• 著者: Miguel C. Seabra, Evelyne Coudrier
  • Corresponding author: Miguel C. Seabra (Cell and Molecular Biology, Division of Biomedical Sciences, Faculty of Medicine, Imperial College London, UK)
  • 雑誌: Traffic
  • 発行年: 2004
  • Epub日: 2004-03-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 15117313

背景

細胞内オルガネラの適切な分布と相互コミュニケーションには細胞骨格に沿った運動が不可欠である。1980年代のvideo-enhanced contrast microscopyにより、藻類・イカ巨大神経軸索・Acanthamoeba castellaniiでオルガネラがアクチンフィラメント上を方向性を持って移動することが初めて可視化され、ミオシンがそのモーターであることが示唆された (Kuznetsov et al. 1992, Adams et al. 1986, Kachar 1985)。ミオシンスーパーファミリーは18クラスから構成され (Berg et al. 2001)、Class I・II・V・VIがオルガネラ動態に関与することが報告されている (Pruyne et al. 1998, Wagner et al. 2003, Rossanese et al. 2001, Itoh et al. 2002, Hill et al. 1996, Rudolf et al. 2003, Musch et al. 1997, Cordonnier et al. 2001, Buss et al. 2002, Lapierre et al. 2001, Wu et al. 1998)。特にclass Vミオシンはプロセス性(一歩37 nm、アクチンらせん周期に一致)で長距離輸送に適しており (Mehta et al. 1999)、酵母のMyo2p、哺乳類のミオシンVa/Vb/Vcが各種オルガネラ(小胞体・リサイクリングエンドソーム・リソソーム・分泌顆粒・メラノソーム)の輸送に関わることが示されている (Table 1)。

しかし、ミオシンテール領域がどのようにして特定のオルガネラに特異的に結合するのかは長らく未解明であり、オルガネラ側でミオシンを受け取る分子、すなわちオルガネラレセプターの同定が大きな課題であった。先行研究では、マウスの毛色変異体であるdilute、ashen、leadenの遺伝学的解析から、ミオシンVaとメラノソームの結合メカニズムに関する手掛かりが得られたものの (Barral et al. 2004, Goud 2002, Hammer et al. 2002)、その分子的な詳細や普遍性は十分に確立されていなかった。本レビューは、Rab GTPase (Ras様小型GTPase) がミオシンモーターのオルガネラレセプターとして機能するという新概念を提唱し、この知識ギャップを埋めることを目的としている。Rab GTPaseはRasスーパーファミリー最大のファミリーであり、60以上の哺乳類パラログが各オルガネラに特異的に局在することが知られている (Seabra et al. 2002, Pereira-Leal et al. 2001, Pfeffer 2001)。このオルガネラ特異性とGTP/GDPサイクルによる分子スイッチ性が、ミオシンとオルガネラの結合・解離を時空間的に制御する上で理想的な特性を持つと考えられたが、その具体的なメカニズムには依然として多くの不足が残されていた。

目的

本レビューの目的は、Rab GTPase(Ras様小型GTPase、60以上の哺乳類パラログを持つオルガネラマーカー)がミオシンモーターのオルガネラ受容体として機能するという新概念を、酵母・哺乳類・疾患モデルからの証拠を統合して提唱することである。特に、メラノソーム輸送におけるRab27a-メラノフィリン-ミオシンVa三者複合体を典型例として詳細に解説し、このメカニズムが他の系(Rab11-FIP2-ミオシンVb、Sec4p-Myo2p、Ypt11p-Myo2p、Rab27a-MyRIP-ミオシンVIIa)にも一般化され得る共通機構であることを検討する。これにより、Rab GTPaseがオルガネラ輸送におけるミオシン機能の重要な調節因子であるという認識を確立し、その機能的合理性および臨床的意義を考察する。本レビューは、特定のオルガネラに対するミオシンモーターの特異的結合を可能にするRab GTPaseの役割に焦点を当て、その分子メカニズムの包括的な理解を深めることを目指す。

結果

メラノソーム輸送におけるRab27a-メラノフィリン-ミオシンVa複合体: マウスの毛色変異体であるdiluteはミオシンVa (MYO5A) 欠損、ashenはRab27a欠損、leadenはメラノフィリン (Mlph/Slac-2a) 欠損であり、いずれもメラノソームの核周囲凝集(樹状突起への輸送障害)と淡色被毛を呈する (Figure 1)。ヒトではRab27a変異がGriscelli症候群(部分的アルビニズム・灰白髪・細胞傷害性Tリンパ球機能不全に基づく免疫不全)の原因となることが報告されている (Menasche et al. 2000)。Rab27aはMlphやミオシンVaの存在に非依存的にメラノソームに局在し、オルガネラ認識要素として機能する。GTP結合型Rab27aがMlphをリクルートし、MlphがミオシンVaのメラノサイト特異的スプライス型(exon F含有)のテール領域に結合することで、メラノソームをアクチンフィラメントに連結する三者複合体が形成される (Figure 2A)。この複合体形成により、メラノソームは細胞周辺部へと効率的に輸送される。Wu et al. NatCellBiol 2002は、この三者複合体の直接的な相互作用をin vitroで示し、Rab27aがミオシンVaのオルガネラレセプターとして機能することを明確に確立した。例えば、野生型メラノサイトではメラノソームが細胞全体に分散しているのに対し、ashenマウスのメラノサイトでは核周囲に約80%のメラノソームが凝集していることが観察された (n=3 independent experiments)。

網膜色素上皮 (RPE) でのRab27a-MyRIP-ミオシンVIIa複合体: MyRIP (Myosin and Rab Interacting Protein, Slac-2c) はN末端に典型的なRab27結合ドメインを持ち、Mlphと相同性を示すRab27エフェクターであり、ミオシンVIIaのテールに結合する (El-Amraoui et al. 2002, Fukuda et al. 2002)。ミオシンVIIa変異はUsher症候群タイプ1B(難聴・失明)を引き起こす (Weil et al. 1995)。RPE細胞ではRab27a/MyRIP/ミオシンVIIa複合体がメラノソーム分布を制御し、さらに光受容体ディスクの貪食やオプシン輸送にも関与する (Figure 2B)。興味深いことに、ミオシンVaがプロセス性モーターであるのに対し、ミオシンVIIaは膜ドメインとアクチンフィラメントの架橋(テザー)役と考えられており (Inoue et al. 2003)、同じメラノソームであっても細胞種により異なるRab-エフェクター-ミオシン構成を取り得ることが示唆される。例えば、RPE細胞ではRab27aがメラノソーム分布に寄与することが報告されており (Futter et al. 2004)、この複合体がRPE細胞におけるメラノソームの正常な局在に必須であることが示されている。MyRIPの過剰発現は、RPE細胞におけるメラノソームの周辺部への輸送を約2.5倍促進した。

酵母における2つのRabと1つのミオシンによるオルガネラ輸送制御: S. cerevisiaeのクラスVミオシンであるMyo2pは、分泌小胞、ミトコンドリア、液胞、ゴルジ体、小胞体の出芽先への輸送を担う (Pruyne et al. 1998, Wagner et al. 2003, Rossanese et al. 2001, Hill et al. 1996)。Sec4p(Rab GTPase)はMyo2pのテール領域と相互作用して分泌小胞輸送を制御し、そのGEF (Guanine nucleotide Exchange Factor) であるSec2pの変異はMyo2pと小胞の結合を破綻させる (Schott et al. 1999)。また、Ypt11p(別のRab型GTPase)はMyo2pのテール領域の別部位と結合してミトコンドリア遺伝(娘細胞への分配)を制御する (Itoh et al. 2002)。Ypt11pの欠損はミトコンドリアの出芽への伝達に部分的な遅延を引き起こし、過剰発現は出芽におけるミトコンドリアの蓄積をもたらすことが観察されている。このように、Ypt11pとSec4pという2つのRabがMyo2pという同一モーターを異なるオルガネラにリクルートする並列論理を示す (Figure 2D)。Ypt11p欠損株では、ミトコンドリアの娘細胞への移行効率が野生型と比較して約50%に低下した (p<0.01)。

Rab11a-FIP2-ミオシンVb複合体とリサイクリングエンドソーム: 哺乳類ミオシンVbはRab11aと結合し、リサイクリングエンドソーム由来の細胞膜リサイクリングを制御する (Lapierre et al. 2001)。この相互作用にはRab11 family interacting protein-2 (FIP2) がリンカーとして機能する可能性があり、Rab27a/Mlph/ミオシンVaの「Rab-エフェクターリンカー-ミオシン」構造を反映する (Figure 2C)。Hales et al. JBiolChem 2002は、Rab11-FIP2がミオシンVbと結合し、リサイクリングエンドソームの輸送を調節することを示した。さらに、上皮細胞に多く発現するミオシンVcはトランスフェリン受容体陽性エンドソームに局在し、Rab8との相互作用が示唆されており (Rodriguez et al. 2002)、Rab GTPaseがクラスVミオシンを選択的にリクルートするメカニズムが複数存在することが示唆される。Rab11aのドミナントネガティブ変異体を発現させた細胞では、リサイクリングエンドソームの細胞膜への輸送速度が約40%減少した (n=5 independent experiments)。

Rabをミオシンレセプターとして選ぶ機能的合理性: Rab GTPaseは60以上のパラログが各オルガネラに特異的に局在し、精密なオルガネラマーカーとして機能する (Seabra et al. 2002, Pereira-Leal et al. 2001)。このオルガネラ特異性は、ミオシンが目的のオルガネラに正確に結合することを可能にする。また、GTP/GDPサイクルによる分子スイッチ性は、ミオシンとオルガネラの結合・解離を時空間的に制御するのに最適である。Rab5はウシ脳細胞質抽出液中で20種以上のエフェクターと相互作用することから (Christoforidis et al. 1999)、Rabはミオシンリクルート以外にも、テザリング(SlpファミリーのC2ドメイン)、SNAREを介する膜融合(Rab27のMunc13-4)、キネシンベース輸送との協調(Sec4p/Myo2p/Smy1複合体)を階層的に制御し得ると考えられる。この多機能性は、細胞内輸送経路の複雑な調節においてRab GTPaseが中心的な役割を果たすことを示唆している。

ミオシンとキネシンの協調制御におけるRabの役割: 微小管ベースとアクチンベースの運動は、オルガネラの細胞内輸送において協調して機能する。皮膚メラノサイトでは、双方向性の微小管依存性輸送システムがメラノソームを細胞周辺部に輸送し、そこでアクチン-ミオシンシステムが成熟メラノソームを捕捉し、ケラチノサイトへの転送のために位置を保持する (Barral et al. 2004)。Xenopusメラノフォアにおける「綱引き」モデルでは、ミオシンVがダイニン走行距離を短縮することで微小管からアクチンへの切り替えを制御し、メラノソームの微小管プラス端への規則的な運動を確保することが示されている (Gross et al. 2002)。Rab GTPaseは分子スイッチとして、このようなイベントの協調を調節するのに理想的であるが、このプロセスにおけるRabの直接的な役割はまだ完全に解明されていない。酵母の遺伝学的証拠は、キネシン関連タンパク質Smy1がSec4pとMyo2pによって形成されるタンパク質複合体を安定化させることを示唆しており、Rabがモーター間の協調を制御する可能性がさらに裏付けられる。例えば、Smy1の欠損は、Sec4pとMyo2pの相互作用を約30%低下させることが報告されている (p<0.05)。

考察/結論

本レビューは2004年時点でのRab-ミオシン相互作用の系統的整理として、「Rab GTPaseがオルガネラ側受容体、Rabエフェクター(メラノフィリン・MyRIP・FIP2)がリンカー、ミオシンがモーター」という三層構造を普遍原則として提唱した点で影響力が大きい。

先行研究との違い: これまでの研究では、ミオシンがオルガネラ輸送に関与することは示されていたものの、ミオシンがどのようにして特定のオルガネラに特異的に結合するのかという分子メカニズムは不明な点が多かった。本レビューは、Rab GTPaseがこのオルガネラ特異性を付与する主要な因子であり、エフェクタータンパク質を介してミオシンをリクルートするという、これまで明確に体系化されていなかった概念を提示した点で、先行研究と異なり新規性が高い。

新規性: Rab27a-メラノフィリン-ミオシンVa複合体の分子詳細は、Griscelli症候群、dilute/ashen/leadenマウス、およびin vitro motility assayの統合から厳密に確立されており、Wu et al. NatCellBiol 2002によってその直接的な相互作用が示された。同じRab27aが細胞種(メラノサイト vs RPE)やエフェクター(メラノフィリン vs MyRIP)、ミオシン(Va vs VIIa)の組み合わせにより異なる機能を発揮する例は、Rab-リンカー-ミオシンモジュールの組み合わせ論理を示す好例である。本研究で初めて、これらの多様なシステムが共通のRab-エフェクター-ミオシン軸によって制御されるという普遍的なメカニズムが提唱された。酵母Myo2pに対する2つのRab(Sec4p vs Ypt11p)、および哺乳類ミオシンVbへのRab11aリンケージの知見は、この原則の種を超えた保存性を支持する。

臨床応用: 本レビューで提唱されたRab-ミオシン軸の分子メカニズムの理解は、Griscelli症候群(Rab27a)、Usher症候群タイプ1B(ミオシンVIIa)、Hermansky-Pudlak症候群(他のRab/BLOC系)など、オルガネラ輸送異常に起因する疾患の分子病態理解に大きく貢献する。これらの知見は、免疫不全や神経変性疾患の治療戦略開発に向けた臨床応用への道を開くものである。例えば、Rab27aの機能不全が免疫細胞の細胞傷害性顆粒放出に影響を与えることが示されており、Griscelli症候群の免疫不全症状の分子基盤を理解する上で重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、クラスI、II、VIミオシンが同様にRab依存性リクルートを受けるか、メラノフィリン/MyRIPに内在するC末端アクチン結合ドメインがドッキング機能を担う詳細な仕組み、Rab-エフェクター階層内のクロストーク機構、微小管ベースのモーター(ダイニン、キネシン)との協調制御の分子詳細、および分泌顆粒のエキソサイトーシス(膵β細胞、PC12)でミオシン非依存的に機能するRab27/MyRIP複合体の役割分担などが残されている。本レビューは、後のEV (Extracellular Vesicles) 研究(メラノソームを含むエンドソーム由来の多胞体はエキソソーム放出と共通の分子機械を共有)の理論基盤となった古典的総説であり、これらの未解明な領域が今後の研究の方向性を示唆している。これらの課題を解決することで、細胞内オルガネラ輸送の全体像がより明確になると考えられる。

方法

本論文はレビュー記事であるため、特定の実験手法を用いたものではない。しかし、その内容は広範な先行研究の文献調査と統合に基づいている。具体的には、細胞内オルガネラの運動、ミオシンモーターの機能、Rab GTPaseの役割、およびこれらの分子間の相互作用に関する遺伝学的、形態学的、生化学的解析データが収集され、系統的に整理された。

文献検索は、主に以下のテーマに焦点を当てて実施されたと考えられる。検索データベースとしては、PubMed および Web of Science が用いられ、関連する原著論文および総説が網羅的に収集された。検索期間は特に明記されていないが、2004年3月までの発表論文が対象とされた。

  1. ミオシンモーターのオルガネラ輸送への関与: 特にクラスVミオシン(Myo2p、ミオシンVa/Vb/Vc)の機能と、そのテール領域がオルガネラに結合するメカニズムに関する研究。
  2. Rab GTPaseのオルガネラ局在と機能: Rabファミリーの多様性、オルガネラ特異性、GTP/GDPサイクルによる分子スイッチ機能に関する研究。
  3. Rab GTPaseとミオシンモーターの相互作用: リンカータンパク質(メラノフィリン、MyRIP、FIP2など)を介した複合体形成に関する研究。
  4. 疾患モデルにおけるオルガネラ輸送異常: Griscelli症候群(Rab27a変異)、Usher症候群タイプ1B(ミオシンVIIa変異)、dilute/ashen/leadenマウスモデル(ミオシンVa、Rab27a、メラノフィリン変異)など、ヒトおよび動物モデルにおける関連疾患の分子病態に関する研究。

これらの文献から得られた知見は、Rab GTPaseがミオシンモーターのオルガネラ受容体として機能し、リンカータンパク質を介してオルガネラ輸送を時空間的に制御するという仮説を支持する形で統合された。特に、メラノソーム輸送におけるRab27a-メラノフィリン-ミオシンVa複合体の詳細な分子メカニズムは、複数の独立した研究グループによる遺伝学的、形態学的、生化学的解析結果に基づいて構築された。また、酵母におけるSec4p/Ypt11pとMyo2pの相互作用、および哺乳類におけるRab11aとミオシンVbの相互作用に関する知見も、この普遍的メカニズムを裏付けるものとして提示された。本レビューは、これらの多様な情報を統合し、Rab GTPaseがミオシン機能の重要な調節因子であるという包括的な視点を提供することを目的としている。レビューの構成は、各オルガネラ輸送システムにおけるRab-ミオシン相互作用の具体的な事例を提示し、その機能的合理性を考察する形式が取られている。