• 著者: Nadeem Riaz, Jonathan J. Havel, Sviatoslav M. Kendall, Vladimir Makarov, Logan A. Walsh, Alexis Desrichard, Nils Weinhold, Timothy A. Chan
  • Corresponding author: Timothy A. Chan (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Genetics
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-09-26
  • Article種別: Brief Communication
  • PMID: 27668655

背景

免疫チェックポイント阻害薬は進行悪性腫瘍の治療に革命をもたらした。ipilimumab (抗 CTLA4 抗体) は黒色腫患者の生存を有意に改善し、抗 PD-1 療法は黒色腫・非小細胞肺がん (NSCLC)・腎細胞がんで確立された治療効果を示した。しかし奏効は一部の患者に限られ、どの患者が利益を得るかを事前に予測するバイオマーカーの同定が急務であった。

Snyder らは抗 CTLA4 治療を受けた黒色腫コホートで neoantigen 負荷と腫瘍変異量 (tumor mutational burden: TMB) が治療応答と相関することを示し (Snyder et al. NEnglJMed 2014)、Van Allen らはこれをドイツ独立コホートで検証してゲノム的相関を明確化した (VanAllen et al. Science 2015)。また Rizvi らは喫煙関連変異量が高い NSCLC 患者では抗 PD-1 療法への応答が優れることを示した (Rizvi et al. Science 2015)。さらに腫瘍 clonality も免疫療法応答に関与することが示唆されてきた。

しかし、これらの知見はゲノム全体的な指標 (変異量・clonality・neoantigen 総数) に基づくものであり、EGFR 変異が erlotinib 応答を予測するように「特定の遺伝子の体細胞変異」が免疫チェックポイント阻害薬への応答を予測するかどうかは手薄な領域であった。すなわち、どの遺伝子の変異が抗 CTLA4 応答に特異的な predictive 情報を提供するかは未解明であり、TMB に依存しない gene-specific バイオマーカーは不十分なまま不足していた。TCGA による黒色腫の包括的ゲノム解析で recurrently mutated 遺伝子が同定されたことで、gene-centric なアプローチによる免疫療法応答予測マーカー探索の基盤が整い、本研究が実施された。

目的

抗 CTLA4 治療 (ipilimumab) を受けた黒色腫患者の 2 独立コホート (米国・ドイツ、合計 n=174) において、TCGA 由来の recurrently mutated 遺伝子リストを起点に、全生存期間 (OS: overall survival) および臨床的利益 (clinical benefit) と独立に関連する体細胞変異遺伝子を同定し、免疫療法応答の gene-specific 予測バイオマーカーを確立すること。また TCGA 非治療コホートとの比較により predictive (予測的) vs prognostic (予後的) を識別し、変異の免疫学的機序の推定的証拠を提示すること。

結果

SERPINB3 (serpin family B member 3) がボンフェローニ補正後に有意な OS 関連遺伝子として発見される:TCGA melanoma 由来の 19 候補遺伝子の網羅的評価で、SERPINB3 が抗 CTLA4 治療後の OS と有意に関連した (Bonferroni 補正後 P=0.037、無補正 P=0.005) (Fig. 1a)。10,000 permutation による厳格な経験的 P 値検定後も有意性は維持され、他の 18 遺伝子は有意性に達しなかった。Cohort 1 (n=64) での発見に続いて、Cohort 2 (ドイツ、n=110) での独立検証においても SERPINB3 変異保有者は野生型と比較して OS が有意に延長しており (P=0.05)、発見の再現性が別コホートで確認された (Fig. 1a)。SERPINB3 は TCGA の包括的ゲノム解析で有意かつ recurrently mutated な遺伝子として同定された腫瘍形成ドライバー候補遺伝子でもあり、この遺伝子が免疫療法応答とも関連するという二重の役割が初めて示された。

両コホートで独立検証された SERPINB3/SERPINB4 (serpin family B member 4) 統合多変量解析:SERPINB3 と SERPINB4 はアミノ酸配列同一性 92% の近縁ホモログで、腫瘍形成および免疫において機能重複を有することから、両遺伝子の変異を統合解析した。M stage・TMB を共変量とした Cox 多変量解析で、Cohort 1 では HR=0.34 (95% CI 0.11-0.98、P=0.05)、Cohort 2 では HR=0.32 (95% CI 0.13-0.76、P=0.01) と、両コホートで独立した生存延長効果が確認された (Fig. 1b)。SERPINB3/SERPINB4 変異保有者は臨床的利益 (clinical benefit) および奏効率も有意に高く、Fisher’s exact 検定で両コホートにおいて再現された (Fig. 1d)。変異は黒色腫 driver の文脈に依存せず、BRAF・RAS・NF1・triple-WT の 4 subtype すべてで認められた (Fig. 2a)。また、SERPINB3/SERPINB4 変異はいずれも TMB が特段高い腫瘍に限定されず、Wilcoxon rank-sum 検定で変異量の群間差は有意ではなかった (Fig. 1e)。これにより、SERPINB3/SERPINB4 変異が TMB 依存性でなく独立した生存予測因子として機能することが示された (Cohort 1 P=0.05、Cohort 2 P=0.01)。SERPINB3 と SERPINB4 の変異は相互排他的に出現しており、両タンパクの機能的代替性を示唆した。

TCGA 非治療コホートによる予測的バイオマーカーとしての識別:SERPINB3/SERPINB4 変異が治療応答の予測因子 (predictive) であるか、治療とは独立した予後因子 (prognostic) であるかを識別するため、TCGA の転移性黒色腫コホート (n=262、抗 CTLA4 未治療) で同様の解析を実施した。SERPINB3/SERPINB4 変異は TCGA コホートでは OS と有意な関連を示さなかった (log-rank 検定、NS (not significant)) (Fig. 1c)。この結果は、SERPINB3/SERPINB4 変異が単なる予後因子ではなく、抗 CTLA4 療法への応答を特異的に予測する predictive バイオマーカーとして機能することを明確に示している。すなわち、これらの変異を有する腫瘍は抗 CTLA4 療法が存在して初めて生存利益が顕在化し、治療なしでは予後的意義を持たないという点で、臨床バイオマーカーとしての特異性が高い。

変異の構造的特徴と免疫原性 neopeptide 生成・反応中心ループ近傍への集積:SERPINB3 と SERPINB4 の変異の位置と性状を解析した結果、missense 変異が両遺伝子全体に分布する一方、解明済み 3D タンパク質構造上では RCL (reactive center loop、反応中心ループ) ドメイン近傍に変異が集積していた (Fig. 2b-d)。SERPINB3 では G79E・G79R・P164S などの hotspot 変異が同定された。RCL ドメインは serpin タンパクのプロテアーゼ阻害活性に関わる機能的部位であり、この領域の変異は SERPINB3 の serine protease inhibitor としての機能を変化させ、misfolding と self-polymerization を促進する可能性がある。netMHC v3.4 による評価では、多くの missense 変異が IC50 < 500 nM の MHC class I 候補 neoantigen を生成し、さらに netMHCpan 3.1 ではランク < 2% の class II 候補 neoantigen も生成することが示された。Serpin タンパクの misfolding・polymerization は炎症性 aggregate・plaque の形成を引き起こし、全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus: SLE) や乾癬などの自己免疫疾患において免疫標的となることが知られており、変異 SERPINB3/SERPINB4 タンパクも同様の機序で免疫認識を受けやすい状態になると考えられた。さらに serpin polymer はオートファジーを誘導することで自己抗原の提示を増強しうることも示唆された。

OVA ホモロジーと腫瘍免疫原性強化・T 細胞 epitope 領域への変異集積:SERPINB3 はニワトリ卵白アルブミン (OVA: ovalbumin) のヒトホモログであり、OVA は卵アレルギーおよびアトピー性皮膚炎に関与する古典的モデル抗原として広く用いられてきた。Clustal Omega によるアライメントで SERPINB3 と OVA の間に配列相同性が確認され、ヒト OVA 反応性 T 細胞の epitope として機能的に検証された領域と重複する配列部位が同定された。注目すべきことに、観察された SERPINB3/SERPINB4 変異の多くがこれらの OVA との相同領域内にマッピングされた。TCGA の発現データでは SERPINB3/SERPINB4 が原発腫瘍では広範に発現するが、所属リンパ節・転移巣では有意に発現が減弱しており、腫瘍の進行に伴う immunoediting またはエピジェネティックなサイレンシングを示唆した。これらのデータをあわせると、SERPINB3/SERPINB4 変異が腫瘍の早期段階で免疫原性効果を発揮し、CTLA4 阻害による再活性化を受けやすい広範な免疫応答を誘発する可能性が考えられた。

考察/結論

本研究は、2 独立コホートという厳格な検証デザインのもと、SERPINB3/SERPINB4 の体細胞変異が抗 CTLA4 (ipilimumab) 治療を受けた黒色腫患者の全生存期間を独立に予測することを本研究で初めて示した。これはこれまで報告されていない知見であり、「ゲノム全体的な変異量・neoantigen 総数」を超えた「特定の遺伝子の変異」が免疫チェックポイント応答を予測するという新規の概念を提示するものである。Snyder らや Van Allen らのコホートで示された変異量・clonality 基盤の予測モデルと対照的に、本研究は gene-level のシグナルが独立した予測情報を持つことを示しており、既報との相違が明確である。

本知見の新規性は以下の点にある。第一に、SERPINB3/SERPINB4 変異は TMB とは独立した生存予測因子であることが Cox 多変量解析で両コホートともに確認された。これにより、TMB が中等度の患者でも SERPINB3/SERPINB4 変異陽性であれば抗 CTLA4 療法の利益を享受できる可能性が示された。第二に、TCGA の非治療コホート (n=262) では変異と生存の関連が認められないことから、本変異が新規の predictive バイオマーカーとして機能するという識別が可能となった。この predictive vs prognostic の識別は、バイオマーカー研究の方法論的模範としても重要である。第三に、SERPINB3 が OVA (古典的モデル抗原) のヒトホモログであり、その変異が OVA 反応性 T 細胞 epitope 相同領域に集積するという知見は、変異 serpin タンパクが CTLA4 阻害により再賦活化される自己免疫様 T 細胞応答を誘発するという novel な機序仮説を提供する。

臨床応用の観点から、SERPINB3/SERPINB4 変異はエクソームシーケンスまたはターゲット遺伝子パネル解析で検出可能であり、臨床的意義の高いコンパニオン診断バイオマーカーとしての実装が期待される。特に TMB 単体では応答予測が困難な患者において補完的な予測情報を提供できる可能性があり、臨床現場での意思決定を改善しうる。さらに、変異 SERPINB3/SERPINB4 由来の neoantigen を標的とした個別化 neoantigen ワクチンや養子 T 細胞療法との組み合わせを bench-to-bedside で開発する可能性も示唆された。変異 IDH1 が神経膠腫において腫瘍形成ドライバーかつ免疫決定因子 (immunodeterminant) として機能する構造と類似しており、SERPINB3/SERPINB4 変異が黒色腫における同様の二重機能分子であると位置づけられた。

残された課題として、(1) 変異 SERPINB3/SERPINB4 タンパクが実際に免疫原性 neoantigen を提示し T 細胞応答を誘導するかの機能的実験検証、(2) 抗 PD-1 療法への応答予測における本変異の有用性の検討、(3) 黒色腫以外の癌種 (NSCLC・腎細胞がん等) への拡張可能性、(4) Serpin polymer 形成による自己抗原提示増強の in vivo 実証、(5) SERPINB3/SERPINB4 を標的とした治療的アプローチ開発のための更なる検討が挙げられる。これらを解決することで、免疫療法の個別化においてより精度の高い患者選別と新規治療戦略の構築が期待される。

方法

患者コホートと全エクソームシーケンス:抗 CTLA4 治療を受けた黒色腫患者 174 例の腫瘍-正常対 exome データを解析した。Cohort 1 は米国 Memorial Sloan Kettering Cancer Center 由来 (n=64、平均カバレッジ 103×)、Cohort 2 はドイツ由来 (n=110、平均カバレッジ 183.7×) の 2 独立コホートとした。エクソーム配列は BWA (v0.7.10) で参照ゲノム GRCh37 にアライメントし、GATK 3.2.2 でローカル再アライメント、Picard v1.119 で重複リード除去を実施した。エクソームデータは dbGaP に登録されており、Cohort 1 は phs001041.v1.p1、Cohort 2 は phs000452.v2.p1 のアクセッションコードで公開されている。

体細胞変異の同定:体細胞一塩基多型 (SNV: single-nucleotide variant) の同定には MuTect 1.1.4・Varscan 2.3.7・Somatic Sniper 1.0.4・Strelka 1.0.13 の 4 ツールを併用した。アレルリードカウント 5 未満または正常カバレッジ 7 未満の SNV は除外した。小型挿入欠失 (indel) は GATK 3.2.2 で検出した。

Recurrent 変異と生存の関連解析:TCGA melanoma 解析で同定された 19 個の recurrently mutated 遺伝子を候補として、χ² 検定統計量と 10,000 permutation に基づく経験的 P 値で OS との関連を評価し、Bonferroni 補正で多重検定対応を実施した。生存解析は Kaplan-Meier 法で実施し、曲線間の差は log-rank 検定で評価した。SERPINB3 (serpin family B member 3)/SERPINB4 (serpin family B member 4) 変異と OS の関連は Cox 比例ハザードモデルで M stage・TMB を共変量とした多変量解析を実施した。臨床的利益との関連は Fisher’s exact 検定、変異量の群間差は Wilcoxon rank-sum 検定で評価した。すべての統計解析は R 統計環境 (v3.2) で実施した。

Neoantigen 予測:HLA class I タイピングは Cohort 1 で手動実施、Cohort 2 では Polysolver でエクソームデータから計算した。各非同義 SNV について変異アミノ酸を中心とした 17-mer ペプチドを作成し、9-mer スライディングウィンドウで MHC class I 結合を netMHC v3.4 で予測した (IC50 < 500 nM を候補 class I neoantigen と定義)。Class II では 29-mer を作成し netMHCpan 3.1 でランク < 2% を候補 class II neoantigen とした。Class II HLA タイピングは SOAP-HLA (Short Oligonucleotide Analysis Package for HLA typing) で両コホートのエクソームデータから実施した。

対照コホート・構造解析・OVA アライメント:TCGA の転移性黒色腫コホート (n=262、抗 CTLA4 未治療) での解析により predictive vs prognostic の識別を行った。SERPINB3/SERPINB4 の変異位置は解明済み 3D タンパク質構造上に可視化した。OVA と SERPINB3 のアライメントには Clustal Omega を使用し、免疫 epitope 情報は IEDB (Immune Epitope Database) を参照した。