• 著者: Tadahiro Honda, Miki Ando, Jun Ando, Midori Ishii, Yumi Sakiyama, Kazuo Ohara, Tokuko Toyota, Manami Ohtaka, Ayako Masuda, Yasuhisa Terao, Mahito Nakanishi, Hiromitsu Nakauchi, Norio Komatsu
  • Corresponding author: Miki Ando (順天堂大学医学部血液内科); Hiromitsu Nakauchi (Stanford University School of Medicine)
  • 雑誌: Molecular Therapy
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-07-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32710827

背景

ヒトパピローマウイルス (human papillomavirus、HPV) は子宮頸癌、口腔咽頭癌、その他性器癌の主要な原因ウイルスである。170種以上のHPV遺伝型が存在し、high-risk型のHPV16 (human papillomavirus type 16) およびHPV18 (human papillomavirus type 18) が子宮頸癌症例の70%以上に関与する。転移性子宮頸癌は化学療法に高度耐性で予後は極めて不良であり、新規治療法の開発が喫緊の課題とされてきた。予防的HPVワクチンは感染予防に有効だが、既発生の癌には無効であり、また妊孕性温存を望む初期癌患者への子宮温存療法も限界がある。

養子T細胞療法 (adoptive T cell therapy、ACT) はメラノーマ等の一部腫瘍で持続的寛解を誘導し得るが、固形腫瘍では腫瘍微小環境の免疫抑制およびT細胞exhaustion (疲弊) が持続的効果の大きな障壁となっている (Wherry et al. NatImmunol 2011)。HPV16 E6/E7はがん化に寄与する腫瘍蛋白として子宮頸癌細胞に恒常的に発現し、健常組織には存在しないため理想的なT細胞療法の標的と考えられており、TCR遺伝子改変T細胞を用いたHPV16 E6/E7標的の臨床試験で奏効例も報告されている。しかし、ex vivoで拡大したT細胞は持続的増殖能が低く、腫瘍への曝露が続くと疲弊を来すという根本的な問題が未解決であった。

人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell、iPSC) 技術を用いてウイルス特異的細胞傷害性T細胞 (CTL) を再プログラム化し再分化させた「rejuvenated T cell (rejT)」は、テロメア長が延長し増殖能が高く、central memory T細胞として長期in vivo生存が可能であることが先行研究で実証された (Nishimura et al. CellStemCell 2013)。EBV (Epstein-Barr virus) 特異的rejTはin vivoで6ヶ月以上持続しEBV関連リンパ腫の持続的根絶を達成することも報告されている (Ando et al. Haematologica 2020)。しかし固形腫瘍—特に子宮頸癌のようなHPV関連上皮性腫瘍—に対するiPSC由来rejTの有効性はこれまで手薄であり、また従来のCTLクローンからのT-iPSC樹立にはSV40 (simian virus 40) large T抗原の共導入が不可欠とされていたため、臨床応用への安全性確立においてgap in knowledgeが存在していた。SV40 large T抗原はp53を不活化しゲノム不安定性・腫瘍化リスクを生じるため、臨床グレード細胞製品への使用は回避が望まれていた。

目的

本研究は以下を目的とした: (1) SV40 large T抗原を用いないOSKM (OCT4, SOX2, KLF4, MYC) +NANOG (NANOG homeobox) +LIN28の6因子Sendaiウイルス (SeV) ベクターによってHPV16 E6/E7特異的CTLクローンからより安全にT-iPSCを樹立する手法を確立すること、(2) 樹立T-iPSCからHPV16特異的rejTへの効率的再分化を実証すること、(3) rejTの子宮頸癌に対するin vitroおよびin vivoでの抗腫瘍効果を原末梢血CTLと定量的に比較評価すること。

結果

HPV16特異的CTLの樹立と抗原純度の確認:健常ドナー (no. 3、HLA-A2402) のPBMCへのE6ペプチドパルス後、HPV16 E6₄₉₋₅₇ tetramer+細胞はわずか0.0018%であったが、tetramer+細胞のbulk培養により2.46%まで濃縮し、その後の単細胞クローニングによりE6特異的CTLクローンを確立した (Figure 1C)。繰り返しFACS選別によって98.7%の抗原特異性を有するbulk HPV16 E6-CTLsも樹立した (Figure 1D)。HLA-A0201保有健常ドナー (no. 4) ではE7₁₁₋₁₉ tetramer+CTLが0.007%で同定され、繰り返し選別により97.7%抗原特異性のbulk HPV16 E7-CTLsを得た (Figure 1F)。一方、進行期子宮頸癌患者2名ではE6-CTL誘導に失敗し、疾患進行例ではT細胞の機能的疲弊によりHPV特異的CTLが検出不能であることが示された。この知見は、自己細胞リソースに依存するACTの限界を示すものである。

SV40非依存的6因子SeVによるT-iPSC樹立とSeV完全クリアランス:HPV16 E6-CTLクローンへの6因子-SeV導入により、SV40 large T抗原なしでのT-iPSCの樹立に成功した。計4系統のT-iPSC (E6クローン由来でのCon-SeV系統および6因子-SeV系統各1株、bulk E6-CTLs由来1株、bulk E7-CTLs由来1株) を確立した (Figure 1G)。6因子-T-iPSCにおけるSeV残存量は、passage 0で0.0000089 (positive control比)、passage 1で0.0000006と急速に低下し、passage 2では定量的PCRでの完全クリアランスが確認された (Figure 2B)。これに対しCon-T-iPSCはpassage 2においてもSeV NP抗原が蛍光免疫染色で陽性のままであった (Figure 2A)。TaqMan hPSC Scorecardによる多能性評価では、6因子-T-iPSCのself-renewal遺伝子発現はCon-T-iPSCと同等以上であり (Figure 2C)、三胚葉分化能解析においては造血に重要な中胚葉分化能が6因子-T-iPSCで優位に上方調節されていた (Figure 2D-E)。

HPV-rejT再分化効率と単細胞クローニングの重要性:T-iPSCから確立プロトコルで再分化したHPV16 E6-rejTsは、Con-HPV-rejTsで93.5%、6因子-HPV-rejTsで93.0%のE6₄₉₋₅₇ tetramer陽性率を維持し、原CTLクローンと同等の高い抗原特異性を保持していた (Figure 3A)。しかしbulk HPV16 E6-CTLsから樹立したT-iPSC由来rejTsのtetramer陽性率はわずか17.5%と著しく低下した (Figure 3A right)。これはbulk CTL集団に混在する少数の非特異的CTLが再プログラム化・再分化後に非特異的rejTs集団を形成するためと解釈された。HPV16 E7系統ではE711₋₁₉ tetramer陽性率がbulk由来の5系統間で1.11%から99.9%と大きくばらつき (Figure 4A)、高い抗原特異性を持つrejTを確実に得るには単細胞クローニングが不可欠であることが示された。

in vitro細胞傷害活性の比較:HPV-rejTsは迅速かつ持続的な腫瘍殺傷能で原CTLを凌駕:51Cr放出アッセイにおいて (n=3 independent experiments; mean ± SD)、HPV16 E6-rejTsはHLA-A24+/HPV16+子宮頸癌細胞株SKG-IIIaに対しE:T比10:1で75.6%、E:T比5:1で59.5%の特異的細胞傷害活性を示し、HPV16陰性コントロール細胞に対する非特異的殺傷 (11.7%、17.5%) と明確に区別された (Figure 3B)。CFSE増殖アッセイでは (n=3 independent experiments)、TCR刺激7日後の増殖細胞割合がHPV16 E6-rejTsで72.2%、原HPV16 E6-CTLsで40.9%と約1.8-fold高値を示し、rejTsの顕著な増殖優位性が示された (Figure 3C)。表現型解析では、rejTsが幹細胞記憶型 (T stem cell memory、TSCM) 様の表現型 (CD45RA+CD62L+: rejTs 42.7% vs CTLs 11.4%; CD95+CD27+CD28+: rejTs 41.3% vs CTLs 11.4%) を示したのに対し、原CTLsはeffector T細胞優勢であった (Figure 3D)。RTCAによるリアルタイム細胞傷害解析では、HPV16 E6-rejTsは共培養開始5時間で86.6%の殺傷率を示し、原CTLsの34.1%を有意に上回った (p<0.0001)。その後rejTsの殺傷率は10時間以内に>90%に達し85時間の実験終了まで96.6%を維持した。一方、原CTLsは30時間で最大82.4%に達したが腫瘍増殖が抗腫瘍活性を上回り、85時間では42.4%まで低下した (p=0.0007 vs rejTs) (Figure 3E)。Con-HPV-rejTsと6因子-HPV-rejTsの間には抗腫瘍活性の差は見られず、両系統ともに10時間以内に腫瘍増殖を完全抑制し75時間以上にわたって効果を持続した (Figure 3F)。HPV16 E7-rejTsでもCaSki細胞に対してRTCA 85時間で96.8%の殺傷率を示し、bulk HPV16 E7-CTLsの81.6%を有意に上回った (p=0.0218) (Figure 4B)。

in vivo抗腫瘍効果と生存延長:持続的腫瘍抑制と統計的に有意な生存改善を達成:NOGマウスへのGFP/FFluc発現SiHa細胞腹腔内移植後3日目から治療を開始した。無治療群 (n=7) では腫瘍生物発光シグナルが経時的に急速に増加した。HPV16 E6-rejT投与群 (n=6) は腫瘍増殖を強力に抑制し、原HPV-CTL投与群 (n=6) も21日目までは腫瘍抑制傾向を示したが、rejT群の方が明確な抗腫瘍効果を示した (Figure 4C)。day 21の腫瘍量は無治療群に対してHPV-rejTs群で有意に減少した (p=0.0249、one-way ANOVA) (Figure 4D)。長期生存観察では、HPV-rejTs群は原HPV-CTLs群に対しlog-rank testで有意な生存延長を達成し (p=0.0309)、無治療群に対してもp=0.0073で有意な生存改善を示した (Figure 4E)。ゲノム安全性評価として実施したCGHマイクロアレイ解析では、原HPV16 E6-CTLクローン vs Con-T-iPSCs、Con-T-iPSCs vs Con-HPV-rejTs、原CTL vs 6因子-T-iPSCs、6因子-T-iPSCs vs 6因子-HPV-rejTsの全4比較において、癌遺伝子/腫瘍抑制遺伝子の欠失・増幅・染色体異数性は一切検出されなかった (Figure 4F)。

考察/結論

本研究はiPSC技術を用いてHPV16 E6/E7特異的CTLから6因子Sendaiウイルスベクター (OSKM+NANOG+LIN28) によりSV40非依存的にT-iPSCを樹立することに成功し、その再分化rejuvenated T細胞が子宮頸癌に対してin vitro・in vivoで原末梢血CTLを有意に上回る持続的抗腫瘍効果を発揮することを実証した。

これまでの研究ではCTLクローンからのT-iPSC樹立にSV40 large T抗原の共導入が不可欠とされていたが、これと異なり、本研究では6因子-SeVが単一ベクターに全リプログラミング因子を内包し定比率で同時発現させることで、SV40なしでの効率的T-iPSC樹立を達成した。6因子-SeVはmicroRNAによってSeV自身を消去するよう設計されており、passage 2での完全SeVクリアランスが確認されたことで、SV40関連ゲノム不安定性リスクの根本的排除が実現した点は新規の知見である。Con-SeVと比較してSeV持続発現が抑制されているため、想定外の細胞形質転換や挿入変異誘発のリスクも最小化される。本研究で初めて、固形腫瘍 (子宮頸癌) に対してiPSC由来HPV特異的rejTがin vivoで持続的腫瘍抑制と生存延長を達成することが示された。RTCAで観察された長期持続的なin vitro細胞傷害性がin vivo抗腫瘍効果と相関することは先行研究でも支持されており (Hegde et al. JClinInvest 2016)、本研究のin vivo生存延長結果と一致する。

本研究の臨床的意義は複数ある。第一に、転移性子宮頸癌という予後不良疾患に対し、off-the-shelf型細胞免疫療法として機能するiPSCバンク戦略の実現可能性を示した臨床応用上の重要な基盤データを提供している。第二に、重篤なT細胞疲弊を来している子宮頸癌患者自身のCTLに頼らず、HLAマッチした健常ドナーiPSCをバンク化した同種移植ベースのclinical translationへの道を開いた。実際に本研究では子宮頸癌患者2名でE6-CTL誘導に失敗しており、自己細胞療法の限界が裏付けられた。第三に、HPV関連頭頸部癌や肛門管癌など他のHPV関連上皮性腫瘍への応用可能性が示唆されており、bench-to-bedsideへの展開が期待される。

残された課題として、まず今後の検討において同種iPSC使用時の免疫拒絶および移植片対宿主病 (graft-versus-host disease、GvHD) リスクの克服が重要課題であり、HLA class I編集型ユニバーサルiPSCの開発がその現実的解決策として論じられている。次に、腫瘍微小環境における免疫抑制機構 (MHC class Iダウンレギュレーション、制御性T細胞・骨髄由来免疫抑制細胞) の克服がfuture researchとして位置づけられる。また、bulk E7-CTLsでは6因子-SeVによるT-iPSC樹立が困難であり単細胞クローニングが不可欠であることは、製造工程の複雑化と時間的コストというlimitationを示している。さらに、本研究のマウスモデルでは患者腫瘍の不均一性や免疫微小環境を完全には再現できないため、ヒト臨床試験への移行に向けた追加の安全性・有効性データの蓄積が必要である。以上の課題を克服することで、HPV16 E6/E7特異的rejT療法はHPV関連上皮性悪性腫瘍に対する新たな免疫療法として臨床的実装が期待される。

方法

ドナーとCTL誘導: 本研究はヘルシンキ宣言に則り順天堂大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。HLA-A2402保有の健常ドナーおよび子宮頸癌患者2名、ならびにHLA-A0201保有の健常ドナーから同意を得て末梢血を採取した。末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cell、PBMC) をHPV16 E6₄₉₋₅₇ペプチド (VYDFAFRDL) またはE7₁₁₋₁₉ペプチド (YMLDLQPET) でパルスした樹状細胞と共培養し、IL-4 (400 U/mL) およびIL-7 (10 ng/mL) 存在下でウイルス抗原特異的CTLの頻度を増加させた。day 16にHLA-A2402/E6₄₉₋₅₇テトラマーおよびHLA-A0201/E7₁₁₋₁₉テトラマーで抗原特異性を評価し、tetramer陽性細胞をlimiting dilutionによる単細胞クローニングまたは蛍光活性化細胞選別 (fluorescence-activated cell sorting、FACS) による繰り返しbulk選別で純化した。

T-iPSC樹立とSeVクリアランス評価: HPV16 E6-CTLクローンおよびbulk CTLに、(a) conventional-SeV (Con-SeV: OSKM 4因子+SV40 large T抗原) または (b) 6因子-SeV (OSKM+NANOG+LIN28、SV40非搭載) をmultiplicity of infection (MOI) =10で導入した。樹立T-iPSCについてSeV nucleocapsid protein (NP) 抗原の蛍光免疫染色 (Alexa Fluor 488標識、DAPI対比染色) および定量real-time PCRによるSeV残存量評価を実施した。多能性評価にはTaqMan hPSC Scorecardパネルを用いてself-renewal遺伝子および三胚葉分化関連遺伝子の発現を解析した。

T細胞再分化と機能評価: 確立された造血分化プロトコル (C3H10T1/2フィーダー細胞上でのiPSC sac形成→DL1/4発現C3H10T1/2フィーダー上でのT系統分化) に従いT-iPSCからHPV16 E6/E7特異的rejTを再分化した。in vitro細胞傷害評価として、51クロム (51Cr) 放出アッセイ (effector-to-target (E:T) 比10:1および5:1、6時間共培養)、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル (carboxyfluorescein succinimidyl ester、CFSE) 希釈法T細胞増殖アッセイ、xCELLigenceシステムによるリアルタイム細胞分析 (real-time cell analysis、RTCA) を実施した。標的細胞株はHPV16陽性子宮頸癌細胞株SKG-IIIa (HLA-A24+)、CaSki (HLA-A02+)、SiHa (HLA-A24+) を用い、HPV16陰性コントロールにNK-YS (HLA-A24+) を使用した。表面マーカー解析はBD FACSAria IIおよびBD LSRFortessaで実施し、FlowJo 10.5.3で解析した。in vivoモデルにはNOD/SCID/IL2Rγnull (NOG) マウス (6週齢メス) を使用し、GFP/ホタルルシフェラーゼ (FFluc) 発現SiHa細胞 (n=1×10^5 cells/mouse) を腹腔内移植後、IVISバイオルミネッセンスイメージングで腫瘍量を経時モニタリングした。移植3日後から無治療群 (n=7)、原HPV-CTL投与群 (n=6)、HPV-rejT投与群 (n=6) の3群に分け、2.5×10^6 cells/回を週1回計3回腹腔内投与し、IL-2 (1,000 U/mouse) を週5回腹腔内投与した。ゲノム安全性はAgilent SurePrint G3 human CGH (comparative genomic hybridization) マイクロアレイ (12,055プローブ、1,675の癌遺伝子/腫瘍抑制遺伝子収載) で評価した。統計解析はStudent’s t-test (両側) またはone-way ANOVAを使用し、生存解析はKaplan-Meierとlog-rank testingで比較した。p<0.05を統計的有意差とした。