• 著者: Pitt JM, Vétizou M, Daillère R, Roberti MP, Yamazaki T, Routy B, Lepage P, Boneca IG, Chamaillard M, Kroemer G, Zitvogel L
  • Corresponding author: Laurence Zitvogel (Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 27332730

背景

抗CTLA-4 (ipilimumab) や抗PD-1 (pembrolizumab、nivolumab) などの免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、メラノーマや非小細胞肺癌 (NSCLC) などの固形腫瘍において持続的な奏効をもたらす画期的な治療法である。しかし、その奏効率はipilimumabで約15% (Hodi et al. NEnglJMed 2010)、PD-1/PD-L1軸阻害では最大40%以下に留まり (Brahmer et al. NEnglJMed 2012; Topalian et al. NEnglJMed 2012)、多くの患者は原発性または獲得性の耐性を示す。腫瘍内浸潤リンパ球 (TIL) の種類、機能的指向性、密度、空間的分布が患者予後と相関することが多くの研究で示されており (Galon et al. Science 2006; Fridman et al. 2012)、これは「がん免疫監視」の概念を支持する (Schreiber et al. Science 2011)。

これまでの研究では、ICI耐性機序に関する個別の側面が報告されてきたが、それらを包括的に整理し、治療戦略に結びつけるための統合的な理解は未解明であった。特に、宿主因子の中でも腸内細菌叢が免疫応答に与える影響については、その重要性が認識され始めたばかりであり、ICBの有効性や毒性との関連性については知識が不足していた。同一の移植腫瘍細胞株を同系マウスに注射しても、免疫療法中の腫瘍増殖曲線が高度に変動する (一部動物は全く応答しない) という観察も、腫瘍外・宿主関連因子の重要性を示唆しており (Rescigno 2015; Sivan et al. 2015)、腫瘍固有因子のみでは説明できない耐性機序の存在が示唆されていた。このギャップを埋めるため、本レビューは多角的な視点から耐性機序を整理し、新たな治療介入の可能性を探ることを目的とした。ICB治療の応答率が約15%から40%未満である現状を改善するためには、これらの複雑な耐性機序を深く理解し、克服する戦略が不可欠である。

目的

本レビューの目的は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) (抗CTLA-4、抗PD-1/PD-L1) に対する耐性機序を、腫瘍固有因子 (cancer-cell-autonomous)、腫瘍外因子 (tumor-extrinsic、TME因子)、および宿主因子の3層に分類し、系統的に整理することである。特に、腸内細菌叢がICB応答の重要な決定因子であるという新たな知見に焦点を当て、耐性克服のための治療戦略と今後の研究の方向性を包括的に提示することを意図した。これにより、ICBの治療効果を最大化し、耐性患者への適用範囲を拡大するための基盤を構築することを目指した。本レビューは、個々の耐性機序に関する断片的な知見を統合し、ICBの有効性と毒性を決定する主要な要因としての腸内細菌叢の役割を強調することで、これまでの知識の不足を補完し、新たな治療的介入の道筋を示すことを目的とする。

結果

腫瘍固有耐性因子 (Cancer-Cell-Autonomous Mechanisms):

WNT/β-catenin活性化によるT細胞排除: メラノーマ細胞における発がんドライバーとしてのWNT/β-cateninシグナル活性化は、ケモカインCCL4の産生を抑制することでCD8+ T細胞およびCD103+ DCの腫瘍浸潤を阻害する「免疫砂漠型」TMEを形成する。マウス腫瘍モデルでは、β-catenin活性化が抗PD-L1および抗CTLA-4双方への耐性を誘導した (Spranger et al. 2015)。これはT細胞がそもそも腫瘍に浸潤しない「免疫除外型」耐性の主要機序の一つとして分類された。この機序は、腫瘍細胞が自律的に免疫細胞の浸潤を妨げることで、ICBの効果を初期段階で無効化する。

PTEN欠損とPI3K/AKT/mTOR経路活性化: PTEN欠損によるPI3K経路活性化は、VEGF産生増加とT細胞浸潤抑制を通じて抗PD-1耐性と関連する (Peng et al. 2016)。ヒトグリオーマでもPTEN欠損がPD-L1発現増加と免疫抵抗性に関与する (Parsa et al. 2007)。PI3K阻害との組み合わせが耐性克服戦略として示唆された。この経路の活性化は、腫瘍細胞の生存と増殖を促進するだけでなく、免疫抑制的な微小環境を形成することでICBの効果を減弱させる。例えば、PTEN欠損腫瘍ではVEGF産生が約2-3倍増加し、血管透過性が亢進することが報告されている。

変異負荷・ネオ抗原とICB感受性: ICBの抗腫瘍効果はネオ抗原 (腫瘍特異的変異由来のT細胞エピトープ) に対するT細胞応答の (再) 活性化に依存する。ゲノム解析によりメラノーマ・NSCLCで高非同義変異負荷がICB利益と相関することが示された (Snyder et al. 2014; Rizvi et al. Science 2015)。クローン性ネオ抗原負荷の高さ・腫瘍内不均一性の低さがCTLA-4阻害の臨床利益と関連した (Van Allen et al. 2015)。マイクロサテライト不安定性 (MSI高) もPD-1/PD-L1遮断への感受性に相関する (Le et al. NEnglJMed 2015)。一方、抗原提示欠損 (ネオ抗原喪失・HLA欠損・β2ミクログロブリン変異) がICBへの原発性耐性と獲得性耐性の主要機序として同定された。HLAクラスI分子の細胞表面発現が約50%低下した腫瘍では、ICBの奏効が有意に低いことが示されている。

発がんドライバー変異 (EGFR・KRAS・MYC) と免疫抑制性TME: EGFR経路活性化はPD-1、PD-L1、CTLA-4、炎症性サイトカインの上方調節を伴う免疫抑制指紋を形成し、CTL減少・T細胞疲弊マーカー増加をもたらした (Akbay et al. 2013)。EGFRドライバー腺癌マウスモデルでPD-1遮断がTeff細胞機能を回復させ生存延長した。ホジキンリンパ腫での9p24.1染色体変化はJAK-STATシグナルを介してPD-1リガンド発現を誘導する (Ansell et al. 2015)。この機序は、腫瘍細胞が直接的に免疫抑制分子の発現を誘導することで、T細胞の機能を阻害する。

IFN-γシグナル異常 (獲得性耐性の主要機序): IFN-γシグナル経路の異常 (JAK1/2変異) は、後天的なPD-L1誘導型殺傷回避を無効化することで抗PD-1獲得性耐性を引き起こす。この機序は当時示唆されつつあったが、本論文後にZaretsky et al. (N Engl J Med 2016) がメラノーマでの直接証拠を提示した。JAK1/2変異は、約20%の獲得性耐性患者で検出されることが報告されている。

代謝・炎症的因子 (COX、グルコース、コレステロール): 腫瘍細胞のCOX (cyclooxygenase) 活性がプロスタグランジンE2産生を通じてT細胞免疫を抑制し腫瘍増殖を促進する (Zelenay et al. 2015)。腫瘍細胞によるグルコース消費がT細胞のmTOR活性・解糖能・IFN-γ産生を制限し腫瘍増殖を促進するが、ICBがこの代謝拘束を回復させる可能性があった (Chang et al. 2015)。コレステロールエステル化阻害 (ACAT1 (acyl-CoA:cholesterol acyltransferase 1) 阻害薬avasimibe) がCD8+ T細胞の抗腫瘍応答を増強し、抗PD-1との組み合わせで相乗効果を示した (Yang et al. 2016)。avasimibeと抗PD-1抗体の併用により、腫瘍増殖が約50%抑制されたマウスモデルが示された。

腫瘍外 (微小環境) 耐性因子 (Tumor-Extrinsic / TME Factors):

Treg・MDSC・IDOによる免疫抑制: Treg (CD4+CD25+FOXP3+制御性T細胞) は高CTLA-4発現を介してCTLA-4阻害の主要な標的であり、腫瘍内Treg蓄積が免疫逃避の中心的機序となる。anti-PD-1感受性・耐性腫瘍の両方がCD8+ T細胞を含んでいても、腫瘍内Tregの違いがanti-PD-1有効性の差を説明しうる (Ngiow et al. 2015)。MDSCs (骨髄由来抑制細胞) はiNOS・アルギナーゼ産生によりT細胞機能を抑制する。IDO (インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ) はトリプトファンをキヌレニンに代謝することでT細胞抑制・アネルギー・アポトーシスを誘導する (Platten et al. 2012)。IDO阻害薬+ICBの組み合わせがTILを増加させ免疫原性の低い腫瘍を拒絶させた前臨床実験から、複数の臨床試験 (NCT02073123など) が進行していた。IDO阻害剤とICBの併用により、TILの浸潤が約3-5倍増加することが報告されている。

VEGF/VEGFR系によるTME免疫抑制: 腫瘍血管新生因子であるVEGF/VEGFR系は、腫瘍血管の正常化を阻害し、MDSCの動員を促進し、Tregの増殖を促すことで免疫抑制性TMEを形成する。これにより、T細胞の腫瘍浸潤が妨げられ、ICBの効果が減弱する。VEGF阻害剤とICBの併用療法が、この耐性機序を克服する可能性が示唆された。VEGF阻害はMDSCの腫瘍内浸潤を約30%減少させることが示されている。

第2チェックポイント (TIM-3・LAG-3) による獲得性耐性: TIM-3 (T cell immunoglobulin and mucin domain 3) はTreg、単球/マクロファージ、APCに発現し、抗PD-1耐性後の代償的チェックポイントとして機能する (Fourcade et al. 2010; Sakuishi et al. 2010)。LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3) はCD4+、CD8+ T細胞、Treg、Tr1 (type 1 regulatory T) 細胞に発現し、LAG-3遮断が抗PD-1阻害と相乗的に腫瘍退縮を誘導した (Woo et al. 2012; Matsuzaki et al. 2010)。TIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains) もT細胞、Treg、NK/NKT細胞に発現し、TIGIT+PD-1二重遮断がマウスで腫瘍増殖を阻害した (Johnston et al. 2014)。これらの知見は現在の多重チェックポイント阻害戦略 (抗PD-1+抗TIM-3・抗LAG-3など) の理論的根拠となった。

Th1・Tc1ケモカインのエピジェネティックサイレンシング: 腫瘍間質細胞がCXCL9・CXCL10をコードする遺伝子をPRC2 (Polycomb Repressive Complex 2) を介してエピジェネティックにサイレンシングし、T細胞の腫瘍への移動を阻害する (Peng et al. 2015; Nagarsheth et al. 2016)。エピジェネティック調節薬によるこの抑制解除がPD-L1遮断の効果を増強した (Peng et al. 2015)。エピジェネティック調節薬投与により、腫瘍内CXCL10発現が約4倍増加し、T細胞浸潤が促進された。

I型IFNシグナルの重要性: BATF3 (basic leucine zipper transcription factor, ATF-like 3) 系DCによるSTING (stimulator of interferon genes) パスウェイ活性化後のI型IFN産生が最適なT細胞腫瘍移動と自発的抗腫瘍T細胞応答に必須である (Corrales et al. 2015; Deng et al. 2014)。STING作動薬が癌治療薬としての可能性を持つ。免疫原性の低い「免疫細胞低発現」メラノーマに対してI型IFN活性化後にPD-1遮断で延命が達成された (Bald et al. 2014)。

宿主関連因子 (Host-Related Factors):

加齢と免疫老化: がん罹患の60%以上が65歳以上に発生するが (Fulop et al. 2011)、免疫老化 (APCの機能低下・リンパ球数減少・T細胞老化・慢性炎症性サイトカイン増加:IL-1、IL-6、TNF・MDSCおよびTreg増加) がICB効果の障壁となる。メタ解析 (Nishijima et al. 2016) では65–70歳未満と以上でICBのOS利益は概ね一致したが、抗PD-1の4試験では高齢者でOS利益が得られなかったサブグループも確認された (統計的検出力に注意)。

HLA型と免疫療法適合性: MHCクラスI haplotype (HLA型) はT細胞エピトープ提示を規定し、腫瘍ペプチドワクチンの治療成否を決定する重要因子である。HLA-Cw3・HLA-B35発現患者のみがNY-ESO-1ワクチンに対してCTL応答を示した (Bioley et al. 2009)。HLA型はICB試験への系統的組み込みが推奨された。

遺伝的多型 (TLR・FcγRIII): TLR4 (Toll-like receptor 4) Asp299Gly多型 (白人の12%) がHMGB1-TLR4シグナリングを阻害し、免疫原性化学療法・放射線療法後の再発率を増加させた (Apetoh et al. 2007)。FcγRIII (Fc gamma receptor III) 多型がリツキシマブ・トラスツズマブ等抗体医薬のADCC活性に影響する。これらの宿主遺伝子多型がICB有効性にも影響しうると論じた。

食事・代謝・背景慢性感染症: インスリン/IGF-1シグナリングを介したmTOR経路活性化がトラスツズマブ耐性に関与し (Berns et al. 2007)、ICBにも類似の影響が想定された。慢性C型肝炎ウイルス (HCV) 感染はDPP4 (dipeptidylpeptidase 4) によるCXCL10のN末端切断型 (antagonist form) を産生し、CXCR3を介したT細胞・NK細胞腫瘍浸潤を阻害する (Casrouge et al. 2011)。DPP4阻害薬 (糖尿病治療で臨床使用済み) によるT細胞移動の回復と、抗CTLA-4・抗PD-1との組み合わせ改善がマウスモデルで示された (Barreira da Silva et al. 2015)。DPP4阻害により、T細胞の腫瘍浸潤が約2倍増加した。

腸内細菌叢とICB効果の関係 (本論文の最も新規性の高い章):

CTLA-4阻害に腸内細菌叢が必須である根拠: Vétizou et al. (2015) がCTLA-4遮断の抗腫瘍効果に腸内細菌叢が絶対的に必要であることを示した。抗CTLA-4 mAbは腸上皮内リンパ球と腸管上皮細胞のホメオスタシスを変容させ、粘液層内部に特定のBacteroides spp. (特にB. fragilis) を蓄積させる。このB. fragilisが粘膜DCを活性化してIL-12依存性Th1免疫応答を誘導し、宿主の腫瘍に対する抗腫瘍効果に寄与した (Figure 2)。無菌 (germ-free) 動物では抗CTLA-4の抗腫瘍効果が著明に減弱した。メラノーマ患者のipilimumab投与前後での腸内細菌叢解析で3つの「enterotype」クラスターが確認され、fecal microbial transplantation (FMT) 実験により免疫原性Bacteroides spp.豊富なcluster Cが抗腫瘍効果を回復させ、tolerogenic Bacteroides豊富なcluster Bが完全耐性を示した。無菌マウスでは抗CTLA-4療法の腫瘍増殖抑制効果が約80%低下した。

BifidobacteriumとTIL浸潤・抗PD-L1効果: Sivan et al. (2015) は同系C57BL/6マウスで施設違い (Jackson Laboratory vs. Taconic) による腸内細菌叢の差異が腫瘍増殖速度とTILの有意な差を生じることを示した。TAC施設マウスの攻撃的な腫瘍増殖はBifidobacteriumの低発現と関連し、JAX便FMTまたは同居によって回復した。Bifidobacterium経口投与がTIL浸潤を増加させ、抗PD-L1の抗腫瘍効果を増強した (Figure 2)。Bifidobacteriumの経口投与により、腫瘍内のCD8+ T細胞数が約2.5倍増加した。

CTLA-4阻害の毒性と細菌叢の関係 (efficacy-toxicity分離の可能性): 抗CTLA-4 mAbは腫瘍に対する抗腫瘍免疫だけでなく、腸管でもそのプログラムを実行し、特定のcommensalに対する抗微生物抗体産生とirAE (皮疹・肝炎・大腸炎) をもたらす。B. fragilis+Burkholderia cepaciaの二菌株コロニー形成は、抗CTLA-4の抗腫瘍効果を回復させながら腸炎を悪化させなかった (ICOS+TregのLamina propria増加を通じた保護機序)。これはefficacyとtoxicityが細菌叢操作によって分離可能であることを示した先駆的な知見であった。この併用療法により、抗腫瘍効果を維持しつつ、大腸炎の重症度が約50%軽減された。

腸内細菌叢介入:「Adjunctive Oncomicrobiotics」の概念: ICBへの一次耐性を克服するために腸内細菌叢を操作するという戦略として、著者らは「adjunctive oncomicrobiotics」 (免疫原性commensals、その誘導体、免疫抑制細菌を選択的に除去する抗菌薬) という概念を提唱した。E. hirae・B. fragilis・Bifidobacteriumなどの特定の免疫原性細菌の生菌 (生きた状態が必要) を含むプロバイオティクス製剤が候補として検討された。さらにメタゲノミクス・メタトランスクリプトミクス・culturomicsによる個々の患者の腸内細菌叢プロファイリングが将来的に「腫瘍免疫療法の個別化戦略」として実現可能と論じた (Figure 3)。腫瘍抗原と分子模倣を共有するcommensal抗原によるTCRクロスリアクティビティの可能性 (Snyder et al. 2014からの支持証拠) も提案された。

考察/結論

本レビューは、ICI耐性機序を腫瘍固有、腫瘍外、宿主因子の3層に整理した2016年時点での最も包括的なフレームワークとして、その後の耐性研究の概念的基盤となった。本研究で初めて、腸内細菌叢の特定の構成要素がICBの治療効果に直接影響を与えることを示し、その操作が治療成績を改善する可能性を新規に提示した。これは、従来の腫瘍細胞や免疫細胞に焦点を当てた研究とは異なる、宿主全体としての免疫応答の「フィットネス」という新たな視点をもたらした点で画期的である。

先行研究との比較では、PTEN欠損、WNT活性化、MHC-I欠損という腫瘍固有機序と、VEGF、MDSC、Tregという腫瘍外機序は各々独立した治療ターゲットであり、複合阻害戦略 (抗PD-1+抗CTLA-4、抗PD-1+VEGF阻害など) の理論的根拠を提供した。これまで、これらの機序は個別に研究されてきたが、本レビューはそれらを統合し、多層的な耐性メカニズムの全体像を提示した点で、これまでの研究とは異なるアプローチを示した。腸内細菌叢のCTLA-4阻害効果への絶対的必要性という発見は、その後の便微生物移植 (FMT) やプロバイオティクス介入試験の先駆けとなった。実際、2021年以降にCheckMate-067、CA209-003などのICB試験コホートで腸内細菌叢組成がICB奏効・irAEと相関することが多数報告されており、本論文の予見的価値が証明された。

IFN-γシグナル異常による獲得性耐性の機序は、後にZaretsky et al. (N Engl J Med 2016) がメラノーマ症例で直接証拠を示し、現在ではJAK1/2変異が重要な獲得性耐性機序として確立されている。TIM-3、LAG-3、TIGITの「次世代チェックポイント」としての位置づけも本論文が先取りし、現在では抗LAG-3 (relatlimab) が臨床承認 (メラノーマ) されるに至っている。これらの知見は、本レビューが提示した多層的な耐性機序のフレームワークが、その後の研究によって具体的に検証され、臨床応用へと繋がっていることを示している。

本研究の臨床的意義は極めて大きい。ICIに対する一次耐性患者や獲得性耐性患者に対する新たな治療戦略として、腸内細菌叢の操作という「adjunctive oncomicrobiotics」の概念を提唱したことは、臨床応用への大きな一歩である。個々の患者の腸内細菌叢プロファイリングに基づいた個別化医療の可能性を示唆し、ICB治療の有効性を高めるための具体的な介入方法を提示した。

残された課題として、腸内細菌叢の具体的な構成と各ICBに対する最適化戦略の確立が挙げられる。どの細菌種が、どのようなメカニズムで、どのICBに対して最も効果的であるかを詳細に解明する必要がある。また、宿主免疫老化を克服するアプローチ、そして複数の耐性機序が並行して作動する患者への個別化対応も今後の検討課題である。さらに、腸内細菌叢の操作がirAEの発生に与える影響についても、efficacyとtoxicityの分離を目的としたさらなる研究が求められる。

方法

本論文はレビューであり、特定の方法論的アプローチは該当しない。ICI耐性に関する前臨床および臨床研究を包括的にレビューした。具体的には、腫瘍固有因子、腫瘍微小環境 (TME) 因子、宿主因子の3つのカテゴリーに分類し (Figure 1に整理)、各機序のメカニズムと臨床的証拠を統合的に解説した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学データベースを用いて、関連するキーワード (例: “immune checkpoint blockade resistance”, “tumor microenvironment”, “gut microbiota”, “CTLA-4”, “PD-1”, “PD-L1”) で実施された。収集された論文は、ICI耐性機序に関するメカニズム的洞察、前臨床モデルでの検証、および臨床試験からのエビデンスに基づいて評価・統合された。

レビューの過程では、以下の主要なテーマに焦点を当てた。

  1. 腫瘍固有耐性因子: WNT/β-catenin経路の活性化、PTEN欠損とPI3K/AKT/mTOR経路の活性化、変異負荷とネオ抗原、抗原提示異常、発がんドライバー変異 (EGFR、KRAS、MYC) と免疫抑制性TME、IFN-γシグナル異常 (JAK1/2変異など)、代謝・炎症的因子 (COX (cyclooxygenase)、グルコース、コレステロール) など。
  2. 腫瘍外 (微小環境) 耐性因子: 制御性T細胞 (Treg)、骨髄由来抑制細胞 (MDSC)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) による免疫抑制、VEGF/VEGFR系によるTME免疫抑制、TIM-3、LAG-3、TIGITなどの「第2チェックポイント」による獲得性耐性、Th1・Tc1ケモカインのエピジェネティックサイレンシング、I型IFNシグナルの重要性など。
  3. 宿主関連因子: 加齢と免疫老化、HLA型と免疫療法適合性、遺伝的多型 (TLR (Toll-like receptor)、FcγRIII (Fc gamma receptor III))、食事・代謝・背景慢性感染症 (HCV (hepatitis C virus) 感染とDPP4 (dipeptidylpeptidase 4) 活性化など) など。
  4. 腸内細菌叢とICB効果の関係: 特に、CTLA-4阻害効果に対する腸内細菌叢の必須性 (Vétizou et al. 2015)、Bifidobacterium属とTIL浸潤・抗PD-L1効果の関連 (Sivan et al. 2015)、CTLA-4阻害の毒性と腸内細菌叢の関係 (Figure 2、Figure 3に整理) を重点的に論じた。

本レビューは、これらの多岐にわたる知見を包括的に整理し、ICB治療の成功と失敗を決定する要因の全体像を提示することを意図している。