• 著者: Claire Lhuillier, Nils-Petter Rudqvist, Takahiro Yamazaki, Tuo Zhang, Maud Charpentier, Lorenzo Galluzzi, Noah Dephoure, Cristina C. Clement, Laura Santambrogio, Xi Kathy Zhou, Silvia C. Formenti, Sandra Demaria
  • Corresponding author: Sandra Demaria (Department of Radiation Oncology, Weill Cornell Medicine, New York, New York, USA)
  • 雑誌: The Journal of clinical investigation
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-03-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33476307

背景

体細胞の非同義変異に由来するネオ抗原は、腫瘍特異的T細胞の主要な標的となるが、予測される免疫原性ネオエピトープのうち、実際に主要組織適合性複合体 (MHC) 分子によって提示されるものはごく少数に留まる。メラノーマや膠芽腫の患者を対象とした個別化ネオ抗原ワクチン試験では、免疫原性は確認されたものの、その臨床効果は限定的であったことが報告されている Ott et al. Nature 2017。MHCクラスI (MHC-I) 提示において最も重要な因子の一つは、抗原の合成・分解速度およびその全体的な発現量である。このため、変異遺伝子の発現を増加させる介入が、ネオ抗原ワクチンと協調して作用する可能性が考えられる。

放射線はDNA損傷応答遺伝子、ストレス応答遺伝子、およびI型インターフェロン (IFN) シグナル伝達を誘導することが知られている Schumacher et al. Science 2015。Reits et al.の研究では、放射線照射されたメラノーマ細胞のMHC-I免疫ペプチドームにおいて、DNA修復およびタンパク質分解に関与するタンパク質由来のペプチドが検出されたことが報告されている。著者らの先行研究では、非小細胞肺がん (NSCLC) の完全奏効患者において、CD8+ T細胞が放射線によって上方制御された遺伝子の免疫原性変異を認識していたことが示されている Rizvi et al. Science 2015。これらの知見は、放射線療法が変異遺伝子の発現を増加させ、個別化ネオ抗原ワクチン療法の効果を改善する介入となり得ることを示唆する。

しかし、放射線がネオ抗原提示をどのように促進し、それがCD8+およびCD4+ T細胞応答にどのように影響するかについては、その詳細なメカニズムが未解明な部分が残されている。特に、放射線とネオ抗原ワクチンの併用が、免疫原性の低い腫瘍モデルにおいて、どのような免疫応答を誘導し、腫瘍制御に寄与するのかという点については、さらなる検証が不足している。本研究は、このギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、トリプルネガティブ乳がん (TNBC) のマウスモデルである4T1細胞株を用いて、放射線療法が免疫原性変異を含む遺伝子の発現を上方制御するメカニズムを検証することである。具体的には、放射線誘導型ネオ抗原ワクチン (Neo-vax) と放射線療法の併用が、腫瘍の増殖抑制および転移抑制においてどのような抗腫瘍効果を発揮するかを評価する。さらに、この併用療法におけるCD8+およびCD4+ T細胞の役割を詳細に解析し、特にCD4+ T細胞がMHCクラスII (MHC-II) 分子およびFAS/DR5死受容体の発現を介して直接的な腫瘍細胞殺傷能を持つ可能性を解明することを目指す。最終的に、放射線療法が個別化ネオ抗原ワクチンの効果を増強する理想的な併用パートナーとなり得るかについて、前臨床的証拠を提供することを目的とする。

結果

放射線により上方制御される遺伝子からの候補ネオ抗原の同定: 4T1細胞のin vitroおよびin vivo解析により、11遺伝子にコードされる13個の体細胞変異が確認された。これらのうち、Adgrf5、Cand1、Dhx58、およびRaet1eの4遺伝子にコードされる5つの変異が、8 Gyを3日間連続で照射した4T1細胞 (n=4 replicates) において有意に発現が上方制御された (Figure 1B, p<0.05)。NetMHCアルゴリズムによる予測では、これらの遺伝子から9つのMHC-I結合ネオエピトープが同定された。RMA-S細胞を用いたMHC-I結合アッセイでは、CAND1 (H2-Kd)、RAET1E (H2-Ld)、DHX58 (H2-Ld) が陽性対照であるHA515に匹敵する強い結合を示した。ADGRF5 (H2-Kd) は比較的弱い結合であった。安定性アッセイの結果、CAND1/H2-KdおよびDHX58/H2-Ld複合体が最も安定しており (半減期 >6時間)、ADGRF5/H2-KdおよびRAET1E/H2-Ld複合体は短命であった (半減期 <6時間) (Figure 1D)。

in vivoにおけるネオ抗原の免疫原性: 2回のワクチン接種後、リンパ節および脾臓細胞をex vivoで再刺激した結果、CD8+ T細胞応答においてはDHX58およびCAND1のみがIFNγとTNFαを産生する多機能性応答を誘導した (Figure 2B, C, p<0.05)。ADGRF5、RAET1E、および放射線により上方制御されないLTA4H由来のネオエピトープは背景レベルの応答であった。CD4+ T細胞応答では、Adgrf5由来のMHC-IIネオエピトープ (ADGRF5-II) のみがIFNγとTNFα産生を誘導し、Th1表現型を示した (Figure 2D, E)。CAND1変異型ペプチドは野生型 (WT) ペプチドと比較してMHC-I結合親和性が大きく異なり (EC50 1.5 μM vs 58.4 μM)、CAND1特異的CD8+ T細胞はWT配列に反応しなかった。

CAND1は細胞傷害性CD8+ T細胞の標的である: Neo-vax (DHX58+CAND1+ADGRF5-II) を接種したマウス (n=3-7 mice/group) を用いたin vivo細胞傷害性アッセイでは、CAND1をロードした標的細胞が脾臓およびリンパ節の両方で選択的に排除された (p<0.05) (Figure 3B, C)。DHX58およびADGRF5-IIに対する細胞傷害性は検出されなかった。CAND1特異的殺傷はMHC-Iブロッキング抗体により消失し、MHC-I依存性が確認された (Figure 3D)。さらに、Neo-vax由来のT細胞は、未照射4T1細胞よりも照射4T1細胞を有意に強く殺傷した (p<0.01) (Figure 3F, G)。

免疫ペプチドーム解析によるCAND1およびADGRF5-IIネオ抗原提示の増強: SRM定量MS解析により、CAND1ペプチドのコピー数/単一細胞あたりの発現量は、未処理細胞で23.3コピーであったのに対し、照射細胞で134.5コピーへと顕著に増加し、約5.8-fold increaseを示した (対照AH1ペプチドは80.4コピーから103.9コピー) (Figure 4B, Table 2)。ADGRF5-II MHC-IIペプチドは、照射細胞で3-fold以上に増加した (Figure 4C, Table 2)。DHX58は検出限界以下であり、放射線による提示増強が抗腫瘍効果に必要な閾値を満たすことを示唆した。

Neo-vaxと放射線併用による腫瘍制御の改善: Neo-vax単独では4T1腫瘍の発生予防効果は認められなかったが、局所放射線療法 (3×8 Gy) との併用により、腫瘍増殖を有意に抑制し (Figure 5B, C, p<0.0001)、自然肺転移も有意に減少させた (Neo-vax+放射線群のみ対照比で有意減少, p<0.05) (Figure 5D)。腫瘍内ではCD8+ T細胞浸潤の増加とCD4+CD25+FOXP3+ Tregsの減少が観察され、CD8+/Treg比が有意に増加した (Figure 5E-H, p<0.05)。

CD4+細胞傷害性T細胞の必須性: 放射線照射された4T1細胞はin vitroでMHC-IIを低レベルながら発現し、照射によりMHC-IIがさらに上方制御された。FAS (CD95) およびDR5 (TRAIL-R2) も照射により有意に上方制御された (Figure 9D, p<0.01)。MHC-IIブロッキング抗体またはADGRF5-IIを除去したワクチン (CD8+ネオエピトープのみ接種) では、Neo-vaxの治療効果が消失し、CD4+ T細胞が治療効果に必須であることが確認された (Figure 8A, D, p<0.05)。Neo-vax由来のCD4+ T細胞は高レベルのIFNγを産生し、照射4T1細胞に対してMHC-IIおよびFAS/DR5経路を介した直接的な細胞傷害活性を示した (Figure 8C, 9C, p<0.01)。

考察/結論

本研究は、放射線療法が免疫系に既存のネオ抗原を「expose」する機序として、(1) ネオ抗原タンパク質の発現上方制御、(2) MHC-II、FAS、DR5といった免疫関連分子の発現増加、および (3) CD8+細胞傷害性T細胞とCD4+細胞傷害性T細胞の両方による腫瘍殺傷促進を統合的に実証した初の包括的な前臨床研究である。特に、CD4+ T細胞が照射腫瘍に対して直接的な細胞傷害活性を発揮するという知見は、従来のCD4+ヘルパーT細胞のパラダイムを拡張するものであり、その新規性は特筆すべきである。

先行研究との違いとして、これまでの個別化ネオ抗原ワクチン単独での限定的な臨床効果 (メラノーマや膠芽腫の臨床試験) の原因が、抗原提示の不足にあることを示唆する。また、Reits et al.が報告した放射線照射によるMHC-I免疫ペプチドームの変化を、in vivoでの治療効果に結びつけた点も重要である。さらに、Kreiter et al.が予測したCD4+ネオエピトープとは異なる、新規のADGRF5-II CD4ネオエピトープを同定した点も本研究の新規性である。

本研究の知見は、放射線療法と個別化ネオ抗原ワクチンの併用療法が、特にトリプルネガティブ乳がん (TNBC) や非小細胞肺がん (NSCLC)、メラノーマなどの腫瘍タイプにおいて、臨床応用される可能性を示唆する。放射線により上方制御される遺伝子に焦点を当てたネオエピトープ選択アルゴリズムの開発や、MHC-II結合ネオエピトープを含むCD4+ T細胞ヘルプベースのワクチン設計は、今後の臨床開発において重要な方向性となる。さらに、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) との併用による効果増強も期待される。

残された課題として、放射線用量および分割スケジュールの最適化が挙げられる。本研究では3×8 Gyが使用されたが、他のレジメンとの比較検討が必要である。また、ヒトMHC拘束性に対応するネオエピトープ予測精度の向上、腫瘍の不均一性による免疫回避機構への対応、アジュバントの最適化 (ポリ-IC:LC以外の候補)、MHC-II低発現腫瘍におけるCD4+細胞傷害性T細胞効果の一般化、FAS/DR5経路の腫瘍特異的発現制御メカニズムの解明などが今後の検討課題として残されている。

方法

ネオ抗原の同定: 4T1細胞のネオ抗原同定のため、in vitroで培養した4T1細胞の全エクソームシーケンス (WES) およびRNAシーケンス (RNA-seq) を実施した。これにより、293個の体細胞変異を同定し、そのうち115遺伝子にコードされる154個の変異がRNAレベルで発現していることを確認した。さらに、変異アレル頻度に基づき97個の変異をフィルタリングした。in vivoでの検証として、BALB/cマウスに移植した4T1腫瘍から抽出したDNA/RNAのWES/RNA-seqを行い、11遺伝子にコードされる13個の変異の発現を確認した。放射線による遺伝子発現の変化を評価するため、4T1細胞に8 Gyを3日間連続で照射し、RNA発現解析を行った。その結果、Adgrf5 (Adhesion G protein-coupled receptor F5)、Cand1 (Cullin associated and neddylation dissociated 1)、Dhx58 (DExH-box helicase 58)、Raet1e (Retinoic acid early transcript 1E) の4遺伝子が有意に上方制御されていることを確認した。NetMHCおよびpVAC-Seqパイプラインを用いて、MHC-I結合親和性が300 nM未満の9つのネオエピトープを予測した。MHC-IIネオエピトープについては、Adamts9およびAdgrf5遺伝子から予測を行った。

ペプチド結合および安定性試験: 予測されたネオエピトープのMHC-I結合能および安定性を評価するため、H2-KdまたはH2-Ldを発現するRMA-S細胞を用いた安定化アッセイを実施した。ペプチドをRMA-S細胞と26℃で1時間インキュベートした後、37℃に移し、MHC-I発現の半減期を測定した。HA515ペプチドをH2-Kdの陽性対照として、AH1-A5ペプチドをH2-Ldの陽性対照として使用した。

in vivo免疫原性評価: BALB/cマウス (n=4 mice/group) にポリ-IC:LCアジュバントと候補ペプチドを2回免疫し、脾臓およびリンパ節細胞をex vivoで再刺激した。その後、細胞内サイトカイン染色により、CD8+およびCD4+ T細胞からのIFNγおよびTNFα産生をフローサイトメトリーで解析した。ADGRF5-II特異的CD4+ T細胞については、IL-4、IL-5、IL-10、IL-13の産生も評価し、Th1表現型を確認した。

細胞傷害活性評価: Neo-vax (DHX58、CAND1、ADGRF5-IIの3種混合) 接種後のin vivo細胞傷害性アッセイでは、CFSE標識した標的脾細胞を静脈内投与し、24時間後にリンパ節および脾臓における特異的殺傷をフローサイトメトリーで測定した。in vitroでは、Neo-vax由来T細胞と未照射または照射4T1細胞を共培養し、CFSE標識差分アッセイにより細胞傷害活性を評価した。MHC-IおよびMHC-IIブロッキング抗体、FASリガンド (FASL) およびDR5リガンド (TRAIL) ブロッキング抗体を用いて、殺傷メカニズムの依存性を検証した。

免疫ペプチドーム解析: 放射線照射によるネオ抗原提示の増強を直接確認するため、質量分析 (MS) ベースの免疫ペプチドーム解析と選択反応モニタリング (SRM) 定量分析を実施した。未処理および照射4T1細胞からMHC-IおよびMHC-II複合体を免疫精製し、MHC結合ペプチドを溶出後、重同位体標識標準ペプチドをスパイクしてSRM MSによりコピー数/単一細胞あたりの絶対定量を行った。

in vivo治療モデル: 4T1皮下腫瘍モデルBALB/cマウス (n=9 mice/group) において、Neo-vaxと局所放射線療法 (3×8 Gy) の併用効果を評価した。腫瘍増殖、自然肺転移、腫瘍内CD4+/CD8+ T細胞および制御性T細胞 (Treg) 浸潤を測定した。CD4+ T細胞の寄与を検証するため、MHC-IIブロッキング抗体を用いた実験も行った。治療的ワクチン接種の効果を評価するため、腫瘍細胞接種後にワクチン接種を開始する実験も実施した。統計解析にはKruskal-Wallis検定、Dunnの多重比較検定、Welchのt検定、反復測定2元配置ANOVA、Log-rank検定などが用いられた。