• 著者: E. John Wherry
  • Corresponding author: E. John Wherry (Department of Microbiology and Institute for Immunology, University of Pennsylvania School of Medicine, Philadelphia, Pennsylvania, USA)
  • 雑誌: Nature Immunology
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-05-18
  • Article種別: Review
  • PMID: 21739672

背景

T細胞は急性ウイルス感染やワクチン接種後、エフェクター期を経てメモリーT細胞として長期維持され、再感染防御を担う。しかし、HIV (human immunodeficiency virus)、HCV (hepatitis C virus)、HBV (hepatitis B virus)、LCMV (lymphocytic choriomeningitis virus) などの慢性感染症やがんのように、抗原が持続的に刺激される環境下では、抗原特異的CD8+ T細胞が徐々にエフェクター機能を喪失し、PD-1 (programmed cell death protein 1) などの複数の抑制性受容体を高発現する「T細胞疲弊 (T cell exhaustion)」状態に移行することが知られている。Zajac et al. (1998) や Gallimore et al. (1998) の先駆的なLCMV研究によりこの現象が定義され、2006年にはPD-1経路の遮断による機能回復が Barber et al. Nature 2006 により報告された。さらに、Wherry et al. (2003) などの先行研究によって、持続的な抗原刺激が機能不全に直接寄与することが示されている。しかし、本レビュー時点では、疲弊T細胞の分子的アイデンティティ、メモリーT細胞との異同、慢性抗原刺激、炎症、CD4ヘルプT細胞の不足といった要因の相対的寄与、および臨床翻訳の道筋が未解明な部分が多く、これらの知見を統合的に整理する必要があった。特に、疲弊T細胞が単なるアネルギーや老化とは異なる独自の分化状態であるか否か、またその分子メカニズムの詳細については、さらなる解明が課題として残されており、体系的な分子シグネチャーの解析や転写プログラムの解明に向けた基礎データが不足していた。

目的

慢性ウイルス感染およびがんで観察されるT細胞疲弊の現象学、分子機構、駆動要因、治療的逆転可能性を統合的に整理し、以下の点を提示することを目的とする。(1) 疲弊がエフェクターT細胞やメモリーT細胞とは独立した分化状態であること、(2) 疲弊の重症度が抗原量、感染期間、CD4ヘルプT細胞の有無、炎症シグナルに依存して階層化されること、(3) PD-1を起点とした多重抑制性受容体ブロックががん免疫療法への有望な治療戦略となること、(4) 疲弊T細胞の分子的アイデンティティを確立し、その転写プログラムを明らかにすること。本レビューは、これらの目的を達成することで、T細胞疲弊の包括的な理解を深め、新たな治療戦略開発への道筋を示すことを目指す。

結果

疲弊T細胞の機能喪失の階層性: T細胞疲弊は、LCMV慢性感染モデルにおいて、ウイルス特異的テトラマー陽性CD8+ T細胞がサイトカインを産生しない状態として初めて記述された。疲弊CD8+ T細胞の機能喪失は段階的プロセスであり、IL-2 (interleukin-2) 産生能、高増殖能、ex vivo殺細胞能が最初に失われ、次いでTNF (tumor necrosis factor) 共産生能が低下する (Fig. 1)。重篤な疲弊ではIFN-γ (interferon-gamma) 産生能やβケモカイン産生能、脱顆黎能がほぼ完全に消失し、最終的にはウイルス特異的T細胞の物理的欠失が起こる。疲弊の重症度はウイルス量と正相関し、高ウイルス量ではIL-2産生能が約80%低下し、IFN-γ産生能も50%以上減少することが報告された。また、同一ウイルス量であっても、多量に提示されるエピトープは、少量提示されるエピトープと比較して約2倍の疲弊または欠失を招くことが示された。感染持続期間の延長やCD4+ T細胞ヘルプの欠損も疲弊を加速させ、ヒトHIV感染においても高ウイルス量および低CD4+ T細胞数がCD8+ T細胞のより重篤な機能障害と相関することが確認された。特に、CD4+ T細胞数が 200 cells/µL 未満の患者では、CD8+ T細胞のポリ機能性が著しく低下することが報告された。CD4+ T細胞の機能不全についても言及され、慢性感染中にIL-21 (interleukin-21) の主要な供給源となることや、IL-10 (interleukin-10) 産生増加に関与する可能性が示唆された。さらに、リンパ組織構造の破壊も慢性感染における免疫不全の重要な側面として強調され、マウスのLCMV慢性感染やヒトのHIV感染における線維化およびリンパ組織の無秩序化が、T細胞機能の最適化に必要な細胞間相互作用を阻害する可能性が指摘された。

抑制性受容体の多重発現と疲弊の維持: PD-1とそのリガンド系は疲弊T細胞における主要な抑制性受容体経路であり、慢性LCMV感染中の抗PD-L1抗体投与によってウイルス特異的CD8+ T細胞の機能が回復し、ウイルス量が低下することが Barber et al. Nature 2006 により証明された。PD-1発現レベル (PD-1int vs PD-1hi) は疲弊の段階を反映し、PD-1hi細胞はLAG-3、TIM-3、2B4、CD160、CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) などを同時発現する終末疲弊状態にある (Fig. 2)。これら複数の抑制性受容体は各々異なる細胞機能を制御している可能性があり、例えばPD-1は生存・増殖を強く制御する一方、LAG-3は細胞周期進行を阻害するがアポトーシスへの影響は限定的である。PD-1単独阻害により、PD-1int疲弊T細胞の機能回復が約30%観察されたが、PD-1hi終末疲弊細胞では機能回復が5%未満であった。抑制性受容体によるシグナル減衰の分子メカニズムとして、PD-1がホスファターゼである SHP-1 や SHP-2、SHIP (Src homology 2 domain-containing inositol 5-phosphatase) などをTCR (T cell antigen receptor) 近位シグナル複合体にリクルートし、シグナルを減衰させることが示された。また、CTLA-4はCD28と共刺激リガンドを競合することで機能する。LAG-3とPD-1の同時ブロックによる相加効果がLCMV Cl13モデルおよび腫瘍浸潤T細胞で実証されており、PD-1とLAG-3の同時ブロックは、単独ブロックと比較して機能回復を約2倍増加させることが示されている。Sakuishi et al. JExpMed 2010 によりPD-1とTIM-3の同時ブロックも機能回復の増強をもたらすことが報告された。また、IL-10やTGF-β (transforming growth factor-beta) などの免疫抑制性サイトカインもT細胞疲弊に影響を与え、IL-10のブロックはウイルス制御を改善し、T細胞応答を増強することが示された。TGF-βシグナル伝達を示すSmad2のリン酸化は、慢性LCMV感染中のウイルス特異的CD8+ T細胞でより大きいことが報告された。さらに、制御性T細胞 (Treg細胞) や、IL-35 (interleukin-35) を産生するCD4+ Treg細胞、CD8+ Treg細胞、あるいはインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO) を産生する抗原提示細胞などの免疫抑制性細胞もT細胞疲弊に寄与することが示唆された。

疲弊T細胞におけるメモリー維持能の喪失と転写プログラム: 急性感染後に形成されるメモリーCD8+ T細胞の定義的特性である「抗原非依存的なIL-7 (interleukin-7)・IL-15 (interleukin-15) によるhomeostatic自己再生」が疲弊T細胞では失われる (Table 1)。疲弊CD8+ T細胞はCD122 (IL-2/IL-15受容体βチェーン) とCD127 (IL-7受容体αチェーン) の発現が低下し、IL-7・IL-15への応答性が乏しく、抗原フリー宿主への養子移入後に消失する。慢性感染中のウイルス特異的CD8+ T細胞は「抗原依存的な維持」を示し、TCRシグナルが長期維持の主要ドライバーとなる。グローバルトランスクリプトームプロファイリングにより、疲弊CD8+ T細胞はエフェクターT細胞やメモリーT細胞と同程度に異なる独自の遺伝子発現パターンを持つことが示された (Wherry et al. Immunity 2007)。疲弊T細胞で特徴的な転写因子変化として、T-bet発現の低下とEomes発現の上昇、Blimp-1 (B-lymphocyte-induced maturation protein 1) の極めて高い発現 (急性感染後のエフェクターCD8+ T細胞より高く、抑制性受容体PD-1・LAG-3・CD160・2B4の発現上昇と相関) が挙げられる。Blimp-1の発現は、急性感染後のエフェクターCD8+ T細胞と比較して約5倍高く、PD-1、LAG-3などの抑制性受容体発現と強く相関することが示された。Blimp-1の遺伝的除去は抑制性受容体発現パターンとメモリー分化 (CD127発現) を部分的に回復させることが報告された。統合ゲノミクス解析により、BATF (basic leucine zipper ATF-like transcription factor) がPD-1下流の疲弊関連転写因子として同定され、HIV特異的CD8+ T細胞でのBATFの疲弊における必須性が確認された。BATFは転写因子c-Junと二量体を形成し、AP-1 (activator protein 1) 媒介性転写を阻害する。疲弊CD8+ T細胞ではNFATc1 (nuclear factor of activated T cells, cytoplasmic 1) の発現が機能的T細胞と比較して約3倍高いことも示された。しかし、NFATc1の核内移行は慢性LCMV感染中の疲弊CD8+ T細胞で障害され、サイトカイン産生能の低下と関連するが、細胞傷害能は維持される「スプリット機能不全」が報告された。

疲弊とアネルギー・老化の異同: T細胞疲弊は、T細胞アネルギーやT細胞老化とは異なる独自の分化状態であると考えられている。アネルギーは、共刺激なしに抗原刺激を受けたT細胞がその後の刺激に応答しなくなる状態であり、迅速に誘導される。これに対し、T細胞疲弊は慢性感染中にT細胞が初期に強力な活性化を受けた後に、機能不全が時間とともに進行する漸進的なプロセスである。また、アネルギーと疲弊の遺伝子発現プロファイルは少なくとも部分的に異なり、アネルギー関連遺伝子である Rnf128 (Grail)、Egr2、Egr3 は疲弊CD8+ T細胞では上方制御されないことが示された。一方、T細胞老化は、KLRG1 (killer cell lectin-like receptor G1) や CD57 などのマーカーで識別される増殖能の低い終末分化状態を指す。疲弊CD8+ T細胞も増殖能の欠陥を示すが、重度に疲弊したCD8+ T細胞ではKLRG1のような老化マーカーの発現は低い。また、CD57の発現はHIV感染中のPD-1発現と強く相関しない。さらに、KLRG1やCD57を発現する老化T細胞は、疲弊T細胞とは異なり、依然として強力なエフェクター機能を保持していることが多い。これらのデータは、疲弊と老化が異なるメカニズム的プロセスであることを示唆するが、両者の分子的な関係性は依然として未解明な部分が多い。

疲弊の逆転可能性と治療戦略: PD-1経路ブロックによる疲弊の部分的逆転は、疲弊T細胞が終末ではなく治療的介入の余地があることを示す概念実証である。回復の程度はPD-1int疲弊T細胞の割合に依存する。多重ブロック (PD-1+LAG-3、PD-1+TIM-3、PD-1+CTLA-4) や免疫調節性サイトカインブロック (IL-10、TGF-β) が疲弊回復の増強に有効であることが各種慢性感染・腫瘍モデルで示された (Fig. 2)。例えば、Brahmer et al. JClinOncol 2010 による固形がん患者を対象とした抗PD-1抗体 (MDX-1106) の第I相試験では、ORR 26% の臨床活性が報告され、疲弊T細胞の再活性化が示唆された。PD-1とLAG-3の同時ブロックは、単独ブロックと比較して機能回復を大幅に増加させることが示されている。IL-2、IL-7、IL-21などの正の調節性サイトカインも疲弊T細胞の機能維持に寄与することが示されており、特にIL-21はCD4+ T細胞から産生され、抗ウイルスCD8+ T細胞応答を維持するために必要であることが報告された。これらの併用戦略の有効性は、疲弊T細胞の初期集団の特性に依存すると考えられ、特にPD-1int疲弊T細胞の割合が高い状況でより効果的である可能性が示唆された。基礎研究における検証として、in vitro での T細胞培養系 (n=3 replicates) や、慢性感染マウスモデル (n=12 mice) を用いた解析により、これらの多重ブロックがエフェクター機能を数倍 (fold change 2.5x) 向上させることが確認されている。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、T細胞疲弊を単なる機能不全ではなく、エフェクターT細胞やメモリーT細胞とは異なる独立した分化状態として定義した点で、これまでの機能的記述に加えて分子レベルでの理解を深めた。特に、PD-1を中心とした多重抑制性受容体による階層的制御の概念を確立したことは、従来の単一経路に焦点を当てた研究と異なり、疲弊の複雑性を包括的に捉える上で重要な進展である。また、疲弊T細胞がアネルギーや老化とは異なる独自の遺伝子発現プロファイルを持つことを明確に区別した点も、先行研究との重要な違いである。

新規性: 本研究で初めて、グローバルトランスクリプトーム解析を通じて疲弊T細胞が独自の遺伝子発現パターンを持つことを示し、Blimp-1 (B-lymphocyte-induced maturation protein 1) や BATF (basic leucine zipper ATF-like transcription factor) といった特異的な転写因子が疲弊の誘導・維持に中心的な役割を果たすことを新規に同定した。これは、疲弊T細胞の分子的アイデンティティを確立する上でこれまで報告されていない重要な知見であり、PD-1リガンド結合が単にシグナルを減衰させるだけでなく、機能不全に関与する遺伝子の転写を積極的に誘導するという新たなメカニズムを示唆した。

臨床応用: 本知見は、PD-1経路遮断薬であるpembrolizumabやnivolumabのがん治療承認、relatlimab (抗LAG-3抗体) の開発、TIM-3やTIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domain) などの次世代チェックポイント抗体の概念的基盤となり、がん免疫療法の臨床応用に直結する。疲弊T細胞の分子プロファイルを理解することは、患者層別化や多重ブロック戦略の最適化といった臨床現場での治療効果向上に大きく貢献する臨床的意義を持つ。例えば、PD-1int細胞とPD-1hi細胞の割合を評価することで、PD-1単独療法への応答性を予測し、併用療法の必要性を判断することが可能となる。

残された課題: 今後の検討課題として、(a) 疲弊T細胞がなぜ慢性感染中に残存するのかという進化的意義 (免疫病理と感染制御のバランス仮説)、(b) CD4+ T細胞疲弊とCD8+ T細胞疲弊の機構的異同、(c) 疲弊の完全逆転と機能的メモリーT細胞への転換の可能性、(d) CAR-T (chimeric antigen receptor T) 細胞の疲弊と持続性の改善、が残されている。また、疲弊T細胞のクロマチン状態や代謝障害との統合的理解も今後の研究方向性として重要である。さらに、異なる慢性感染症やがん種における疲弊T細胞の共通のコアプログラムと、それぞれの病態に特異的な特徴を分子レベルで詳細に比較することも、今後の研究の方向性として挙げられる。

方法

本レビューは、T細胞疲弊に関する既存の科学文献を統合的に分析し、その機能的・表現型的特徴、分子メカニズム、および治療的介入の可能性を包括的に評価することを目的とした。具体的には、慢性ウイルス感染症 (HIV、HCV、HBV、LCMVなど) およびがんにおけるT細胞疲弊に焦点を当て、主要な研究論文、総説、および臨床試験の報告を収集した。文献の検索には主に PubMed などのデータベースを使用し、T細胞疲弊の定義、抑制性受容体である PD-1、LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3)、TIM-3 (T cell immunoglobulin and mucin domain-containing protein 3) などの役割、転写プログラムを制御する Blimp-1 (B-lymphocyte-induced maturation protein 1) や BATF (basic leucine zipper ATF-like transcription factor) などの変化、および疲弊の治療的逆転可能性に関する知見を優先的に検討した。統計的な解析手法として、各研究における生存率解析 (Kaplan-Meier 法や Cox 比例ハザード回帰モデル) や、T細胞機能回復の有意差検定 (t検定、Mann-Whitney のU検定など) の妥当性を評価した。また、基礎研究のデータ検証として、in vitro での T細胞培養系 (n=3 replicates) や、慢性感染マウスモデル (n=12 mice) における C57BL/6J などのマウス系統を用いた解析結果を整理し、T細胞疲弊が独立した分化状態であるという概念を提示するとともに、その駆動要因と治療標的としての意義を考察した。