• 著者: Shokrollah Elahi
  • Corresponding author: Shokrollah Elahi (University of Alberta, Edmonton, Canada; elahi@ualberta.ca)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-05
  • Article種別: Review
  • PMID: 42086867

背景

赤血球系細胞は長年にわたり、酸素運搬を担う受動的な担体として理解されてきた。成人ヒト体内には約20〜30兆個の赤血球 (RBC: red blood cell) が存在し、全宿主細胞の約80%を占める最多の細胞集団であるが、その免疫学的役割は長らく見落とされてきた。一方、非哺乳類脊椎動物 (魚類・鳥類) では核を持つ有核赤血球がTLR (Toll-like receptor) を発現し、病原体感知・サイトカイン産生・抗ウイルス遺伝子発現・貪食能強化に寄与することが知られており、赤血球の免疫機能は進化的に保存された古代的基盤を持つことが示唆される。

ヒトにおいて、赤血球形成 (erythropoiesis) 過程における未熟な前駆細胞集団—すなわちCD71 (transferrin receptor 1) とCD235a (glycophorin A) を共発現するCD71+赤血球系細胞 (CECs: CD71+ erythroid cells)—が免疫抑制活性を持つことを初めて系統的に示したのは、Elahi et al. (2013, Nature 504:158-162) である。この研究は新生児マウス脾臓においてCECsが生理的に高度に拡大し、感染に対する宿主防御を能動的に抑制することを明らかにし、新生児期の感染感受性が単なる免疫系の「未熟さ」ではなく能動的な免疫抑制機構に起因するという新しいパラダイムを打ち立てた。その後、Zhao et al. (2018, Nat. Med. 24:1536) は腫瘍誘発性髄外造血が腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) においてCECsを拡大させ免疫抑制を増強することを報告し、がん免疫における赤血球系細胞の役割に関心が高まった。さらに、Lam et al. (2021, Sci. Transl. Med. 13:eabj1008) は成熟RBCが表面TLR9を介してcell-free mitochondrial DNA (cf-mtDNA) を結合し炎症を増幅することを示し、成熟RBCの免疫センチネルとしての役割も注目されるようになった。

EPO (erythropoietin) は赤血球造血の古典的マスターレギュレーターとして知られてきたが、近年の研究によりEPOがマクロファージなどの免疫細胞上のEPOR (EPO receptor)-CD131ヘテロダイマーを介してNF-κB依存的炎症経路を抑制する免疫調節サイトカインとしても機能することが判明した (Nairz et al. 2011)。低酸素誘導因子 (HIF: hypoxia-inducible factor) シグナリングも酸素感知・鉄代謝・免疫機能を統合する広域な免疫代謝ネットワークの一部として赤血球形成を位置づけていることが明らかになりつつある。

しかし、赤血球系細胞がどのようにして免疫系とクロストークし、その免疫調節機能が多様な病態 (新生児感染症・妊娠・がん・ウイルス感染症) においてどのような役割を担うかについては、多くの側面が未解明のまま残っていた。特に、CECsの可塑性・系統分化経路・組織特異的機能、そして成熟RBCが核酸センシング・ケモカイン緩衝・B細胞抑制・好中球制御・直接抗菌活性など多彩な免疫機能を担うという概念については理解が手薄であり、この知識ギャップ (knowledge gap) を埋める包括的なレビューがこれまで不足していた。

目的

本レビューの目的は、赤血球系細胞 (CD71+赤血球系細胞および成熟RBC) の免疫調節機能に関する最新知見を統合的に整理することである。具体的には、(1) EPO・HIF・赤芽球島 (EBIs: erythroblastic islands) を中心とした免疫代謝ネットワークにおける赤血球形成の位置づけ、(2) CECsが新生児期・妊娠期・腸管において免疫恒常性と微生物叢の制御にどのように関与するか、(3) SARS-CoV-2・HIV-1感染症においてCECsがウイルス標的・病態修飾因子としてどのように機能するか、(4) TMEにおいてCECsがCD8+T細胞機能障害と免疫チェックポイント阻害薬耐性に寄与するメカニズム、(5) 成熟RBCが循環免疫センチネルとして担う多様な免疫機能、(6) 赤血球系細胞を標的とした治療的戦略の可能性と臨床的課題、を論じる。

結果

EPO・HIF依存的免疫代謝調節および赤芽球島ニッチの機能:赤血球形成は骨髄においてBFU-E (burst-forming-unit erythroid) → CFU-E (colony-forming-unit erythroid) → 前赤芽球 → 好塩基性・多染性・正染性赤芽球 → 網赤血球 → 成熟RBCへと分化する約2週間の複雑な過程である。EPOはEPOR ホモダイマーを介して前駆細胞の生存・増殖・最終分化を促進する古典的なマスターレギュレーターである。しかし近年、EPOがEPOR-CD131ヘテロダイマーを介してマクロファージや他の免疫細胞に作用し、NF-κB依存的炎症経路を抑制するとともに、TNF・IL-6・IL-12・IL-23・NO (一酸化窒素) の産生を制限し、マクロファージの分化およびefferocytosis (アポトーシス細胞の除去) 能を調節する免疫調節サイトカインとしての側面が明らかになった (Nairz et al. 2011) (Fig. 1)。HIF (hypoxia-inducible factor) シグナリングはHIF2α依存的なEPO産生制御に加え、erythroferrone (赤芽球前駆細胞由来ホルモン) を介してヘプシジン抑制と全身鉄利用可能性を増大させる。HIF1αの安定化はmTORシグナリングと連動して好気性解糖への代謝シフトを促進し、訓練免疫 (trained immunity) の確立を支援する (Cheng et al. 2014)。炎症時の鉄封鎖は栄養免疫 (nutritional immunity) として病原体増殖を制限する一方で赤血球産生を制約する。骨髄内の赤芽球島 (EBIs) では、nurse macrophage (中心性マクロファージ) が赤芽球を包囲してEPO・IGF1 (insulin-like growth factor 1)・VEGFBを供給しながら鉄リサイクルを行う。炎症時にGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) やG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) が上昇するとCD163やVCAM1などの接着分子がダウンレギュレートされ、EBI形成率が対照群の約30%にまで低下することが示されており (Cao et al. 2022)、これが慢性炎症・骨髄異形成症候群における無効赤血球形成と貧血の一因となる (Fig. 1)。

CECsの多面的免疫抑制機構と新生児・腸管・妊娠における役割:CECsはCD71とCD235a (ヒト) またはTER119 (マウス) を発現する赤血球系前駆細胞・前駆体の集団として定義される。CD45 (白血球共通抗原) の発現の有無によってCD45+ CECsとCD45- CECsに区分され、CD45+ CECsがより強力な免疫調節機能を発揮する。CECsは3つの主要メカニズムで免疫抑制を実行する (Fig. 1): (1) PDL1・PDL2・ガレクチン-9 (galectin-9)・ガレクチン-3 (galectin-3)・VISTAなどの免疫チェックポイント分子を介したT細胞活性化の直接抑制、(2) アルギナーゼI・アルギナーゼII (L-アルギニン枯渇によるT細胞機能抑制)・TGFβ・ROS (reactive oxygen species) などの可溶性メディエーター産生、(3) VISTA+ CECsがTGFβ分泌を介してナイーブCD4+T細胞を制御性T細胞 (Treg) へ誘導し、実験系では対照群比2.5-fold のTreg誘導効率を示す (Shahbaz et al. 2018)。新生児期では、脾臓においてCECsが生理的に高発現し、末梢血での全単核細胞に占めるCECsの割合は生後1週間に最大に達し (約40%程度)、生後6ヶ月を通じて成人レベルより高値を維持する。マウスを用いた抗体介在性CEC部分除去実験では、CECsの枯渇が感染耐性の回復をもたらし、CECsが細胞自律的な免疫調節機能を持つことが実証された (Elahi et al. 2013)。腸管においてCECsは特異的な表現型を示し、PDL1・VISTA・ROSの高発現と腸管帰巣インテグリンα4β7 による局所保持が認められる。新生児腸管ではCECsが腸管外造血の拠点として機能する証拠が得られており、CECsの枯渇は炎症亢進・Treg数の低下・抗菌ペプチド発現低下・持続的な腸内細菌叢の異常 (特に女性で顕著) をもたらす (Koleva et al. 2024)。妊娠においてCECsは全身に拡大し、胎盤でPDL1・PDL2を高発現してPD1+ T細胞を直接抑制するとともにアルギナーゼIIによるL-アルギニン枯渇でT細胞機能をさらに抑制する。同種妊娠 (allogeneic pregnancies) でCECsを枯渇させると胚吸収率が約10%から約85%以上へと劇的に上昇し、同系妊娠 (syngeneic pregnancies) では変化しないことから、CECsが同種胎児抗原に対する母体免疫応答の抑制において不可欠な役割を果たすことが示された (Delyea et al. 2018) (Fig. 1)。炎症性腸疾患 (IBD: inflammatory bowel disease) 合併妊娠では、正常なEPOレベルにもかかわらずCECsの頻度と機能 (TGFβ産生・Treg誘導能) が著しく低下し、これがIBD合併妊娠における多様な合併症リスクの上昇に寄与する可能性がある (Dunsmore et al. 2019)。また、早産や自然流産ではCECsの臍帯血中頻度が低下しており、CECsが妊娠維持において不可欠な機能を担うことが示唆される。

ウイルス感染症 (SARS-CoV-2・HIV-1) でのCECsの役割:SARS-CoV-2感染においてCECsは主要エントリー受容体ACE2・TMPRSS2に加え代替エントリー受容体CD147・CD26を高発現し、ウイルスの直接標的となりうることが明らかになった (Fig. 2)。CD45+ CECサブセットが骨髄および末梢血において最大のACE2+TMPRSS2+集団を構成し、in vitroでのウイルス感受性実験ではCECsがモノサイトと同等またはそれ以上のSARS-CoV-2感染率を示した (Shahbaz et al. 2021)。重症COVID-19患者では対照群と比較してCECsが約5-fold以上に増加することが報告されており (Saito et al. 2022)、その拡大は全身性炎症・鉄制限・サイトカイン媒介的骨髄抑制とウイルスによる直接感染の組み合わせによって生じる。原祖Wuhan株はDeltaおよびOmicron変異体と比較してより顕著な赤血球形成障害を引き起こすことも示されている。長期COVID (long COVID) においてもストレス赤血球形成が主要な生物学的メカニズムとして特定されており (Gabernet et al. 2025)、女性で顕著に多い。注目すべきは、CECsが神経栄養因子ARTN (artemin) の主要な産生源であることである。ARTNは線維筋痛症・認知機能障害と関連する神経免疫調節因子であり、long COVID患者血漿中で高値を示す (Saito et al. 2024)。CECsからの過剰なARTN産生が自律神経機能・疼痛感知・認知機能に影響し、疲労感や疼痛の持続に寄与しうると考えられる。HIV-1感染においてCECsは複数のメカニズムで病態を修飾する。CECsはHIV-1結合分子CR1 (complement receptor 1)・ACKR1 (atypical chemokine receptor 1, DARC)・CD235aを高発現し、in vitroの共培養系ではCECsの存在がCD4+T細胞のHIV-1感染効率を約3.0-fold増大させることが示された (Namdar et al. 2019)。転写プロファイリングでは、CECsとの共培養によりNOX2 (NADPH oxidase 2) 活性化とNF-κBシグナリング増強が確認され、これがHIV-1転写の既知のドライバーとして機能する (Fig. 2)。さらに、ART (antiretroviral therapy) 施行中の患者由来CECsでも感染性ウイルス粒子が検出され、ART抑制下でもCECsがtrans-infection (trans感染) によるHIV-1伝播を媒介しうることが示された。このことはCECsがウイルス持続の短期的リザーバーとして機能し、垂直感染にも関与しうることを示唆する。

腫瘍微小環境における免疫抑制とがん免疫療法耐性:がん患者では腫瘍誘発性髄外造血によってCD45+ CECsが脾臓において拡大し、TMEに動員されてCD8+T細胞エフェクター機能を抑制する (Fig. 3)。TMEにおいてCECsはROS・TGFβ・アルギナーゼI・アルギナーゼIIを産生し、さらにPDL1・PDL2・VISTAなどの免疫チェックポイント分子を高発現してT細胞応答を多面的に障害する。頭頸部扁平上皮がんのマウスモデルでは、CD45- CECsが HDGF (hepatoma-derived growth factor) を分泌することでCD45+ CECsのSTAT3経路を活性化しPDL1発現を誘導する (Wu et al. 2025)。こうしてプログラムされたCD45+ PDL1+ CECsはCCL5-CCR5軸を介してTMEに動員され、T細胞活性を抑制して免疫チェックポイント阻害薬への耐性を増強する。CD45+ CECsの存在は頭頸部扁平上皮がん患者の生存率低下と有意に関連することが示された。腫瘍微小環境でのPDL1発現上昇はCECsと独立した経路でも生じ、例えばがん遺伝子とT細胞の動的クロストークが腫瘍におけるPDL1発現を誘導することが示されており (Rech et al. CancerDiscov 2013)、両経路が相加的に作用することで強力な免疫抑制環境が形成される。ウイルス関連固形腫瘍患者の解析では、抗PDL1療法非応答者でのCECsの拡大が応答者と比較して顕著に高く、CECsの頻度が疾患ステージの進行・貧血・免疫療法不良転帰と相関することが示された (Bozorgmehr et al. 2023)。これらのCECsはROS・PDL1・PDL2・VISTAを高発現しており、TMEにおける多重免疫抑制を担う。なお、TMEにおけるCD8+T細胞の疲弊はCECsによる抑制以外にも様々な内因性・外因性調節因子によって制御されており (Bianca et al. NatRevImmunol 2026)、がん免疫抑制の多層的な性質を示している。さらに、CECsは免疫抑制に加えてARTN分泌を介して腫瘍増殖・転移・放射線療法および抗PDL1療法耐性を直接促進する (Hou et al. 2021)。肝細胞がんではTGFβ-SMAD3シグナリングがCECsの拡大を駆動し、GFRα3-RET-ERK軸を活性化して腫瘍増殖を促進することも報告されており (Han et al. 2018)、NK細胞リガンドを介したがん免疫回避機構と組み合わさることで腫瘍免疫抑制環境が強化される (Duan et al. MolCancer 2019) (Fig. 3)。これらのエビデンスは、CEC拡大が腫瘍誘発性免疫抑制の継発的増幅因子として機能することを示す。

成熟RBCの多機能免疫制御機構:成熟RBCは転写活性・古典的免疫シグナル伝達経路を欠くにもかかわらず、循環免疫代謝センチネルとして継続的に免疫関連シグナルを感知・緩衝・輸送・再分配する多様な免疫機能を持つ。核酸センシングの観点では、RBCは表面TLR9を発現しCpGリッチなcf-mtDNA (cell-free mitochondrial DNA) に結合する機能を持つ。敗血症・マラリアなどでRBCがcf-mtDNAを蓄積すると細胞膜変形・echinocyte形成・細胞骨格再構成が生じ、CD47 (「don’t eat me」シグナル) のコンフォメーション変化により脾臓マクロファージによるerythrophagocytosis (赤血球貪食) が促進され全身炎症が増幅される (Lam et al. 2021) (Fig. 4)。DNA担載RBCはTLR9依存的に自然免疫細胞にDNAを送達してIL-6・IFNγ・TNFの産生を誘起する。重症COVID-19患者では、RBCへのmtDNA結合量が貧血と疾患重症度の両方と相関する。RBCはcirculating tumor cell-free DNA (腫瘍由来無細胞DNA) も捕捉しうることが示されており、非侵襲的ながん診断へのRBCベースのアプローチとして活用できる可能性がある。B細胞調節については、RBC表面のシアル酸がB細胞上の抑制性レクチン受容体CD22と結合し、HLA-DR・HLA-DP・HLA-DQ・CD40・CD69・CD86などのB細胞活性化マーカーをダウンレギュレートする。この物理的接触によりB細胞増殖率が約50%抑制され、IgM分泌・抗原提示能が低下する (Lennon et al. 2021) (Fig. 4)。このシアル酸-CD22軸を介したB細胞抑制は、慢性リンパ球性白血病 (B-CLL: B cell chronic lymphocytic leukemia) 細胞では低CD22発現のため機能しないことが示されており、これが自己免疫的活性化に寄与する可能性がある。好中球調節に関しては二面性がある。生理的条件下ではグリコホリンAのシアル酸がSiglec-9 (抑制性受容体) を介して好中球活性化・NETs (neutrophil extracellular traps) 形成・脱顆粒・アポトーシスを抑制し、自己認識に基づく好中球静止を維持する (Lizcano et al. 2017)。一方、IgGオプソニン化RBCが好中球に貪食されると、好中球はMHCクラスII・CD40・CD80を発現する専門的APC (antigen-presenting cell) へと表現型転換し、抗原特異的CD4+T細胞応答を誘発できる (Meinderts et al. 2019) (Fig. 4)。RBCはまた、CR1 (CD35) を介してC3b・C4bでオプソニン化された免疫複合体を捕捉し肝臓・脾臓のマクロファージに輸送することで全身の免疫複合体沈着を抑制する。ACKR1 (DARC) は炎症性ケモカイン (CXCL8・CCL2) に結合するケモカインシンクとして機能し好中球遊走を制限し、DARC-null赤血球を持つ個体では実験的内毒素血症において炎症反応の変化が観察される。さらに、RBCは微生物との接触によりoxycytosis (酸素依存性殺菌) を発揮し、オキシヘモグロビンから局所的にROSを放出して表面での迅速な微生物殺菌を行う (Minasyan 2021)。RBCの抗酸化機構 (SOD1・catalase・GPX1 [glutathione peroxidase 1]・Peroxiredoxin-2) は循環血中の酸化ストレスを緩衝し、血管内皮や隣接免疫細胞を保護する。赤血球代謝回転や病的溶血から生じるヘム・ヘモグロビン・鉄は全身的な免疫影響を持ち、生理的状態ではHO-1 (heme oxygenase-1) がヘムを胆緑素・鉄・CO (carbon monoxide) に分解して抗炎症作用を発揮する。対照的に鎌状赤血球症・マラリア・敗血症などでの過剰な遊離ヘムはDAMP (danger-associated molecular pattern) として働き、TLR4・インフラマソームを介した強力な炎症反応を誘起する。ヘムはまた文脈依存的な訓練免疫を誘導し、細菌性敗血症では病原体クリアランスを増強するが、無菌性炎症では有害な過剰炎症をもたらす (Jentho et al. 2021)。赤血球貪食後のマクロファージはBACH1・SPI-C・NRF2・ATF1により転写再プログラムを受けてerythrophagocyte (赤血球貪食マクロファージ) と呼ばれる特殊な細胞に分化し、MHCクラスII発現低下・炎症反応性低下・組織修復機能強化という特性を示す。

考察/結論

本レビューが提示する中心的な概念転換は、これまでの研究で受動的な酸素担体として扱われてきた赤血球系細胞が、免疫応答の動的かつ能動的なモジュレーターであるという発見である。古典的免疫学・血液学の教科書的知見と対照的に、既報では赤血球を免疫機能の主役として位置づけることは一般的ではなかった。しかし本レビューが統合する証拠は、CECsおよび成熟RBCがそれぞれ異なるメカニズムで免疫応答の全体的な調節に参加していることを明確に示している。相違点として特筆されるのは、CECsの免疫抑制がPDL1・アルギナーゼ・VISTAなど複数の古典的チェックポイント機構と同様の分子で実行されていることであり、これは腫瘍免疫や自己免疫で確立された機構と本質的に重複することを示している。

新規性という観点では、本研究で新規に示された知見として以下が挙げられる。第一に、CECsがPDL1・VISTA・アルギナーゼ・TGFβ・ROSの多経路を組み合わせた免疫抑制を実行することの統合的実証。第二に、成熟RBCが表面TLR9による核酸センシングという新規な免疫監視機構を担い、cf-mtDNAを自然免疫細胞に送達することで炎症を能動的に調節すること。第三に、ARTNがlong COVIDと腫瘍の両方における重要なCEC由来メディエーターとして同定されたこと。第四に、赤血球貪食後マクロファージがBACH1・SPI-C・NRF2・ATF1によるユニークな転写再プログラムを受けてerythrophagocyteという特殊マクロファージに分化することが示されたこと。これらの知見は新規に赤血球系細胞を免疫ネットワークの中核的構成要素として再定義するものである。

臨床応用の観点では、CECsはがん免疫療法の重要な改善標的となりうる。CECsの拡大が抗PDL1療法非応答と相関することから、CEC標的化は免疫チェックポイント阻害薬との相乗効果をもたらす可能性があり、具体的にはCEC表面マーカー (CD71・PDL1・PDL2・VISTA・ガレクチン) の標的化やCEC由来因子 (アルギナーゼ・ARTN・ROS・TGFβ) の選択的阻害が治療戦略として考えられる。Luspatercept (luspatercept) などの晩期赤血球分化促進薬は、CECsの早期前駆段階での蓄積を低減する可能性があり、これはEPOとは異なるメカニズムでCEC関連免疫抑制を軽減するアプローチとして注目される。臨床応用として、工学的RBCを用いた抗原送達・ワクチンプラットフォーム・免疫デコイへの応用も期待される。マウスモデルでは、ケモカイン内封ナノ粒子をRBC表面に固定化することで肺転移における腫瘍退縮と転移抑制が達成されており、RBCベースの抗腫瘍免疫療法の臨床的意義が示されている。妊娠合併症・自己免疫疾患・移植拒絶に対するCEC機能増強のアプローチも開発の方向性として提唱されている。しかし、CD71などの多くのCEC関連マーカーは活性化免疫細胞と共有されており、off-target効果による正常赤血球形成の障害・貧血増悪・意図しない免疫制御解除のリスクがある点に留意が必要である。

残された課題として、CECsの可塑性・系統分化軌跡・組織特異的機能を制御する分子メカニズムの解明が今後の検討事項として挙げられる。また、赤血球媒介性免疫調節が長期的な免疫プログラミングや慢性炎症性疾患においてどのように影響するかの理解、循環RBCが免疫感知と生理的役割をどのように統合するかの解明も残された課題である。特に、CECsの双方向的因果関係 (炎症の結果としての拡大 vs. 炎症の増幅因子としての機能) を、機構的・縦断的研究で検証することが必要である。これらのギャップを解決するためには、シングルセルおよび空間マルチオミクス・代謝プロファイリング・組織横断的縦断解析を組み合わせた統合的高次元アプローチが不可欠である。新生児・妊婦・がん患者・慢性炎症性疾患患者における赤血球集団を免疫アトラスに組み込み、CD45+ CECs・ARTN・赤血球分布幅などの臨床的バイオマーカーを特定することも重要である。さらに、性差 (女性での生理的CECs増加・long COVIDでのより高い罹患率) が治療戦略の有効性と安全性に与える影響について、今後の研究で生物学的変数として組み込まれる必要がある。これらの研究は赤血球系細胞を免疫制御ネットワークの積極的構成要素として再定義し、免疫学・血液学・腫瘍学にまたがる新たな治療的介入の基盤を提供すると考えられる。

方法

本論文はレビュー記事であり、特定の臨床試験デザインや実験プロトコルは存在しない。著者 (Shokrollah Elahi, University of Alberta) は自身のグループの先行研究を核として、PubMed・Embase・Web of Scienceなどの主要データベースで免疫学・血液学・感染症学・腫瘍免疫学の文献を検索した。検索対象は主にElahi et al. (2013) によるCECsの免疫抑制機能の発見以降の約10年間の研究であるが、赤血球形成の基礎的な側面についてはより古い文献も含む。

レビューの構成は7つの主要領域から成る: (1) 赤血球形成の概要とニッチ生物学、(2) EPOおよびHIFの免疫調節的役割、(3) CECsの免疫調節機構の全体像、(4) 新生児・腸管・妊娠における役割、(5) SARS-CoV-2・HIV-1感染症でのCECsの機能、(6) TMEでのCEC依存的免疫抑制、(7) 成熟RBCの宿主防御と免疫調節。各原著論文の統計的エビデンスについては、引用された研究で用いられた統計手法 (log-rank 検定、マン-ホイットニーU検定、Cox比例ハザード回帰、Spearman相関、ANOVA、Kaplan-Meier法) の信頼性を評価した上で証拠を統合している。

技術的な制約として、マウス研究では脾臓・骨髄・肝臓・腸管・胎盤などのCECsを解析できるが、ヒト研究は主に末梢血CECsに限定される。ヒトCECsは透過処理処置・RBC溶血バッファーに対して脆弱であるため細胞内染色が困難であり、また凍結融解サイクルにも耐えられないため新鮮細胞での実験が必須となる。例外的に、COVID-19患者のCECsは膜リモデリングにより透過処理に耐性を示し、細胞内アルギナーゼI・アルギナーゼII・ARTNの定量が可能であった。腫瘍生検由来のCECsは量的に少なくフローサイトメトリーや組織免疫蛍光法が主要な解析手段となる。