- 著者: Shixin Duan, Weihua Guo, Zuxing Xu, Yunbo He, Chuting Liang, Yongzhen Mo, Yian Wang, Fang Xiong, Can Guo, Yong Li, Xiaoling Li, Guiyuan Li, Zhaoyang Zeng, Wei Xiong, Fuyan Wang
- Corresponding author: Wei Xiong (NHC Key Laboratory of Carcinogenesis, Central South University, Changsha, Hunan, China); Fuyan Wang (Department of Immunology, Central South University, Changsha, China)
- 雑誌: Molecular Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-02-27
- Article種別: Review
- PMID: 30813924
背景
がんの免疫編集 (immune editing) 理論によれば、腫瘍は elimination (排除)、equilibrium (平衡)、escape (逃避) の3つの相を経て宿主の免疫監視から逃避する。ナチュラルキラー (NK) 細胞は、自然免疫および獲得免疫の双方において中心的な役割を果たす細胞傷害性エフェクター細胞であり、その活性化は細胞表面の活性化受容体と抑制性受容体のシグナルバランスによって厳密に制御されている。活性化受容体の中でも、NKG2D (natural killer group 2 member D) 受容体は、NK細胞のみならず、ナチュラルキラーT (NKT) 細胞、CD8+ T細胞、γδ T細胞などにも発現する極めて重要な活性化センサーである。正常細胞においてNKG2Dのリガンドである NKG2DL (NKG2D ligand) ──すなわち MICA/B (MHC class I polypeptide-related sequence A/B) や ULBP1-6 (cytomegalovirus UL16-binding protein 1-6)──の発現は極めて低く抑えられているが、細胞が感染や悪性形質転換 (がん化) などのストレスに晒されると、これらリガンドの発現が誘導される。これにより、NKG2D受容体を介してNK細胞が活性化され、腫瘍細胞の効率的な排除が可能となる。
しかしながら、実際の臨床においては、多くの腫瘍細胞がこのNKG2D/NKG2DL軸を巧みに操作して免疫監視から逃避している。先行研究である Peng et al. (2013) は、膵がん、胃がん、大腸がんなどの患者において、末梢血および腫瘍局所におけるNKG2D陽性NK細胞の割合が著明に低下しており、これが患者の不良な予後と直接的に相関することを示した。また、別の先行研究である Mamessier et al. (2011) は、乳がん細胞が自己寛容機構を誘導することでNKG2DおよびDNAM-1を介したNK細胞の認識を回避していることを報告している。さらに、腫瘍微小環境 (TME) における免疫抑制的な細胞群や液性因子の関与についても、先行研究である Jiang et al. (2019) が、PD-L1/PD-1軸を介した免疫逃避機構とともに、TME内の多様な分子がNK細胞の機能を多角的に抑制していることを明らかにしている。
このように、NKG2D/NKG2DL軸の破綻が腫瘍の免疫逃避における主たる機序であることは広く認識されているものの、腫瘍細胞が転写、翻訳、翻訳後の各レベルにおいてリガンド発現を制御する詳細な分子機構や、ウイルス感染、さらには生体内ホルモンといった特殊な因子がNKG2D軸に与える影響については、依然として未解明な点が多く残されており、学術的な knowledge gap となっている。特に、これら多層的な制御機構がどのように統合されて腫瘍の生存を支持しているのかについての包括的な理解は不足しており、これが次世代のNK細胞標的治療薬開発における大きな課題となっていた。本レビューは、腫瘍細胞、TME、ウイルス、およびホルモンがNKG2D受容体とそのリガンドの発現を調節する多層的な分子機序を体系的に整理し、臨床応用へ向けた理論的基盤を構築することを目的とする。
目的
本総合レビューの目的は、以下の5つの学術的・臨床的課題を包括的に検証し、NKG2D/NKG2DL軸を標的とした新規がん免疫療法の開発に向けた理論的基盤を提供することである。
(1) ヒトNK細胞におけるNKG2D受容体およびそのリガンド (MICA/B、ULBP1-6) の分子構造を定義し、DAP10 (DNAX-activating protein 10) を介した下流シグナル伝達経路 ── PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase) / GRB2 (growth factor receptor-bound protein 2) / Vav1 (vav guanine nucleotide exchange factor 1) / Rac1 (rac family small GTPase 1) / PLCγ (phospholipase C gamma) 経路 ── による細胞傷害活性およびサイトカイン産生制御の全容を整理する。
(2) 腫瘍微小環境 (TME) を構成する多様な免疫抑制分子 ── PCLP1 (podocalyxin-like protein 1)、IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase) 由来キヌレニン、PGE2 (prostaglandin E2)、MIF (macrophage migration inhibitory factor)、TGF-β (transforming growth factor-beta)、および低酸素誘導因子 HIF-1 (hypoxia-inducible factor-1) ── が、NK細胞上のNKG2D受容体発現を直接的・間接的に下方制御する詳細なシグナル伝達機構を解説する。
(3) 腫瘍細胞がNKG2Dリガンド (NKG2DL) の発現を回避するために用いる、転写レベル (DNAメチル化、ヒストン脱アセチル化、IDH変異)、翻訳レベル (各種miRNAによるmRNA分解・翻訳抑制)、および翻訳後レベル (ADAM9/10/17やMMPによるリガンドのプロテオーム分解・可溶化、エキソソーム分泌) の多段階制御機構を体系的に分類・整理する。
(4) 腫瘍随伴ウイルス ── HCMV (human cytomegalovirus)、JCV/BKV (John Cunningham virus / BK virus)、HBV (hepatitis B virus)、HCV (hepatitis C virus)、アデノウイルス、VSV (vesicular stomatitis virus)、HIV (human immunodeficiency virus) ── および生体内ホルモン ── VIP (vasoactive intestinal peptide)、エストロゲン、ACTH/CRH (adrenocorticotropic hormone / corticotropin-releasing hormone) ── が、NKG2D/NKG2DL軸のシグナル強度を修飾して免疫逃避を促進する特殊な分子機序を解明する。
(5) 以上の基礎的知見に基づき、NKG2D発現回復を促すサイトカイン療法 (IL-2、IL-12、IL-15)、エピジェネティック治療薬 (HDAC阻害剤)、可溶性リガンド中和抗体、メタロプロテアーゼ阻害剤、および CAR-NK (chimeric antigen receptor-engineered NK) セルセラピーを含む、NKG2D軸を標的とした次世代がん免疫療法の臨床開発ロードマップを提示する。
結果
NKG2D受容体とリガンドの構造および下流シグナル伝達経路:
NKG2D受容体は、染色体12p13.2のKLRK1遺伝子にコードされるC型レクチン様ホモダイマーである。選択的スプライシングにより長鎖 (NKG2D-L) と短鎖 (NKG2D-S) の2つのアイソフォームが生成される。ヒトにおいてはNKG2D-Lのみが発現し、DAP10とのみ結合して機能的な受容体複合体を形成する。DAP10は細胞質内にYXXMモチーフを有しており、受容体刺激に伴いリン酸化されると、PI3KおよびGRB2をリクルートする (Fig. 1)。PI3Kの活性化は、脂質代謝産物であるPI(3,4,5)P3の産生を介して小分子GTPaseであるRac1を活性化し、下流のRac1/PAK/c-RAF/MEK/ERK経路を駆動する。一方、GRB2の動員はVav1およびPLCγの活性化を導き、IP3/Ca2+シグナルおよびPKC経路を活性化する。これら2つの独立したシグナル経路の協調作用により、NK細胞内ではアクチン細胞骨格の再編成が誘発され、腫瘍細胞との間に免疫シナプスが形成される。最終的に、パーフォリンやグランザイムを含む細胞傷害性顆粒の脱顆粒が引き起こされるとともに、FasL、TNF-α、およびTRAILの発現・分泌が誘導され、Fas/FasL経路やTNF-R1経路を介して標的腫瘍細胞にアポトーシスが誘導される (Fig. 1)。
ヒトにおけるNKG2Dリガンド (NKG2DL) は、MICA/BおよびULBP1-6の2つのファミリーに大別される (Fig. 2)。MICA/BはMHCクラスI分子と類似したα1、α2、α3ドメイン構造を有し、α3ドメインは免疫グロブリン様構造を呈する。これに対し、ULBP1-6はα1およびα2ドメインのみを有し、α3ドメインを欠く。ULBP1、ULBP2、ULBP3、およびULBP6はGPIアンカー型タンパク質として細胞膜に結合するが、ULBP4およびULBP5は膜貫通ドメインと細胞質尾部を有する。NKG2DLは極めて高い遺伝子多型性を示し、MICAには約100種類、MICBには約40種類の対立遺伝子が存在し、これが受容体への親和性やプロテオーム分解感受性に影響を与える (Fig. 2)。
腫瘍微小環境によるNKG2D受容体の多角的な発現抑制:
腫瘍細胞およびTME (tumor microenvironment) 内の免疫抑制性細胞群は、多様な液性因子や接触依存的シグナルを介してNK細胞上のNKG2D受容体発現を低下させ、免疫監視から逃避する (Table 2, Fig. 3)。乳がん細胞株を用いたin vitro共同培養実験において、細胞表面糖タンパク質であるPCLP1 (podocalyxin-like protein 1) の発現は、接触依存的な機序を介してNK細胞上のNKG2D受容体発現を約30%減少させ、NK細胞による細胞傷害活性を著明に減弱させることが示されている。また、メラノーマ細胞などが分泌するIDOの代謝産物であるL-キヌレニンは、JNKシグナル経路を介してIL-2依存性のNKG2D発現上昇を阻害する。さらに、TME内に豊富に存在するPGE2は、NK細胞表面のEP2およびEP4受容体に結合し、Gsタンパク質共役型のAC/cAMP/PKA経路を活性化することで、IL-15によって誘導されるNKG2Dの転写活性を50%阻害する (Table 2, Fig. 3)。
腫瘍由来のMIFは、p53活性抑制およびERK1/2、AKT経路の活性化を介して、NK細胞およびCD8+ T細胞上のNKG2D発現を直接的に下方制御する。TMEにおける最も強力な免疫抑制因子の一つであるTGF-βは、DAP10のアダプター遺伝子の転写および翻訳を直接抑制することにより、NKG2D受容体複合体の形成を阻害する。低酸素状態 (hypoxia) は、HIF-1の安定化を介して、CCL28などのケモカイン分泌を促し、TGF-βを大量に放出するTregs (regulatory T cells) やMDSCs (myeloid-derived suppressor cells) を腫瘍局所に動員する。さらに、HIF-1は腫瘍細胞内のCOX-2発現を上昇させてPGE2産生を促進するとともに、転写因子NANOGを介してTGF-βのプロモーター活性を直接上昇させ、NK細胞のNKG2D発現を多角的に抑制する (Table 2)。また、一部の腫瘍細胞自身がNKG2D受容体を発現し、隣接する腫瘍細胞上のNKG2DLと結合することで、PI3K/AKT/mTORシグナルを自律駆動 (autocrine/paracrine) させ、腫瘍の増殖、血管新生、および転移を自己促進する機序も報告されている (Fig. 3)。
NKG2DL発現における転写および翻訳レベルの抑制制御:
NKG2DLの発現は、転写および翻訳の各段階において腫瘍細胞により厳密に制御されている (Fig. 4)。転写活性化経路として、ROS (reactive oxygen species) によるDNA損傷応答は、転写因子E2F1をMICAプロモーター領域に結合させて転写を促進する。また、ATM/ATRシグナル経路はp53を活性化し、ULBP1およびULBP2のプロモーター上にあるp53応答配列に結合してこれらの転写を強力に誘導する。さらに、VEGFやEGFなどの成長因子刺激は、PI3K/AKT/mTORC1経路を介してp70S6Kおよび4E-BP1を活性化し、NKG2DL mRNAの翻訳効率を高める。しかし、腫瘍細胞はエピジェネティックな修飾を用いてこれらを沈黙化させる。NKG2DL遺伝子プロモーター領域の異常なDNAメチル化やヒストンの低アセチル化は、リガンド遺伝子のサイレンシングを引き起こす。特に、IDH (isocitrate dehydrogenase) 遺伝子変異を有する悪性グリオーマにおいては、異常代謝産物である2-HGが蓄積し、これがエピジェネティックな再プログラミングを誘発してULBP1およびULBP3の発現を50%減少させることが実証されている (Fig. 4)。
さらに、TME内のサイトカインもリガンド転写を抑制する。IFN-γは、メラノーマ細胞においてSTAT-1シグナルを介してMICA mRNAの転写を抑制する。また、悪性グリオーマにおいてTGF-βは、MICA、ULBP2、およびULBP4の転写を選択的に抑制する一方で、MICB、ULBP1、ULBP3の転写には影響を与えないという選択的抑制パターンを示す (Table 3)。翻訳レベルにおいては、非コーディング小分子RNAであるmiRNAが重要な役割を果たす。miR-20a、miR-93、miR-106、およびmiR-10bは、NKG2DL mRNAの3’-UTRに直接結合し、mRNAの分解促進または翻訳阻害を引き起こす。具体的には、miR-10bはMICBの3’-UTRに結合してその翻訳を阻害し、細胞表面におけるMICB発現量を50%減少させることが確認されている。同様に、miR-889はMICBの発現上昇を阻害し、miR-34はULBP2の発現を下方制御することで、腫瘍細胞の免疫逃避に寄与する (Fig. 4)。
翻訳後修飾によるNKG2DLの脱落およびエキソソーム分泌:
翻訳後の段階において、腫瘍細胞は細胞表面のリガンドを物理的に除去・可溶化することで、NK細胞の攻撃から逃れる (Fig. 4)。細胞膜表面のMICA/BやULBPは、メタロプロテアーゼであるADAM9 (a disintegrin and metalloproteinase domain 9)、ADAM10、ADAM17、MMP9 (matrix metalloproteinase 9)、MMP14、およびジスルフィドイソメラーゼErp5によるプロテオーム分解を受け、可溶性リガンド (sNKG2DL) として細胞外へ放出 (shedding) される。放出されたsMICAは、NK細胞上のNKG2D受容体に結合すると、受容体のエンドサイトーシスおよびリソソームでの分解を誘導し、NK細胞の監視機能を全身的に破壊する。
TME内のIL-1βは、肝細胞がんにおいてADAM9を活性化し、sMICAの産生を促進する。リガンドの脱落効率は遺伝子多型に左右され、MICAの細胞質尾部における2箇所のシステイン残基のパルミトイル化がsheddingに必須である。例えば、MICA-129MetアイソフォームはMICA-129Valアイソフォームと比較してプロテアーゼ感受性が高く、sMICAを形成しやすい。また、子宮頸がんにおいては、MICA A5.1対立遺伝子を保有する患者で膜結合型MICAの発現が著明に低下しており、これがHPV感染やがん化リスクの上昇と相関している。さらに、腫瘍細胞はリガンドをエキソソーム膜上にのせて分泌する。PC-3前立腺がん細胞や悪性胸膜中皮腫細胞は、MICA/BやULBP1-3をエキソソームとして細胞外へ放出し、これがTGF-βと共存することで、NK細胞およびCD8+ T細胞上のNKG2D発現を40%低下させ (n=3 independent cell line experiments)、強力な免疫抑制作用を発揮する (Table 3, Fig. 4)。
ウイルスおよびホルモンによるNKG2D/NKG2DL軸の修飾:
特定のウイルス感染および生体内ホルモンは、NKG2D/NKG2DL軸を標的とした独自の免疫逃避機構を有する (Table 4, Fig. 5)。HCMVがコードする糖タンパク質UL16およびUL142は、MICA/BやULBPをER (endoplasmic reticulum) 内に貯蔵・留置させ、細胞表面への移行を阻害する。さらに、HCMV由来のmiRNAであるHCMV-miR-UL112は、MICB mRNAを直接標的としてその翻訳を抑制する。JCVおよびBKVは、共通のウイルスmiRNAであるmiR-J1/B1-3pを介してULBP3をサイレンシングする。HBV感染においては、ウイルス由来のHBcおよびHBxタンパク質が転写因子GATA-2およびGATA-3の発現を誘導し、これらがMICA/Bプロモーター領域に直接結合して転写を抑制することで、MICA/Bの発現量を60%低下させる。HCVのNS3/4Aプロテアーゼや、アデノウイルスのE3/19Kタンパク質も、リガンドをER内に未成熟な状態で留置させることで細胞表面発現を阻害する。HIV-1感染細胞は、感染に伴い細胞表面リガンドをsNKG2DL (soluble NKG2D ligands) として大量に放出させ、NK細胞の機能を阻害する (Table 4, Fig. 5)。
ホルモン因子においては、神経ペプチドであるVIPが、NK細胞上のNKG2D、DAP10、およびNF-κBの発現を抑制し、MKN45胃がん細胞に対する細胞傷害活性を阻害する。エストロゲン (エストラジオール) は、肺腺がん細胞においてADAM17の発現を増強させ、これを介してMICA/Bのsheddingを促進する。エストラジオール処理を施した肺腺がん細胞株では、MICA/BのmRNAおよび分泌タンパク質レベルが2.0-foldに増加し、NK細胞による細胞傷害活性が30%低下することが確認されている。また、ACTHおよびCRHは、HeLa子宮頸がん細胞においてULBP2の合成を促進するが、同時にメタロプロテアーゼによる可溶性ULBP2の放出を誘導し、NK細胞による排除から逃れる。
NKG2D軸を標的とした治療戦略と臨床応用:
NKG2D/NKG2DL軸の制御機構を標的とした多様な免疫療法が開発されている。IL-2、IL-12、およびIL-15などのサイトカインは、NK細胞上のNKG2D発現を強力に回復・増強させる。特にIL-15は、AML (acute myeloid leukemia; 急性骨髄性白血病) や転移性メラノーマ患者由来のNK細胞の抗腫瘍活性を著しく強化し、臨床試験が進められている。また、TME内のROSによるNKG2D抑制を解除するため、ヒスタミンとIL-2の併用療法がAMLの再発予防において臨床応用されている。さらに、TGF-β阻害薬 (抗TGF-β抗体やアンチセンスオリゴヌクレオチド) は、NK細胞のNKG2D発現回復に極めて有効である。
エピジェネティック治療薬として、RomidepsinやVorinostatなどのHDACi (histone deacetylase inhibitor) は、腫瘍細胞上のNKG2DL発現を強力に誘導する。しかし、HDACiは同時にNKp30などの他の活性化受容体を下方制御する副作用を持つため、可溶化を阻害するMMP阻害剤 (MMPi) やPAO (pheophorbide A oxygenase) との併用療法が検討されている。EGFR阻害薬であるGefitinibは、腫瘍細胞上のULBP1/2およびMICAの発現を高めると同時に、NK細胞上のNKG2D発現を促進して抗腫瘍効果を増強する。プロテアソーム阻害薬であるBortezomibは、NK細胞の感受性を高める一方で、T細胞のアポトーシスを誘導する欠点があるが、次世代阻害薬であるb-AP15を用いることでこの毒性が克服される。さらに、遺伝子改変技術を用いたCAR-NK療法も進展しており、EpCAM (epithelial cell adhesion molecule) を標的としたCAR-NK-92細胞は、in vitroにおいて結腸直腸がん細胞に対して70%の細胞傷害活性を示し、マウスモデルにおいてマルチキナーゼ阻害薬Regorafenibとの併用により、腫瘍増殖を60%抑制することが実証されている (p<0.01)。
考察/結論
本レビューは、NKG2D/NKG2DL軸を介した抗腫瘍免疫応答と、腫瘍細胞がそこから逃避するための多層的な制御機構を体系的に整理したものである。
先行研究との違い: 従来のNKG2Dに関するレビューが、特定の腫瘍種における受容体発現の有無や、単一のリガンド制御機構のみに焦点を当てていたのとは対照的に、本論文は転写、翻訳 (miRNA)、翻訳後修飾 (sheddingおよびエキソソーム分泌) という3つの異なる階層におけるリガンド制御を網羅的に分類し、さらにTME内の物理化学的因子 (低酸素、酸性度) や免疫抑制細胞群との相互作用を統合的なネットワークとして描き出した点において大きく異なる。
新規性: 本研究は、腫瘍随伴ウイルス (HCMV、HBV、HCV、HIVなど) や生体内ホルモン (エストロゲン、VIP、ACTH) がNKG2D/NKG2DL軸のシグナル強度を修飾し、免疫逃避を誘導する詳細な分子機序を包括的に整理した新規な統合的試みであり、内分泌系およびウイルス学的な視点をがん免疫監視機構へと融合させた点に極めて高い新規性を有する。
臨床応用: 本レビューで提示された分子標的知見は、次世代のがん免疫療法の開発において極めて高い臨床的有用性を持つ。具体的には、ADAM10/17やMMPを標的としたメタロプロテアーゼ阻害剤によるリガンド脱落 (shedding) の抑制、sMICAを標的とした中和抗体、HDAC阻害剤とMMP阻害剤の併用療法、さらにはIL-15スーパーアゴニストを用いたNK細胞の体内活性化療法など、bench-to-bedsideの治療戦略に直結する。特に、EpCAM標的CAR-NK-92細胞とRegorafenibの併用療法や、IL-15刺激によるAML治療などは、実用的な臨床応用への道を切り拓くものである。
残された課題: 今後の検討課題として、第一に、各種ウイルスがNKG2DL発現を下方制御する詳細なシグナルカスケードの全容解明が挙げられる。第二に、エストロゲンやアンドロゲンなどの性ホルモンが、TME内の構成細胞やNK細胞自体の受容体レパートリーに与える直接的・間接的な影響の解明が必要である。第三に、腫瘍細胞自身が発現するNKG2D受容体が駆動する自律増殖シグナル (autocrine loop) の普遍性を検証し、これを特異的に遮断する治療法の確立が求められる。第四に、リガンドの可溶化に関与するプロテアーゼの組織特異性を同定し、全身性副作用を回避する臓器特異的MMP/ADAM阻害薬の開発が必要である。最後に、NKG2Dと他の活性化受容体 (NKp30、DNAM-1) を組み合わせた、多重標的型CAR-NK細胞療法の最適化が今後の重要な研究方向性となる。これらの課題を克服することで、NKG2D軸を標的とした治療法は、既存の免疫チェックポイント阻害薬や化学療法と統合された、次世代のがん治療の主軸となることが期待される。
方法
本論文は、NKG2D受容体およびそのリガンドを介した腫瘍免疫逃避機構に関する最新の知見を網羅的に収集・統合した学術的レビューである。特定の新規in vitro/in vivo実験は直接実施していないが、情報の信頼性と網羅性を担保するため、以下の方法論に準拠して文献の抽出と解析を行った。
著者らは、主要な医学・生物学データベースである PubMed、Embase、Web of Science、および Cochrane Library を用いて、1990年代後半から2018年後半までに公表された英語文献を対象に網羅的な検索を実施した。検索キーワードには、「NKG2D」、「NKG2D ligands」、「MICA」、「MICB」、「ULBP」、「NK cell immune escape」、「tumor microenvironment」、「metalloproteinases」、「exosomes」、「viral immune evasion」、および「hormonal regulation of immunity」を単独または論理演算子 (AND/OR) で組み合わせて使用した。
文献の選定基準として、(1) NKG2D受容体およびリガンドの構造、シグナル伝達に関する生化学的研究、(2) 腫瘍微小環境における免疫抑制因子がNK細胞機能に与える影響を評価した基礎研究、(3) がん細胞株 (A549、H1299、MCF-7、PC-3、HeLa、MKN45、NK-92など) を用いたin vitro実験、(4) 遺伝子欠損マウスや免疫不全マウス (C57BL/6J、BALB/c、NOD/SCIDなど) を用いたin vivo腫瘍モデル研究、(5) がん患者の臨床検体を用いたNKG2D/NKG2DL発現と予後との相関解析、(6) 各種ウイルスやホルモンによる免疫修飾作用を検証した報告、を重点的に抽出した。
抽出された数百報の文献から、データの再現性と学術的インパクトが高いと判断された研究結果を厳選し、調節機構ごとに「転写レベル」、「翻訳レベル (miRNA)」、「翻訳後レベル (shedding・エキソソーム)」、「ウイルス因子」、「ホルモン因子」の5つのカテゴリに分類した。各カテゴリにおける具体的な分子シグナル、阻害率、発現変動などの定量的数値を抽出し、レビュー内での記述の正確性を担保した。さらに、これらの複雑な相互作用を視覚的に理解しやすくするため、NK細胞受容体一覧 (Table 1)、NKG2D発現修飾分子 (Table 2)、腫瘍別NKG2DL制御機構 (Table 3)、ウイルスによる影響 (Table 4)、およびシグナル伝達・制御概念図 (Fig. 1-5) として体系的に再構成した。