- 著者: Alexandra Snyder, Vladimir Makarov, Taha Merghoub, Jianda Yuan, Jesse M. Zaretsky, Alexis Desrichard, Logan A. Walsh, Michael A. Postow, Phillip Wong, Teresa S. Ho, Travis J. Hollmann, Cameron Bruggeman, Kasthuri Kannan, Yanyun Li, Ceyhan Elipenahli, Cailian Liu, Christopher T. Harbison, Lisu Wang, Antoni Ribas, Jedd D. Wolchok, Timothy A. Chan
- Corresponding author: Timothy A. Chan (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA); Jedd D. Wolchok (同施設)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 25409260
背景
免疫チェックポイント阻害薬は、転移性メラノーマ、非小細胞肺がん、その他の腫瘍タイプにおいて持続的な抗腫瘍効果をもたらす画期的な治療法である。しかし、これらの治療に対する臨床的利益を決定する分子メカニズムは未解明な点が多かった。イピリムマブやトレメリムマブといったHodi et al. NEnglJMed 2010は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4 (CTLA-4) を阻害することでT細胞を活性化させ、腫瘍細胞の破壊を可能にする。Hodi et al. NEnglJMed 2010やWolchok et al. NEnglJMed 2013の研究により、抗CTLA-4治療がメラノーマ患者の全生存期間 (OS) を延長することが示されたが、約20%の患者で長期生存が得られる一方で、多くの患者では効果が限定的であり、重篤な免疫関連有害事象のリスクも伴うため、治療効果を予測するバイオマーカーの確立が急務であった。
当時、抗CTLA-4治療の奏効予測因子として、末梢血リンパ球数やT細胞活性化マーカー、炎症性微小環境との相関が一部報告されていたが、腫瘍のゲノムランドスケープ、特に変異負荷と治療効果との直接的な関係は不明であった。メラノーマは紫外線誘発性変異により他の固形腫瘍と比較して非常に高い変異負荷を持つことが知られており、理論的には高ネオアンチゲン負荷がCTLA-4阻害薬への応答に関連する可能性が推測されていた。しかし、この仮説を臨床コホートで系統的に検証した研究は不足しており、特定のHLAタイプと臨床的利益との関連も確立されていなかった。体細胞変異がネオエピトープを生じさせ、それがネオアンチゲンとして機能しうることがMatsushita et al. Nature 2012やTran et al. Science 2014によって示されていたが、CTLA-4阻害薬の臨床効果と腫瘍の遺伝的特徴との関連を包括的に解明する研究は未開拓であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、イピリムマブまたはトレメリムマブによるCTLA-4阻害薬治療を受けた進行メラノーマ患者の腫瘍検体を用いて、全エクソームシーケンス解析を実施し、臨床的利益(long-term clinical benefit)と関連するゲノム特徴、特に腫瘍変異負荷と特定のネオアンチゲンシグネチャーを同定することである。さらに、同定されたネオアンチゲンが実際に患者のリンパ球を活性化させる能力を持つかをin vitroで検証し、CTLA-4阻害薬に対する奏効の遺伝的基盤を解明することを目指した。これにより、治療選択における腫瘍エクソーム解析の有用性を示唆し、将来的なバイオマーカー開発の基盤を築くことを意図した。
結果
変異負荷と臨床的利益の関連: ディスカバリーコホート(n=25)において、長期臨床的利益を得た患者群の変異負荷中央値は662(範囲103-4,586)であり、最小限の利益または無利益の患者群の261(範囲96-3,651)と比較して有意に高かった(Mann-Whitney検定、p=0.01)。この結果はバリデーションコホート(n=39)でも再現され、長期臨床的利益群の変異負荷中央値は283、最小限の利益または無利益群は136であり、有意差が認められた(Mann-Whitney検定、p=0.009)。統合コホート(n=64)では、高変異負荷(閾値100以上)の患者で長期臨床的利益の割合が有意に高かった(p<0.001)。また、ディスカバリーコホートでは、高変異負荷が全生存期間(OS)の改善と有意に相関した(ログランク検定、p=0.04)。バリデーションコホートでも生存期間改善の傾向が認められた。しかし、高変異負荷単独では臨床的利益を完全に予測するには不十分であり、高変異負荷であっても治療に奏効しない腫瘍も存在した。例えば、ディスカバリーコホートにおいて、高変異負荷群のOS中央値は4.4 vs 0.9年 (HR 0.35, 95% CI 0.13-0.98, p=0.04) であった (Figure 2B)。
ネオアンチゲン予測とテトラペプチドシグネチャーの同定: HLAクラスI結合予測を用いた解析では、長期臨床的利益群の患者は、最小限の利益または無利益群と比較して、候補ネオアンチゲン数が有意に多かった(中央値81 vs 21、p=0.008)。変異負荷とネオアンチゲン数には強い相関(r=0.98)が認められた。さらに、長期臨床的利益と関連する4残基モチーフ(テトラペプチド)を系統的に解析した結果、長期臨床的利益群の患者に特異的に濃縮される101個のテトラペプチドシグネチャーが同定された(Figure 3Aおよび3B)。このシグネチャーはディスカバリーコホートで特定され、バリデーションコホートでも独立して再現された。このネオエピトープシグネチャーの存在は、長期臨床的利益との関連が非常に有意であり、偶然によるものではないことがシミュレーションテストにより示された(4つの方法でp<0.001、1つの方法でp=0.002)。
ネオエピトープシグネチャーと生存期間の相関: ネオエピトープシグネチャーの存在は、ディスカバリーコホートおよびバリデーションコホートの両方で、全生存期間と強く相関した(それぞれログランク検定でp<0.001およびp<0.002)(Figure 3Cおよび3D)。この相関は、変異負荷単独と生存期間の相関よりも強力であった。例えば、ディスカバリーコホートにおけるネオエピトープシグネチャー陽性群のOS中央値は4.4 vs 0.9年 (HR 0.15, 95% CI 0.04-0.56, p<0.001) であった。最も多くの変異(1028個)を持つ非奏効患者(患者SD7357)は、このテトラペプチドシグネチャーを共有していなかった。このことは、高変異負荷がネオエピトープシグネチャーの形成確率を高めるものの、その形成を保証するものではないことを示唆している。
シグネチャーの分子特性と病原体相同性: 同定されたテトラペプチドシグネチャーは、ゲノム上の多様な遺伝子に由来する変異によってコードされていた。また、これらの体細胞ネオエピトープを含む遺伝子がメラノーマで広く発現していることが、Cancer Genome AtlasのRNAシーケンスデータで確認された。長期臨床的利益を得た患者に共通する候補ネオエピトープは、最小限の利益または無利益の患者に共通するネオエピトープと比較して、免疫エピトープデータベース(www.iedb.org)に登録されているより多くのウイルスおよび細菌抗原と相同性を示した。例えば、テトラペプチド「ESSA」は長期臨床的利益群の患者で共有され、ヒトサイトメガロウイルス (HCMV) の即時初期エピトープと正確に一致した(Figure 4A)。これは、CTLA-4阻害薬から強い臨床的利益を得る患者のネオエピトープが、T細胞が認識する可能性のある病原体エピトープに類似している可能性を示唆している。
in vitroでの免疫原性ペプチドの検証: 予測された免疫原性ペプチドのin vitro検証は困難を伴うが、本研究では最適化された予測アルゴリズムを用いて、十分なリンパ球が得られた患者5例中3例で陽性プールが観察された。特に、患者CR9306では、変異型ペプチドTE SPFEQHIに対する多機能性T細胞応答が確認されたが、非変異型TK SPFEQHIでは応答は認められなかった(Figure 4B)。この応答は治療開始後60週でピークに達した。TE SPFEQHIはFAM3C遺伝子の変異(c.A577G;p.K193E)に由来し、B4402に対するHLAクラスI結合親和性は472 nMと予測された。また、ESPFは応答シグネチャーに共通するテトラペプチドであり、B型肝炎ウイルス大型デルタエピトープp27の一部と相同性を示した。同様に、患者CR0095では、変異型ペプチドGLER E GFTFが多機能性T細胞応答を誘発し、非変異型GLER G GFTFでは応答は認められなかった(Figure 4C)。この応答は治療開始後24週でピークに達し、GLER E GFTFはCSMD1遺伝子の変異(c.G10337A;p.G3446E)に由来し、Burkholderia pseudomallei抗原と80%の相同性を示した。これらのin vitroデータは、予測されたネオアンチゲンが実際にT細胞応答を活性化する能力を持つことを支持する。
考察/結論
本研究は、抗CTLA-4療法(イピリムマブ/トレメリムマブ)で治療された進行メラノーマ患者において、腫瘍のゲノム変異負荷が臨床効果予測因子となることを初めて系統的に示した画期的な研究である。この成果は、免疫療法における「ネオアンチゲン仮説」を臨床コホートで直接検証した金字塔的な論文であり、その後のTMB(tumor mutational burden)バイオマーカー研究(例えば、Rizvi et al. Science 2015の非小細胞肺がんにおけるペムブロリズマブ、Snyder et al. 2017の尿路上皮がん、Goodman et al. MolCancerTher 2017の多癌種)の基盤を築いた。
先行研究との違い: これまでの研究では、PD-L1 IHCがCTLA-4阻害効果予測には限界があることが示されていたが、本研究が示した変異負荷と特定のテトラペプチドシグネチャーは、腫瘍の遺伝学的特徴を直接反映し、理論的に実体の明確な予測指標である点で対照的である。また、Kvistborg et al. SciTranslMed 2014は抗CTLA-4療法がメラノーマ反応性CD8+ T細胞応答を広げることを示唆したが、本研究は具体的なネオアンチゲンシグネチャーを同定し、その免疫原性をin vitroで検証した点で新規性が高い。
新規性: 本研究で初めて、高変異負荷がCTLA-4阻害薬の臨床的利益と相関するものの、それ単独では不十分であり、特定のネオエピトープシグネチャーの存在が長期奏効患者に特異的であることを新規に同定した。さらに、このテトラペプチドシグネチャーの一部が既知の細菌・ウイルスエピトープと配列類似性を示すことは、既存の抗原特異的T細胞が腫瘍ネオアンチゲンと交差反応する「分子模倣(molecular mimicry)」機序を示唆するものであり、これまで報告されていない重要な知見である。これは、免疫システムが病原体に対して獲得した記憶を利用して腫瘍を攻撃する可能性を示唆する。
臨床応用: 本知見は、イピリムマブ治療選択の意思決定に変異負荷評価を組み込む方向性を示し、その臨床応用が期待される。特に、高変異負荷と特定のネオアンチゲンシグネチャーを組み合わせた評価は、治療効果の予測精度を向上させ、患者層別化に貢献する可能性がある。メラノーマ以外のがん種へのTMBバイオマーカーとしての外挿可能性も本研究を起点として展開した(2020年FDA承認のペムブロリズマブによるTMB-high固形腫瘍治療はその延長上にある)。
残された課題: 今後の検討課題として、テトラペプチドシグネチャーの分子機序の詳細な解明、HLAタイプ別のネオアンチゲン予測精度改善、そして前向き試験での検証が挙げられる。また、本研究のサンプルサイズはゲノム研究としては大規模であったが(128エクソーム)、患者が様々な前治療を受けており、腫瘍サンプル採取時期も多様であった点はlimitationである。in vivoにおける各ペプチドの免疫学的寄与の相対的な重要性は未解明であり、MHCクラスII分子の役割や、異なるがん種におけるネオアンチゲンの相対的効果と特性についてもさらなる研究が必要である。
方法
本研究では、CTLA-4阻害薬治療を受けたメラノーマ患者64例の腫瘍組織および対応する正常血液サンプルからDNAを抽出し、全エクソームシーケンス解析を実施した。本研究はレトロスペクティブコホート研究として実施された。
患者コホートと臨床効果分類: ディスカバリーコホートとして、Memorial Sloan Kettering Cancer Centerで2007年から2013年にかけてイピリムマブまたはトレメリムマブ治療を受けた転移性メラノーマ患者25例を組み入れた。このうち11例が長期臨床的利益を得ており、14例が最小限の利益または無利益であった。バリデーションコホートとして、2つの独立した試験から得られた追加の39例を組み入れ、合計64例の解析を行った。長期臨床的利益は、primary endpoint として治療開始から6ヶ月以上持続する画像上の疾患安定または縮小と定義され、最小限の利益または無利益は、治療開始後6ヶ月未満で腫瘍増悪または疾患安定と定義された。
全エクソームシーケンス解析と体細胞変異検出: 腫瘍および対応する正常血液サンプルからDNAを抽出し、Agilent Technologies社のSureSelect Human All Exon 50-Mbキットを用いてエクソン領域を捕捉した。その後、Illumina HiSeq 2000プラットフォームで次世代シーケンシングを実施し、平均100倍以上のエクソームカバレッジを確保した。得られたシーケンスデータを用いて、体細胞変異を同定し、非同義変異の総数として変異負荷を算出した。
ネオアンチゲン予測: 独自のバイオインフォマティクスパイプラインであるNAseek (Neoantigen Seek) を開発し、全ての非同義ミスセンス変異を翻訳して変異型および非変異型ペプチドを生成した。患者特異的なHLAタイプ情報と、NetMHCなどのHLAクラスI結合予測アルゴリズムを用いて、結合親和性IC50が500 nM以下の候補ネオアンチゲンを同定した。
テトラペプチドシグネチャーの同定: 同定された候補ネオアンチゲンの中から、長期臨床的利益を得た患者の腫瘍に特異的に存在し、かつ複数の腫瘍で共有される4残基モチーフ(テトラペプチド)を系統的に解析した。この解析により、長期奏効群で濃縮される101個のテトラペプチドシグネチャーを同定した。このシグネチャーは、変異負荷単独よりも高精度で長期臨床的利益を予測する指標として評価された。
in vitro検証: 候補ネオアンチゲンペプチドを合成し、イピリムマブ治療を受けた患者の自己末梢血単核球 (PBMC) と共に培養した。その後、細胞内サイトカイン染色法を用いて、インターロイキン-2、CD107a、マクロファージ炎症性タンパク質1β、腫瘍壊死因子α、インターフェロン-γなどのサイトカイン産生を指標にT細胞活性化を評価した。これにより、予測された免疫原性ペプチドが実際にT細胞応答を誘導するかを検証した。
統計解析: 変異負荷の比較にはMann-Whitney U検定を、Kaplan-Meier曲線を用いた生存期間の比較にはログランク検定を用いた。ROC解析により、変異負荷の閾値と予測性能を評価した。テトラペプチドシグネチャーと臨床的利益の関連性については、5つの異なるモデルを用いたシミュレーションテストにより統計的有意性を評価した。