- 著者: Ott PA, Hu Z, Keskin DB, Shukla SA, Sun J, Bozym DJ, Zhang W, Luoma A, Giobbie-Hurder A, Peter L, Chen C, Olive O, Carter TA, Li S, Lieb DJ, Eisenhaure T, Gjini E, Stevens J, Lane WJ, Javeri I, Nellaiappan K, Salazar AM, Daley H, Seaman M, Buchbinder EI, Yoon CH, Harden M, Lennon N, Gabriel S, Rodig SJ, Barouch DH, Aster JC, Getz G, Wucherpfennig K, Neuberg D, Ritz J, Lander ES, Fritsch EF, Hacohen N, Wu CJ
- Corresponding author: Catherine J. Wu (Dana-Farber Cancer Institute)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-07-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 28678778
背景
がんネオアンチゲンは腫瘍特異的体細胞変異に由来するHLA結合ペプチドであり、正常組織に存在しないため中枢性免疫寛容を回避する。この特性により、ネオアンチゲンは抗腫瘍免疫応答の理想的な標的として長年注目されてきたが、その系統的な発見と評価は、次世代シーケンシング技術による腫瘍内全コーディング変異の検出と、機械学習を用いたHLA結合予測の進歩によって初めて可能となった。有効な抗腫瘍免疫はネオアンチゲン特異的T細胞の存在と関連することが示されており、ネオアンチゲンを標的としたワクチンが既存のT細胞応答を拡張し、新規T細胞特異性を誘導しうるという仮説が立てられていた。
先行研究では、ネオアンチゲンが免疫系によって認識され、腫瘍の免疫編集を誘導することが示唆されている (Schumacher et al. Science 2015)。この知見は、外来性ネオアンチゲンワクチンによってこの自然な認識を増強できるという理論的根拠を提供した。特に、長鎖ペプチドワクチン (SLP: long peptide) は、プロフェッショナル抗原提示細胞 (APC) による処理を経てMHCクラスIおよびクラスII分子の両方に提示されるという優位性を持つ。20-30アミノ酸長のペプチドが交差提示を通じてCD8+ CTLを強力に誘導できることは動物モデルで確立されており、ヒトにおいても子宮頸部上皮内腫瘍に対するHPV-16オンコプロテイン長鎖ペプチドワクチンで有効性が報告されていた (Kenter et al. N Engl J Med 2009)。
アジュバントとして使用されたpoly-ICLC (Hiltonol) は、TLR3およびMDA-5 (melanoma differentiation-associated protein 5) アゴニストであり、I型インターフェロン産生と樹状細胞 (DC) 成熟を介して強力なアジュバント活性を発揮する。このアジュバントはこれまでの臨床試験で安全性が確認されており (Caskey et al. J Exp Med 2011)、ネオアンチゲン長鎖ペプチドとの組み合わせは自然な第一選択と考えられた。しかし、個別化ネオアンチゲンワクチンがヒトにおいて安全かつ免疫原性を示し、広範なT細胞応答を誘導できるかについては、まだ臨床的に未解明な点が残されていた。特に、ネオアンチゲン特異的T細胞応答の幅、深さ、持続性に関する詳細な特性評価は不足しており、チェックポイント阻害薬 (ICB) との併用による相乗効果の可能性も未開拓であった。本研究は、同時期に発表されたSahin et al. (Nature 2017) の論文とともに、このギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の主目的は、高リスクメラノーマ患者を対象とした第I相臨床試験において、個別化ネオアンチゲンワクチンの実現可能性、安全性、および免疫原性を評価することである。具体的には、ワクチンによって誘導されるネオアンチゲン特異的T細胞応答の幅 (認識されるネオアンチゲン数)、深さ (T細胞機能の質)、および持続性を網羅的に特性化することを目的とした。
副次的な目的として、個別化ネオアンチゲンワクチンとチェックポイント阻害薬 (ICB) との逐次的組み合わせによる相乗効果の概念実証を得ることも目指した。これにより、ワクチンが誘導する免疫応答がICBによってさらに増強され、臨床的効果に寄与する可能性を探索する。また、ネオアンチゲン選定アルゴリズムの臨床的有用性を評価し、個別化ワクチンの製造プロセスが現実的な期間内で実行可能であることを示すことも重要な目的であった。
結果
高い免疫原性:CD4+ T細胞が主体でネオアンチゲンの60%を認識: ワクチンはn=6例全例において多機能性T細胞を誘導した。合計n=97種のユニークネオアンチゲンのうち、CD4+ T細胞が58種 (60%) を認識し、CD8+ T細胞が15種 (16%) を認識した。ELISPOT解析では、4つのペプチドプール中、中央値3プールに対してex vivo IFN-γ応答が確認され (p<0.005)、ワクチンが複数のネオアンチゲンに対して強力な応答を誘導することを示した (Fig 2b)。n=28のT細胞ライン中24ライン (86%) がin vitroで変異ペプチドを野生型ペプチドより優先的に認識し、高い変異特異性が確認された (Fig 3a)。CD4+ T細胞が応答の中心を占めるという知見は予想外であり、HLAクラスII拘束性ネオアンチゲンが免疫応答誘導において重要な役割を持つことを示した。ワクチン接種前 (ベースライン) にはほぼ検出されなかったネオアンチゲン特異的T細胞が、接種後にELISPOTおよびフローサイトメトリーで明確に検出され、ワクチンが新規T細胞特異性を誘導することが確認された (Fig 2b, Extended Data Fig 2a)。T細胞応答の深さを評価するICSでは、ワクチン誘導CD4+ T細胞がIFN-γ、TNF-α、IL-2の多機能性サイトカイン産生を示し、単一サイトカイン産生ではなく多機能性の高品質な免疫応答が誘導されたことが確認された (Extended Data Fig 2c, d)。ELISPOTで検出されたex vivo応答は、n=6例中5例で3週間ブースター後にピーク応答を示し、接種スケジュールの有効性が確認された。
自家腫瘍細胞の直接認識と変異体/野生型の識別: ワクチン誘導T細胞は変異ペプチドと野生型ペプチドを識別し、一部の症例では自家腫瘍細胞を直接認識した (Fig 3d, e)。この自家腫瘍認識能は、ワクチン誘導免疫が単なるin vitroの免疫原性に留まらず、実際の腫瘍細胞への攻撃能を持つことを示す重要な機能的エビデンスである。特に、患者3の変異型VPS16特異的CD8+ T細胞および変異型GTF3C2特異的CD4+ T細胞は、変異型ミニジーンを導入したB細胞を認識したが、野生型ミニジーンを導入したB細胞は認識しなかった (Fig 3c)。TCRシーケンシングで追跡したネオアンチゲン特異的クローンは、ワクチン接種後に顕著な増殖を示し、一部クローンは治療期間を通じて持続することが確認された。さらに、CD4+ T細胞は、変異型ミニジーン発現APCの73%を認識し、CD8+ T細胞は100%を認識した。これらの応答は、それぞれ抗HLAクラスII抗体または抗HLAクラスI抗体によってブロックされた (Extended Data Fig 6b)。CD8+ T細胞ラインn=15中2ラインでは、変異型ミニジーンに対する明確な反応性を示しながらも、変異型と野生型ペプチドを識別できなかった。これは内因性プロセシングが外因性ローディングとは異なることを示唆する。
臨床成績:4例が無再発、再発2例はpembrolizumab追加で完全奏効: 中央値追跡期間25ヶ月 (範囲20-32ヶ月) において、ステージIIIB/Cのn=4例は無再発であった (Fig 1b)。ステージIVM1b (肺転移) のn=2例は再発したが、その後pembrolizumab投与により完全画像的奏効 (CR) を達成し、持続中であった。Pembrolizumab単剤の一次治療における転移性メラノーマのCR率は約6.1%と報告されている (Robert et al. NEnglJMed 2015)ことを考慮すると、ネオアンチゲンワクチンとpembrolizumabの組み合わせによるn=2/2例でのCR達成は顕著な相乗効果を示唆する (Extended Data Fig 1d)。Pembrolizumab投与後にネオアンチゲン特異的T細胞レパートリーの拡張が確認され、ワクチン誘導免疫がICBにより増幅されるという生物学的メカニズムが示された (Fig 4c, Extended Data Fig 8a)。安全性プロファイルとして、ワクチン関連のグレード3以上の有害事象は認められなかった。主な副作用は注射部位反応、一過性のインフルエンザ様症状、発疹、倦怠感であり、いずれも軽度であった。
個別化製造プロセスの実現可能性と腫瘍認識の定量的評価: 全エクソーム解析、RNA-seq発現確認、HLA結合予測、ペプチド合成、4プール化、アジュバント混合というワークフローが複数患者で実行可能であることを示した (Fig 1a)。n=8 patientsからワクチン製造が開始され、n=6 patientsがワクチン接種を完了した。患者あたり平均13-20種のネオアンチゲンを合成し (15-30アミノ酸長の長鎖ペプチド)、合計n=97種のユニークネオアンチゲンに対して体系的な免疫評価を実施した。ネオアンチゲン選定アルゴリズムは、変異型/野生型のHLA結合親和性差 (変異型のIC50が野生型の2倍以上低い、すなわち結合が強い)、RNA発現レベル、変異種類 (ドライバー変異 vs パッセンジャー変異、トランク変異 vs サブクローン変異) を統合的に評価し、免疫原性が最も高いと予測されるエピトープを優先した。製造ターンアラウンドタイム (腫瘍生検採取からワクチン投与まで) の中央値は約3-4ヶ月であり、術後補助療法として実施可能な期間内に収まることが実証された。単一細胞RNAシーケンシングによる遺伝子発現プロファイル解析では、ワクチン接種後のCD4+ T細胞がナイーブからエフェクター/メモリー機能への移行を示し、IL7RやFOXP1のサイレンシング、Th1関連遺伝子 (TBX21) やエネルギー代謝関連遺伝子 (MTOR) のアップレギュレーションが観察された (Fig 4b)。
考察/結論
本研究は、個別化ネオアンチゲンワクチンの実現可能性、安全性、および免疫原性を臨床的に初めて実証した2本の論文 (Ott et al.とSahin et al. Nature 2017) の一つであり、がん個別化免疫療法の新たな方向性を確立した。
先行研究との違い: 従来の「がん免疫はCD8+ CTLが中心」というパラダイムと異なり、本研究ではCD4+ T細胞応答が主体 (60% vs CD8+ 16%) であった点が重要な発見である。これは、HLAクラスII拘束性ネオアンチゲンが免疫応答誘導において重要な役割を持つことを示唆し、実用的なネオアンチゲンワクチン設計においてHLAクラスIIエピトープ予測の重要性を提起した。先行するMatsushita et al. (Nature 2012) の免疫編集研究では変異spectrin-β2によるCD8+依存的拒絶が主体であったのに対し、本論文はCD4+が免疫応答の中心を担いうることを示した。
新規性: 本研究で初めて、個別化ネオアンチゲンワクチンが、高リスクメラノーマ患者において安全かつ強力な多機能性CD4+およびCD8+ T細胞応答を誘導し、その応答が変異ペプチド特異的であり、一部の症例では自家腫瘍細胞を直接認識する能力を持つことを新規に示した。特に、ワクチン接種後に新規のT細胞クローンが誘導され、そのレパートリーが拡大することが確認された点は、これまでの免疫療法では達成が困難であった。
臨床応用: 再発した2例でのpembrolizumab追加による完全奏効 (単剤CR率6.1%に対して2/2例) は、ネオアンチゲンワクチンが腫瘍特異的T細胞レパートリーを「準備し」、ICBがそれを「解放する」というprime-boost的相乗効果を示す概念実証となった。Pembrolizumab後のネオアンチゲン特異的TCR拡張はこの機構を直接支持するものであり、個別化ネオアンチゲンワクチンとICBの組み合わせが、難治性メラノーマ患者に対する新たな治療戦略として臨床応用される可能性を示唆する。この知見は、その後のNeoVax試験 (メラノーマ、グリオブラストーマ) やBNT111 (mRNAワクチン+pembrolizumab) 試験に引き継がれ、本研究の臨床的意義は継続的に検証されている。
残された課題: 今後の検討課題として、約3ヶ月を要する個別化製造期間の短縮 (mRNAワクチン化による製造加速など)、ネオアンチゲン選定精度のさらなる向上 (免疫原性予測モデルの改善)、およびアジュバントの最適化が挙げられる。また、本試験のn=6という限られたサンプルサイズでは、奏効に関連する免疫学的・ゲノム的バイオマーカーの同定に限界があり、より大規模な第I/II相試験での検証が必要である。腫瘍微小環境におけるT細胞浸潤や機能変化に関する詳細な解析も今後の研究で深掘りすべき点である。
方法
本第I相臨床試験は、高リスクメラノーマ (ステージIIIB/CおよびIVM1a/b) の術後患者を対象に実施された。研究デザインは単一施設、非盲検、非ランダム化試験であり、Dana-Farber/Harvard Cancer Center Institutional Review Boardの承認を得て、ヘルシンキ宣言に準拠して実施された (NCT01970358)。
患者選択とワクチン製造プロセス: 登録されたn=10例の患者のうち、n=8例で十分な変異数が確認され、ワクチン製造が開始された。最終的にn=6例の患者がワクチン接種を完了した。ワクチン製造のため、まず患者の腫瘍組織と正常組織から全エクソームシーケンシング (WES) を実施し、体細胞変異を同定した。次に、RNAシーケンシング (RNA-seq) により変異アレル発現を確認した。HLAタイピングを行い、NetMHCpan v2.4を用いて患者自身のHLA-A/B分子に結合すると予測される変異ペプチド候補を選定した。選定基準は、ネオORF (novel open reading frame) 由来の結合エピトープ、アンカー残基変異による高親和性結合 (<150 nM)、その他の位置の変異による高親和性結合、ネオORFで結合エピトープがないもの、低親和性結合 (150-500 nM) の順で優先順位をつけた。各患者につき最大20種の長鎖ペプチド (15-30アミノ酸長、平均13-20種) を合成し、4つのプールに分割した。これらのペプチドプールは、TLR3/MDA-5アゴニストであるpoly-ICLC (Hiltonol) 0.5 mgをアジュバントとして混合し、皮下投与された。
ワクチン接種スケジュール: 患者は5回のプライミング接種 (週1回) と2回のブースター接種 (週1回) を完了した。ワクチンは非回転性の四肢または体幹に皮下投与された。手術からワクチン投与までの期間の中央値は18週であった。
免疫応答評価: 免疫応答は、ワクチン接種前および接種後に末梢血単核球 (PBMC) を用いて評価された。
- IFN-γ ELISPOTアッセイ: ex vivoおよびin vitro刺激後のIFN-γ産生を測定し、ネオアンチゲン特異的T細胞応答の有無と強度を評価した。応答は、DMSO対照と比較して55スポット形成細胞以上かつ1.5標準偏差以上の増加があった場合に陽性と判定した。
- 多色フローサイトメトリー (ICS: intracellular cytokine staining): T細胞の細胞内サイトカイン染色 (IFN-γ、TNF-α、IL-2) を行い、多機能性T細胞の頻度と表現型を解析した。
- TCRシーケンシング: ネオアンチゲン特異的T細胞クローンのレパートリー変化と持続性を追跡した。
- HLAクラスIIテトラマー: 特定のネオアンチゲン特異的CD4+ T細胞の頻度をex vivoで直接検出した。
- 自家腫瘍細胞認識アッセイ: ワクチン誘導T細胞が、変異ペプチドを提示する自家APCや自家腫瘍細胞を認識し、殺傷する能力を評価した。
安全性評価: 有害事象はNCI Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0に基づき分類・評価された。
追跡調査: 患者は中央値25ヶ月 (範囲20-32ヶ月) 追跡され、疾患再発はRECIST 1.1基準に基づき評価された。統計解析には、反復測定モデルを用いたt検定が使用され、Benjamini-Hochberg法により多重比較補正が行われた。