- 著者: Balamayoora Theivanthiran, Kathy S. Evans, Nicholas C. DeVito, Michael Plebanek, Michael Sturdivant, Luke P. Wachsmuth, April K.S. Salama, Yubin Kang, David Hsu, Justin M. Balko, Douglas B. Johnson, Mark Starr, Andrew B. Nixon, Alisha Holtzhausen, Brent A. Hanks
- Corresponding author: Brent A. Hanks (Division of Medical Oncology, Duke Cancer Institute, Durham, North Carolina, USA)
- 雑誌: The Journal of clinical investigation
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-04-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 32017708
背景
PD-1/PD-L1チェックポイント阻害薬 (ICI) は、多くのがん種において治療成績を著しく改善したが、依然として大多数の患者では効果が限定的であるという課題が残されている Sharma et al. Cell 2017。CD8+ T細胞由来のIFNγ誘導性フィードバック機構(CSF1、CD38、IDO、PD-L1など)は、適応抵抗性 (adaptive resistance) の重要なメカニズムとして広く認識されているが、CXCR2依存性ケモカインがこの抵抗性において果たす役割については、これまで十分に解明されていなかった Pitt et al. Immunity 2016。
骨髄由来抑制細胞 (MDSCs)、特に顆粒球性PMN-MDSCsは、CXCR2/CXCL5シグナル経路を介して腫瘍組織へ遊走し、ICIに対する応答不良と関連することが報告されている。しかし、MDSCsがチェックポイント阻害薬に対する抗腫瘍免疫応答をどのように妨害するのか、その正確なメカニズムは不明なままである。NLRP3 (NOD様受容体、ロイシンリッチリピート、ピリンドメイン含有タンパク質3) インフラマソームは、自然免疫系におけるパターン認識分子として知られ、ATPやDAMPs (danger-associated molecular patterns) による活性化後、カスパーゼ1を介してIL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインを分泌する。しかし、腫瘍細胞内在性のNLRP3シグナルが腫瘍形成や免疫療法への応答にどのように寄与するかは未解明であった。
Wnt5aは非古典的Wntリガンドであり、腫瘍の進展、免疫回避、そして免疫療法抵抗性に関与することが示唆されている。興味深いことに、TLR4 (Toll様受容体4) シグナルが骨髄系細胞においてWnt5aの発現を誘導しうることが報告されており、TLR4自体も様々ながん種で腫瘍進展と関連している。しかし、腫瘍内在性のPD-L1 (programmed death ligand 1) シグナルが適応抵抗性を誘導する具体的なメカニズム、特にNLRP3インフラマソームを介した経路については、これまで報告されていない。本研究は、抗PD-1抗体治療後に観察されるPMN-MDSCの腫瘍内集積が、腫瘍内在性のPD-L1/NLRP3インフラマソームシグナル経路によって駆動されるという新規の適応抵抗性カスケードを提唱し、その詳細なメカニズムを明らかにすることを目的とした。この分野における知識のギャップは、効果的な免疫療法戦略の開発において重要な課題として残されている。
目的
本研究の目的は、抗PD-1抗体治療後に腫瘍細胞が獲得する適応抵抗性 (adaptive resistance) の分子メカニズムを解明することである。具体的には、CD8+ T細胞の活性化に応答して、腫瘍細胞内のPD-L1がNLRP3 (NOD様受容体、ロイシンリッチリピート、ピリンドメイン含有タンパク質3) インフラマソームを活性化し、その結果としてHSP70 (熱ショックタンパク質70) の分泌、TLR4 (Toll様受容体4) の活性化、Wnt5aの発現誘導、およびCXCL5の産生を介して、顆粒球性骨髄由来抑制細胞 (PMN-MDSC) を腫瘍組織にリクルートする一連のシグナルカスケードを同定することを目指した。さらに、この新規経路におけるNLRP3の中心的役割を検証し、NLRP3の遺伝的または薬理学的阻害が、抗PD-1抗体免疫療法の有効性を回復させ、腫瘍の免疫回避を抑制できるかを明らかにすることを目的とした。最終的に、この経路が臨床的な免疫療法抵抗性のバイオマーカーおよび治療標的となりうる可能性を探ることも本研究の重要な目的である。
結果
Anti-PD-1治療後のPMN-MDSC集積とCXCR2リガンドの上昇: 自発性BRAFV600E PTEN-/- メラノーマモデルにおいて、抗PD-1抗体治療後に腫瘍が免疫逃避し増悪する過程で、RNA-seq解析によりCxcl5 (3.75-fold, p=8.88×10⁻⁶)、Cxcl3 (3.49-fold, p=0.002)、Cxcl2 (3.63-fold, p=0.146) などのCXCR2リガンド遺伝子の顕著な上昇が認められた (Figure 1B)。これと並行して、S100a8 (2.27-fold, p=1.61×10⁻¹⁰)、S100a9 (2.27-fold, p=3.37×10⁻¹¹) などの炎症性タンパク質やArg1 (1.45-fold, p=1.95×10⁻⁶) の発現も増加した。時系列qRT-PCRおよびGr-1 IHC/フローサイトメトリー解析により、CD45+CD11b+Ly6G+Ly6CintF4/80- PMN-MDSCsが抗PD-1抗体治療の進行に伴い、用量依存的に腫瘍内に集積することが確認された (Figure 1C, D, E)。このPMN-MDSCの集積は、Lewis肺がん、p53/Kras膵がん、およびヒト化RCC PDXモデルでも再現されたが、抗CTLA-4抗体治療では同様の効果は観察されなかった。CD8+ T細胞の除去実験により、CXCL5の誘導が消失し、この現象がCD8+ T細胞に依存することが示された (Figure 1F)。CXCL5の遺伝的サイレンシングまたはCXCR2阻害剤AZD5069の併用により、PMN-MDSCの集積が抑制され、CD8+ T細胞の腫瘍浸潤が増加し、抗PD-1抗体療法の効果が有意に増強された (p<0.05) (Figure 1G, H)。これらの実験にはn=5 miceが使用された。
Wnt5aがCXCR2リガンド発現を促進し、YAP経路を介する: TCGA-SKCMデータベースの解析により、WNT5AとCXCL2、CXCL5、CXCR2遺伝子発現との間に有意な相関が認められた (Figure 2A)。抗PD-1抗体治療後のBRAFV600E PTEN-/- 腫瘍組織では、Wnt5a発現、YAP安定化、およびCXCL5発現の増加がウェスタンブロットで確認され、血漿CXCL5レベルもELISAで上昇した (Figure 2B, C)。組換えWnt5a (rWnt5a) 刺激により、BRAFV600E PTEN-/- メラノーマ細胞においてCxcl1、Cxcl2、Cxcl5遺伝子発現がYAP依存的に上昇し、YAP阻害剤verteporfinで抑制された (Figure 2D, E)。Wnt5aをノックダウンした腫瘍では、CXCL5発現とPMN-MDSC集積が低下し、抗PD-1抗体応答が改善した (Figure 2F, G, H, I, J)。これらの結果は、腫瘍由来Wnt5aがCXCL5依存的なPMN-MDSCのリクルートメントを介して抗PD-1抗体免疫療法への抵抗性を駆動することを示唆する。このWnt5aノックダウン実験にはn=3 miceが使用された。
HSP70/TLR4経路が腫瘍Wnt5a発現を誘導する: SILAC/AHA LC-MS/MSセクレトーム解析により、抗PD-1抗体治療後の腫瘍からHSP70を含む熱ショックタンパク質 (HSPs) の分泌が増加していることが示された (Figure 3B)。また、抗PD-1抗体治療中のマウス血漿HSP70レベルもELISAで上昇した (Figure 3C)。BRAFV600E PTEN-/- メラノーマ細胞ではTlr2とTlr4の発現レベルが高く、TCGA解析でもWNT5AとTLR2/TLR4発現の間に相関が認められた (Figure 3D)。HSP70刺激はBRAFV600E PTEN-/- 細胞のWnt5a発現を用量依存的に誘導し、HSP70阻害剤またはTlr4 siRNA/shRNAによってこの誘導は阻害された (Figure 3E, F, G)。Tlr4サイレンシング腫瘍は、Wnt5aおよびCXCL5発現の低下、PMN-MDSCの減少、CD8+ T細胞浸潤の増加、そして腫瘍増殖の抑制を示した (Figure 3H, I, J)。これらのデータは、抗PD-1抗体治療に応答した腫瘍HSP70の放出が、Wnt5aを介したCXCR2依存性ケモカイン発現を誘導することを示唆する。Tlr4 siRNA実験にはn=5 miceが使用された。
CD8+ T細胞がHSP70/TLR4/Wnt5a/CXCL5軸を駆動する: OT-1 CD8+ T細胞とOVA発現BRAFV600E PTEN-/- メラノーマ細胞の共培養実験により、T細胞比率に依存してHSP70分泌とWnt5a誘導が確認された (Figure 4A)。in vivoでのCD8+ T細胞除去実験では、PMN-MDSC集積とCXCL5上昇が消失した (Figure 4C)。ダカルバジン化学療法は同程度の腫瘍細胞死を誘導するが、HSP70分泌は増加せず、PMN-MDSC集積も変化しなかった (Figure 4D, E, F)。これは、HSP70分泌が単なる細胞死ではなく、抗原特異的なT細胞活性化に起因することを示唆する。さらに、NLRP3阻害剤MCC950がATP刺激およびCD8+ T細胞を介したHSP70放出をブロックすることが示され、腫瘍NLRP3インフラマソームがHSP70放出とPMN-MDSCリクルートメントに関与することが裏付けられた (Figure 4G, H)。これらの実験にはn=3 miceが使用された。
PD-L1がNLRP3活性化と下流のHSP70/Wnt5aシグナル軸をトリガーする: IFNγとアゴニスト抗PD-L1抗体によるBRAFV600E PTEN-/- メラノーマ細胞の処理は、NLRP3インフラマソームの活性化 (カスパーゼ1切断)、HSP70分泌、およびWnt5aの上昇を誘導した (Figure 5A)。この効果はLLC細胞株でも再現された。NLRP3阻害剤MCC950またはNlrp3サイレンシングにより、抗PD-1抗体治療におけるT細胞による腫瘍HSP70分泌およびWnt5a誘導が消失した (Figure 5E, F)。PD-L1架橋はASC重合とNLRP3-ASC結合を促進し、インフラマソーム複合体形成に寄与した (Figure 5B, C)。この経路はT細胞と腫瘍細胞の接触依存的であり、抗原特異的であることがTranswell実験で示された。PD-L1はSTAT3を抑制することでPKR-NLRP3活性化を誘導し、この経路がPMN-MDSCのリクルートメントを駆動することが示唆された (Figure 5G, H, I, J, K)。
NLRP3阻害と抗PD-1併用の相乗効果: in vivo BRAFV600E PTEN-/- モデルにおいて、MCC950と抗PD-1抗体の併用療法は、抗PD-1単独療法と比較してPMN-MDSC集積を有意に抑制し、CD8+ T細胞浸潤を増加させ、腫瘍増殖抑制と生存期間延長を達成した (Figure 6E, F)。患者メラノーマの治療前および治療中の生検組織解析でも、抗PD-1抗体治療後にNLRP3活性化、HSP70、Wnt5a、CXCL5マーカーが上昇し、臨床的なICI非応答例と相関することが示された (Figure 7E)。さらに、抗PD-1抗体治療中のメラノーマ患者の血漿HSP70レベルは、非応答者で有意に増加したが、応答者ではほとんど変化がなかった (Figure 7F, G)。これらの結果は、NLRP3が抗PD-1抗体療法の効果を増強するための有望な薬理学的標的であることを強く示唆する。併用療法実験にはn=8 miceが使用された。
考察/結論
本研究は、抗PD-1抗体免疫療法に対する腫瘍内在性の適応抵抗性メカニズムとして、「腫瘍PD-L1→NLRP3インフラマソーム→HSP70→TLR4→Wnt5a/YAP→CXCL5→PMN-MDSC」という新規のシグナルカスケードを同定した。この経路は、CD8+ T細胞の活性化(抗PD-1抗体による)を上流のトリガーとする点で、パラドキシカルなフィードバックループを形成し、ICI効果を自ら制限する腫瘍内在性のネガティブループを構成することが明らかになった。PD-L1が単なる免疫チェックポイント分子としてだけでなく、受容体シグナル伝達分子(リバースシグナリング)として機能するという新知見も重要である。
先行研究との違い: これまでの研究では、CSF1、CD38、IDOなどの経路を介した適応抵抗性が報告されてきたが、本研究はそれらとは異なる、NLRP3インフラマソームを介した全く新しい抵抗性メカニズムを提示した。また、NLRP3インフラマソームは従来、主に骨髄系細胞における自然免疫応答のセンサーとして注目されてきたが、本研究で初めて腫瘍細胞内在性のNLRP3が免疫回避に果たす役割を明確に示した点で、これまでの知見と対照的である。さらに、HSP70がDAMPsとして治療的に放出される一方で、免疫抑制方向にも作用するという二面性(double-edged sword現象)を明らかにした点も新規性がある。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1がSTAT3を抑制することでPKRを介したNLRP3インフラマソームの活性化を誘導するという、腫瘍内在性のPD-L1シグナル伝達経路を新規に同定した。この経路が、HSP70、TLR4、Wnt5a、CXCL5を介してPMN-MDSCを腫瘍組織にリクルートし、抗腫瘍免疫応答を減弱させる適応抵抗性メカニズムとして機能することを明らかにした点は、これまで報告されていない画期的な知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、免疫療法抵抗性を克服するための新たな治療戦略の臨床応用に直結する。NLRP3阻害剤MCC950やその誘導体は、炎症性疾患の治療薬として臨床開発が進んでおり、抗PD-1抗体との併用療法への転用可能性が期待される。また、CXCR2阻害剤AZD5069は既にICI併用試験が進行中であり、本研究結果はその有効性をさらに裏付けるものである。さらに、血漿HSP70およびCXCL5は、抗PD-1抗体治療に対する応答性や抵抗性を予測するバイオマーカー候補として有用である可能性が示唆された。Wnt5a/YAP経路を標的とする薬剤(例:verteporfin)との併用戦略も、今後の臨床的意義として検討されるべきである。
残された課題: 今後の検討課題として、まずNLRP3インフラマソームの全身阻害が、自然免疫抑制による感染リスクなどの安全性プロファイルにどのような影響を与えるかを詳細に評価する必要がある。また、本研究で焦点を当てたHSP70以外のHSP(HSP90、HSP27など)がこの経路に寄与する可能性も検討すべきである。他の主要ながん種(肺がん、腎がんなど)における本カスケードの再現性を確認することも重要である。さらに、抗CTLA-4抗体治療ではこの経路が起動されない理由のメカニズム解明や、ICI併用療法の最適な投与スケジュールとバイオマーカーによる患者層別化戦略の確立も、今後の研究方向性として残されている。
方法
マウスモデル: 自発性BRAFV600E PTEN-/- メラノーマモデル (anti-PD-1治療後に一時的応答を示すが最終的に免疫逃避するモデル)、Lewis肺がん (LLC) モデル、p53/Krasオルソトピック膵がんモデル、およびヒト化腎細胞がん (RCC) 患者由来異種移植 (PDX) モデルを用いた。これらのモデルを用いて、抗PD-1抗体治療後の腫瘍微小環境の変化を評価した。すべての実験群には、ランダムに選択された6〜8週齢の性別が混在する同腹仔マウス (C57BL/6J) を使用した。
分子解析: anti-PD-1抗体またはIgGアイソタイプコントロール抗体で治療した腫瘍組織の全トランスクリプトーム解析 (RNA-seq) を実施し、遺伝子発現プロファイルの変化を同定した。また、定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR)、ウェスタンブロット、およびELISA (CXCL5、HSP70の血漿濃度測定) を用いて、特定の遺伝子およびタンパク質の発現レベルを定量した。さらに、安定同位体標識アミノ酸培養 (SILAC) 法とアジドホモアラニン (AHA) 標識を組み合わせた液体クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS/MS) によるセクレトーム解析を行い、腫瘍細胞から分泌されるタンパク質、特にHSP70の変化を詳細に分析した。
遺伝子操作: CXCL5 shRNAサイレンシング、Wnt5a shRNAノックダウン、HSP70 CRISPR/Cas9ノックアウト、NLRP3 siRNA/遺伝子サイレンシング、およびTlr4 siRNA/shRNAを用いて、特定の遺伝子の発現を抑制した。これらの遺伝子操作により、各分子がPMN-MDSCのリクルートメントおよび抗PD-1抗体療法への応答に与える影響を評価した。細胞株として、BRAFV600E PTEN-/-、BRAFV600E PTEN-/- Wnt5a KD、BRAFV600E PTEN-/- CXCL5 KD、BRAFV600E PTEN-/- PDL1 KD、Braf V600E PTEN-/- NLRP3 KD、およびBRAFV600E PTEN-/- NTC細胞株を用いた。
薬理学的介入: CXCR2阻害剤AZD5069、HSP70阻害剤VER155008、NLRP3阻害剤MCC950、およびYAP阻害剤verteporfinを用いて、in vitroおよびin vivoで特定のシグナル経路を薬理学的に阻害し、その効果を検証した。
In vitro共培養実験: OVA異種抗原を発現するBRAFV600E PTEN-/- メラノーマ細胞とOT-1 CD8+ T細胞を共培養し、PD-1阻害下での抗原特異的なT細胞活性化が腫瘍細胞のHSP70分泌およびWnt5a誘導に与える影響を評価した。Transwellアッセイを用いて、T細胞と腫瘍細胞の接触依存性を検証した。また、ダカルバジン化学療法による細胞毒性とHSP70分泌を比較し、HSP70分泌が単なる細胞死によるものではないことを確認した。
患者検体解析: メラノーマ患者の抗PD-1抗体治療前および治療中の生検組織を用いて、NLRP3活性化、HSP70、Wnt5a、CXCL5などのシグナルマーカーの発現レベルを解析した。また、血漿中のHSP70およびCXCL5濃度をELISAでモニタリングし、ICI応答との相関を評価した。統計解析には、Student’s t検定、一元配置ANOVA、Holm-Sidak多重比較補正、Sidakの事後多重比較検定、Kendallのタウ相関係数、Spearmanの相関係数を用いた。p値が0.05未満を有意とした。