• 著者: Padmanee Sharma, Siwen Hu-Lieskovan, Jennifer A. Wargo, Antoni Ribas
  • Corresponding author: Padmanee Sharma (The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA), Antoni Ribas (University of California, Los Angeles and the Jonsson Comprehensive Comprehensive Cancer Center, Los Angeles, CA, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 28187290

背景

がん免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)である抗CTLA-4抗体および抗PD-1/PD-L1抗体は、転移性メラノーマをはじめとする多種多様な固形腫瘍において、前例のない持続的な奏効をもたらしてきた。例えば、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブの臨床試験のプール解析では、転移性メラノーマ患者の約21%が10年以上の長期生存を達成したことが報告されている (Hodi et al. NEnglJMed 2010)。また、抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の併用療法では、未治療のメラノーマにおいて最大60%の客観的奏効率(ORR)が達成され、単剤療法を大幅に上回る効果が示された (Larkin et al. NEnglJMed 2015)。さらに、養子細胞療法(ACT)の分野でも、CD19を標的としたCAR-T (chimeric antigen receptor T-cell) 療法が、小児急性リンパ性白血病(ALL)において90%という極めて高い完全寛解率(CR)を達成するなど、目覚ましい成果を上げている (Maude et al. NEnglJMed 2014)。

しかしながら、これらのがん免疫療法の劇的な成功にもかかわらず、依然として大多数の患者は治療に全く反応しない一次耐性(primary resistance)を示すか、あるいは初期に良好な奏効を示した後に再発・進行する獲得耐性(acquired resistance)に直面している。乳がん、前立腺がん、結腸がんなどの多くのがん種では、ICIに対する奏効頻度が極めて低い。これらの耐性現象は、腫瘍細胞そのものの遺伝的・エピゲノム的変化に起因する「腫瘍細胞内在性因子」と、腫瘍微小環境(TME)における免疫抑制細胞や液性因子の関与に起因する「腫瘍細胞外在性因子」が複雑に絡み合って生じる。

先行研究において、がん免疫編集(cancer immunoediting)の概念が提唱され、免疫系が腫瘍を排除する一方で、免疫圧に適応した耐性クローンが選択されるプロセスが示されている (Dunn et al. NatImmunol 2002)。また、PD-1/PD-L1経路が適応的免疫耐性(adaptive immune resistance)として機能し、腫瘍局所の免疫反応を抑制することが報告されている (Tumeh et al. Nature 2014)。しかし、これらの個別の知見を統合し、一次耐性、適応的免疫耐性、獲得耐性のそれぞれにおける分子経路や細胞間相互作用を体系的に整理した包括的なフレームワークは未確立であった。特に、どのような遺伝子変異や微小環境の変化が各耐性段階を規定しているのかという詳細な分子機序には、依然として多くの未解明な課題が残されている。さらに、臨床現場において耐性を予測し、克服するための具体的なバイオマーカーや併用療法の選択基準に関する科学的根拠が不足しており、これが個別化免疫療法の確立に向けた大きな知識ギャップ(knowledge gap)となっていた。

目的

本レビューの目的は、がん免疫療法に対する耐性メカニズムを包括的に整理し、それを克服するための次世代治療戦略を提示することである。具体的には、以下の4点を主たる目的とする。

(1) 免疫療法に対する耐性を「一次耐性」「適応的免疫耐性」「獲得耐性」の3つのカテゴリーに明確に定義し、それぞれの臨床的および生物学的な特徴を区別する。 (2) 腫瘍細胞内在性因子(抗原提示能の喪失、がん遺伝子シグナル活性化、IFN-γシグナル不応性など)と、腫瘍細胞外在性因子(Treg、MDSC、TAMなどの免疫抑制細胞や代替チェックポイント分子)の両側面から、耐性を駆動する分子基盤を最新の科学的エビデンスに基づいて体系化する。 (3) 各耐性機序を標的とした多剤併用療法(チェックポイント阻害薬同士の併用、分子標的薬、代謝阻害薬、エピゲノム修飾薬、放射線療法との併用など)の理論的根拠と、現在進行中の臨床試験の状況を整理する。 (4) 治療効果の予測および耐性獲得プロセスの動的追跡のために、治療前(ベースライン)および治療中の縦断的な腫瘍生検や血液サンプルを用いたマルチオミクス・モニタリング戦略の重要性を提唱する。

結果

耐性の臨床分類と用語定義: 本レビューでは、がん免疫療法に対する耐性を3つの主要なカテゴリーに分類し、その定義を明確に提示した(Table 1)。一次耐性(primary resistance)は、初回治療から全く奏効を示さない臨床的状態を指す。適応的免疫耐性(adaptive immune resistance)は、腫瘍が免疫系に認識されているものの、免疫攻撃に反応してPD-L1誘導などの防御機構を適応的に活性化するプロセスと定義される。これは臨床的には一次耐性、混合奏効、あるいは獲得耐性として発現しうる。獲得耐性(acquired resistance)は、初期に客観的奏効を示した腫瘍が、一定期間の後に再発・進行する臨床的状態と定義される。これらの耐性機序は、しばしば重複する分子経路を共有していることが示された(Table 2)。

抗原性と抗原提示能の喪失: 腫瘍細胞内在性の耐性因子として、腫瘍遺伝子変異量(TMB)の低下と抗原提示能の喪失が特定された(Fig 2A)。TMBが低い腫瘍は、ネオアンチゲン(新生抗原)の産生が不十分であり、T細胞による認識から逃れる。TMBとPD-1阻害薬の奏効率には正の相関が認められている (Rizvi et al. Science 2015)。さらに、TAP (transporter associated with antigen processing) の欠失や、HLAクラスI分子の折りたたみに必須なB2Mの遺伝的欠損は、腫瘍抗原の細胞表面提示を完全に消失させ、CD8+ T細胞による認識を回避する。

T細胞排除を誘導する癌遺伝子シグナル: 腫瘍細胞内在性のもう一つの柱として、T細胞の腫瘍局所への浸潤を阻害するシグナル経路が同定された(Fig 2A)。MAPK経路の活性化はVEGFやIL-8の産生を促進し、T細胞浸潤を阻害する。また、メラノーマの約30%で認められるPTEN欠失は、PI3Kシグナル活性化を介してCD8+ T細胞浸潤およびIFN-γ発現と有意に負の相関を示す。さらに、WNT/β-cateninシグナルが活性化した腫瘍では、CCL4産生低下を介してCD103+樹状細胞(DC)が排除され、T細胞のプライミングが不全となる。

構成的PD-L1発現とIFN-γ不応性: 腫瘍細胞が構成的にPD-L1を発現する機序、およびIFN-γシグナル不応性が一次耐性を駆動することが示された(Fig 2A)。9p24.1染色体領域(PD-L1/PD-L2/JAK2遺伝子座)の増幅は、ホジキンリンパ腫で高頻度に認められ、抗PD-1療法でORR 80%以上の高い奏効率に寄与する (Ansell et al. NEnglJMed 2015)。一方、IFNGR1、IFNGR2、JAK2、IRF1などの遺伝子変異は、IFN-γによる直接的な抗腫瘍効果(細胞増殖抑制)やMHCクラスI/PD-L1の誘導を阻害し、一次耐性を引き起こす。

免疫抑制細胞による微小環境の制御: 腫瘍細胞外在性の一次・適応的耐性機序として、腫瘍微小環境(TME)における免疫抑制細胞の浸潤が特定された(Fig 3)。FoxP3+ Tregは、IL-10やTGF-βの分泌を介してエフェクターT細胞を抑制する。また、骨髄由来抑制細胞(MDSC)や腫瘍関連マクロファージ(TAM)も強力な抑制能を持つ。PI3Kγ阻害薬(IPI-549など)はMDSC/TAMを再プログラミングし、抗PD-1/抗CTLA-4療法との併用で相乗的な抗腫瘍効果を示す。さらに、CSF-1R (colony stimulating factor 1 receptor) 阻害によるTAMの排除は、膵癌モデルにおいて著明な腫瘍退縮を誘導した。

代謝阻害物質と代替チェックポイント: 腫瘍細胞外在性の第2の機序として、代謝阻害物質や代替チェックポイントの関与が示された(Fig 3)。TGF-βはTregの活性化を促進し、IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase) はトリプトファンをキヌレニンに代謝してT細胞増殖を抑制する。また、CD73によるアデノシン産生はT細胞のA2A受容体を介して機能を抑制する。さらに、LAG-3、TIM-3、TIGIT、VISTAなどの代替チェックポイント分子の発現増加は、T細胞の疲弊を誘導する。抗PD-1治療後に再発した肺癌患者において、T細胞上のTIM-3発現上昇が確認されている。

獲得耐性を駆動するゲノム変化: 初期奏効後の再発を駆動する獲得耐性機序として、具体的なゲノム変化が同定された(Fig 2B)。抗PD-1抗体治療後に獲得耐性を示したメラノーマ患者(解析対象 n=4 のうち n=2)において、B2M遺伝子の新規ホモ接合型切断変異が同定された (Zaretsky et al. NEnglJMed 2016)。これによりHLAクラスIの細胞表面発現が消失し、CD8+ T細胞から完全に不可視化される。また、同コ cohort において、JAK1またはJAK2遺伝子の機能喪失変異(コピー数中立LOHを伴う)が同定され、IFN-γ刺激に対するJAK/STAT経路のシグナル伝達が完全に遮断されることが実証された。

CAR-T療法における抗原喪失: 養子細胞療法における獲得耐性機序として、標的抗原の喪失が示された(Fig 2B)。CD19を標的とするCAR-T療法後、小児ALL患者の約20%において、CD19抗原の選択的欠失や、予め存在する代替スプライシングアイソフォーム(エピトープを含むエクソン2の欠失)の選択により、抗原喪失を介した獲得耐性が生じることが臨床的に実証された (Maude et al. NEnglJMed 2014)。

耐性克服のための多剤併用療法: 耐性機序を標的とした多岐にわたる併用療法が臨床開発中である(Table 3)。ニボルマブ+イピリムマブ併用は、転移性メラノーマにおいて単剤を上回るORR 60%を達成した (Larkin et al. NEnglJMed 2015)。また、IDO阻害薬エパカドスタットとペムブロリズマブの併用は、メラノーマにおいてORR 56%を示した。さらに、BRAF阻害薬+MEK阻害薬は、腫瘍の抗原発現やT細胞浸潤を増加させ、適応的耐性(PD-L1発現上昇)を誘導するため、ICIとの併用の科学的根拠となる。

バイオマーカーの縦断的モニタリング: 治療前(ベースライン)のTMBやCD8+ T細胞浸潤密度に加え、治療初期(early-on-treatment)の連続腫瘍生検解析が、治療奏効および耐性獲得の極めて高い予測能を持つことが示された(Fig 4)。治療中の新鮮な連続ヒト検体(腫瘍、血液、血清、マイクロバイオーム)の縦断的評価が、治療耐性の潜在的メカニズムを解明するための詳細な解析を可能にすることを示している。

考察/結論

本レビューは、がん免疫療法に対する耐性メカニズムを一次耐性、適応的免疫耐性、獲得耐性の3つの臨床シナリオに体系化し、その分子的・細胞学的基盤を網羅的に整理した点で、がん免疫腫瘍学における極めて重要なマイルストーンである。

先行研究との違い: これまでの研究が個別の免疫抑制因子や特定のチェックポイント分子に限定して焦点を当てていたのとは異なり、本論文は腫瘍細胞内在性のゲノム変化(B2MやJAK1/JAK2変異など)と、腫瘍細胞外在性の微小環境因子(Treg、MDSC、TAM、抑制性代謝物)を統合した包括的な耐性フレームワークを提示した。この統合的アプローチは、単一の耐性機序のみを標的とする従来の治療開発の限界を浮き彫りにし、多角的な併用療法の必要性を論理的に導き出している。

新規性: 本研究は、抗PD-1抗体治療に対する獲得耐性の具体的なゲノム学的証拠として、B2MおよびJAK1/JAK2の機能喪失変異(コピー数中立LOHを伴う)を初めて体系的に提示した (Zaretsky et al. NEnglJMed 2016)。また、抗PD-1療法に対する一次耐性に関連する新規な遺伝子発現プロファイルとして、間葉系転換や幹細胞性、創傷治癒関連遺伝子からなる「内在的PD-1耐性シグネチャー (IPRES)」を同定した (Hugo et al. Cell 2016)。これらの発見は、免疫チェックポイント阻害に対する耐性が、単なる免疫抑制状態だけでなく、腫瘍の能動的なゲノム進化によって規定されていることを実証した。

臨床応用: 本知見は、臨床現場における個別化免疫療法の設計に直接的な含意を持つ。例えば、JAK1/JAK2変異を有する患者ではIFN-γシグナルが機能しないため、抗PD-1単剤療法の適応から除外し、他のシグナル経路を標的とした治療を選択する層別化が可能となる。また、PTEN欠失メラノーマに対するPI3K阻害薬の併用や、β-catenin高発現腫瘍に対するWNT経路阻害薬の併用など、腫瘍のゲノムプロファイルに基づいた精密医療(precision medicine)の臨床的有用性が強く示唆される。さらに、治療初期の縦断的生検による動的モニタリングは、耐性クローンの早期検出と治療戦略の迅速な変更を可能にする。

残された課題: 今後の検討課題として、獲得耐性におけるネオアンチゲン喪失の臨床的証拠をさらに蓄積することが求められる。また、多岐にわたる組み合わせ療法(Table 3)の中から、毒性を最小限に抑えつつ抗腫瘍効果を最大化するための最適な薬剤の組み合わせ、投与シーケンス、およびタイミングを決定するための大規模な臨床試験の実施が必要である。さらに、非侵襲的なバイオマーカー(リキッドバイオプシーによるcfDNAや循環免疫細胞の解析)の標準化や、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が全身の免疫応答および耐性克服に与える影響の解明も、今後の重要な研究方向性である。

方法

本論文は、がん免疫療法における耐性メカニズムに関する最新の知見を網羅的にまとめたレビュー論文である。著者らは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)および養子細胞療法(ACT)に対する耐性機序を解明した基礎研究、トランスレーショナル研究、および臨床試験の文献を広範に調査・分析した。

文献検索は、主要な医学データベースであるPubMed、Embase、Web of Scienceなどを用いて行われた。検索対象には、抗CTLA-4抗体イピリムマブ、抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ、ニボルマブ)、抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ)などの臨床開発データ、およびCAR-T細胞療法やTIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 療法に関する主要な報告が含まれる。特に、腫瘍のゲノムプロファイルと免疫応答の相関を解析した臨床試験データ(TCGAデータベースを含む)や、耐性クローンの縦断的ゲノム解析を行った研究に焦点を当てた。

解析にあたり、耐性機序を「腫瘍細胞内在性因子」と「腫瘍細胞外在性因子」に大別した。内在性因子の評価項目としては、腫瘍遺伝子変異量(TMB)、HLAクラスI分子およびβ2ミクログロブリン (B2M)の変異、MAPK経路、PI3K/AKT経路、WNT/β-catenin経路、IFN-γシグナル伝達経路(JAK1/JAK2/STAT)の遺伝子変異や発現変化を設定した。外在性因子の評価項目としては、制御性T細胞(Treg)、骨髄由来抑制細胞(MDSC)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の動員機序、およびLAG-3、TIM-3、VISTAなどの代替チェックポイント分子、TGF-βやアデノシンなどの抑制性代謝物の影響を設定した。

さらに、これらの耐性機序を克服するための併用治療戦略について、臨床試験登録データベース(ClinicalTrials.gov)に登録されているアクティブな試験(例: NCT02263508, NCT02626000, NCT02565992など)を抽出し、その標的分子、組み合わせ、および初期臨床データを整理した。統計的な解析手法としては、各文献における生存率解析(Kaplan-Meier法、log-rank検定、Cox比例ハザード回帰モデル)や、奏効率(ORR)、完全寛解率(CR)のデータを抽出し、エビデンスの統合を図った。