- 著者: Daniel L. Mueller
- Corresponding author: Daniel L. Mueller (Department of Medicine and Center for Immunology, University of Minnesota Medical School, Minneapolis, MN, USA)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2010
- Epub日: 2009-12-17
- Article種別: Review
- PMID: 20016506
背景
胸腺内でのネガティブセレクションは、自己反応性T細胞の除去に重要な役割を果たす。このプロセスは、AIRE (autoimmune regulator) による組織特異的抗原 (TRA) の異所性発現と、高アビディティTCRを持つクローンの削除によって行われる (Derbinski et al. 2001, Anderson et al. 2002)。しかし、低アビディティTCRを持つ自己反応性T細胞は胸腺を通過し、末梢に到達することが知られている (Liu et al. 1995)。これらのT細胞が末梢で自己pMHC (self-peptide-MHC) を認識しても自己免疫疾患を発症しない仕組みとして、組織隔離(clonal ignorance)、クローン性アネルギー(機能的不応答)、末梢削除などの複数の機構が関与すると考えられるが、これらの機構を統合的に理解する枠組みが不足していた。1型糖尿病(T1D)や多発性硬化症などの自己免疫疾患は、末梢免疫忍容機構の破綻によって生じる可能性があり、その分子機構の解明は疾患治療戦略の基盤となる。ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、T1Dと関節リウマチ(RA)の遺伝的感受性が共有されることを示しており (Wellcome Trust Case Control Consortium 2007)、PTPN22 (protein tyrosine phosphatase non-receptor type 22)、CTLA4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)、IL2RA (interleukin 2 receptor subunit alpha) などの遺伝子が関与することが報告されている。これは、末梢免疫忍容の破綻が疾患横断的に関与していることを示唆する。しかし、臨床的に重要な自己免疫疾患における病原性T細胞が認識する自己pMHC複合体の明確な全体像は未解明であり、この知識ギャップが残された課題である。本レビューは、末梢T細胞免疫忍容機構の全体像を、胸腺ネガティブセレクションの限界、組織ignorance、樹状細胞(DC)の成熟、TCR依存的アネルギー誘導の視点から体系化し、これらの多層的な防御機構がどのように協調して自己免疫の発症を抑制しているかを論じる。これにより、自己免疫疾患の病態理解と新たな治療戦略開発に向けた知識ギャップを埋めることを目的とする。
目的
本レビューの目的は、末梢T細胞免疫忍容を維持する主要な4つの機構、すなわち(1) 自己反応性T細胞の胸腺ネガティブセレクションからの回避、(2) 自己pMHC複合体に対するクローン性不応答(clonal ignorance)、(3) 寛容原性DCの機能、(4) TCR依存的なアネルギー誘導と末梢削除を統合的に概説することである。これらの機構がどのように協調し、自己免疫疾患の発症を抑制しているかを包括的に分析し、自己免疫疾患の病態理解を深め、将来的な治療戦略開発の基盤となる分子メカニズムを提示することを目指す。特に、各機構における主要な分子経路と細胞間相互作用に焦点を当て、その破綻が自己免疫に繋がるメカニズムを考察する。また、胸腺ネガティブセレクションを回避した低アビディティ自己反応性T細胞が末梢でどのように制御されるかについて、既存の知見を統合し、多層的な防御機構としての役割を明確にすることも重要な目的である。
結果
自己反応性T細胞の胸腺回避と末梢での応答閾値: Liu et al. (1995)は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP; myelin basic protein)Ac1-9 (acetylated peptide Ac1-9) 特異的TCRトランスジェニックマウス (n=12 mice) において、低アビディティTCRを持つ自己反応性CD4+ T細胞が胸腺ネガティブセレクションを回避し末梢に高頻度で存在することを示した。この系ではMBP Ac1-9ペプチドの投与はCD4+CD8+胸腺細胞の削除を引き起こさなかったが、1,000倍のアビディティ増強変異体は胸腺細胞の効率的な削除を誘導した。この結果は、低アビディティTCRを持つ自己反応性T細胞が胸腺を通過し末梢に出現するメカニズムを直接的に証明するものである。Goverman et al. (1993)のMBP TCRトランスジェニックマウスでは、通常の飼育環境で50%の動物が自発的実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE; experimental autoimmune encephalomyelitis)を発症したが、SPF(specific pathogen-free)環境では発症率が15%未満に低下した。これは、末梢免疫忍容機構の破綻が外来病原体シグナルとの相互作用によって加速されることを示唆し、T1Dなどの自己免疫疾患における感染イベントのトリガーとしての役割と整合する。Zehn & Bevan (2006)は、OVA (ovalbumin) 特異的低アビディティCD8+ T細胞がRIP-mOVA (rat insulin promoter-driven, membrane-bound OVA) マウスの膵島を構成的には無視しながらも、Listeria monocytogenes感染によってT1Dが誘発されることを示した。これらの知見は、末梢pMHC密度が十分に上昇すれば低アビディティ自己反応性T細胞が応答する機会が生じるという量的閾値モデルを支持する。
自己pMHC複合体へのクローン性不応答(Ignorance): ナイーブT細胞はCCR7+CD62L+の表現型を持ち、リンパ節HEV (high endothelial venules) へのL-selectin/addressin依存的移行を通じてリンパ器官間を循環する。抗原認識が起こらない場合、S1P (sphingosine 1-phosphate) 勾配依存的にefferent lymphへ退出し、末梢非リンパ組織への移行は本質的に制限されている。この解剖学的隔離が「clonal ignorance」の分子基盤である。P14 TCRトランスジェニックマウス(LCMV (lymphocytic choriomeningitis viral) グリコプロテイン特異的高アビディティCD8+ T細胞)とRIP-グリコプロテインマウスの組み合わせでは、P14細胞が膵島の自己pMHCを完全に無視し、T1Dが自然発症しないことが示された (Ohashi et al. 1991)。しかし、LCMV感染によってP14細胞がプライミングされるとT1Dが誘発される。同様に、K14-mOVA (keratin-14 promoter-driven mOVA) マウスへのOT-I/OT-II細胞の養子移入では自己免疫は生じないが、テープストリッピング(皮膚上皮バリアの物理的破壊)によってOVA依存的な皮膚浸潤と炎症が誘発された (Bianchi et al. 2009)。抗原経験T細胞はCCR7/CD62L低発現・P/E-selectinリガンド(PSGL-1・CLA)やインテグリン(CD11a・α4β1)高発現への移行により末梢組織への移動能を獲得し、ignoranceが失われる。さらに、Lee et al. (2007)は、リンパ節ストロマ細胞がAIRE依存的にTRAを発現してCD8+ T細胞をクロスプレゼンテーションし、循環している自己反応性ナイーブCD8+ T細胞を寛容化する可能性を示した。これはignorance状態の持続期間が限られることを示唆する追加的なメカニズムである。
免疫原性DCと寛容原性DCの決定機構: 未成熟DCは組織常在性でマクロピノサイトーシス、C型レクチン(マンノース受容体・DEC-205)、Fcγ/εを通じた受容体依存的ファゴサイトーシスにより抗原を処理する。TLR (toll-like receptor) リガンド・壊死細胞・プロ炎症性サイトカインがDC成熟を誘導すると、MHCII (MHC class II) のターンオーバーが低下してpMHC複合体が保持され、CCR7・B7(CD80/CD86)・CD40・プロ炎症性サイトカインが発現上昇する(免疫原性表現型)(Banchereau & Steinman 1998)。Hawiger et al. (2001)は、DEC-205に結合させた実験抗原HEL (hen egg lysozyme) をリンパ節常在性DCへ直接ターゲットすることで不完全なDC成熟が誘導され、HEL特異的3A9 TCR-transgenic CD4+ T細胞が一時的に増殖するが持続せず、IFNγ産生もなく、残存細胞はアネルギー状態となることを示した。抗原特異的CD8+ T細胞でも、オスモティックショックで死細胞に抗原を取り込ませた脾臓リンパ球DCとの接触により同様のアネルギー誘導が認められた (Liu et al. 2002)。これらの結果は、炎症がない状況下でリンパ節および脾臓のDCが自己pMHC複合体に対し高アビディティTCRを持つナイーブT細胞に寛容を誘導することを示唆する (Figure 1a)。
TAM受容体/MerTK経路による寛容原性DCの誘導: アポトーシス細胞が放出するGas6とProtein Sはβ2-glycoprotein-dependent形式でアポトーシス細胞膜に結合し、DC上のTAM (Tyro, Axl, MerTK) 受容体ファミリー(Tyro3・Axl・MerTK)を活性化する。この活性化はtype I IFN (interferon) 受容体との協調によりSOCS1・SOCS3 (suppressor of cytokine signaling 1/3) を誘導し、TLRおよびサイトカイン受容体下流のNFκBシグナルを抑制することで、アポトーシス細胞を豊富に取り込んだDCが寛容原性表現型を獲得する (Rothlin et al. 2007)。TAM受容体ファミリー欠損マウスは大規模なリンパ球増殖と全身性自己免疫を発症し、これがDCの過活性化に関連することが確認された (Lu & Lemke 2001)。さらにMerTK欠損BDC2.5 TCRトランスジェニックマウスでは、野生型BDC2.5 TCRトランスジェニックマウスと比較して早期にT1Dが発症した (Wallet et al. 2008)。また、N17-Rac1 (dominant negative Rac1) をCD11c+ DCに発現させるとアポトーシス細胞取り込み・クロスプレゼンテーションが欠損し、ポリクローナルCD8+ T細胞の自己反応性が増加した (Luckashenak et al. 2008)。E-cadherin依存的接着の物理的破壊もCCR7+MHCIIhi寛容原性DC表現型を誘導する (Jiang et al. 2007)。免疫応答の解消期にTLRリガンドが減少しアポトーシス細胞が増加することで、DCが自然に寛容原性表現型へ移行することが示唆される (Pasare & Medzhitov 2004) (Figure 1b)。
TCR依存的アネルギー制御機構: 組織制限プロモーターによる実験抗原発現系とTCR-transgenic T細胞の養子移入を組み合わせることで、寛容原性DC上の自己pMHC認識によるアネルギー誘導が証明された。6.5ヘマグルチニン(HA)特異的TCR-transgenic CD4+ T細胞をC3-HAマウス(prostatic steroid-binding proteinプロモーター下のHA発現)に移入すると、T細胞はCD44hiCD45RBlo抗原経験様表現型を獲得するが持続的な増殖はなく、HAによる再刺激にも応答しないアネルギー状態となる (Adler et al. 1998)。OT-I CD8+ T細胞のRIP-mOVAマウスへの移入でも同様に、OVAのクロスプレゼンテーション後に機能的不活化と末梢削除が達成される (Kurts et al. 1997)。アネルギー関連分子として、Egr2 (early growth response protein 2)、Cbl-b (Casitas B-lineage lymphoma-b)、DGKz (diacylglycerol kinase zeta)、PD-1、CTLA-4が誘導されることが遺伝子発現プロファイリングにより確認された (Parish et al. 2009)。リンパ球減少症のRag2-/-OVA-transgenicレシピエントでは、DO11.10 CD4+ T細胞が大量に増殖し、機能的応答性を維持し、最終的にレシピエントマウスの大部分を免疫病理学の結果として死亡させた (Knoechel et al. 2005)。これは、リンパ球減少症環境がクローン性アネルギー誘導に対する障壁となることを示唆する。
CTLA-4によるアネルギー誘導: Ctla4-/-マウスは致死的リンパ球増殖と多臓器障害を来し、CTLA-4がアネルギー確立に必須であることが示された (Waterhouse et al. 1995, Tivol et al. 1995)。抗CTLA-4抗体や遺伝的CTLA-4欠損により、可溶性抗原投与によるアネルギー誘導が阻害される (Perez et al. 1997)。CTLA-4はCD28の構造ホモログであり、T細胞活性化後期に発現が上昇し、CD80/CD86に高親和性で結合することで細胞周期進行を負に制御する (Walunas et al. 1994, Krummel & Allison 1996)。Foxp3+制御性T細胞の抑制効果にもCTLA-4が関与するが (Wing et al. 2008)、Ctla4-/- DO11.10 CD4+ T細胞は制御性T細胞欠損Rag-/-RIP-mOVAマウスで重篤なT1Dを引き起こすことから、CTLA-4のT細胞内での直接的なアネルギー誘導機能が示唆される (Eggena et al. 2004)。CTLA-4はB7分子(CD80/CD86)への結合を介してT細胞の増殖停止を促し、応答終了時のアネルギー誘導に寄与する (Figure 2a)。
PD-1によるアネルギー維持: PD-1は、PD-1遺伝子またはそのリガンドであるPD-L1 (PD ligand 1) およびPD-L2の遺伝子欠損後に全身性自己免疫が発症することから、末梢免疫忍容の誘導と維持に関与することが示唆された (Nishimura et al. Immunity 1999, Freeman et al. JExpMed 2000)。低アビディティ膵島抗原特異的BDC2.5 CD4+ T細胞は、高アビディティ模倣ペプチド1040-31で活性化後NOD宿主に移入されるとT1Dを引き起こすが、1040-31ペプチド結合脾臓細胞による治療でアネルギーが誘導され病原性が消失する (Fife et al. 2006)。抗PD-L1抗体は、この系でのアネルギー誘導を阻害し、確立された免疫忍容も破壊することが可能であった。PD-1は、TCR-pMHC接触の「停止シグナル」を阻害することでアネルギー維持に働く独自のメカニズムを持つと考えられ、抗PD-L1抗体処理によりアネルギー状態のBDC2.5 T細胞の膵島内での移動速度が有意に低下することが示された (Fife et al. 2009)。同様に、PD-1欠損CD8+ T細胞 (n=6 mice) は、タモキシフェン誘導性LCMVグリコプロテイン33-42およびヌクレオプロテイン396-404ペプチドを発現するDCへの曝露後も、LCMV感染に対して応答性を維持し、アネルギー誘導に抵抗性を示した (Probst et al. 2005)。PD-1リガンドの発現はDC自体に必須ではなく、NOD-SCID (severe combined immunodeficiency) マウスの組織におけるPD-L1とPD-L2の欠損は、糖尿病NODマウスからのポリクローナルCD4+ T細胞の養子移入後のT1D発症を加速させた (Keir et al. 2006)。これらのデータは、CTLA-4-B7相互作用が自己pMHC認識に対する初期応答中の増殖を終了させアネルギー誘導を促進する一方、PD-1-PD-1リガンド相互作用は、末梢組織に侵入し自己pMHCを見つけた寛容化された自己反応性T細胞を抑制し、アネルギー状態を維持するというモデルと整合する (Figure 2b)。
末梢削除機構: 末梢において、自己pMHC複合体によって慢性的に活性化された自己反応性T細胞は、Fas/FasL (Fas ligand) およびBim (Bcl-2 interacting mediator of cell death) 依存性のアポトーシス経路を介して死滅する (Marrack & Kappler 2004)。Faslprマウス(機能欠損型Fas変異アリル保有)ではT細胞増殖病とループス様自己免疫が生じ (Watanabe-Fukunaga et al. 1992)、Bim欠損マウスも経時的に糸球体腎炎を発症した (Bouillet et al. 1999)。Bimは生存タンパク質Bcl-2の天然アンタゴニストとして機能すると考えられ、Bim欠損およびBcl-2トランスジェニックOT-I CD8+ T細胞はいずれもRIP-OVAマウスへの移入後に末梢削除が障害され、削除がBim/Bcl-2経路に依存することが確認された (Davey et al. 2002)。重要な点として、BimをKO (knockout) したDO11.10 CD4+ T細胞は可溶性OVAトランスジェニック宿主で生存延長するが、最終的にはアネルギー状態となることから、削除とアネルギー誘導は平行して生じ得ることが示された (Barron et al. 2008)。
考察/結論
本レビューは、Burnetのクローン削除、Ohashi/Zinkernagelのクローン性ignorance、Schwartzのクローン性アネルギーという3つの古典的経路を統合し、Medzhitov/SteinmanのDC成熟モデル、MerTK/TAM経路、CTLA-4/PD-1分子機構を組み込んだ末梢T細胞免疫忍容の包括的枠組みを構築した。
先行研究との違い: これまでの研究が個々の末梢免疫忍容機構に焦点を当てていたのに対し、本レビューは胸腺ネガティブセレクションの限界から末梢削除に至るまでの多層的な防御システムを統合的に提示した点で新規性が高い。特に、低アビディティ自己反応性T細胞が胸腺を回避し末梢に到達するメカニズムと、その後の末梢での制御機構との連携を詳細に論じた点は、従来の理解を深めるものである。
新規性: 本研究で初めて、アポトーシス細胞の取り込みを介したMerTK/SOCS1/3誘導による寛容原性DCの機能が、TLRおよびサイトカイン受容体下流のNFκBシグナルを抑制し、寛容原性表現型を誘導するメカニズムを明確に示した。また、CTLA-4がアネルギー誘導に必須であり、PD-1がTCR-pMHC接触の「停止シグナル」を阻害することでアネルギー状態を維持するという、それぞれの分子の独自の役割を統合的に説明した。
臨床応用: 本知見は、自己免疫疾患の病態理解と、新たな治療戦略の開発に直結する臨床的意義を持つ。チェックポイント阻害薬(抗CTLA-4イピリムマブ、抗PD-1ニボルマブ/ペムブロリズマブ)は、これらの免疫忍容機構を意図的に破壊することで腫瘍免疫を増強する治療法であり、その結果として生じるirAE(免疫関連有害事象:大腸炎、肝炎、肺炎、甲状腺炎など)は、末梢免疫忍容破綻の臨床的帰結として理解できる。自己免疫疾患治療としては、寛容原性DC工学、アポトーシス細胞ベース療法(Pittsburgh Protocol)、MerTK作動薬の開発可能性が示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 臨床的自己免疫疾患における重要な自己pMHCの同定、(2) TCRアビディティ/抗原密度閾値と疾患発症の量的モデル構築、(3) ignorance-anergy-deletion間の切り替え機構、(4) irAE発症時にどのanergy分子が優先的に失われるかの解明、(5) AIRE+リンパ節ストロマ細胞によるTRAクロスプレゼンテーションの臨床的意義、(6) 組織常在記憶T細胞(TRM)の末梢免疫忍容への寄与、が挙げられる。これらの課題の解決は、末梢T細胞免疫忍容のより深い理解と、自己免疫疾患および免疫療法関連有害事象の個別化医療への応用を可能にするだろう。本レビューは、現代免疫療法の分子基盤を体系化し、末梢T細胞免疫忍容破綻を「制御可能なネットワーク障害」として捉える枠組みを提供した影響力の大きい総説である。
方法
本論文は、末梢T細胞免疫忍容機構に関する既存の文献を統合的にレビューした総説であるため、実験的な「方法」セクションは該当しない。著者は、自己反応性T細胞の胸腺からの回避、自己pMHC複合体への不応答(ignorance)、寛容原性DCの機能、TCR依存的アネルギー誘導、および末梢削除に関する主要な研究論文を広範に調査した。文献検索は、PubMedなどの主要な医学データベースを用いて行われたと考えられる。具体的には、TCRトランスジェニックマウスモデルを用いた研究、DCの成熟と機能に関する研究、CTLA-4 (cytotoxic T lymphocyte-associated Ag-4) やPD-1 (programmed cell death-1) などの共刺激分子の役割に関する研究、アポトーシス経路とT細胞削除に関する研究などが含まれる。これらの研究結果を統合し、末梢免疫忍容を維持する多層的なメカニズムの全体像を構築した。レビュー対象論文の選定においては、関連性の高い基礎研究および臨床研究が包含されたと推察される。例えば、Liu et al. (1995)による低アビディティTCRを持つ自己反応性T細胞の胸腺回避に関する研究、Hawiger et al. (2001)による寛容原性DCの誘導に関する研究、Nishimura et al. Immunity 1999やFreeman et al. JExpMed 2000によるPD-1の自己免疫における役割に関する研究などが詳細に分析された。これらの研究は、T細胞の活性化、増殖、分化、アポトーシスといった細胞生物学的プロセスを分子レベルで解明するために、フローサイトメトリー、遺伝子発現解析、細胞培養アッセイ、動物モデルを用いたin vivo実験など、多岐にわたる実験手法を採用している。著者はこれらの知見を統合し、末梢免疫忍容の破綻が自己免疫疾患の発症にどのように寄与するかについて、統一的な視点から考察を加えている。統計手法については、各引用論文で個別に用いられた手法が間接的に参照されているが、本レビュー自体で新たな統計解析は実施されていない。本レビューの目的は、既存の知見を統合し、末梢免疫忍容機構の包括的な理解を深めることであり、特定の実験プロトコルやデータ解析手法の新規性を主張するものではない。文献の質の評価やエビデンスレベルのグレーディングは明示されていないが、主要な発見と概念を提示する上で、広く引用されている影響力の高い研究が中心に選定されていると考えられる。