• 著者: Marianne Weulersse, Assia Asrir, Andrea C. Pichler, Lea Lemaitre, Matthias Braun, Nadège Carrié, Marie-Véronique Joubert, Marie Le Moine, Laura Do Souto, Gaud G, Indrajit Das, Elisa Brauns, Clara M. Scarlata, Elena Morandi, Ashmitha Sundarrajan, Marine Cuisinier, Laure Buisson, Sabrina Maheo, Sahar Kassem, Arantxa Agesta, Michaël Pérès, Els Verhoeyen, Alejandra Martinez, Julien Mazieres, Loïc Dupré, Thomas Gossye, Vera Pancaldi, Camille Guillerey, Maha Ayyoub, Anne S. Dejean, Abdelhadi Saoudi, Stanislas Goriely, Hervé Avet-Loiseau, Tobias Bald, Mark J. Smyth, Ludovic Martinet
  • Corresponding author: Ludovic Martinet (Cancer Research Center of Toulouse, INSERM UMR 1037, Toulouse, France)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33053331

背景

CD226 (DNAX accessory molecule-1) は、NK細胞 (natural killer cell) およびCD8+ T細胞の細胞傷害活性を増強する接着分子かつ共活性化受容体である。そのリガンドであるCD112およびCD155は腫瘍細胞上で過剰発現し、抑制性受容体TIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains) やCD96 (T-cell activation, increased late expression) が同一のリガンドを共有することから、CD226を介したシグナル伝達経路は腫瘍免疫応答の重要な制御軸として認識されている。PD-1 (programmed cell death protein 1) やPD-L1 (programmed death-ligand 1) 経路はCD226シグナルの負の調節因子であり、PD-1阻害薬の効果発現においてCD226共刺激シグナルが必須であることが既報により示されている。CD8+ T細胞は癌に対する有望な治療標的であり、ネオアンチゲンを標的とした免疫療法の重要性も Schumacher et al. Science 2015 などの先行研究で広く議論されてきた。しかし、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB: immune checkpoint blockade) に対する臨床応答は一部の患者に限定されており、その耐性機序の解明が急務である Schoenfeld et al. CancerCell 2020。腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) において抗腫瘍CD8+ T細胞が機能不全に陥る分子メカニズムは多岐にわたるが Wherry et al. NatRevImmunol 2015、腫瘍浸潤CD8+ T細胞におけるCD226発現低下を誘導する上流の転写制御機構や、その喪失がもたらす機能的帰結、さらにはICB治療抵抗性への直接的な関与については、これまで十分な知見が不足しており、詳細な分子基盤は依然として未解明であった。

目的

本研究の目的は、健常人および多様な癌種の患者から得られた末梢血ならびに腫瘍浸潤CD8+ T細胞におけるCD226発現の有無がもたらす機能的・転写プログラム的差異を明らかにすることである。具体的には、転写因子Eomesodermin (Eomes) によるCD226発現の制御機構を同定し、CD226の喪失がLFA-1 (lymphocyte function-associated antigen-1) の活性化状態やT細胞受容体 (TCR: T-cell receptor) シグナル伝達経路に及ぼす影響を解明する。さらに、マウス腫瘍モデルを用いて、CD226の欠損が抗PD-1抗体、抗CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) 抗体、および抗CD137 (4-1BB) アゴニスト抗体による免疫療法の治療効果に与える影響を検証し、臨床応用可能な新規バイオマーカーや治療標的としての有用性を提示することを目指した。

結果

CD226陰性CD8+ T細胞の同定とTCR刺激に対する機能不全: 健常ドナー (HD) の末梢血CD8+ T細胞を解析したところ、全CD8+ T細胞の約20%から30%の割合でCD226-画分が存在することが判明した (Fig 1A)。このCD226- CD8+ T細胞は、CD226+細胞と比較して、抗CD2-CD3-CD28ビーズ刺激、同種DC刺激、またはCMVpp65ペプチド刺激に対する増殖能が、Tn、Tcm、Tem、Temraのすべての成熟段階において有意に低下していた (Fig 1D, E)。特にTem画分において、TCR刺激後のIL-2、IFN-γ、TNF-α、GM-CSF、CCL5、MIP-1αの産生量、およびCD107a脱顆粒活性が著しく減弱していた (Fig 1F, G)。in vitro実験において、PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate)/イオノマイシン刺激時には両群間でサイトカイン産生能に有意差は認められず、CD226-細胞における機能低下がTCRシグナル伝達経路の障害に起因することが示唆された。

CD226欠損に伴う近位TCRシグナル伝達障害と転写プログラムの変容: CD226- CD8+ Tem細胞では、抗CD3抗体刺激による細胞内Ca2+流入がCD226+細胞と比較して有意に抑制されていた (Fig 1H)。さらに、ウェスタンブロット解析により、TCR受容体近位のシグナル伝達分子であるSLP76、ZAP70、LAT、PLCγ1のリン酸化レベルが、CD226-細胞において著しく低下していることが確認された (Fig 1I, J)。下流のシグナル分子であるERK1/2およびAKT1のリン酸化も同様に減弱していた (Fig 1K)。RNA-seqを用いたトランスクリプトーム解析 (n=6 replicates) では、活性化状態のCD226-とCD226+ Tem細胞間で1,209個の上昇遺伝子と880個の低下遺伝子が同定された (p<0.01, fold change > 2.0x) (Fig 2B)。CD226遺伝子の発現量は、CD226+細胞と比較してCD226-細胞で顕著に低下しており、55-fold decrease (p<0.001) を示した (Fig 2C)。GSEAおよびGO解析の結果、CD226+細胞では細胞周期、TCR活性化、Th1分化、IL-2/IL-15シグナル関連遺伝子群が濃縮されていたのに対し、CD226-細胞では休止期T細胞、Treg、TGF-βシグナルに関連する遺伝子群が有意に濃縮されていた (Fig 2E, F)。

CD226再導入による機能回復とLFA-1高親和性活性化の制御: CD226- CD8+ Tem細胞に対して、レンチウイルスベクターを用いてCD226を強制発現させたところ、TCR刺激による増殖能、IFN-γおよびTNF-αの産生能、ならびにCD107aの発現が有意に回復した (Fig 3A, B)。この機能制御メカニズムを追究した結果、CD226+細胞はCD226-細胞と比較して、TCR刺激後にm24抗体で検出される高親和性LFA-1 (open-extendedコンフォメーション) の発現が有意に高いことが示された (Fig 3C)。共焦点顕微鏡観察により、CD226と高親和性LFA-1が活性化T細胞の接触界面で共局在することが確認された (Fig 3D)。CD226の再導入によりLFA-1の活性化状態が回復し、LFA-1遮断抗体による処理は、CD226+細胞の機能をCD226-細胞と同等のレベルまで低下させた (Fig 3G)。

癌患者におけるCD226陰性TILの蓄積と臨床予後との相関: 多発性骨髄腫 (MM) 患者の骨髄 (BM) 由来CD8+ T細胞におけるCD226-細胞の頻度は、HDのBMと比較して有意に高かった (Fig 4A)。また、MM患者のペア検体解析において、BM (TIL) 中のCD226-細胞の割合は末梢血 (PBMC) よりも有意に高値を示した (Fig 4B)。さらに、LUAD、BRCA、OC患者の腫瘍組織浸潤リンパ球 (TIL) においても、CD226-細胞の蓄積が確認された (Fig 4G)。NY-ESO-1特異的TILでは、ポリクローナルTILと比較してCD226-細胞の比率がさらに高く、抗原刺激に対するサイトカイン産生能の低下と直接的に相関していた (Fig 4E, F)。TCGAデータベースを用いた乳癌 (BRCA) コホート解析 (n=1006 patients) では、CD226高発現群が低発現群と比較して、進行無増悪期間 (PFI) および全生存期間 (OS) が有意に良好であり、生存期間延長と強く相関していた (HR 0.41, 95% CI 0.27-0.62, p=0.001) (Fig 4H)。

EomesによるCD226発現抑制機構の解明: 転写因子EomesのmRNAおよびタンパク質発現レベルは、ヒトおよびマウスのCD8+ T細胞において、CD226+画分よりもCD226-画分で有意に高値であった (Fig 7A, B)。B16F10黒色腫およびVk12653骨髄腫モデルにおいて、腫瘍の進行に伴いCD226- CD8+ TILが蓄積し、これらの細胞はEomesを高発現していた (Fig 5D, E, Fig 7C)。T細胞特異的Eomes欠損 (Eomes-/-) マウス (n=10 mice) では、B16F10腫瘍におけるCD226- CD8+ TILの割合が、対照群 (Eomes+/+) と比較して有意に減少した (Fig 7D)。また、Eomes Tgマウスでは脾臓CD8+ T細胞におけるCD226-細胞の割合が有意に増加しており、Eomes依存的なCD226の転写抑制機構が実証された (Fig 7E, F)。ChIP-seqデータ解析により、EomesがCd226遺伝子のイントロン領域に直接結合することが示された (Fig S7G)。

免疫チェックポイント阻害およびCD137アゴニスト療法のCD226依存性: Cd226-/-マウス (n=12 mice) を用いた治療実験において、抗PD-1抗体によるB16K1腫瘍の増殖抑制効果は、WTマウスと比較して有意に消失した (Fig 6H)。WTマウスにおいて抗CD226遮断抗体を投与した場合も、抗PD-1抗体の治療効果は完全に消失した (Fig 6I)。さらに、抗CD137アゴニスト抗体治療は、強力な抗腫瘍効果を示す一方で、Eomesの発現を強力に誘導し、用量依存的にCD226- CD8+ T細胞の出現を促進した (Fig 7G, H)。この抗CD137治療によって誘導されたCD226- CD8+ T細胞は、CD226+細胞と比較して著しい機能低下を示した (Fig S7Q, R)。Pmel-1トランスジェニックマウスを用いた養子細胞移入 (ACT) モデルにおいて、抗CD137治療後に単離したCD226+ Pmel-1 T細胞の移入はB16F10腫瘍の増殖を劇的に抑制し生存期間を延長したが、CD226- Pmel-1 T細胞の移入では抗腫瘍効果が著しく減弱していた (Fig 7M)。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の免疫学研究において、CD226は主にNK細胞やCD8+ T細胞による標的細胞傷害活性を補助的に増強する共刺激受容体として位置づけられてきた。しかし本研究は、CD226が単なる補助因子にとどまらず、TCRエンゲージメントによって誘導されるCD8+ T細胞の初期活性化プログラムおよびLFA-1の高親和性コンフォメーション変化を直接的に制御する中心的なハブとして機能することを示した点で、これまでの認識と大きく対照的である。また、抑制性受容体であるTIGITやPD-1の発現状況とは独立して、CD226の喪失自体がTCRシグナル伝達の遮断を介した機能不全状態を規定するという新たな概念を提示している。これは、同号に掲載された Braun et al. Immunity 2020 が示した「腫瘍由来CD155によるCD226のタンパク質分解」機序と相補的であり、転写レベル (Eomes依存性) と翻訳後修飾レベルの両面からCD226軸が厳密に制御されていることを浮き彫りにした。

新規性: 本研究は、腫瘍微小環境において転写因子Eomesの過剰発現に依存して活性化受容体CD226の発現が喪失し、これが抗腫瘍CD8+ T細胞の機能不全を駆動する新規の免疫耐性メカニズムであることを本研究で初めて実証した。さらに、がん治療において有望視されている抗CD137アゴニスト抗体治療が、皮肉にもEomes依存的なCD226の脱落を誘導し、治療効果を自ら制限するという「治療パラドックス」の存在をこれまで報告されていない知見として明らかにした。

臨床応用: 本研究の知見は、がん免疫療法における極めて重要な臨床的意義を持つ。腫瘍組織に浸潤するCD8+ T細胞におけるCD226の発現パターン、あるいはCD226- TILの蓄積頻度は、抗PD-1抗体をはじめとするICB治療や抗CD137アゴニスト療法の効果予測バイオマーカーとして臨床現場で応用可能である。さらに、CD226の喪失を防ぐ治療戦略 (Eomes活性阻害やCD226シグナル維持療法) と既存のICBとの併用療法は、治療抵抗性を克服するための新規アプローチとなり、bench-to-bedsideの架け橋となることが期待される。

残された課題: 今後の残された課題として、ヒトの多様な癌種におけるEomes-CD226シグナル軸の時空間的な動態の解明が挙げられる。また、CD226の細胞内ITT (immunoreceptor tyrosine tail) モチーフを介したシグナル伝達が、TCRおよびLFA-1と協調する詳細な生物物理学的メカニズムの解明も必要である。本研究のlimitationとして、マウスモデルにおける知見がヒトの臨床検体においてどの程度普遍的に適用できるか、より大規模ながん患者コホートでの検証が必要である。さらに、CD226アゴニスト抗体の開発や、TIGIT遮断薬との最適な組み合わせに関する検証が今後の重要な研究方向性である。

方法

健常ドナー (HD: healthy donor) の末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) および多発性骨髄腫 (MM: multiple myeloma)、乳癌 (BRCA)、肺腺癌 (LUAD)、卵巣癌 (OC) 患者の腫瘍組織または骨髄 (BM: bone marrow) からCD8+ T細胞を単離した。フローサイトメトリー解析では、抗CD226抗体を用いてCD226陽性 (CD226+) およびCD226陰性 (CD226-) 画分を定義し、CD45RAとCD62Lの発現パターンに基づき、ナイーブT細胞 (Tn)、セントラルメモリーT細胞 (Tcm)、エフェクターメモリーT細胞 (Tem)、ターミナルエフェクターメモリーT細胞 (Temra) に分類した。

TCR刺激に対する応答性を評価するため、ソーティングしたCD226-およびCD226+ CD8+ T細胞を抗CD2-CD3-CD28ビーズ、同種樹状細胞 (DC: dendritic cell)、またはCMVpp65 (cytomegalovirus phosphoprotein 65) ペプチドプールで刺激し、CellTrace Violetを用いた増殖アッセイ、CBA (Cytometric Bead Array) によるサイトカイン産生測定、およびCD107a発現による脱顆粒アッセイを実施した。細胞内Ca2+流入はカルシウムアッセイキットで測定し、近位TCRシグナル伝達分子であるSLP76 (SH2 domain-containing leukocyte protein of 76 kDa) やZAP70 (zeta-chain-associated protein kinase 70)、LAT (linker for activation of T cells)、PLCγ1 (phospholipase C gamma 1)、ERK1/2 (extracellular signal-regulated kinase 1/2)、AKT1 (AKT serine/threonine kinase 1) のリン酸化状態をウェスタンブロット法で解析した。CD226の機能的役割を検証するため、CD226-GFP (green fluorescent protein) レンチウイルスベクターを用いてCD226- Tem細胞に遺伝子を再導入した。LFA-1の活性化状態は、高親和性コンフォメーションを認識するm24抗体を用いたフローサイトメトリーおよび共焦点顕微鏡解析により評価した。

in vivo解析では、野生型 (WT: wild-type) C57BL/6Jマウス、Cd226-/-マウス、Cd4Cre Eomes fl/fl (Eomes-/-) マウス、Eomes過剰発現 (Eomes Tg) マウス、およびCd155-/-マウスを使用した。腫瘍モデルとして、B16F10黒色腫、B16F10-OVA、MHC-I高発現変異株B16K1、MC38大腸癌、およびVk12653骨髄腫モデルを確立した。治療実験では、抗PD-1抗体 (クローンRMP1-14, 200 µg/mouse)、抗CTLA-4抗体 (クローン9D9)、抗CD137アゴニスト抗体 (クローン3H3, 100 µg/mouse) を腹腔内投与した。統計解析には、GraphPad Prismを用い、2群間比較にはMann-WhitneyのU検定またはpaired t検定、多群間比較には1元配置分散分析 (one-way ANOVA) を適用した。生存曲線はKaplan-Meier法でプロットし、log-rank検定で有意差を検定した。RNA-seqデータ解析は、Dobin et al. Bioinformatics 2013 のSTARを用いてアライメントし、Liao et al. Bioinformatics 2014 のfeatureCountsで定量後、Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015 のlimmaおよび Love et al. GenomeBiol 2014 のDESeq2を用いて差次発現遺伝子 (DEG: differentially expressed gene) 解析を行い、GSEA (Gene Set Enrichment Analysis) Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005 を実施した。