• 著者: Wherry EJ, Ha SJ, Kaech SM, Haining WN, Sarkar S, Kalia V, Subramaniam S, Blattman JN, Barber DL, Ahmed R, et al.
  • Corresponding author: E. John Wherry (jwherry@wistar.org) / Rafi Ahmed (ra@microbio.emory.edu)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2007
  • Epub日: 2007-10-18
  • Article種別: Original Article (Resource)
  • PMID: 17950003

背景

急性ウイルス感染後、ナイーブな抗原特異的 CD8+ T 細胞は活性化・増殖して effector へと分化し、その大部分はアポトーシスで死滅するが約 5%-10% が memory CD8+ T 細胞として生存する。memory 細胞は IL-7 / IL-15 による恒常性増殖で「自己複製 (self-renewal)」能を獲得し、抗原非依存的に長期維持されつつ抗原再曝露で速やかに effector 機能を再起動できる (Wherry and Ahmed, 2004)。これに対し多くの慢性感染では CD8+ T 細胞応答に重篤な欠陥が生じ、ウイルス特異的 CD8+ T 細胞は機能的 memory へと分化できないことが多い。この「疲弊 (exhaustion)」は慢性 LCMV 感染マウスで最初に記載され (Zajac et al., 1998)、ウイルス特異的 CD8+ T 細胞は持続するが effector 機能を欠く。機能喪失は階層的に進行し、IL-2 産生・細胞傷害性・増殖能が早期に失われ、IFN-γ 産生は比較的長く保たれる (Wherry et al., 2003)。ウイルス量が高く CD4+ help を欠く条件では effector 機能を完全に失った細胞が出現する (Fuller et al., 2003; Ou et al., 2001)。同様の機能不全はヒトの慢性感染や癌でも記載されてきた (Shin et al., 2007)。

第一のギャップは分子機構の理解不足である。直近の研究で著者らは inhibitory receptor PD-1 が慢性 LCMV 感染における CD8+ T 細胞疲弊を制御する重要経路であり、PD-1:PD-L (programmed death-ligand) 遮断が T 細胞機能を回復させウイルス量を低下させることを示し (Barber et al. Nature 2006)、この知見は SIV (simian immunodeficiency virus)・HIV・HCV 特異的 T 細胞にも拡張されつつあった (Day et al., 2006; Petrovas et al., 2006)。さらに IL-10 も CD8+ T 細胞機能不全に関与することが報告されていた (Brooks et al., 2006; Ejrnaes et al., 2006)。一方、anergy については Macian et al. (2002) が 14 個の anergy 関連遺伝子からなる transcriptional signature を定義していたが、疲弊との関係は不明であった。しかし PD-1 と IL-10 以外にも疲弊を駆動する経路が存在する可能性が高く、従来の研究は単一経路ごとの解析に留まっていた点が足りなかった。第二のギャップとして、疲弊細胞の global transcriptome を effector/memory と直接比較した包括的解析は欠如しており、どの遺伝子群が疲弊に固有かは未解明であった。第三に、疲弊が anergy のような既知の T 細胞機能不全状態と同一の transcriptional signature を共有するか否かも検証されていなかった。本研究はこれらのギャップに対し、疲弊 CD8+ T 細胞の包括的な遺伝子発現プロファイルを初めて系統的に解析するものである。

目的

よく特徴づけられた慢性 LCMV 感染モデルを用い、疲弊 LCMV 特異的 CD8+ T 細胞の global gene-expression profile を、急性感染後に生じる機能的な effector および memory LCMV 特異的 CD8+ T 細胞のそれと比較することで、CD8+ T 細胞疲弊の「分子シグネチャー」を定義することを目的とする。inhibitory receptor・signaling 経路・chemotaxis/adhesion・transcription factor・代謝の各カテゴリーで疲弊に固有の変化を同定し、疲弊が anergy と同一の transcriptional signature を共有するか否かを判定し、慢性感染における合理的な免疫療法の設計枠組みを提供する。

結果

疲弊細胞の機能欠損と固有の transcriptional state:LCMV Arm と clone 13 は感染 3 日目の脾臓では同程度に複製したが、Arm は day 8-10 までに完全排除される一方 clone 13 は CD4+ 欠損マウスで生涯にわたり高ウイルス量を維持した。clone 13 由来の疲弊 CD8+ T 細胞はペプチド刺激に対し IFN-γ・TNF-α をほとんど産生できなかった (Figure 1B-1D)。各細胞型につき 3-4 個の technical replicate (naive/memory/exhausted は n=4、effector は n=3) を解析した Affymetrix U74A microarray で、疲弊 CD8+ T 細胞では合計 490 遺伝子が 2-fold 以上の上方/下方制御を示し、その大半 (338 遺伝子) は疲弊細胞のみで差次発現していた (Figure 2B)。clustering 解析では疲弊細胞は memory より effector に近かったが、疲弊細胞に固有に上昇する遺伝子 (n=123) と低下する遺伝子 (n=135) が存在し、疲弊が naive・effector・memory のいずれとも異なる固有の遺伝子発現状態であることが示された (Figure 2C-2E)。effector signature の一部発現は疲弊細胞でも認められたが、疲弊細胞を規定する遺伝子パネルは他の 3 細胞型には存在せず、また急性感染 day 8 以降は疲弊と effector の類似性が消失したことから、memory 分化と疲弊は経路として乖離していた。

inhibitory receptor の過剰発現と signaling/代謝の破綻:最も顕著な所見として、PD-1 に加え 13 種の inhibitory な細胞表面経路が疲弊細胞で同定された (Table 1)。これには 2B4・Ly49 family (Klra7=Ly49D-GE, Klra3=Ly49c)・GP49B といった確立した抑制性分子と、CD160・Ptger4・LAG-3・CTLA-4 が含まれ、その大半が疲弊細胞に特異的または強く偏って発現した一方、BTLA は上昇せず、CD28:CTLA-4 family 内での選択的利用が示唆された。KLRG1 と KLRA9 を除く全ての inhibitory receptor が effector / memory に比し疲弊細胞に偏在した。signaling 面では Lck と NFATc が転写抑制され、Fyn は上昇、Dgka 低下/Dgkg 上昇、phosphatase Shp1 低下を示した。cytokine 受容体では TNFR 両鎖 (p55, p75)・IL-4Rα (CD124)・IL-17R が変化し、IL-18R1・IL-18Rap・IL-6st も低下した。IL-7/IL-15 応答に関わる CD127 (低発現) のみならず Jak1 と Stat5b の転写も低下し、cytokine signaling の欠陥が受容体発現に留まらないことが示された。代謝面では最大 17 個の ribosomal subunit・3 個の elongation factor・4 個の initiation factor が下方制御され、TCA cycle/energy metabolism 遺伝子 (Acas2l, Sdha, Adcy7, Pdha1, Acadm) も低下し、深刻な翻訳・生体エネルギー欠損が明らかになった。effector 機能では IFN-γ mRNA は effector と memory の中間量、granzyme B mRNA は保持される一方 perforin mRNA は疲弊細胞で上昇せず、ex vivo の細胞傷害性低下の一因が示唆された。FasL mRNA は逆に著明に上昇した。特定遺伝子では plekstrin が疲弊・effector 細胞で約 35-60 倍上昇した。

疲弊の段階的進行と固有の転写因子・分化パターン:22 項目を flow cytometry で経時解析した結果、day 6 p.i. では Arm と clone 13 でわずか 3 項目 (TNF-α+IFN-γ 共産生・PD-1・KLRG1) のみが相違し、両感染でウイルス特異的 CD8+ T 細胞は機能的であった (Figure 3A-3B)。day 8 p.i. には 9 項目が相違し、感染後 1-2 週で 22 項目中 18 項目、約 1 か月で 20-21 項目が相違するに至り、疲弊が段階的 (graded) に進行する過程であることが定量的に示された (Figure 4A-4D)。PD-1・LAG-3・2B4 は急性感染初期にも一過性に上昇するが Arm では day 8 以降に低下、clone 13 では高発現を維持・増加した。疲弊細胞は KLRG1^lo・CXCR3^int・Ly6C^lo の表現型を示し、後期には CD122・CD124・CD127 が低発現となり IL-2/IL-4/IL-7/IL-15 への応答低下が示唆された。疲弊細胞は memory より有意に小型で (Figure 4D)、これは代謝適応度の低下を反映する。転写因子では少なくとも 15 個が選択的上昇・11 個が低下し、PBX3 が最も差次発現する転写因子であった。Blimp-1 (Prdm1) は effector と疲弊細胞で上昇し、Eomes・NFATc1・nurr1・Maf も上昇する一方、Fos・Fosb・Junb・Myb・Myc・Klf2/3/4/13 が低下し、疲弊が固有の分化パターンに由来することが示された。最後に anergy との比較では、Macian et al. (2002) が定義した 14 個の anergy 関連遺伝子は疲弊細胞でほとんど上昇せず (Figure 5A)、GSEA でも有意な濃縮を示さなかった (Figure 5B)。これにより疲弊と anergy が異なる transcriptional signature を持つことが結論された。

考察/結論

本研究は慢性 LCMV 感染における疲弊 CD8+ T 細胞の包括的な分子シグネチャーを初めて定義し、疲弊が複数の inhibitory receptor 過剰発現・TCR/cytokine signaling 抑制・chemotaxis/adhesion 改変・固有の転写因子群・深刻な代謝/生体エネルギー欠損という多面的状態であることを示した。①既存知見との対照では、従来 PD-1 単独経路に焦点が当てられていたのに対し (Barber et al. Nature 2006)、本研究は PD-1 が氷山の一角であり LAG-3・2B4・GP49B・CD160・CTLA-4 など 13 種以上の抑制経路が同時に作動することを明らかにした点で先行研究と異なる。また anergy 関連遺伝子セット (Macian et al., 2002) が疲弊細胞に濃縮されないことを GSEA で示し、疲弊と anergy が同一機構という見方を否定した。②新規性 (novel) は、疲弊細胞における翻訳機構 (ribosomal subunit) と TCA cycle・energy metabolism の広範な転写抑制という代謝・生体エネルギー欠損の発見である。これは疲弊細胞の小型化という表現型と一致し、PD-1/CTLA-4 が AKT 活性化を阻害してグルコース利用と代謝を損なう機構 (Parry et al., 2005) とも整合する。疲弊が能動的抑制 (inhibitory receptor) と受動的欠陥 (signaling・代謝) の双方に由来するという二元的モデルは novel な概念枠組みである。

③臨床応用 (translational) の観点では、本研究が同定した inhibitory・signaling・metabolic 経路は慢性感染および癌における免疫療法の新規標的を提供する。PD-1 経路の知見が LCMV から HIV・HBV・HCV へ、さらに後年の癌免疫療法へと translational に展開したことは (Brahmer et al. JClinOncol 2010)、本論文が定義した分子シグネチャーの臨床的重要性を裏付ける。疲弊が段階的に進行するという知見は、疲弊の特定段階の欠陥を標的とした治療戦略のテーラリングを可能にする。④残された課題 (limitation / 今後の検討) としては、複数の inhibitory receptor がなぜ冗長に発現するのか (redundancy か非重複シグナルか)、各経路の in vivo での寄与、転写プロファイルが必ずしも蛋白レベルや機能を反映しない点 (例: inhibitory receptor は蛋白レベルでも上昇する)、そしてマウス LCMV モデルの知見がヒトにどこまで拡張可能かが挙げられる。これらの疲弊の階層的・サブセット構造はその後の総説・サブセット研究で精緻化され (Wherry et al. NatImmunol 2011Wherry et al. NatRevImmunol 2015Beltra et al. Immunity 2020)、本論文は CD8+ T 細胞疲弊研究の基盤的 framework を提供した Resource として位置づけられる。

方法

4-6 週齢の雌 C57BL/6 マウス (Jackson Laboratory) を用いた。effector / memory CD8+ T 細胞は LCMV 特異的 P14 TCR transgenic system で生成した。P14 chimera は少数 (約 5×10^4) のナイーブ P14 CD8+ T 細胞を congenic recipient へ養子移入後に LCMV 感染して作製した。急性感染は LCMV Armstrong (Arm) 2×10^5 pfu の i.p.、慢性感染は LCMV clone 13 2×10^6 pfu の i.v. で誘導し、後者では抗 CD4 抗体 (clone GK1.5) 200 µg を day -1 と +1 に投与して CD4+ T 細胞を除去した。慢性感染では最も深刻な疲弊を得るため CD4+ 枯渇マウスを用いたが、疲弊の主要特徴は CD4+ 充足マウスでも保存される。Identifier はマウス系統 (C57BL/6) と P14 TCR transgenic / Thy1.1 congenic marker、LCMV 株 (Arm, clone 13) で規定される。

細胞ソートは BD FACS Vantage または Cytomation MoFlo で行い、ナイーブ・effector (Arm day 8)・memory (Arm >day 30) は congenic marker (Thy1.1) で、疲弊細胞 (clone 13 day 22-35 p.i.) は MHC class I tetramer (DbGP33 n=3、DbGP276 n=1) でソートした。全試料は 4°C で維持し純度は全集団で 95%-98% であった。Total RNA を Trizol で抽出後 cDNA を増幅し、Affymetrix U74Av2 microarray (Murine Genome U74A version 2、約 12,500 mouse genes) にハイブリダイズした (各細胞型 3-4 試料)。一部試料は U74Bv2 / U74Cv2 array (追加 約 25,000 遺伝子/EST、expressed sequence tag) にも供した。統計・データ解析手法は literal に、R-pack (BioConductor) による quality control、GeneSpring GX 7.3 (Agilent) での解析、RMA (Robust Multichip Average) normalization、technical replicate (各細胞型 4、effector は 3) の平均化を用いた。2.0-fold change を差次発現の閾値とし、Pearson correlation による K means clustering で細胞型間の類縁性を評価、1.4-fold cutoff の RMA 値を Ingenuity pathway analysis に投入し、gene-set-enrichment analysis (GSEA; Subramanian et al., 2005) で anergy 遺伝子セットの濃縮を検定した。