- 著者: Fulvia Vascotto, Danielle Lankar, Gabrielle Faure-André, Pablo Vargas, Jheimmy Diaz, Delphine Le Roux, Maria-Isabel Yuseff, Jean-Baptiste Sibarita, Marianne Boes, Graça Raposo, Evelyne Mougneau, Nicolas Glaichenhaus, Christian Bonnerot, Bénédicte Manoury, Ana-Maria Lennon-Duménil
- Corresponding author: Ana-Maria Lennon-Duménil (Institut National de la Santé et de la Recherche Medicale Unité 653, Institut Curie, Paris, France)
- 雑誌: The Journal of Cell Biology
- 発行年: 2007
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 17389233
背景
成熟Bリンパ球は表面免疫グロブリンとIgα/IgβシグナルモジュールからなるBCR (B cell receptor; B細胞受容体) を介して特異的抗原 (Ag; antigen) を捕捉し、エンドソーム経路で処理した後、MHC (major histocompatibility complex; 主要組織適合遺伝子複合体) クラスII-ペプチド複合体としてCD4 (cluster of differentiation 4) 陽性T細胞に提示する。このプロセスはT-B (T cell-B cell) cooperation (T細胞-B細胞間協調) の基盤であり、胚中心形成と抗体産生に不可欠である。
BCR刺激後、BCR-Ag (BCR-antigen) 複合体は初期エンドソームへ液相エンドサイトーシスと比べ加速されて輸送され、MHC クラスII分子と収束した非終末型LAMP-1 (lysosome-associated membrane protein 1; リソソーム関連膜タンパク質1) 陽性のリソソームコンパートメントで処理されることがBリンパ腫細胞株で報告されていた (Siemasko et al. 1998; Lankar et al. 2002)。MHCクラスII分子は小胞体で合成後にIi (invariant chain; インバリアント鎖) と複合体を形成し、Iiの細胞質テイルに含まれるターゲティングシグナルによってエンドソーム経路に誘導される。LAMP-1陽性コンパートメント内でプロテアーゼによるIi切断とH2-DM (histocompatibility 2-dendritic cell marker) の触媒作用によってペプチドロードが完了し、MHCクラスII-ペプチド複合体が細胞表面に提示される (Watts 2001; Villadangos et al. 1999)。
BCR経路での抗原輸送加速には脂質ラフトへの移行とアクチン細胞骨格の完全性が必要であることが示唆されていたが、MHCクラスII含有小胞とBCR-Ag複合体の収束を担う具体的なモータータンパク質の性質については情報が不足していた。オルガネラの輸送には微小管系とアクチン系の両方が関与することが知られているが、MHCクラスII分子の細胞内輸送を調節するモータータンパク質の同定には大きなgap in knowledgeがあり、この未開拓領域の解明が課題であった。
目的
本研究の目的は、BCR刺激後にMHCクラスII-Ii複合体とBCR-Ag内在化小胞がLAMP-1陽性リソソームへ収束するプロセスを担うモータータンパク質を同定することである。さらに、このモータータンパク質の阻害または枯渇がMHCクラスII輸送、抗原処理、MHCクラスII-ペプチド複合体形成、およびCD4 T細胞活性化に与える影響を実証することを目的とした。具体的には、一次Bリンパ球を用いて、BCR刺激に応答したMHCクラスII含有小胞の細胞中心への集積動態を解析し、薬理学的阻害剤・siRNA枯渇・共免疫沈降法によってその分子メカニズムを明らかにする。
結果
BCR刺激によるMHC II陽性小胞の細胞中心集積動態: 休止状態のB細胞ではMHC II-GFPは細胞周辺に広く分布していたが、BCR刺激後60分で約70%のB細胞においてMHC II-GFP含有小胞が核周辺に中心集積する現象が観察された (n=300 cells、3 independent experiments) (Fig. 1B)。この中心集積は共焦点顕微鏡のZ断面解析により、核が著明な陥入 (nuclear invagination) を形成しその部位にMHC II-GFPクラスターが収まる形態をとることが示された (Fig. 1D)。集積した構造物は免疫蛍光でLAMP-1陽性、H2-DM陽性、BCR内在化Ag含有であることが確認され、Ii切断断片 (Iip25、Iip10) の出現によってリソソームでのIi処理が進行することも示された。免疫金電顕解析では、1-h BCR刺激後のB細胞中心部にMHC II (10 nm金粒子) とLAMP-1 (15 nm金粒子) が共に濃縮した管状-小胞状ネットワーク構造が形成されることが超微形態的に確認された (Fig. 2)。
BCR刺激によるミオシンII活性化と収縮との連動: 3Dタイムラプスイメージングでは、BCR刺激後の細胞膜が連続的収縮イベントを示し、MHC II-GFPクラスターが一時的に収縮膜部位に集積した後、細胞中心へ移動する動的パターンが観察された (Fig. 3A, Videos 1&3)。ウエスタンブロット解析では、BCR刺激によりMLC (myosin light chain) のリン酸化が増加し、刺激後60分で最大3-fold増加 (非刺激細胞比) に達することが定量された (Fig. 3B)。固定細胞の免疫蛍光解析では、非刺激細胞でのMLCの均一な細胞周辺分布が、30分刺激後に収縮極への再分布を示し、その収縮部位でMHC II-GFPおよびIiとの共局在が認められた (Fig. 3C)。この観察から、ミオシンII活性化 (MLC リン酸化) がBCR誘導性収縮と連動し、MHC II-Ii複合体の集積と連動することが示された。
ミオシンII阻害によるMHC IIクラスター形成の抑制: ML-7 (10 μM)、Y27632 (10 μM)、またはブレビスタチン (70 μM) による45分間の前処理は、BCR刺激後の細胞収縮・伸展・MHC II-GFP中心クラスター形成を劇的に阻害した。中心クラスター形成細胞の割合は対照群の約75%から阻害剤処理群では約15%へ低下した (n=200 cells; Fig. 4C)。BCR内在化 (細胞表面IgMの消失速度) は阻害剤処理の影響を受けなかったことから、ミオシンIIはエンドサイトーシス自体ではなく、その後の小胞輸送と集積を制御することが示された (Fig. 4D)。免疫金電顕解析では、DMSO (dimethyl sulfoxide) 対照群で見られた管状-小胞状のLAMP-1陽性リソソームネットワークがミオシンII阻害細胞ではほぼ消失し、LAMP-1/Ag/MHC IIを境界膜に発現する孤立した空胞状コンパートメントが細胞周辺に散在した (Fig. 5B)。30コンパートメントでの金粒子定量では、DMSO対照群と比較しML-7/Y27632処理群でAg金粒子数が200から28へ、MHC II金粒子数が663から288へ、Ag/MHC II比が0.302から0.123へと減少した (Table I)。磁性NP半精製エンドソームのウエスタンブロットでも、ブレビスタチン処理によりMHC IIおよびIiが磁性画分で著明に減少し、Rab5および成熟カテプシンDは影響を受けなかった (Fig. 5D)。
BCR駆動型抗原提示とMHC II-ペプチド複合体形成の阻害: A20/DNP細胞を用いたDNP-OVAのBCR内在化後の抗原提示アッセイでは、ML-7、Y27632、およびブレビスタチン処理がT細胞ハイブリドーマの増殖を用量依存的に抑制した (Fig. 6A, B, D)。OVA323-339ペプチドの直接提示は阻害剤の影響を受けなかったことから、ミオシンII阻害は抗原処理段階を特異的に阻害することが示された。パルスチェイス実験では、MHC II分子の合成・成熟・内因性ペプチドとの複合体形成はミオシンII阻害の影響を受けなかったが、BCR内在化抗原からのMHC II-ペプチド複合体形成はミオシンII活性に厳密に依存することが確認された (Fig. S4)。MHC II-LACK156-173複合体特異的抗体2C44を用いた定量では、ブレビスタチン処理IIA1.6細胞で2C44陽性細胞の割合が対照比で約70%低下した (n=300 cells; Fig. 7B)。さらにMyH9 siRNAプールによるミオシンIIの遺伝的枯渇実験でも同様に2C44陽性率が顕著に低下し (n=300 cells、2 independent experiments; Fig. 7G)、中心リソソームクラスターの頻度も減少した (Fig. 7E, F)。
MHC II-Ii-ミオシンII三者複合体の動的会合: 抗Ii抗体 (In-1) による共免疫沈降実験では、BCR刺激依存的にMLCが共沈降し、この会合は一過性でMHC II陽性小胞クラスター形成の動態と一致した (ピークは刺激後60分、その後減衰; Fig. 8A)。同じ時間経過でアクチンの共沈降量も増加した。抗MHC II抗体 (M5114) での免疫沈降でもMLCが検出され、ブレビスタチン処理により共沈降が減少した (Fig. 8B)。Ii欠損DC (dendritic cell) ではMLC-MHC II会合が完全に消失したが、I-Aβ欠損DCではIiがMLCと会合する能力が保持された (Fig. 9A)。コロコリウムブルー染色とマススペクトロメトリーによる非偏向検出では、抗Ii免疫沈降物中の主要タンパク質としてMyH9 (ミオシンII重鎖) が同定された (Fig. 9C)。カテプシンS阻害剤LHVS (5 nM) 処理によってMHC II-Ii複合体上のIiサイトゾルテイル残存が延長されると、MHC II-ミオシンII会合が60分を超えて120分まで維持され (Fig. 9D)、IiのサイトゾルテイルがミオシンIIとの会合の時間的制御を担うことが示された。Ii欠損B細胞では、ミオシンII阻害細胞と同様にMHC II、LAMP-1、およびAg含有小胞が細胞中心にクラスター形成せず周辺分散を示した (Fig. 9E)。
考察/結論
本研究は、BCR駆動型抗原処理・提示においてMHCクラスII分子の細胞内輸送を制御するモータータンパク質として、アクチン系モータータンパク質ミオシンIIを本研究で初めて同定した。提案モデルでは、BCR刺激がMLC (myosin II light chain) のリン酸化を介してミオシンIIを活性化し、IiのサイトゾルテイルがMHCクラスII-Ii複合体とミオシンIIを物理的に連結するリンカーとして機能する。この会合により、アクチン依存的な細胞収縮がMHCクラスII-Ii含有小胞をBCR-Ag含有小胞と同じLAMP-1陽性リソソームへと集約させる。リソソーム内でIiがプロテアーゼにより切除されるとミオシンIIが解離し、ペプチドロードとMHCクラスII-ペプチド複合体の形成・提示へと移行する。
先行研究との違い: BCR刺激後のMHCクラスII含有コンパートメントの再編成はBリンパ腫細胞株でと異なり、本研究は一次脾臓Bリンパ球における詳細な動態と分子メカニズムを初めて解析した。これまでの研究ではBCR-Ag複合体の初期エンドソームへの加速輸送に脂質ラフト移行とアクチン骨格が必要であることは示されていたが、MHCクラスII輸送を担うモータータンパク質の実体は未同定であった点が本研究と異なる新規知見である。ミオシンIIについては細胞分裂 (Straight et al. Science 2003) や遊走 (Gomes et al. Cell 2005) での役割が報告されており、オルガネラ輸送における役割は Seabra et al. Traffic 2004 で総説されているが、免疫細胞でのMHCクラスII輸送への関与を示す直接的な証拠は既報されておらず、本研究が初めての報告である。
新規性: 本研究で初めて、MHCクラスII分子の抗原刺激依存的な細胞内輸送を制御するモータータンパク質としてミオシンIIを同定した点はnovelな知見である。さらに、IiがMHCクラスIIとミオシンIIの物理的相互作用を媒介するリンカーとして機能するという、Iiのこれまで本研究で初めて示された新たな役割を明らかにした。カテプシンSによるIi切断がミオシンIIの解離タイミングを決定することで、抗原処理コンパートメントへのMHCクラスII集積と「荷下ろし」が時間的に制御されるメカニズムが提案された。ミオシンII重鎖とMHCクラスII分子の共免疫沈降がヒトDCのプロテオミクス解析でも後に確認されたこと (Benaroch, personal communication) は、本知見がマウスB細胞を超えて保存された普遍的なメカニズムである可能性を示唆する。
臨床的意義: ミオシンIIはMHCクラスII経路を介した抗原提示の効率を制御する新たな標的分子として位置付けられる。これは感染症ワクチン開発において臨床応用上の重要な示唆を持ち、ミオシンII活性を増強することでB細胞の抗原提示能を高めワクチン効果を増大させる戦略、あるいはミオシンII活性を抑制することで自己反応性T細胞の活性化を抑制し自己免疫疾患を治療する戦略が考えられる。腫瘍抗原のMHCクラスII経路を介した提示効率もミオシンIIに依存する可能性があり、臨床現場における癌免疫療法の改善に向けた知見を提供しうる。
残された課題: 残された課題として、MHCクラスII-Ii複合体とミオシンIIの会合が直接的なタンパク質間相互作用によるものか、中間タンパク質を介するものかは未解明である。ミオシンIIが非連続モーター (non-processive motor) であるにもかかわらず小胞輸送を駆動しうる分子機構、脂質ラフトへの会合、およびBCRシグナル強度によるミオシンII活性の制御機構についても今後の検討が必要である。また、T細胞との免疫シナプス形成やin vivo膜結合型抗原の取り込みにおけるミオシンIIの具体的な役割については、さらなる解析が求められる (Seabra et al. Traffic 2004)。他のMHCクラスIIと類似した輸送経路をたどるタンパク質においてもミオシンIIが同様の役割を担う可能性もfuture researchの対象となる。
方法
実験動物と細胞: MHC II-GFP (green fluorescent protein; 緑色蛍光タンパク質) ノックインマウス (I-Aβ-GFP knockin; Boes et al. 2002) の脾臓からB細胞を陰性選択により精製し、純度80-90% (フローサイトメトリーで確認) の細胞を使用した。BALB/c由来マウスBリンパ腫細胞株 (B cell lymphoma cell line) として抗DNP (dinitrophenyl; ジニトロフェニル) IgM (immunoglobulin M) を発現するA20/DNP細胞とそのFcγR欠失変異株IIA1.6 (FcγR-deficient A20 subline) 細胞を用いた。DC (dendritic cell; 樹状細胞) は、Ii欠損マウスおよびI-Aβ欠損マウスの骨髄をGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) 含有培地で12日間培養することで分化誘導した。DO54.8 (OVA-specific I-Ad-restricted T cell hybridoma; OVA応答性) を抗原提示アッセイに使用した。
BCR刺激と多価リガンド: F(ab’)2ヤギ抗マウスIgM (10 μg/mL; 脾臓B細胞用) またはF(ab’)2ヤギ抗マウスIgG (10 μg/mL; IIA1.6細胞用) をF(ab’)2ロバ抗ヤギ抗体でクロスリンクした多価BCRリガンドを使用した。磁性ナノ粒子 (NP; nanoparticle; 8 nm径, Fe2O3) に抗BCR抗体と組換えLACK (Leishmania activated C kinase) タンパク質を搭載した複合体も用いた。
ライブイメージングと共焦点顕微鏡: ポリ-L-リジンコートスライド上のB細胞を37°CのLudinチャンバー内で培養し、3D + time-lapse撮影を2-5分間隔で約3時間行った。Leica DMIRB2倒立型高速4D脱たたみ込み顕微鏡、CCD (charge-coupled device) 検出器、ボクセルサイズ129×129×300 nm3の条件でMetaMorphソフトウェア (点広がり関数ベースの反復制約金アルゴリズム) による脱たたみ込み処理を実施した。
ミオシンII阻害実験: BCR刺激の45分前に以下の阻害剤を前処理した。ML-7 (10 μM; MLCK (myosin light chain kinase; ミオシン軽鎖キナーゼ) 阻害剤)、Y27632 (10 μM; ROCK (Rho-associated kinase; Rho関連キナーゼ) 阻害剤)、ブレビスタチン (blebbistatin; 70 μM; ミオシンII ATPase (adenosine triphosphatase) 活性の高特異的阻害剤)。MHC II-GFPクラスター形成率 (n=200 cells、3回独立実験)、BCR内在化 (細胞表面IgMのフローサイトメトリー)、LAMP-1/Ag局在を評価した。
MLC (myosin II light chain; ミオシンII軽鎖) リン酸化定量: BCR刺激後0、15、30、60分の細胞ライセートを抗リン酸化MLC抗体 (Thr18/Ser19; Cell Signaling Technology) でウエスタンブロット解析し、ImageJソフトウェアでバンド強度を定量、全MLC量で正規化した。
免疫電顕とエンドソーム半精製: 免疫金電顕で30コンパートメントの金粒子数を計数し、Ag/MHC IIコロカリゼーション比を定量した。磁性NP-BCR複合体を取り込ませたB細胞を均質化後、磁石でNP含有エンドソームを半精製し、ウエスタンブロットでMHC II、Ii、Rab5、カテプシンDを解析した。
共免疫沈降と物理的相互作用解析: IIA1.6細胞またはLPS (lipopolysaccharide; リポ多糖) 刺激骨髄DCを0.5% NP-40 (Nonidet P-40) バッファーでライセートし、抗Ii抗体 (In-1) または抗MHC II抗体 (M5114) で免疫沈降後、MLC・Ii・MHC II (I-Aβ) をウエスタンブロットで検出した。カテプシンS特異的阻害剤LHVS (morpholinourea-leucine-homophenylalanine-vinylsulfonephenyl; 5 nM) でIiサイトゾルテイルの残存を延長させ、MHC II-Ii (MHC class II-invariant chain) 複合体とミオシンII会合の動態を追跡した。
MHC II-ペプチド複合体形成の評価: I-Ad-LACK156-173複合体特異的モノクローナル抗体2C44 (Lazarski et al. 2006) を用いた免疫蛍光法 (n=300 cells、3回独立実験) および免疫沈降法によりペプチド-MHC II複合体形成を定量した。
siRNA枯渇: IIA1.6細胞にMyH9 (myosin heavy chain 9; ミオシン重鎖9) 特異的siRNA (small interfering RNA; 低分子干渉RNA、単一3種およびプール) をAmaxaエレクトロポレーション (20 nM) で導入し、96時間培養後にMyH9を枯渇させた。統計解析はStudent t-testを用いた。
抗原提示アッセイ: A20/DNP細胞にDNP-OVA (ovalbumin; 卵白アルブミン) をBCR経路で取り込ませ、固定後にDO54.8 T細胞ハイブリドーマと共培養し、3H-チミジン取り込みによるT細胞増殖をT細胞活性化の指標とした。