- 著者: Matthias Braun, Amelia Roman Aguilera, Ashmitha Sundarrajan, Dillon Corvino, Kimberley Stannard, Sophie Krumeich, Indrajit Das, Luize G. Lima, Lizeth G. Meza Guzman, Kunlun Li, Rui Li, Nazhifah Salim, Maria Villancanas Jorge, Sunyoung Ham, Gabrielle Kelly, Frank Vari, Ailin Lepletier, Ashwini Raghavendra, Sally Pearson, Jason Madore, Sebastien Jacquelin, Maike Effern, Brodie Quine, Lambros T. Koufariotis, Mika Casey, Kyohei Nakamura, Eun Y. Seo, Michael Hölzel, Matthias Geyer, Glen Kristiansen, Touraj Taheri, Elizabeth Ahern, Brett G.M. Hughes, James S. Wilmott, Georgina V. Long, Richard A. Scolyer, Martin D. Batstone, Jennifer Landsberg, Dimo Dietrich, Oltin T. Pop, Lukas Flatz, William C. Dougall, André Veillette, Sandra E. Nicholson, Andreas Möller, Robert J. Johnston, Ludovic Martinet, Mark J. Smyth, Tobias Bald
- Corresponding author: Mark J. Smyth (QIMR Berghofer Medical Research Institute, Herston, QLD, Australia); Tobias Bald (QIMR Berghofer Medical Research Institute, Herston, QLD, Australia)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 33053330
背景
活性化受容体CD226 (DNAX Accessory Molecule-1, DNAM-1) はT細胞およびNK細胞の細胞傷害能に重要な役割を果たすことが知られており、そのリガンドであるCD155 (PVR) は腫瘍細胞上に発現する。一方で、抑制性受容体であるTIGITやCD96も同じCD155に結合し、CD226と競合する「DNAMファミリー」軸を形成する。これまでの研究で、Cd226-/-マウスでは腫瘍免疫監視が低下することが報告されているが、腫瘍微小環境におけるCD226発現の動的な制御メカニズムや、免疫チェックポイント阻害(ICB)療法の効果への関与については未解明な点が多かった。特に、PD-1やCTLA-4といった抑制性受容体の発現制御に関する研究が盛んであるのに対し、CD226のような活性化受容体の発現制御に関する研究は手薄であり、腫瘍細胞がどのようにして活性化シグナルを遮断し、免疫逃避を達成するのかという観点から、CD226の動態を詳細に理解する必要性が指摘されていた Schreiber et al. Science 2011。この知識のギャップは、新規の免疫療法戦略開発の妨げとなっていた。また、T細胞疲弊の分子メカニズムに関する理解は進んでいるものの Wherry et al. NatRevImmunol 2015、活性化受容体の発現がどのように制御され、それが抗腫瘍免疫にどのような影響を与えるかについては、まだ不足している情報が多い。
目的
本研究の目的は、腫瘍浸潤CD8+ T細胞におけるCD226発現の動的な制御機序を分子レベルで詳細に解明することである。さらに、この制御経路がICB療法の効果に与える影響を、前臨床モデルおよびヒト患者検体を用いて検証することを目的とした。
結果
CD226neg TILは機能不全: B16F10およびMC38腫瘍から分離されたCD8+ TILは、CD226発現レベルに応じてCD226neg、CD226dim、CD226hiの3つのサブセットに分類された。CD226hiサブセットはIFN-γ、TNF-α、グランザイムB、Ki67の産生が高く、高機能状態を示したのに対し、CD226negサブセットは機能不全状態であった (Figure 1C)。PD-1、CD39、LAG3、TIGIT、TIM-3陽性のCD8+ TILにおいても、CD226発現はIFN-γ産生と独立して相関しており、CD226の消失は既存の疲弊マーカーに加えて、T細胞機能不全の補完的なマーカーであることが示唆された (Figure 1E)。この解析には、n=15 miceのデータが用いられた。
CD226は抗腫瘍免疫に必須: HCmel12-hgp100腫瘍モデルにおけるPmel-1 T細胞の養子移入実験では、WT Pmel-1 T細胞の移入は強力な抗腫瘍応答と生存期間の延長を誘導したが、Cd226-/- Pmel-1 T細胞では未処置対照と比較して生存改善はわずかであった (Figure 1G)。これは、CD226発現がエフェクター機能に必須であることを明確に示した。養子移入10日後のTIL解析でも、転入したPmel-1細胞はすでにCD226neg/dim/hiサブセットに分化しており、CD226発現とIFN-γ、グランザイムB、Ki67、Bcl-2の発現が強く相関していた (Figure 1I)。この実験には、n=19 Pmel-1 TILsが解析された。
CD155がCD226分解を誘導: CD155発現腫瘍細胞との共培養により、CD8+ T細胞のCD226表面発現が急速に減少することが観察された。同様の効果はCD155-Fc可溶性タンパク質でも得られ、腫瘍由来のCD155がCD226発現低下の引き金となることが確認された (Figure 4C)。CD226neg細胞ではCD226 mRNAは保持されており、この現象が転写レベルではなく、タンパク質レベルでの制御(内在化および分解)によるものであることが示唆された。この現象は、n=3 spleensのT細胞で再現された。
Srcキナーゼ→Y319リン酸化→CBL-Bユビキチン化→プロテアソーム分解の経路: Srcキナーゼ阻害剤(PP2)、プロテアソーム阻害剤(MG132)、およびリソソーム阻害剤の投与により、CD226分解が抑制された (Figure 4E, 4N)。Y319Fノックインマウス(CD226のY319をフェニルアラニンに変異させ、リン酸化不能にしたマウス)では、CD226表面発現が維持され、B16F10、MC38、HCmel12腫瘍モデルにおいて抗腫瘍免疫が増強し、抗PD-1/抗CTLA-4によるICB療法の治療効果が改善した (Figure 3P, 3Q)。特に、Cd226 Y319F miceではMC38-OVA dim腫瘍の増殖が抑制され、生存期間が延長した (n=11 WT vs n=12 Cd226 Y319F mice)。Cbl-b-/-マウスでも同様にCD226発現が保持され、免疫治療反応性が向上した (Figure 4I)。共免疫沈降実験により、リン酸化Y319-CD226とE3ユビキチンリガーゼCBL-Bの直接的な相互作用が確認され、K48ユビキチン化を介したプロテアソーム分解経路が証明された (Figure 4J)。SPR実験では、Y319でリン酸化されたCD226ペプチドのみがCbl-bのTKBドメインに結合し、そのIC50は34.4 ± 10.6 μMであった (Figure 4H)。
患者検体での検証: HNSCC患者由来TILにおいても、CD226neg/dim/hiの同様のサブセット構造が確認され、CD226neg細胞は機能不全表現型を示した (Figure 6C, 6D)。ICB治療前のメラノーマ患者サンプルでは、CD226+CD8+ T細胞比率が高い群は、低い群に比べて無増悪生存期間(PFS)が有意に改善した (HR 3.38, 95% CI 1.08-10.5, p=0.036) (Figure 7B)。この関連性は、CD8+ T細胞の総数とは独立していた (HR 2.15, p=0.163) (Figure 7C)。検証コホート(n=43 patients)でも同様に、高CD226r群でPFSの延長が認められた (HR 2.95, 95% CI 1.48-5.87, p=0.002) (Figure 7D)。これは、CD226+CD8+ T細胞がICB効果の重要な予測バイオマーカーとして機能する可能性を示唆する。さらに、腫瘍細胞のCD155発現が高いほど、CD226+CD8+ T細胞の浸潤が少ないという逆相関が認められた (Spearman r = -0.32, p=0.005) (Figure 5N)。この相関解析には、n=74 melanoma samplesが用いられた。
考察/結論
本研究は、腫瘍細胞上のCD155がT細胞の活性化受容体CD226を積極的に分解するという、これまで報告されていない負のフィードバック機構を分子レベルで初めて解明した。このメカニズムは、CD155-CD226相互作用がSrcキナーゼを介したY319(マウス)/Y322(ヒト)リン酸化、それに続くE3ユビキチンリガーゼCBL-Bによるユビキチン化、内在化、そしてプロテアソーム分解を駆動するというものである。この経路は、結果的にT細胞の機能不全とICB耐性を引き起こす。これは、PD-1/PD-L1軸やCTLA-4軸とは独立した、新しい「活性化受容体の積極的排除」という免疫逃避メカニズムを示すものであり、従来の免疫チェックポイント阻害とは対照的なアプローチである。
新規性: 本研究で初めて、CD155によるCD226の分解がSrcキナーゼ依存的なリン酸化とCBL-Bを介したユビキチン化を伴うことを明らかにした。この知見は、T細胞の活性化受容体の発現制御に関する新規なメカニズムを提示する。
臨床応用: 臨床的意義として、CD226のY319F変異がCD226分解を回避し、抗腫瘍免疫とICB効果を増強する知見は、Src阻害剤やCBL-B阻害剤、あるいはCD226保護抗体などの新規治療戦略の臨床応用に繋がる可能性を秘めている。CBL-Bは他の共刺激受容体(CD28、CD40Lなど)のE3リガーゼとしても機能することが知られており、Cbl-b阻害剤は既に臨床開発中である。また、ICB治療前のCD226+CD8+ T細胞比率がPFS予測バイオマーカーとして利用可能であることは、治療前TILプロファイリングの有用性を示す。これは、ICB治療の奏効を予測する堅牢なバイオマーカーが不足している現状において、新規の予測マーカーを提供する可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒトにおけるCD226 (Y322) リン酸化部位のさらなる検証、CD226分解阻害戦略と既存ICBの併用効果、およびTIGIT阻害との比較・併用戦略の最適化が挙げられる。また、CD226のY319変異がT細胞受容体シグナル伝達、活性化、機能、および記憶形成に与える影響についても、今後の研究で詳細に検討する必要がある。本研究は、腫瘍浸潤CD8+ T細胞のフィットネスにおけるCD226発現の重要性と、CD226の喪失が癌免疫療法への耐性の一因となることを示唆する Weulersse et al. Immunity 2020。
方法
本研究では、マウス腫瘍モデルとしてB16F10メラノーマ、MC38大腸癌、HCmel12-hgp100移植腫瘍モデルを用いた。CD226発現サブセット(CD226neg/dim/hi)はフローサイトメトリーにより定量された。Pmel-1 TCRトランスジェニックT細胞を用いた養子移入実験により、Cd226-/-欠失が抗腫瘍免疫に与える影響を検証した。単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)とCD226抗体由来タグ(CD226-ADT)を組み合わせたCITE-seq技術を用いて、CD226発現とトランスクリプトームの同時解析を実施した。ユビキチン化経路の解析には、Cbl-b-/-マウスおよびCbl-bトランジェニックマウスを用いた。Srcキナーゼ依存的リン酸化の必要性を検証するため、CD226のY319をフェニルアラニンに変異させたY319Fノックインマウスを作製した。ヒト検体としては、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)およびメラノーマ患者由来の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、ならびにICB治療前のメラノーマ患者サンプルを用いて、CD226+CD8+ T細胞比率と無増悪生存期間(PFS)との相関を解析した。統計解析には、反復測定一元配置分散分析(RM one-way ANOVA)、ログランク(Mantel-Cox)検定、フィッシャーの正確確率検定、スチューデントのt検定、二元配置分散分析(two-way ANOVA)、およびスピアマンの順位相関係数を用いた。