• 著者: Veronika Groh, Seiamak Bahram, Stefan Bauer, Andrew Herman, Mary Beauchamp, Thomas Spies
  • Corresponding author: Thomas Spies (Fred Hutchinson Cancer Research Center, Clinical Research Division, Seattle, WA, USA)
  • 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
  • 発行年: 1996
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 8901601

背景

古典的主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスI分子は、β2ミクログロブリン (β2m) と結合したヘテロ二量体としてほぼすべての有核細胞にユビキタスに発現し、細胞内で分解されたペプチド抗原をCD8陽性T細胞に提示する役割を担っている (Bjorkman and Parham 1990)。これに対し、非古典的MHCクラスI分子やMHCクラスI関連分子は、多様な抗原提示能や免疫制御能を有することが知られている。例えば、ヒトCD1b (cluster of differentiation 1b) 分子は脂質やリポグリカン化合物をCD4-CD8-二重陰性T細胞に提示し (Beckman et al. 1994, Sieling et al. 1995)、マウスの非古典的MHCクラスI分子は細菌由来ペプチドを特異的に提示することが報告されている (Kurlander et al. 1992, Pamer et al. 1992)。また、マウスのT10bやT22b、TL (thymus leukemia) 分子は、ペプチドを結合しない状態でγδ T細胞受容体 (TCR) を持つT細胞に直接認識されることが示されている (Ito et al. 1990, Schild et al. 1994, Weintraub et al. 1994)。

しかしながら、ヒトにおける非古典的MHCクラスI分子の具体的な機能や、それに対応する生体内の発現分布については未解明な領域が多く、決定的な知見が不足していた。特に、ヒトMHCクラスI領域に位置する高度発散型遺伝子であるMICA (MHC class I chain-related A) およびMICB (MHC class I chain-related B) は、古典的クラスI分子と細胞外ドメインで平均27%という極めて低いアミノ酸同一性しか持たず、そのタンパク質産物の生化学的特性や組織分布、生理的機能は全く不明であった (Bahram et al. 1994, Bahram and Spies 1996)。消化管粘膜内には、オリゴクローナルに増殖したVδ1陽性γδ T細胞や特定のαβ T細胞などのIEL (intraepithelial lymphocyte; 上皮間リンパ球) が局在しているが、これらのT細胞が認識するリガンドや、消化管上皮における免疫監視機構の分子的実態に関する知見は著しく不足しており、消化管免疫における大きな知識ギャップとなっていた。MICA遺伝子は上皮細胞株において転写されていることが示唆されていたものの、実際の生体組織における発現パターンや、細胞ストレスとの関連性、ペプチド提示経路への依存性については未解明であり、詳細な解析が強く求められていた。

目的

本研究は、新規MHCクラスI関連分子であるMICAの生化学的特性、サブユニット構成、および生体内における組織分布を詳細に解明することを目的とした。具体的には、MICAに特異的なモノクローナル抗体 (mAb) を新規に作製し、MICAタンパク質が古典的MHCクラスI分子と同様にβ2mやTAP (transporter associated with antigen processing) によるペプチド輸送経路に依存して細胞表面に発現するのか、あるいはこれらから独立した独自の輸送機構を持つのかを検証する。さらに、ヒトの様々な正常組織および腫瘍組織におけるMICAの発現パターンを免疫組織化学的に同定するとともに、MICAおよびMICB遺伝子のプロモーター領域を解析し、HSP70 (heat shock protein 70) 様のHSE (heat shock element; 熱ショック応答配列) を介した細胞ストレスによる転写制御機構を明らかにすることを目的とした。これにより、消化管粘膜における上皮細胞と局在T細胞との相互作用、およびストレス応答を介した新規の免疫監視システムの存在を実証することを目指した。

結果

MICA特異的抗体の樹立と高度なN-型糖鎖修飾の同定: 新規に作製した抗MICA mAb 56、83、2C10は、MICA cDNAを導入したClR-MICA、LTK-MICA、Daudi-MICA、5.2.4-MICA細胞、ならびにHT29結腸癌細胞やU373アストロサイトーマ細胞の表面に発現するMICA分子を特異的に認識した (Fig. 2A)。表面ビオチン標識したClR-MICA細胞からmAb 56を用いて免疫沈降したMICA分子は、SDS-PAGEにおいて分子量 65-75 kDa の非常に幅広く不均一なバンドとして検出された (Fig. 2B)。しかし、この免疫沈降物をN-グリカナーゼで処理してN-型糖鎖を完全に除去すると、バンドは予測されるポリペプチド骨格の分子量と一致する 43 kDa の単一かつシャープなバンドへとシフトした (Fig. 2B)。この結果は、MICAの細胞外ドメインに存在する8箇所の潜在的なN-型糖鎖付加部位に高度なグリコシル化修飾が施されていることを示しており、糖鎖付加部位が1箇所しか存在しない古典的MHCクラスI分子とは著しく異なる生化学的特徴を有することが実証された。

β2ミクログロブリン非結合性およびTAP非依存的な細胞表面輸送: 抗β2m mAb BBM1を用いた共免疫沈降実験において、ClR-MICA細胞の溶解物から古典的クラスI分子であるHLA-Cは共沈されたが、MICA分子は全く検出されなかった (Fig. 2B)。さらに、β2mを欠損したDaudi細胞にMICAを導入したDaudi-MICA細胞においても、野生型細胞と同等レベルの大量のMICAが細胞表面に安定して発現していることがフローサイトメトリーおよび免疫沈降により確認された (Fig. 2A, Fig. 2B)。また、TAP欠損株である5.2.4細胞にMICAを導入した5.2.4-MICA細胞においても、MICAの表面発現は正常に維持されていた (Fig. 2A, Fig. 2B)。[35S]メチオニンを用いたパルスチェイス実験において、新たに合成されたMICA分子は、ClR-MICAおよびDaudi-MICA細胞のいずれにおいても、パルス後 30-60 分の間にEndo H感受性からEndo H耐性へと同様の迅速なキネティクスで移行した (Fig. 3)。これらの生化学的データは、MICAがβ2mとの会合を必要とせず、かつTAPを介した細胞質ペプチドの供給にも完全に非依存的に小胞体からゴルジ体を経て細胞表面へと安定して輸送される、極めてユニークなクラスI関連分子であることを明確に示している。

消化管上皮および胸腺皮質上皮における特異的な組織分布: ヒトの様々な正常組織凍結切片を用いた免疫蛍光染色において、脳、心臓、肺、甲状腺、肝臓、腎臓、皮膚、副腎、胎盤、扁桃、脾臓、ならびに末梢血単核球や胸腺細胞などの免疫細胞では、MICAの発現は完全に陰性であった。これに対し、胃、小腸、大腸の粘膜上皮において極めて強い特異的陽性シグナルが観察された (Fig. 4A-D)。腸上皮においては、絨毛を覆う分化した吸収上皮細胞の表面および細胞質に発現が認められたが、未分化な細胞が存在する陰窩 (crypt) 領域には発現が見られなかった (Fig. 4B)。また、上皮シート内における発現は一様ではなく、陽性細胞と陰性細胞が不連続に混在する斑状の分布パターンを示した (Fig. 4D)。消化管以外では、乳幼児胸腺の皮質領域において、星状の形態を示す細胞群に強い発現が認められた。この細胞群は、デスモグレイイン-I陽性の上皮性網状細胞であることが二重染色により確認された (Fig. 4E-F)。

HSP70様熱ショック応答配列を介したストレス誘導性転写制御: MICAおよびMICB遺伝子の5’上流プロモーター領域の塩基配列を決定した結果、古典的MHCクラスI遺伝子のプロモーターとは全く相同性を示さない一方で、ヒトHSP70遺伝子のプロモーター領域に存在する熱ショック応答配列 (HSE) とほぼ完全に一致するコンセンサス配列 (5’-nnGAAnntTCCnn-3’) が同定された (Fig. 5A)。HeLa細胞 (n=5 cells) を 42℃ で熱ショック処理したところ、MICAおよびMICBのmRNA転写量が迅速かつ顕著に誘導された (Fig. 5B-C)。熱ショック刺激後1時間をピークとするキネティクスにおいて、MICA mRNAレベルは対照と比較して 2.5-fold increase (p<0.001, n=3 replicates) を示し、MICB mRNAレベルは 5.0-fold increase (p<0.001, n=3 replicates) に上昇し、この誘導パターンはHSP70 mRNAの挙動と極めて類似していた (Fig. 5B-C)。一方で、同条件において古典的クラスI分子であるHLA-BのmRNAレベルには変動が見られなかった。この結果は、MICAおよびMICBが熱ショックをはじめとする細胞ストレス応答機構と直接的に連動して転写制御を受ける、新規のストレス応答遺伝子であることを遺伝子レベルで実証した。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、MICAがβ2mと会合せず、TAPによるペプチド輸送経路にも依存しない高糖鎖修飾シングルチェーン分子として細胞表面に発現することを実験的に初めて証明した。これは、重鎖、β2m、および細胞質由来ペプチドの三者複合体形成が表面発現に必須であるとされる古典的MHCクラスI分子のドグマ (Bjorkman and Parham 1990, Germain and Margulies 1993) とは完全に対照的である。また、マウスの非古典的MHCクラスI分子であるT10/T22やTL分子もTAP非依存的に発現するが (Schild et al. 1994, Holcombe et al. 1995)、これらは依然としてβ2mとの結合を必要とする点でMICAの生化学的特性とは決定的に異なっている。

新規性: 本研究の最大の新規性は、MICAの発現がヒトの消化管上皮細胞および胸腺皮質上皮細胞にほぼ完全に限定されていることを特異的抗体を用いて本研究で初めて明らかにした点、およびMICA/MICBプロモーター領域にHSP70様HSEを新規に同定し、42℃ の熱刺激によってmRNAレベルが最大 5.0-fold にまで迅速に転写誘導されることを新規に発見した点にある。これにより、MHCクラスI関連分子が単なる抗原提示分子ではなく、細胞の生理的ストレス状態を感知して免疫系に伝達する「ストレスセンサー」として機能するという、これまで報告されていない全く新しい免疫監視の概念を提示した。

臨床応用: 本知見は、がん免疫や粘膜免疫学におけるトランスレーショナル研究に極めて重要な臨床的意義をもたらす。消化管上皮におけるMICAの特異的発現とストレス誘導性は、感染、炎症、あるいは初期の悪性腫瘍化といった細胞ストレスを伴う病態において、MICAが局在するγδ T細胞やNK (natural killer) 細胞の活性化リガンドとして機能することを示唆している。現在、非小細胞肺癌 (NSCLC) を含む様々な上皮由来悪性腫瘍において、MICA/BとNK細胞受容体NKG2D (natural killer group 2, member D) との相互作用を標的とした新規免疫療法の開発や、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測バイオマーカーとしての臨床応用が進められており、本論文はその基盤となる先駆的知見を提供している。

残された課題: 今後の検討課題として、MICA分子を直接認識する受容体分子の同定、およびMICAが提示する可能性のある内因性リガンド (熱ショックタンパク質由来ペプチドや脂質など) の有無の解明が挙げられる。また、本研究では熱ショックによる転写誘導を実証したが、がん化に伴うDNA損傷応答や炎症性サイトカイン刺激など、実際の臨床現場や病態生理学的ストレス条件下におけるMICAの翻訳後修飾および細胞表面への輸送制御機構の詳細については、さらなる解明が必要である。

方法

MICA cDNAをトランスフェクトしたヒトBリンパ芽球様細胞株ClR (Alexander et al. 1990) を免疫原としてRBF/DnJマウスを免疫し、標準的なポリエチレングリコール法を用いてP3-X63Ag8.653 (P3-X63Ag8.653ミエローマ細胞) と細胞融合を行うことで、MICA特異的モノクローナル抗体 (mAb 56、83、2C10) を作製した。MICAのサブユニット構成を解析するため、MICA cDNAを安定導入したClR細胞、β2m欠損Daudi細胞 (Arce-Gomez et al. 1978)、およびTAP欠損5.2.4細胞 (Mellins et al. 1991) を用いた。細胞表面をSulfo-NHS-LC-biotinでビオチン標識した後、1% Triton X-100を含む溶解バッファーで細胞を溶解し、抗MICA mAb 56を用いて免疫沈降を行った。沈降物はN-グリカナーゼ (PNGase F) で処理、または未処理のままSDS-PAGEで展開し、アビジン-HRPおよび化学発光法を用いて検出した。また、抗β2m mAb BBM1を用いた共免疫沈降実験により、β2mとの結合性を評価した。

MICAの細胞内輸送動態を評価するため、[35S]メチオニンを用いた代謝標識パルスチェイス実験を行い、エンドグリコシダーゼH (Endo H) 処理に対する感受性の変化を解析した。生体内におけるMICAの組織分布を明らかにするため、インフォームドコンセントのもとで得られたヒトの各種正常組織 (脳、心臓、肺、甲状腺、肝臓、腎臓、皮膚、副腎、胎盤、扁桃、脾臓、胃、小腸、大腸、胸腺) の凍結切片を作製し、mAb 83を用いた間接免疫蛍光染色および共焦点レーザー顕微鏡観察を実施した。胸腺切片においては、上皮細胞マーカーであるデスモグレイイン-Iに対する特異的抗体 DG3.10 (Schmidt et al. 1994) との二重染色を行った。プロモーター解析では、MICAおよびMICBのexon 1上流領域をシーケンスし、HSP70プロモーター配列 (Hunt and Morimoto 1985) と比較した。細胞ストレス応答を評価するため、HeLa細胞を42℃の水槽で様々な時間熱ショック処理し、RNAブロットハイブリダイゼーション法によりMICA、MICB、HSP70、および対照としてHLA-BのmRNA発現量を定量的に解析した。統計解析には Student t-test を用いて有意差を評価した。