められず疲弊特異的な発生構造であることが確認された (Fig 1I, J)。抑制性受容体 (PD-1・LAG-3・TIM-3・TIGIT) の共発現量は Progenitor 1 → Terminal の順に段階的増加 (MFI fold change 2-4 倍、Fig S1) を示した。

CFSE-養子移入実験により Progenitor 1 → Progenitor 2 → Intermediate → Terminal の一方向発生階層を直接証明:CFSE 標識した各 Tex サブセット (n=5 × 10^4 cells/recipient、n=4-5 recipients/group) を感染マッチレシピエントに移入し 7 日後に解析することで発生方向性が決定的に示された (Fig 2A-C)。Progenitor 1 (Ly108+CD69+) は最も旺盛に分裂し (CFSE dilution 6-7 回分裂、約70% division index) Progenitor 2 へ変換し相互変換も確認された。Progenitor 2 (Ly108+CD69-) は TCF1 を徐々に失いながら Intermediate (Ly108-CD69-) へ移行し、両 Progenitor 集団は in vivo persistence で他より優越し 4 サブセットすべてを再生した (Fig 2C)。Intermediate Tex は T-bet hi 再活性化エフェクター特性 (Granzyme B、IFN-γ 産生能 約3倍 高、Fig 3A-D) を示し、最終的に Tox による T-bet アンタゴニズムを介して Eomes hi/T-bet lo の Terminal 疲弊へ 不可逆的に転換 した (n=5、Fig 2D-F)。Terminal Tex 移入では分裂能・persistence が著減 (CFSE dilution 1-2 回、約10%) し、Progenitor への逆行変換は観察されず一方向性が証明された。

PD-L1 ブロッケード感受性は Progenitor 2/Intermediate に限局し、TCF1/T-bet/Tox 三者ネットワークが転写・エピゲノム階層を規定:αPD-L1 抗体 (clone 10F.9G2、200 μg i.p.) 投与 day 36 解析 (1 日後、n=8 mice/group) では、Progenitor 2 が絶対数で 4.2 倍、Intermediate Tex が 3.5 倍 増加した一方、Terminal Tex は増殖応答を示さず (約1.1 倍、有意差なし) PD-L1 ブロッケードに非感応性であった (Fig 6A-D)。Progenitor 1 は 1.3 倍 の控えめな増加にとどまった。このことは PD-1 ブロッケードの効果が腫瘍内 Progenitor 2・Intermediate Tex 比率に依存することを直接示し、チェックポイント阻害療法の奏効予測 biomarker としての意義を示唆する。

RNA-seq と ATAC-seq の統合解析 (各サブセット n=3 replicates) では、DEGs (differentially expressed genes) として Progenitor 1 vs Terminal で 1,847 遺伝子 (DESeq2、log2FC>1、padj<0.01) が同定された (Fig 4A-F)。ATAC-seq では各サブセット間で約12,000 differentially accessible regions (DAR) が検出され、Progenitor → Terminal の段階的移行に伴いアクセシブルなクロマチン領域が疲弊特異的エピゲノム景観へと不可逆的にリモデリングされた (Fig 5A-D)。TCF1 (Tcf7 遺伝子産物) は Progenitor 自己複製の維持に必須 (TCF1 cKO で Progenitor が約80% 減、p<0.001、n=5)、T-bet は Intermediate 段階での再活性化を駆動 (T-bet cKO で Intermediate Tex の Granzyme B 発現 70% 低下)、Tox は Terminal 分化への不可逆的移行を制御する (Tox cKO で Terminal 集団 60% 減) という三者の協調的ネットワークが明らかになった。ヒト黒色腫 TIL でも対応する 4 サブセット (n=10 患者) が SLAMF6/CD69 染色で同定され、マーカー遺伝子発現パターンがマウスサブセットと対応することが確認された (Fig 1I-J)、マウスモデルで定義された疲弊 T 細胞の 4 段階発生階層が臨床的にも妥当であることを示す直接的証拠となった。

考察/結論

本研究は Tex の発生生物学を従来の 2-3 段階から 4 段階 の精密な発生階層として再定義した重要な論文である。先行研究 (Im et al. Immunity 2016Miller et al. Nature 2019) では Progenitor 集団は均一と捉えられていた と異な り、本研究は 2 種類の TCF1+ 前駆体サブセット (静止性 Progenitor 1・循環アクセス型 Progenitor 2) の存在を明らかにし、それぞれの PD-1 ブロッケードへの応答性 (Progenitor 2 が 4.2 倍 増、Progenitor 1 は 1.3 倍) を細胞解像度で区別した点で これまで の研究と 対照的 である。Paley らの 2 段階モデル (Paley et al. Science 2012) と異な り、Intermediate Tex (Ly108-CD69-) が T-bet hi で一時的にエフェクター特性を再獲得することを示した点が 相違 点となる。

新規 な貢献は四点に整理される。第一に、Ly108 と CD69 の 2 マーカー組み合わせという 本研究で初めて 提示されたシンプルかつ強力な細胞同定基準を確立した。第二に、Tex 発生方向性を CFSE 養子移入実験で直接証明した これまで報告されていない 一方向性 (Progenitor 1 → Progenitor 2 → Intermediate → Terminal) 階層を実証した。第三に、TCF1 (自己複製)、T-bet (再活性化)、Tox (Terminal 移行制御) の 3 転写因子による精密な転写・エピゲノム制御回路を novel な統合的理解として提示した。第四に、12,000 DAR の段階的リモデリングにより、ATAC-seq レベルで疲弊エピゲノム景観の不可逆性を分子的に定義した。

臨床応用 への含意は重要である。本研究の bench-to-bedside translational 意義として、(a) 腫瘍内 Progenitor 2・Intermediate Tex 比率が PD-1 ブロッケード奏効予測 biomarker となり得る (Sade-Feldman et al. Nature 2019 の TCF1+ 比率所見と整合)、(b) ヒト黒色腫 TIL 10 例で 4 サブセット構造が再現されたことで 臨床的意義 が確立、(c) Terminal Tex は PD-1 軸阻害に応答しないため、Tox 阻害や CAR-T 療法など Terminal を回避する戦略への合理的根拠が提供される、という 3 点が 臨床的有用性 を持つ。今後 Progenitor 2・Intermediate Tex を選択的に拡大・維持する治療戦略 (例: STING agonist + αPD-1、IL-2 partial agonist) の合理的設計に直結する。

残された課題 および limitation は四点に集約される。第一に、本研究は主に LCMV 慢性ウイルス感染モデルに依存しており、固形腫瘍 (NSCLC、HCC、SCC など) や血液腫瘍での 4 段階階層の完全再現は 今後の研究 が必要 (B16 と melanoma TIL のみで検証)。第二に、Tex サブセットの可塑性を人為的に操作 (TCF1 強制発現、Tox 抑制) して免疫療法効果を増強できるかは future direction として実証されていない。第三に、ヒト TIL での 4 サブセット同定は cross-sectional であり、サブセット間の発生関係を人体で直接追跡する手段は 未解決の課題 である (バーコード TCR clonotype tracking など発展技術が 今後の検討 で必要)。第四に、CAR-T 療法や TCR-T 細胞における 4 サブセット階層の応用 (どの段階で輸注すれば持続性が最大化するか) は limitation として残り future な探求課題である。

結論として、本研究は CD8+ T 細胞疲弊を Ly108/CD69 共染色に基づく 4 段階発生階層 (Progenitor 1 → Progenitor 2 → Intermediate → Terminal) として再定義し、TCF1・T-bet・Tox の三者制御ネットワークが PD-L1 ブロッケードの選択的応答を規定することを実証した。Progenitor 2 と Intermediate Tex が PD-1 軸阻害感受性集団であるという発見は、ICI 奏効予測と次世代併用療法の合理的設計に決定的な細胞・分子基盤を提供する。

方法

マウスモデルと細胞: 慢性 LCMV clone 13 感染 C57BL/6 マウス (8-12 週齢、n=5-10/group) に CD45.1^+ P14 CD8+ T 細胞 (gp33-41 TCR transgenic、n=2 × 10^4 cells/mouse) を養子移入し、day 30 post-infection (d30pi) 以降に解析を実施した。Ly108 (Slamf6、TCF1 の代替マーカー) と CD69 (early activation marker) の共発現で 4 サブセット (Ly108+CD69+、Ly108+CD69-、Ly108-CD69-、Ly108-CD69+) を多色フローサイトメトリー (BD LSR Fortessa、~20 マーカー panel) で定義した。検証はマウス B16-F10 腫瘍 (5 × 10^5 cells s.c.、day 14 で解析) および患者ヒト黒色腫 TIL (Penn melanoma cohort) で実施した。

発生階層解析: 各 Tex サブセットを FACS Aria II でソート、CFSE (Carboxyfluorescein succinimidyl ester) で蛍光標識して感染マッチレシピエント (LCMV clone 13 感染 day 30 マウス) へ n=5 × 10^4 cells/mouse 養子移入し、7 日後に発生動態を解析した。

転写・エピゲノム解析: 各サブセットをソート後、bulk RNA-seq (Illumina NextSeq 500、Kallisto + DESeq2) と ATAC-seq (Assay for Transposase-Accessible Chromatin、Tn5 transposase 標準プロトコル、Bowtie2 + MACS2 + HOMER) を実施した。Conditional knockout マウス: Tcf7^fl/fl × Granzyme B-Cre (TCF1 cKO)、Tbx21^fl/fl × CD4-Cre (T-bet cKO)、Tox^fl/fl × Granzyme B-Cre (Tox cKO) を使用した。

PD-L1 ブロッケード実験: day 35 に αPD-L1 抗体 (clone 10F.9G2、Bio X Cell) 200 μg を i.p. 投与し、1 日後 (day 36) に解析を実施した。統計検定は Mann-Whitney U-test (two-group)、one-way ANOVA + Tukey 多重比較 (multi-group)、log-rank test (survival)、ANOVA を採用、p < 0.05 を有意水準とした。データは mean ± SEM (Standard Error of the Mean) で表示。