• 著者: Nishimura T, Kaneko S, Kawana-Tachikawa A, Tajima Y, Goto H, Zhu D, Nakayama-Hosoya K, Iriguchi S, Uemura Y, Shimizu T, Takayama N, Yamada D, Nishimura K, Ohtaka M, Watanabe N, Takahashi S, Iwamoto A, Koseki H, Nakanishi M, Eto K, Nakauchi H
  • Corresponding author: Kaneko S (Kyoto University CiRA); Nakauchi H (The University of Tokyo)
  • 雑誌: Cell Stem Cell
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-01-03
  • Article種別: Original Article (基礎・前臨床)
  • PMID: 23290140

背景

養子免疫療法 (adoptive cell therapy, ACT) はがん・慢性ウイルス感染症 (HIV、CMV等) に対する有望な治療戦略であり、患者由来の抗原特異的T細胞をex vivoで増殖し再注入することで標的細胞を排除する設計である。しかし慢性的な抗原刺激下では、抗原特異的T細胞は疲弊 (exhaustion) 状態に陥り、エフェクター機能と長期生存能を喪失する (Wherry et al. NatImmunol 2011)。ex vivoでの大量増幅もテロメア短縮と機能喪失を促進し、最近のCAR-T細胞臨床試験 (Porter et al. NEnglJMed 2011)・TCR遺伝子改変T細胞療法 (Morgan et al. Science 2006) の効果限界の主要因となっている。Yamanaka因子による体細胞リプログラミング技術 (Takahashi 2007) で人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell, iPSC) を樹立できることが示されたが、抗原特異的なT細胞由来iPSC (T-iPSC) を樹立してテロメア・増殖能を「若返らせた」機能的CD8+ T細胞へ再分化させた前例はなかった。これまで未解明だった重要な課題として足りなかったのは、(1) 疲弊状態の終末分化CTLクローンを実際にiPSCに初期化できるかの実証、(2) 再分化過程でTCR遺伝子再配列 (CDR3配列を含む) が完全保存されるかの遺伝子レベル検証、(3) 再分化T細胞が真にrejuvenated (テロメア伸長 + 増殖能回復) で抗原特異的細胞傷害活性を保つかの機能評価、の三点であり、これらのギャップを埋めるべく本研究はHIV-1 Nef特異的CTLクローンをモデルとしてこれを世界で初めて体系的に検証する。

目的

HIV-1 Nef抗原ペプチド (aa138-145; RYPLTFGW) 特異的CD8+ CTLクローン (H25-#4) を多能性iPSCに初期化し、OP9-DL1 (Delta-like 1発現OP9細胞) 共培養とTCR一次刺激を介して再分化させることで、(1) 元のT細胞クローンと完全に同一のTCR遺伝子再配列を保持する、(2) テロメア再伸長と高い増殖能を示す、(3) 抗原特異的細胞傷害活性を保持する、機能的CD8+ T細胞 (rejuvenated T cell、reT) を作製可能であることを実証し、加えてCMV pp65、GAD、α-GalCer抗原特異的T細胞への応用可能性を示すこと。

結果

T-iPSCクローンの樹立と多能性確認:疲弊状態のHIV-1 Nef特異的CTLクローンH25-#4 (4×10^5 cells starting) を6種レトロウイルス導入で初期化する試みは失敗したが、SeV (Sendaiウイルス) ベクター2種 (SeVp[KOSM302L] + SeV18[T]) の併用と最適化により40日培養で7コロニーのESC様コロニーが得られ、全7コロニーがpicked upされT-iPSCクローンとして樹立された (Table 1)。同様にCMV pp65 polyclonal tetramer-sorted (5,000 cells starting) からは15コロニー、GAD monoclonal (5×10^5 cells) からは>100コロニー、α-GalCer FACS-sorted Vα24+ (5×10^5 cells) からは>100コロニーが樹立可能であった (n=4 antigen specificities)。代表クローンH254SeVT-3はAP活性陽性、SSEA-4・Tra-1-60・Tra-1-81陽性、HLA-A24陽性で、qPCR (n=3 wells、duplicate measurement) で多能性関連遺伝子発現がヒトESC (KhES3) と同等レベルを示した (Figure 1B-G)。SeV genomic RNAは初期化40日以降に温度感受性変異とRNAiにより完全除去された (Figure 1H)。OCT3/4 (76% methylated → unmethylated) およびNANOG プロモーター領域のbisulfite sequencing解析で低メチル化が確認 (Figure 1I)、NOD-Scidマウスtestis injectionで三胚葉 (gut-like epithelial、smooth muscle、retina pigmented epithelial) 由来テラトーマ形成も確認された (n=3 mice、Figure 2A)。

TCR遺伝子再配列の完全保存:H254SeVT-3のTCRB遺伝子再配列を3-tube multiplex PCR (Tubes A・B: Vβ-(D)Jβ assemblies; Tube C: D-Jβ assemblies) で解析し、single bandとしてmonoclonal origin (n=1 clone) を確認 (Figure 1J)。TCRA遺伝子も独自プライマーセットでV-Jα assemblyを単一バンドとして検出 (Figure 1K)。CDR3配列のSanger sequencingにより、H254SeVT-3 (T-iPSC) のCDR3配列はTCRAおよびTCRBの両座位でH25-#4オリジナルCTLクローンと completely identical (Table 2、Table S1) であった。in-frame junctionでstop codonを含まないproductive rearrangementであり、抗原特異性の設計図がT-iPSC状態でゲノムDNAに完全保存されていることが分子レベルで確認された。

再分化T細胞の生成と表現型評価:T-iPSCをC3H10T1/2フィーダー上でCD34+造血前駆細胞へ誘導 (day 14) 後、OP9-DL1上で21-28日培養しCD45+CD7+CD3+TCRαβ+ T lineage cellsを得た (Figure S4)。CD4/CD8 DN段階で一次刺激 (α-CD3/28 beads + PHA + IL-7/IL-15) を加えることでRAG1/RAG2発現を抑制し receptor revisionを回避、HLA-A24+ X線照射PBMCとの共培養後にCD8 SP細胞が出現 (Figure 2D-E)。再分化CD8+ T細胞 (reT-1、reT-2.1、reT-2.2、reT-3、計n=4 reT cell lines) はCD45+CD7+CD3+TCRαβ+CD8+CD56+表現型を示し、未熟胸腺マーカーCD1aは陰性、疲弊マーカーPD-1も陰性であった (Figure 2E)。サブセットの一部はCCR7+CD27+CD28+ central memory (TCM) 様表現型を示した (Figure 2F-G)。reT-1からreT-3全クローンでTCRA・TCRB mRNAのSanger sequencing配列がH25-#4オリジナルクローンと完全一致 (Figure 3B、Table 1)。

抗原特異的機能性 — テトラマー結合・細胞傷害活性・サイトカイン産生:A24/Nef-138-8(WT) テトラマー染色でreT CD8+細胞の大部分が陽性で、対照HIV-1 envelope (RYLRDQQLL) テトラマーには反応しなかった (Figure 3A)。Nef-138-8(WT) ペプチド刺激下のグランザイムB細胞内染色とCD107a脱顆粒アッセイで抗原特異的細胞傷害活性が確認、Gag-28-9(WT) や variant Nef-138-8(2F) では誘導されず (specificity)。51Cr放出アッセイでHLA-A24+ B-LCL負荷target cells (n=3 effector:target ratios) に対する特異的killingが示された。IFN-γ ELISPOTでNef-138-8(WT) 刺激でspot-forming unit数が有意増加 (p=0.0012-0.023、Student’s t-test、n=3 replicates per condition)。

「若返り」エビデンス — テロメア再伸長と100-1,000-fold増殖能:Flow-FISH (telomere peptide nucleic acid probe) によるテロメア長解析でreT-1、reT-2.2、reT-3 (n=3 reT clones、n=3 cells per measurement) は元のH25-#4 CTLクローンより有意に長いテロメアを保持していた (Figure 4B、p<0.05)。これはiPSC段階での高テロメラーゼ活性によりshortened telomereが再伸長されたためと考えられる。PHA + IL-7 (10 ng/mL) + IL-15 (10 ng/mL) 刺激での2週間増殖能評価で、reT clones (n=3 reT lines) は約100-fold-1,000-fold増殖を示し (約2-3 log10増加)、これに対しオリジナルH25-#4は約20-fold増殖にとどまった (約5-50-fold lower than reT、cohort n=3 patients/biological samples per condition、Figure 4A)。CMV pp65・GAD・α-GalCer特異的T-iPSCにもこの「若返り」現象は同様に観察された (n=4 antigen specificities)。

考察/結論

① 先行研究との違い: これまでのT-iPSC研究 (Loh et al. Cell 2010、Brown 2010、Seki 2010、Staerk 2010) は健常者CD3+ T細胞からのiPSC樹立に成功していたが、疲弊した患者由来CTLクローンからのiPSC樹立と機能的T細胞への再分化までを統合的に達成した先行研究はなかった。本研究はこれまでの単なる「初期化のproof of principle」を超え、TCR遺伝子再配列の完全保存・テロメア伸長・抗原特異性保持を遺伝子・機能レベルで体系的に検証した点でprevious studyと根本的に異なる。SeVベクター + SV40 large T antigenの併用、OP9-DL1再分化系での一次刺激によるreceptor revision抑制という二つの技術的工夫が、既存の単一ベクター系・通常プロトコルと対照的に疲弊CTLからの再生を可能にした。SCNT (somatic cell nuclear transfer) でマウスB/T細胞のreprogrammingが先行報告されたが (Hochedlinger 2002)、ヒト患者試料からの抗原特異的T細胞再生は本研究が初である。② 新規性: 本研究で初めて、疲弊状態の患者由来抗原特異的CTLクローンを多能性状態に初期化し、TCR遺伝子再配列を完全保持したまま機能的CD8+ T細胞 (reT) に再分化させる「T細胞若返り (rejuvenation)」概念をnovelに確立した。これまで報告されていない知見として、reT cellsは元のH25-#4より約100-1,000-fold高い増殖能 (約50-fold improvement) とテロメア再伸長を示し、PD-1陰性のcentral memory様表現型を保持することが示された。HIV、CMV、GAD、α-GalCerという4種類のantigen specificityへの普遍的適用性も新規な発見である。③ 臨床応用と意義: ACTの主要障壁である「疲弊・老化T細胞問題」をiPSC段階のテロメラーゼ活性で根本的に解決するbench-to-bedside translationalアプローチとして臨床的意義が極めて大きい。GMP適合SeVベクターはゲノム非組み込みで安全性が高く、京都大学CiRAでの臨床応用に向けた前臨床基盤として確立。melanoma MART-1特異的T細胞、固形がんTCR-T細胞療法、CMV/EBV特異的T細胞療法 (Pule et al. NatMed 2008) への横展開が見込まれ、臨床現場での疲弊T細胞回復戦略の universal platformとなり得る。④ 残された課題と今後の検討: limitationとして、(1) TCRα鎖のreceptor revision (RAG1/RAG2再発現によるTCRA座位の追加再配列) がDP stageで部分的に観察され、抗原特異性の維持に第一刺激のタイミング最適化が必要、(2) 樹立reT cellsはTCM様表現型を一部含むがTSCM (T stem cell memory) 細胞は十分得られず、GSK3β阻害剤 (Wnt signal modulator) との組み合わせがfutureとして残された課題、(3) 臨床応用に向けて自殺遺伝子システム (HSV-TK等) との組み合わせによる安全性担保が今後の研究テーマ、(4) in vivo (NOD-Scidマウス) でのreT cellsの抗腫瘍効果実証と persistence測定はfuture studyとして残された、(5) HIV治療への直接応用には抗ウイルス効果のviral load評価 in vivoが今後の展望、(6) MART-1等の腫瘍関連抗原特異的T-iPSCに本技術が拡張可能か検証することが今後の検討課題である。これらlimitationにもかかわらず、本研究はACT分野におけるパラダイムシフト的研究としてiPSC技術と adoptive immunotherapy の融合を実現した先駆的なclinical translational evidenceである。

方法

材料: HLA-A24陽性の慢性HIV-1 (human immunodeficiency virus type 1) 感染患者由来末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cell, PBMC) からNef-138-8 (WT) 特異的CD8+ CTL (cytotoxic T lymphocyte) クローンを単離し、株化したH25-#4クローン (cell line H25-#4) を用いた。フィーダー細胞としてC3H10T1/2 cell line (mesenchymal cell line)、OP9-DL1 cell line (Delta-like 1発現OP9 stromal cell line)、ヒトESC reference KhES3 cell lineを用い、テラトーマ形成試験にはNOD-Scid mouse strain (NOD/ShiJicscid mouse、testis injection、n=3 mice) を使用した。健常者PBMCからCD3+ T細胞 (TkT3V1-7)、CMV (cytomegalovirus) pp65 tetramer-sorted polyclonal cells、Type 1 diabetes患者GAD (glutamic acid decarboxylase) 特異的CTL、α-GalCer (α-galactosylceramide) -reactive Vα24+ NKT-like cellsも対照として用いた。初期化: H25-#4を抗CD3/CD28抗体被覆ビーズ (α-CD3/28 beads) + IL-2 (recombinant、20 ng/mL) で活性化後、6種のレトロウイルスベクター (OCT3/4, SOX2, KLF4, cMYC, NANOG, LIN28A) で初期化を試みたが失敗。代わりにPHA (phytohemagglutinin) 活性化後にSendaiウイルス (SeV) ベクター2種 — SeVp[KOSM302L] (OCT3/4 + SOX2 + KLF4 + cMYC tetracistronic + miR302 target、Nishimura 2011) およびSeV18[T] (SV40 large T antigen、Fusaki 2009) — を併用し、IL-7 (10 ng/mL) + IL-15 (10 ng/mL) 存在下で40日培養。T-iPSC同定: ヒトESC様コロニーをmorphology + alkaline phosphatase (AP) 活性で計数し、SSEA-4・Tra-1-60・Tra-1-81 (多能性マーカー)・HLA-A24・OCT3/4・NANOG プロモーター bisulfite sequencing低メチル化を確認、NOD-Scidマウステラトーマ形成 (三胚葉分化) で多能性を確認。TCR配列解析: BIOMED-2 multiplex PCRプロトコル (van Dongen 2003) でTCRB遺伝子再配列を検出し、TCRA遺伝子用には独自プライマー設計。CDR3 (complementarity-determining region 3) 配列をSanger sequencingで決定。再分化: T-iPSCをC3H10T1/2フィーダー上でVEGF + SCF (stem cell factor) + FLT-3L存在下14日培養しCD34+造血前駆細胞を誘導、OP9-DL1上でFLT-3L + IL-7存在下21-28日でT lineage cellsを誘導。CD4/CD8 DN (double-negative) 段階でα-CD3/28 beads or PHAによる一次刺激 (first stimulation) を加え、HLA-A24+ X-ray照射PBMCと共培養しIL-7 + IL-15存在下14日でCD8 SP (single-positive) 細胞へ成熟化。テトラマー陽性細胞をsortし二次刺激で増殖。機能解析: A24/Nef-138-8(WT) テトラマー結合 (フローサイトメトリー)、51Cr放出アッセイによる細胞傷害活性、IFN-γ ELISPOT、CD107a脱顆粒、グランザイムB細胞内染色、Flow-FISHによるテロメア長測定 (Telomere PNA probe-based)、増殖能をPHA+IL-7/IL-15刺激下の2週間細胞数増加で評価。統計: 平均±SD表示、独立試行間比較はStudent’s t検定で有意水準p<0.05。代表的解析はn=3 biological replicates以上で実施。