• 著者: Eliezer M. Van Allen, Diana Miao, Bastian Schilling, Sachet A. Shukla, Christian Blank, Lisa Zimmer, Antje Sucker, Uwe Hillen, Marnix H. Geukes Foppen, Simone M. Goldinger, Jochen Utikal, Jessica C. Hassel, Benjamin Weide, Katharina C. Kaehler, Carmen Loquai, Peter Mohr, Ralf Gutzmer, Reinhard Dummer, Stacey Gabriel, Catherine J. Wu, Dirk Schadendorf, Levi A. Garraway
  • Corresponding author: Levi A. Garraway (Dana-Farber Cancer Institute), Dirk Schadendorf (University Hospital Essen)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26359337

背景

CTLA-4 (cytotoxic T lymphocyte–associated antigen-4) を標的とするモノクローナル抗体であるイピリムマブは、転移性悪性黒色腫患者において免疫チェックポイント活性を阻害し、全生存期間 (OS) を延長する。例えば、Hodi et al. NEnglJMed 2010の報告では、イピリムマブがプラセボと比較してOSを有意に改善することが示された。しかし、イピリムマブによる治療に奏効する患者は約20%に留まり、その奏効予測因子は十分に確立されていないことが大きな課題であった。先行する小規模な研究では、NRAS変異、ネオアンチゲン負荷、特定のテトラペプチドシグネチャーなどが奏効予測の候補として挙げられていたが、100例を超える大規模なコホートを用いた包括的なマルチオミクス研究はこれまで報告されていなかった。

腫瘍特異的なミスセンス変異から生じるネオアンチゲンは、免疫システムによって異物として認識され、抗腫瘍免疫応答を誘導すると考えられている。Schumacher et al. Science 2015は、ネオアンチゲンががん免疫療法の主要な標的であることを総説している。また、腫瘍免疫微小環境における免疫細胞の浸潤や活性も、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) への奏効を規定する重要な要素であると示唆されてきた。例えば、Sharma et al. Science 2015は、腫瘍微小環境における免疫細胞の役割について詳細に考察している。これらの腫瘍内在性因子と免疫微小環境因子の両方がICIの臨床的効果に影響を与える可能性が指摘されており、両者を統合的に解析することで、より堅牢な奏効予測因子を特定できると期待されていた。

特に、転移性悪性黒色腫は紫外線曝露などにより高い変異負荷を持つことが知られており、これが免疫原性と関連する可能性が示唆されていた。しかし、どの程度の変異負荷やネオアンチゲン負荷が臨床的ベネフィットと相関するのか、また、特定のネオアンチゲン配列が奏効患者間で共通して存在するのかどうかは未解明であった。さらに、腫瘍微小環境における細胞傷害性T細胞の活性や免疫チェックポイント分子の発現が、イピリムマブの奏効にどのように寄与するのかについても、大規模コホートでの詳細な解析が不足していた。これらの知識ギャップを埋めることが、イピリムマブ治療の最適化と個別化医療の実現に向けた重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、イピリムマブによる治療を受けた転移性悪性黒色腫患者110例の治療前腫瘍生検組織について、全エクソームシーケンス (WES) および一部の患者におけるRNAシーケンスデータを統合的に解析し、イピリムマブへの臨床的奏効に関連する腫瘍ゲノムおよび発現プロファイルを同定することである。具体的には、腫瘍の変異負荷、ネオアンチゲン負荷、および腫瘍微小環境における免疫関連遺伝子の発現が、イピリムマブの臨床的ベネフィットとどのように関連するかを評価し、奏効予測バイオマーカーとしての可能性を探ることを目指した。また、特定のネオアンチゲン配列が奏効患者間で共通して存在するかどうかを検証することも目的とした。さらに、患者個別のRNAシーケンスデータを用いたネオアンチゲンフィルタリングの有用性を評価し、より正確なネオアンチゲン同定手法を確立することも重要な目的とした。

結果

変異負荷とネオアンチゲン負荷がイピリムマブ奏効と有意に相関: 本コホートにおける非同義変異負荷の中央値は197変異/サンプルであった。臨床的ベネフィット (CB) を得た患者群 (n=27) は、臨床的ベネフィットなし (NCB) の患者群 (n=73) と比較して、有意に高い非同義変異負荷を示した (P=0.0076, Mann-Whitney検定)。この結果は、Rizvi et al. Science 2015が非小細胞肺がんで報告したPD-1阻害薬への奏効と変異負荷の関連と同様の傾向を示している。同様に、予測されるネオアンチゲン負荷の中央値は369ネオアンチゲン/サンプルであり、これもCB群で有意に高かった (P=0.027)。多変量解析の結果、変異負荷が100を超える患者群 (P=0.0169) およびネオアンチゲン負荷が100を超える患者群 (P=0.0371) は、イピリムマブによる臨床的ベネフィットを得る可能性が有意に高いことが示された。この関連性は、RAF阻害剤の前治療歴やM分類などの交絡因子を調整した後も維持された。BRAF変異やNRAS変異の有無は、イピリムマブ奏効との有意な関連を示さなかった。これらの結果は、腫瘍の全体的な変異量とそれによって生じるネオアンチゲンの量が、イピリムマブの治療効果を予測する重要な因子であることを強く示唆している (Figure 2A, Figure 2B)。

共有ネオアンチゲンはイピリムマブ奏効を予測しない: 本研究で同定された77,803個のユニークなネオアンチゲンのうち、CB群の複数の患者で繰り返し検出され、かつNCB群または長期生存群のいずれの患者にも存在しないネオアンチゲンはわずか28個 (0.04%) であった。これらの共有ネオアンチゲンを詳細に解析しても、奏効患者に特異的な共通の配列特徴やテトラペプチドシグネチャー(先行研究であるSnyder et al. NEnglJMed 2014で報告されたもの)は本コホートでは再現されなかった。このことは、イピリムマブの奏効に関連するネオアンチゲンが、患者間で共通するものではなく、むしろ個々の患者に特異的な(私的)変異に由来する可能性が高いことを示唆している。この結果は、共有ネオアンチゲンを標的とした汎用的なワクチン開発の難しさを示唆するものである。

腫瘍微小環境の細胞傷害活性がイピリムマブ奏効と相関: RNAシーケンスデータが得られた42例の患者において、腫瘍微小環境における免疫細胞の活性を評価した。特に、細胞傷害性T細胞の活性マーカーであるグランザイムA (GZMA) とパーフォリン (PRF1) の幾何平均(細胞傷害活性スコア)は、CB群でNCB群と比較して有意に高値を示した (P=0.042)。また、CTLA-4自身およびPD-L2の発現も、CB群でNCB群と比較して有意に上昇していた (P=0.033およびP=0.041)。これらの結果は、イピリムマブの奏効には、腫瘍微小環境における既存の細胞傷害性免疫応答の存在と、免疫チェックポイント分子の発現が関連していることを示唆する。一方、HLAクラスI遺伝子の発現レベルは、奏効群と非奏効群の間で有意な差は認められなかった (Figure 3A, Figure 3B)。

RNAフィルタリングによるネオアンチゲン同定の改善: DNAシーケンスとRNAシーケンスの両データが利用可能な40例の患者 (n=40 patients) において、ネオアンチゲン予測の精度を評価した。患者マッチRNAシーケンスデータを用いた発現フィルタリングにより、予測されたネオアンチゲン負荷の中央値は395個/患者から198個/患者へと減少した。これは、発現していないネオアンチゲン候補が除外されたためである。このフィルタリングにより、ネオアンチゲン負荷は平均で約2.0-fold減少した。対照的に、TCGA(The Cancer Genome Atlas)の参照データのみを用いたフィルタリングでは、6,320個のネオアンチゲンが過大評価され、さらに166個の実際に発現しているネオアンチゲンが見落とされていた。この結果は、患者個別のRNAシーケンスデータを用いることで、より正確なネオアンチゲン同定が可能となり、真に免疫応答を誘導しうるネオアンチゲンの特定に不可欠であることを示している (Figure 2D)。

考察/結論

本研究は、転移性悪性黒色腫におけるイピリムマブへの奏効が、腫瘍内在性因子である変異負荷およびネオアンチゲン負荷、ならびに腫瘍微小環境における細胞傷害活性および免疫チェックポイント分子の発現という、DNAおよびRNAレベルの統合的なゲノム情報と関連することを示した。

先行研究との違い: これまでの小規模研究では特定のネオアンチゲンシグネチャーが奏効と関連する可能性が示唆されていたが、本研究の大規模コホートでは、特定の共有ネオアンチゲン配列が奏効患者間で共通して予測因子となることはなかった。この結果は、先行研究で報告されたテトラペプチドシグネチャーが本コホートで再現されなかった点において、これまでとは対照的である。このことは、イピリムマブの奏効が、患者間で共通するネオアンチゲンではなく、個々の患者に特異的なネオアンチゲンによって駆動される可能性が高いことを示唆している。

新規性: 本研究で初めて、イピリムマブ奏効が個々の患者に私的なネオアンチゲンによって駆動される可能性が高いことを示唆した。また、患者マッチRNAシーケンスデータを用いたネオアンチゲン発現フィルタリングが、より正確なネオアンチゲン同定に不可欠であることを新規に実証した。これは、腫瘍の免疫原性を評価する上で重要な知見であり、従来のDNAシーケンスのみによる予測の限界を克服するものである。

臨床応用: 本研究の知見は、イピリムマブ治療における奏効予測バイオマーカー開発の臨床応用に直結する。特に、変異負荷とネオアンチゲン負荷、および腫瘍微小環境における細胞傷害活性の評価は、イピリムマブの治療適応を決定する上で有用な情報を提供する可能性がある。例えば、変異負荷が高い患者群はイピリムマブ治療の恩恵を受けやすい可能性があり、治療前のバイオマーカー検査として活用できる。また、共有ネオアンチゲンが奏効を予測しないという発見は、汎用的なネオアンチゲンワクチン開発への警鐘であり、患者個別化ネオアンチゲンワクチンの必要性を示唆する。本研究は、TMB (Tumor Mutational Burden) に基づくICIバイオマーカーのパラダイムを確立した古典的論文の一つであり、後のTMB-high CDx開発(FoundationOne CDxなど)やPD-L1/IFN-γシグネチャー研究の基礎となった。

残された課題: 今後の検討課題として、より大規模なコホートでのさらなる recurrent neoantigen の探索と、HLA制限の組み込みによるネオアンチゲン予測精度の向上が挙げられる。また、早期進行にもかかわらず長期生存を達成する患者群のメカニズム解明も重要な課題である。本研究のlimitationとして、一部の患者でRNAシーケンスデータが利用できなかったこと (n=70 patients) 、および解析コホートが転移性悪性黒色腫に限定されている点が挙げられる。これらの課題を克服することで、免疫チェックポイント阻害剤の個別化医療をさらに推進できると考えられる。

方法

本研究では、イピリムマブ単剤療法を受けた転移性悪性黒色腫患者110例の治療前腫瘍検体と、それにマッチする生殖系列検体からDNAを抽出し、全エクソームシーケンス (WES) を実施した。WESの平均カバレッジは、腫瘍検体で183.7倍、生殖系列検体で157.2倍であった。体細胞変異の同定にはMuTect、HLAタイピングにはPolysolverといった確立された手法を用いた。予測される免疫原性ネオアンチゲンは、患者特異的な非同義変異とHLAクラスI結合親和性(≤500 nM)に基づいて、9〜10アミノ酸長のネオアンチゲンとして同定された。

さらに、このうち42例の患者については、治療前腫瘍検体からRNAを抽出し、RNAシーケンスを実施した。このうち40例はWESデータとマッチしており、これらのデータを用いて発現フィルタリングと腫瘍微小環境シグネチャー解析を行った。発現フィルタリングでは、RNAシーケンスデータに基づいて実際に発現しているネオアンチゲンを特定し、予測されるネオアンチゲン負荷の精度を向上させた。患者由来の腫瘍細胞株は使用せず、直接患者の腫瘍生検組織を解析に用いた。

臨床的ベネフィット (CB) の定義は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009による完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR)、あるいは病勢安定 (SD) でかつ全生存期間 (OS) が1年を超える患者 (n=27) とした。一方、臨床的ベネフィットなし (NCB) は、RECIST基準による病勢進行 (PD) またはSDでかつOSが1年未満の患者 (n=73) と定義された。また、早期に病勢進行したにもかかわらず長期生存(OS > 2年)を達成した患者群 (n=10) も別途定義し、解析に含めた。統計解析には、群間の比較にMann-Whitney U検定を用い、多変量解析も実施して、他の臨床因子(RAF阻害剤の前治療歴、M分類など)の影響を調整した上で、変異負荷やネオアンチゲン負荷と臨床的ベネフィットとの関連を評価した。HLAクラスI遺伝子の発現レベルは、RNAシーケンスデータから定量化され、奏効群と非奏効群で比較された。データ可視化にはRobinson et al. NatBiotechnol 2011が用いられた。