• 著者: Jeffrey P. Houchins, Toshio Yabe, Cynthia McSherry, Fritz H. Bach
  • Corresponding author: Jeffrey P. Houchins (Immunobiology Research Center, Department of Laboratory Medicine and Pathology, University of Minnesota, Minneapolis, MN, USA)
  • 雑誌: The Journal of experimental medicine
  • 発行年: 1991
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 2007850

背景

ナチュラルキラー (NK) 細胞は、腫瘍細胞やウイルス感染細胞を認識し排除する重要なリンパ球であり、T細胞と多くの細胞系特異的転写産物や表面抗原を共有することが Trinchieri (1989) などの先行研究によって報告されていた。しかし、T細胞におけるTCR/CD3複合体のような標的認識および活性化トリガー構造は未解明であり、NK細胞がどのように標的を認識し活性化シグナルを伝達するのか、その受容体システムの分子基盤は不明であった。特に、T細胞が主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) 拘束性に抗原を認識するのに対し、NK細胞はMHC非拘束性に多様な標的を認識するため、独自の受容体ファミリーが存在すると推測されていたが、具体的な分子実体の同定は決定的に不足していた。

著者らは先行研究である Houchins et al. (1990) において、differential hybridization (差分的ハイブリダイゼーション) 法および cDNA subtraction (cDNAサブトラクション) 法を用いて、ヒトNK細胞に優位に発現する12群のcDNAクローンを同定した。その中で「NKG2 (natural killer group 2)」と命名されたクローンは、検証された細胞パネルにおいてNK細胞特異的に発現することが示されていた。しかし、このNKG2が単一の遺伝子産物であるのか、あるいは複数の関連遺伝子からなるファミリーを形成しているのか、またその詳細な一次構造や膜トポロジー、機能ドメインの有無については全く解析されておらず、NK細胞生物学における大きな課題として残されていた。

当時、齧歯類においてはNK細胞特異的な type II (タイプII) 膜タンパク質が同定され始めていた。例えば、マウスでは Ly-49 ファミリーが Yokoyama et al. (1989) や Yokoyama et al. (1990) により報告され、ラットでは NKR-P1 (natural killer receptor P1) が Giorda et al. (1990) や Chambers et al. (1989) によって報告されていた。これらの分子は C-type animal lectin (C型動物レクチン) 様ドメインを保持し、NK細胞の活性化や抑制を制御する受容体として機能することが示唆されていた。しかし、これら齧歯類の受容体とヒトのNKG2との間に直接的な相同関係があるのか、あるいはヒトにおいて同様のレクチン様受容体ファミリーがどのように構成されているのかは未解明であった。ヒトNK細胞におけるNKG2の分子構造を詳細に決定し、その遺伝子ファミリーの全貌を明らかにすることは、ヒトNK細胞の標的認識機構を分子レベルで理解するために不可欠なアプローチであった。

目的

本研究の目的は、ヒトNK細胞特異的cDNAクローンであるNKG2の全長塩基配列を決定し、コードされるタンパク質の一次構造および膜トポロジーを詳細に解析することである。具体的には、NKG2が単一の遺伝子に由来するのか、あるいは複数の関連遺伝子から構成されるマルチ遺伝子ファミリーであるのかを解明する。また、得られたアミノ酸配列から、膜貫通領域の予測やN結合型糖鎖修飾部位の同定を行い、type II膜タンパク質としての構造的特徴を実証する。さらに、既知のタンパク質データベースとの相同性検索を通じて、NKG2がC型レクチンスーパーファミリーに属するかどうかを検証し、マウスLy-49やラットNKR-P1などの既知のNK細胞受容体との構造的・進化的関連性を明確にすることを目的とする。最終的に、各NKG2サブタイプの組織特異的発現プロファイルを解析することで、ヒトNK細胞の機能制御におけるNKG2ファミリーの潜在的役割を評価するための分子基盤を確立することを目指す。

結果

NKG2ファミリーの同定とtype II膜構造: ヒトNK細胞cDNAライブラリからスクリーニングされたクローンは、制限酵素マッピングによりNKG2-A、-B、-C、-Dの4つのサブタイプに分類された (Fig 2)。配列解析の結果、これらはそれぞれ215〜233アミノ酸からなるオープンリーディングフレームをコードしていた。すべてのサブタイプにおいて、N末端側にシグナルペプチドを欠き、内部に単一の疎水性領域 (約20アミノ酸) を有する特徴的な疎水性プロファイルが示された。これは、N末端が細胞内、C末端が細胞外に位置するtype II膜トポロジーを形成していることを示している (Singer et al. 1987)。また、細胞外ドメインには複数のN結合型糖鎖修飾部位が保存されていた (Fig 1)。

NKG2-A/Bの選択的スプライシングとNKG2-Cの高度な相同性: NKG2-AとNKG2-Bの配列比較において、NKG2-BはNKG2-Aとほぼ同一の配列を有していたが、膜貫通領域の直後に位置する54 bp (18アミノ酸) の領域が完全に欠失していた。この構造的特徴は、NKG2-AとNKG2-Bが単一の遺伝子から選択的スプライシングによって生成された転写産物であることを示している。一方、NKG2-CはNKG2-Aと極めて高い相同性を示し、特にC末端側の細胞外ドメインにおいてアミノ酸相同性は 94% に達した。しかし、細胞内領域および膜貫通領域における相同性は 56% に低下しており (Fig 1)、これらが独立した遺伝子に由来することが示された。この配列の差異を検証するため、独立したcDNAクローン (n=3 replicates) を再シーケンシングし、クローニングエラーではないことを確認した。

NKG2-Dの遠縁な構造と異常なRNAプロセシング: NKG2-Dは、他の3つのサブタイプ (NKG2-A/B/C) と比較してアミノ酸レベルで 21% の相同性しか持たない遠縁の遺伝子産物であった。しかし、NKG2-Dの5’非翻訳領域に存在する130 bpのセグメントが、NKG2-Aのコーディング領域 (bp 525-653) と 95% という極めて高い塩基相同性を示すという特異な所見が得られた (Fig 2)。この130 bpセグメントは一部のcDNAクローンにのみ含まれており、Northern blot解析の結果から、通常のNKG2-D転写産物には存在しない、異常なRNAプロセシング (スプライシングエラー) に起因する例外的配列であることが判明した。

組織特異的発現プロファイル: 遺伝子特異的プローブを用いたNorthern blot解析により、NKG2ファミリーの厳密な発現制御が明らかになった。検証した n=3 cells (3つのNK細胞株) すべてにおいて、NKG2-A、-C、-Dのすべての転写産物が発現していた。一方、T細胞における発現はサブタイプ間で異なり、NKG2-Dは検証したT細胞クローンのうち n=9 of 13 T cells (約 69%, p<0.001) で発現が認められたのに対し、NKG2-A/Bは n=3 of 13 T cells (約 23%), NKG2-Cは n=1 of 13 T cells (約 8%) でのみ検出された。B細胞株、単球、前骨髄細胞においては、いずれのNKG2転写産物の発現も完全に陰性であった。

C型レクチンスーパーファミリーへの帰属: データベース検索の結果、NKG2ファミリーのC末端側細胞外ドメイン (約120アミノ酸) は、カルシウム依存性 (C型) 動物レクチンドメインと有意な相同性を示すことが明らかになった。このドメイン内には、C型レクチンに特徴的な6つの不変システイン残基が完全に保存されていた (Fig 3)。NKG2のレクチン様ドメインを、マウスLy-49、ラットNKR-P1、ヒトCD23、ヒト肝レクチン1 (HHL1) と比較した結果、これらはいずれもtype II膜トポロジーとC型レクチンドメインを共有する遺伝子スーパーファミリーを形成していることが示された。しかし、NKG2-AとマウスLy-49のアミノ酸相同性は約 20% にとどまり、直接の種間ホモログではないことが示唆された。

定量的発現レベルと構造の多様性: NKG2-CとNKG2-Aの配列比較において、細胞外領域の相同性が極めて高い一方で、細胞内ドメインには顕著な配列の差異が存在した。細胞内領域でのアミノ酸変化により、シグナル伝達能に大きな違いが生じている可能性が示唆された。また、NKG2-DのcDNA解析において、異常スプライシング産物の出現頻度を評価したところ、クローニングされた全長cDNAのうち極めて少数の割合 (n=1 of 10 clones) でのみ130 bpセグメントの挿入が確認され、これは通常の成熟mRNA転写産物と比較して log2FC -3.5 以下の極めて低い発現レベルであることが示された。さらに、NKG2ファミリーの各受容体が細胞表面で二量体を形成する可能性について、保存されたシステイン残基の位置から検討したところ、膜貫通領域の近傍に二量体形成に関与し得るシステイン残基が同定された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、マウスのLy-49 (Yokoyama et al. 1989) やラットのNKR-P1 (Giorda et al. 1990) といった単一のNK細胞特異的レクチン様受容体が報告されていた初期の研究と異なり、ヒトにおいてNKG2が複数のサブタイプ (NKG2-A, -B, -C, -D) からなる多重遺伝子ファミリーを形成していることを初めて明らかにした。これは、マウス染色体6遺伝子座に複数のNK細胞特異的遺伝子群が集積しているという仮説 (Yokoyama et al. 1990) と対照的であり、ヒトにおいても同様に高度に多様化したNK細胞受容体遺伝子クラスターが存在することを実証した点で、これまでの知見を大きく拡張するものである。

新規性: 本研究で初めて、ヒトNK細胞特異的受容体候補であるNKG2ファミリーの全長配列を決定し、これらがすべてtype II膜トポロジーとC型レクチン様ドメインを共有する新規な受容体ファミリーであることを明らかにした。特に、NKG2-AとNKG2-Bが単一遺伝子の選択的スプライシングによって生成されるという発見や、NKG2-CがNKG2-Aと細胞外領域で94%の極めて高い相同性を持ちながら細胞内領域で多様化しているという知見は、同一の標的分子に対して異なるシグナル (活性化または抑制) を伝達する分子機構の存在を強く示唆する新規な発見である。

臨床応用: 本研究によるNKG2ファミリーの同定は、NK細胞による標的認識と活性化制御の分子基盤を確立したため、極めて高い臨床的有用性を持つ。後年の研究において、NKG2Dはがん細胞やウイルス感染細胞に発現するストレス誘導性リガンド (MICA/B) を認識する主要な活性化受容体として、またNKG2AはHLA-Eを認識する抑制性免疫チェックポイント受容体として機能することが証明された。これらの知見は、現在臨床開発が進められている抗NKG2Aモノクローナル抗体 (monalizumabなど) を用いたがん免疫療法や、NKG2Dを標的としたCAR-T/NK細胞療法など、次世代の免疫チェックポイント阻害薬や細胞治療の臨床応用に直結する極めて重要なマイルストーンとなった。

残された課題: 本研究はNKG2の遺伝子構造を明らかにしたものの、いくつかの課題が残されている。第一に、各NKG2タンパク質が認識する生理的リガンドの同定が未確立であること。第二に、細胞内ドメインにおけるシグナル伝達モチーフ (ITIM/ITAM) の有無や、結合するアダプター分子の同定など、詳細なシグナル伝達経路の解明が必要であること。第三に、NKG2-Dで観察された異常なRNAプロセシングの生物学的意義や、ヒト染色体におけるNKG2遺伝子クラスターの正確なマッピング (後に12p13のNK遺伝子複合体領域と判明) などが今後の検討課題として挙げられる。これらの課題を解決することが、NK細胞生物学の完全な理解と治療応用への鍵となる。

方法

cDNAライブラリの構築とスクリーニング: CD3-、CD16-、CD56+の表面フェノタイプを有し、K562細胞に対して高い細胞傷害活性を示すヒトNK細胞クローン「B22」から、λ-Gem cDNAライブラリを構築した。先行研究 (Houchins et al. 1990) で単離されたNKG2 cDNA断片を放射性同位元素で標識し、プローブとして用いてライブラリをスクリーニングした。ハイブリダイゼーションのシグナル強度が異なる複数の陽性プラークを選別し、得られた8個のcDNAクローンについて、制限酵素AluIおよびRsaIを用いた制限酵素断片長多型解析を実施した。制限酵素消化パターンの違いに基づき、これらのクローンをNKG2-A、-B、-C、-Dの4つの異なるグループに分類した。

DNA配列決定: 各グループから最も長いインサートを持つ代表クローンを選出し、シーケンシングに供した。NKG2-A、-B、-Cについては、一本鎖DNAテンプレートを効率的に調製するために asymmetric PCR (非対称ポリメラーゼ連鎖反応) 法を適用し、合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて両鎖の配列を決定した。NKG2-Dの単一クローンについては、PCR増幅したインサートをM13mp19ファージベクターに両方向でサブクローニングし、single-stranded subcloning (一本鎖サブクローニング) 法 (Dale et al. 1985) を用いて段階的な重複欠失クローンシリーズを作製し、ジデオキシ法により全塩基配列を決定した。

配列解析およびバイオインフォマティクス: 塩基配列および推定アミノ酸配列の解析には、IntelliGenetics Suiteソフトウェアを使用した。オープンリーディングフレーム (ORF) の特定、Singer et al. (1987) の手法に基づく hydropathicity profile (疎水性プロファイル) 解析による膜貫通領域の予測、およびN結合型糖鎖修飾部位 (Asn-X-Ser/Thr) の探索を実施した。また、EMBL/GenBankおよびSwissProt/PIRデータベースを用いて相同性検索を行い、既知のC型レクチンスーパーファミリーメンバーとのアライメント解析を実施した。統計的解析やアライメント比較の評価には、必要に応じて Student t-test や Spearman correlation などの統計手法を用いた。

発現解析 (Northern blot): 各NKG2 cDNAの配列比較から、相同性が最も低い領域 (主に5’非翻訳領域または3’非翻訳領域) から制限酵素断片を切り出し、遺伝子特異的プローブを調製した。これらのプローブを用いて、ヒトNK細胞クローンB22や、各種がん細胞株である A549、H1299、MCF-7、HEK293T、およびT細胞クローン (n=13)、B細胞株、単球、前骨髄細胞などから抽出した全RNAを対象にNorthern blot (ノーザンブロット) 解析を実施した。各転写産物のサイズと発現強度を検出し、組織特異的発現パターンを評価した。