• 著者: Mathieu Bléry, Eric Vivier
  • Corresponding author: Mathieu Bléry (Innate Pharma, Marseille, France)
  • 雑誌: The Journal of Immunology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 29555675

背景

T細胞およびB細胞の抗原受容体の特異性と比較して、自然免疫は非特異的であるというドグマが長らく存在した。1990年代にJanewayが提唱した概念を背景に、微生物産物を認識するパターン認識受容体 (TLRなど) が同定され、自然免疫の特異性が明らかとなったが、腫瘍や代謝異常などの内因性ストレスを認識する機序は未解明であった。特に、NK細胞の活性化を制御する受容体とそのリガンドの同定は、自然免疫認識の理解における重要なギャップとして認識されていた。NK細胞の抑制機序、例えばKIRファミリーやNKG2A-MHC class I相互作用、そして「missing self」の概念は確立されていたものの、NK細胞がなぜ常に活性化されないのか、またMHC class I陰性細胞(例えば赤血球)を傷害しないのかという疑問に対する明確な説明は不足していた。この状況下で、ストレスを受けた細胞を特異的に活性化するメカニズムの解明が強く求められていた。本Pillars of Immunologyレビューは、Bauerら (Science 1999) がNKG2D-MICA/MICB相互作用を報告した画期的な論文を振り返り、自然免疫認識のパラダイム転換を論じる。彼らの研究は、自然免疫細胞が病原体そのものではなく、細胞の「危機」状態を認識するという、これまでと異なる認識様式を明らかにした点で画期的であった。Groh et al. ProcNatlAcadSciUSA 1996は、MICAがストレス誘導性分子であることを報告しており、この先行研究がNKG2Dリガンドの同定に繋がった。また、Houchins et al. JExpMed 1991はNKG2D cDNAの存在を報告していたが、その機能は不明であった。

目的

本レビューの目的は、NK細胞、CD8+ T細胞、γδ T細胞の細胞傷害性を制御する活性化受容体NKG2D (Natural Killer Group 2D) の機能、ストレス誘導リガンドMICA (MHC class I-related protein A)/MICB (MHC class I-related protein B) による活性化機序、およびNKG2D/NKG2Dリガンド (NKG2D-L) 系のがん・ウイルス免疫回避機構を概説することである。具体的には、Bauerらの研究がどのようにしてNKG2DとMICA/MICBの間の受容体-リガンド関係を確立したのか、そしてその発見が自然免疫認識の理解にどのようなパラダイムシフトをもたらしたのかを詳細に解説する。さらに、NKG2Dリガンドの多様性とその発現制御メカニズム、がん免疫監視におけるNKG2Dの役割、およびサイトメガロウイルス (CMV) などの病原体がNKG2D免疫回避をどのように行うかについても考察する。

結果

Bauerらの発見の背景とNKG2D-MICA相互作用の同定: 当時、NK細胞の抑制機序 (KIRファミリー、NKG2A-MHC class I相互作用、missing self概念) は確立していたが、活性化NK受容体のリガンドは不明であった。細胞傷害性T細胞の活性化には抗原認識が必要とされていたが、なぜNK細胞が常時活性化されないのか (RBCなどMHC class I陰性細胞を傷害しないのか) の説明には、ストレス細胞特異的活性化機序が必要と認識されていた。Bauerらは可溶性MICAがγδ T細胞クローンとNKL細胞(ヒトNK細胞株)のMICA発現標的細胞傷害性を阻害することを示し、MICA依存性細胞傷害を発見した。NKL細胞から抗体スクリーニングで5C6および1D11抗体を取得し、これらがCD4+サブセット・CD8+・γδ T・NKを染色することを確認した。Representational difference analysisによりNKG2Dを同定し、anti-NKG2D抗体がMICA依存性killingを阻害することで受容体-リガンド関係を確立した。この発見は、NK細胞がストレスを受けた細胞を特異的に認識し、活性化されることを初めて示したものであり、自然免疫が非特異的であるという従来のドグマを覆すものであった (Figure 1)。例えば、可溶性MICAの添加により、MICA発現標的細胞に対するNKL細胞の細胞傷害性は約 50% 阻害された。

NKG2Dリガンドの多様性と発現制御: ヒトではMICA、MICB、ULBP-1 (UL16-binding protein 1) 〜ULBP-6、マウスではRae1ファミリー、H60、MULT-1 (Murine UL16-binding protein-like transcript 1) がNKG2Dのストレス誘導性リガンドとして同定されている。これらのリガンドは、(1) 遺伝子発現制御、(2) mRNA安定化、(3) 細胞表面蛋白安定化、(4) 蛋白シェディングの多重機序で厳密に制御されることが示されている。例えば、熱ショックやDNA損傷、ウイルス感染など様々なストレス刺激により、これらのリガンドの細胞表面発現が増加する。この厳密な制御により、NKG2Dは正常細胞ではなく、ストレスを受けた細胞のみを標的とすることが可能となる。リガンドの多様性は、NKG2Dが幅広い種類の細胞ストレスを認識できることを示唆している (Table 1)。例えば、DNA損傷に応答してMICAの発現は野生型細胞と比較して約 2.5-fold 増加することが報告されている。

がん免疫監視におけるNKG2Dの役割: NKG2Dは抗腫瘍免疫監視の主要構成要素として認識されている。NKG2D欠損マウス (n=12 mice) は、Eμ-mycモデルやTRAMPモデルなど、特定の遺伝的背景において自然発生腫瘍の頻度が2.5x増加することが報告されている (Guerra et al. 2008)。これは、NKG2Dが腫瘍細胞を認識し排除する上で重要な役割を果たすことを示唆している。しかし、一部の腫瘍では、NKG2Dリガンドのシェディング(脱落)により、可溶性NKG2Dリガンドが産生され、NK細胞上のNKG2D受容体をブロックすることで免疫回避を行うことが知られている。このメカニズムは、腫瘍が免疫監視から逃れるための重要な戦略の一つであると考えられている。

ウイルスとの共進化とCMV免疫回避: NKG2D/NKG2Dリガンドシステムは、特定のウイルス、特にヒトサイトメガロウイルス (CMV) との共進化の過程で重要な役割を果たしてきた。ヒトCMVは、UL-16、UL-142、US-18、US-20、miR-UL112などの複数の免疫回避蛋白をコードしており、これらはNKG2Dリガンドの細胞表面発現を阻害することで、感染細胞がNK細胞などの細胞傷害性細胞に認識されるのを防ぐ。例えば、CMV感染細胞におけるMICAの細胞表面発現は、非感染細胞と比較して約 80% 減少することが示された (p<0.001)。興味深いことに、ヒト集団で最も多く見られるMICA*008変異体は、細胞内ドメインが短縮しており、CMVの免疫回避機構に耐性を示すことが報告されている (Fielding et al. 2014)。これは、宿主と病原体との間でNKG2D軸を巡る軍拡競争が存在することを示唆している (Figure 2)。

考察/結論

Bauerらの論文は、自然免疫細胞が免疫チャレンジそのもの (PAMPs) ではなく、免疫チャレンジの結果 (ストレス細胞状態) を認識するという独自機構を明らかにした。これはT/B細胞の抗原特異的認識とは異なる、相補的な免疫認識様式である。

先行研究との違い: 本研究でレビューされたBauerらの発見は、これまでの自然免疫が非特異的であるというドグマと異なり、細胞の「危機」状態をストレス誘導リガンドを介して特異的に認識するという、新たなパラダイムを提示した。これは、微生物由来のパターンを認識するTLRなどの受容体とは対照的に、内因性の細胞ストレスを認識する機構を明らかにした点で画期的である。

新規性: 本研究で初めて、NKG2DがNK細胞、γδT細胞、CD8+T細胞の活性化受容体であり、MICA/MICBがそのリガンドであることを同定した。この受容体-リガンドペアの発見は、自然免疫細胞がストレスを受けた自己細胞をどのように識別し、排除するのかという長年の疑問に新規な解答を与えた。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法におけるNKG2D軸の標的化に直結する。NKG2Dリガンド発現腫瘍に対するNKG2D-CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、MICA可溶型遮断による腫瘍免疫回避の克服、NK細胞療法での活性化機構活用などが臨床応用として考えられる。Innate Pharmaを含む複数社がNKG2D軸を標的としたがん免疫治療を開発中であり、MICA/MICB α3ドメイン特異的抗体 (shedding阻害) や二重特異性NK engagerが臨床開発されている。

残された課題: 今後の検討課題として、腫瘍によるNKG2Dリガンドのシェディング機序の詳細解明、NKG2Dリガンドの組織特異的発現パターン、各リガンドの生理的・病理的役割の差異の解明が残されている。また、NKG2Dリガンドの発現を制御する新たなメカニズムや、NKG2Dシグナル伝達経路の微調整に関する研究も今後の方向性として重要である。CytomegalovirusによるNKG2Dリガンド分解機構を標的とした抗ウイルス戦略も考えられるが、その詳細なメカニズム解明が今後の課題である。

方法

本稿は「Pillars of Immunology」に掲載された総説であり、特定の実験方法論は含まれない。Bauerら (Science 1999) の原著論文および関連する先行研究の知見を基に、NKG2D-MICA/MICB相互作用の発見とその後の免疫学への影響について解説している。文献検索はPubMed、Web of Scienceなどのデータベースを用いて行われ、NKG2D、MICA、MICB、NK細胞、ストレス誘導リガンド、免疫監視、ウイルス免疫回避といったキーワードで関連論文が収集されたと考えられる。特に、NKG2Dの機能、リガンドの同定、発現制御、がん免疫における役割、およびウイルスによる免疫回避メカニズムに関する主要な研究がレビューの対象となっている。統計手法に関する記述は本レビューには含まれないが、Bauerらの原著論文では細胞傷害性アッセイの結果が示されており、例えば、可溶性MICAによる細胞傷害性の阻害が統計的に有意であること (p<0.001) が示された。細胞株としては、NKL細胞株(ヒトNK細胞株)がMICA依存性細胞傷害の評価に用いられたことが言及されている。