- 著者: Gordon J. Freeman, Andrew J. Long, Yoshiko Iwai, Karen Bourque, Tatyana Chernova, Hiroyuki Nishimura, Lori J. Fitz, Nelly Malenkovich, Taku Okazaki, Michael C. Byrne, Heidi F. Horton, Lynette Fouser, Laura Carter, Vincent Ling, Michael R. Bowman, Beatriz M. Carreno, Mary Collins, Clive R. Wood, Tasuku Honjo
- Corresponding author: Tasuku Honjo (Department of Medical Chemistry, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan)
- 雑誌: The Journal of Experimental Medicine
- 発行年: 2000
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 11015443
背景
PD-1 (programmed cell death 1) は、活性化されたT細胞、B細胞、および骨髄系細胞の細胞表面に転写誘導されるI型膜貫通タンパク質である。その細胞外領域は単一のIgV (immunoglobulin variable-like) ドメインから構成され、細胞内領域には免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ (ITIM) を有している。これまでの遺伝子欠損マウスを用いた機能解析により、PD-1受容体が免疫応答の負の制御因子として機能し、その欠損が末梢寛容の破綻と自己免疫疾患の発症につながることが示されている。具体的には、PD-1欠損マウスは加齢に伴ってループス様増殖性関節炎や、主にIgG3の沈着を伴う糸球体腎炎を発症することが報告されている (Nishimura et al. Immunity 1999)。また、lpr変異を導入することで自己免疫症状の発症が加速・重症化し、2C-TCRトランスジェニックPD-1-/-マウスにおいては慢性移植片対宿主病様の致死的な全身性疾患が引き起こされることも既報により明らかになっている。
PD-1は、T細胞の恒常性維持に決定的な役割を果たすCTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4) と構造的に類似しており、アミノ酸配列において23%の同一性を有している。CTLA-4は抗原提示細胞上のB7-1 (CD80) およびB7-2 (CD86) に結合して強力な抑制シグナルを伝達するが、PD-1はB7-1/B7-2との結合に必須とされるMYPPPY (Met-Tyr-Pro-Pro-Pro-Tyr) モチーフを欠いている。そのため、PD-1のリガンドがB7ファミリーに属する未知の分子である可能性は推測されていたものの、その具体的な実体は未解明のままであった。PD-1を介した免疫抑制シグナルの詳細な分子機序や、生体内における末梢寛容維持の具体的な役割を解明する上で、このリガンドの未同定という状況は決定的な知識のギャップ (knowledge gap) となっていた。すなわち、PD-1の生理的リガンドに関する情報が不足していたことが、この重要な免疫チェックポイント経路の全体像の理解と、それを標的とした新たな治療戦略の開発を妨げる最大の要因であった。先行研究として、Ishida et al. (1992) によるPD-1遺伝子の同定、Agata et al. (1996) による活性化リンパ球上での発現確認、そして Nishimura et al. Immunity 1999 による自己免疫寛容破綻の報告がなされていた。しかし、リガンド分子そのものの同定には至っておらず、リガンド情報が決定的に不足しているという課題が残されていた。
目的
本研究の目的は、B7ファミリーホモログの探索を通じてPD-1の新規結合リガンドを同定し、その結合特異性を生化学的に検証することである。さらに、同定されたリガンドの細胞および組織における発現パターンを詳細に解析するとともに、T細胞受容体 (TCR) 刺激を介したリンパ球の増殖およびサイトカイン分泌における機能的意義を明らかにすることを目指した。これにより、PD-1経路による免疫抑制の分子基盤を確立し、末梢組織における自己寛容維持機構を解明することを目的とする。
結果
PD-L1の同定とPD-1への特異的結合: データベース検索により、B7ファミリーの新規メンバーとしてヒトおよびマウスのPD-L1を同定した (Figure 1)。ヒトPD-L1 (290アミノ酸) は、先行研究においてT細胞刺激活性が報告されていたB7-H1と同一の配列であった (Dong et al. NatMed 1999)。マウスPD-L1はヒトPD-L1と70%のアミノ酸同一性を示し、B7-1、B7-2、ICOS-Lとはそれぞれ21%、20%、23%の同一性を有していた。フローサイトメトリー解析において、可溶性ヒトPD-1.IgおよびマウスPD-1.Igは、PD-L1を安定発現させたCHO-K1細胞 (n=2 cell lines) に対し強力に結合したが、CTLA-4.Ig、CD28.Ig、ICOS.Igは全く結合を示さなかった (Figure 2A)。BIAcoreを用いた表面プラズモン共鳴解析においても、可溶性PD-L1.Igは固定化されたPD-1.Igに特異的に結合し、この結合は100 ug/mlの可溶性PD-1.Igの共注入によって完全に競合阻害された (Figure 2B)。一方、可溶性B7-1およびB7-2は固定化PD-1.Igへの結合を示さず、PD-1とPD-L1の相互作用が極めて特異的であることが実証された。
抗原提示細胞および非リンパ組織におけるPD-L1の発現動態: ヒト末梢血単球において、PD-L1 mRNAは未刺激状態では検出されなかったが、IFN-g (500 U/ml) 刺激により12時間以内に4.2 kbの主要転写産物および1.8 kbの副次的転写産物が強力に誘導された (Figure 3A)。ヒト末梢血由来の樹状細胞においては、LPSおよびIFN-gによる活性化刺激により、PD-L1 mRNAの発現量が4時間で16-fold、20時間で34-foldへと著明に上昇した (Figure 3B)。この発現誘導の動態はB7-1 (4時間で21-fold) と類似していたが、恒常的に発現しているB7-2 (20時間で5-fold誘導) とは異なっていた。マウス骨髄由来樹状細胞 (n=3 replicates) においても、活性化刺激後にPD-L1 mRNAの5-foldの発現上昇が確認された。さらに、ヒト角化細胞においてもPMAとIFN-gの併用刺激によりPD-L1の発現が誘導された (Figure 3C)。マウス組織のNorthern blot解析では、心臓、胸腺、肺において極めて高いレベルのPD-L1 mRNA (約3.7 kb) の構成的発現が認められ、腎臓、脾臓、肝臓では低レベルであった (Figure 3D)。また、遺伝子マッピングにより、ヒトPD-L1遺伝子は染色体9に局在することが判明し、染色体3にクラスターを形成しているB7-1およびB7-2遺伝子とは異なる座位にあることが示された (Figure 3E)。
PD-L1によるT細胞増殖およびサイトカイン分泌の抑制作用: 抗CD3抗体で刺激した野生型 (PD-1+/+) マウス脾臓T細胞の増殖は、プレートに共固定化したヒトPD-L1.Igの濃度依存的に強力に抑制された (Figure 4B)。これに対し、PD-1-/-マウス由来のT細胞 (n=3 mice) においては、PD-L1.Igによる増殖抑制効果は全く観察されず、PD-L1による抑制シグナル伝達が完全にPD-1受容体に依存していることが証明された (Figure 4B)。ヒトCD4+ T細胞を用いた機能解析において、抗CD3抗体およびPD-L1.Igを共固定化したビーズ (1:1 bead/cell ratio) で刺激した群では、対照IgG群と比較してT細胞の増殖が69%減少した (Figure 4C)。さらに、上清中のサイトカイン産生量を測定したところ、PD-L1の存在下においてIFN-gの分泌量は約80%減少し、IL-10の分泌量も約60%減少した (Figure 4C)。
TCRおよびCD28共刺激シグナル強度に依存した抑制効果の変動: TCRおよびCD28を介したシグナル強度と、PD-1を介した抑制シグナルの相互関係を検証した。サブオプティマルな抗CD3抗体刺激条件下 (1 ug/ml) においては、可溶性抗CD28抗体の添加によりT細胞の増殖が最大30-foldまで増強されたが、PD-L1.Igの共固定化によりこの増殖活性は80%抑制された (Figure 5A)。この抑制を克服して増殖を回復させるためには、250 ng/mlという高濃度の抗CD28抗体による最大レベルの共刺激が必要であった。一方、オプティマルな抗CD3抗体刺激条件下 (2 ug/ml) においては、PD-L1による増殖抑制効果は抗CD28抗体による共刺激が存在しない場合にのみ顕著であり、共刺激の存在下では抑制がキャンセルされた (Figure 5B)。これらの結果は、PD-1-PD-L1経路による抑制効果がTCRおよびCD28を介した活性化シグナルの相対的強度に依存し、活性化閾値を精密に制御していることを示している。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、免疫抑制性受容体PD-1の特異的リガンドとしてPD-L1を初めて同定し、その機能がT細胞活性化の負の制御であることを実証した。このPD-1-PD-L1経路は、既知のCTLA-4-B7経路と並ぶ重要な免疫チェックポイントシステムである。CTLA-4欠損マウスが全身性の致死的なリンパ増殖性疾患を早期に発症するのに対し、PD-1欠損マウスが加齢に伴って緩徐にループス様自己免疫疾患を発症するという表現型の違いは、それぞれのリガンドの組織発現分布の違いを反映していると考えられ、極めて対照的である。B7-1およびB7-2の発現がプロフェッショナル抗原提示細胞にほぼ限定されているのに対し、PD-L1は心臓や肺などの非リンパ性実質臓器に恒常的に発現しており、末梢組織局所における炎症反応の制御に特化している。
新規性: 本研究は、PD-L1がPD-1に特異的に結合し、TCR刺激によるT細胞の増殖およびIFN-gやIL-10などの主要なサイトカイン分泌を直接的に抑制することを本研究で初めて明らかにした。さらに、未発表データとして、B細胞受容体とPD-1の共架橋が細胞内カルシウム流入を抑制し、PD-1の細胞質領域にあるITIMを介してチロシンホスファターゼSHP-2を動員するシグナル伝達機構を新規に提示した。これは、Dong et al. NatMed 1999が報告したB7-H1 (PD-L1) によるT細胞共刺激効果(IL-10産生促進)とは異なる結果であり、実験系における抗CD3抗体濃度の違いや、PD-L1がPD-1以外の第二の共刺激受容体を持つ可能性を示唆する重要な知見である。
臨床応用: PD-L1の同定およびその免疫抑制機能の解明は、がん免疫療法における免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体)の開発における理論的基盤となった。著者らは、ヒト卵巣がん由来のESTデータベース中にPD-L1配列が複数存在することを指摘し、腫瘍細胞がPD-L1を発現することで宿主の抗腫瘍免疫応答から逃避している可能性を先見的に提示した。この translational な洞察は、その後の臨床医学において実証され、肺がんをはじめとする多種多様ながん種に対する標準治療薬としての臨床応用に直結した。
残された課題: 本研究の発表当時、今後の検討課題として以下の点が挙げられた。第一に、PD-1のITIMが動員するホスファターゼの生体内における詳細なシグナル遮断機序の解明である。第二に、感染症や腫瘍微小環境におけるPD-L1のin vivoでの役割の検証である。第三に、PD-L1以外の第二のリガンド(後のPD-L2)の存在の有無、およびPD-L1自身が持つとされる第二の共刺激受容体の同定である。これらの課題は、本研究を契機としてその後の免疫学研究において急速に解明されていくこととなった。
方法
分子クローニング: National Center for Biotechnology Information (NCBI) のヒトEST (expressed sequence tag) データベースを、B7-1およびB7-2のアミノ酸配列をクエリとしたBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) 検索によりスクリーニングした。その結果、高い相同性を示す2つのオーバーラップEST配列 (AA292201およびAA399416、計389 bp) を同定した。この配列を基にビオチン標識PCRプローブを作製し、ヒト胎盤cDNAライブラリからCloncapture法を用いて全長ヒトPD-L1 (PD-1 ligand 1) cDNAを単離し、発現ベクターpAXEFにクローニングした。同様に、マウスESTデータベースからマウスPD-L1ホモログ (AA896104およびAA823166) を同定し、活性化マウスT細胞cDNAライブラリから全長マウスPD-L1 cDNAを単離した。
融合タンパク質の作製と細胞発現: PD-1、CTLA-4、CD28、ICOS (inducible costimulator)、およびPD-L1の細胞外領域を、ヒトIgG1またはFc受容体および補体結合を阻害する4点変異を導入したマウスIgG2aのヒンジ-CH2-CH3ドメインにインフレームで融合させ、各種Ig融合タンパク質 [Ig(g1)およびIg(g2a)] を作製した。これらのコンストラクトをCOS細胞に一過性導入、あるいはCHO-K1 (Chinese hamster ovary) 細胞株に安定導入して発現させ、Protein A-Sepharoseカラムを用いて培養上清から精製した。
結合特異性の解析: ヒトまたはマウスのPD-L1を安定発現させたCHO-K1細胞株を用い、可溶性受容体融合タンパク質 [PD-1.Ig、CTLA-4.Ig、CD28.Ig、ICOS.Ig] の結合性をフローサイトメトリーにより評価した。さらに、BIAcore 2000システムを用いた表面プラズモン共鳴 (SPR) 解析により、センサーチップ上に固定化したPD-1.IgまたはCTLA-4.Igに対する可溶性PD-L1.Igの結合親和性および可溶性受容体による競合阻害活性を測定した。
T細胞機能解析: マウス実験では、C57BL/6J野生型およびPD-1-/-マウス (C57BL/6J背景) の脾臓から抗IgMパンニング法により精製したT細胞 (純度80%) を用いた。96ウェルプレートに抗CD3抗体 (145-2C11、クローン名) とPD-L1.Igまたは対照IgG2aを様々な比率で共固定化し、72時間培養後の[3H]チミジン取り込み量により細胞増殖を評価した。ヒト実験では、PBMC (peripheral blood mononuclear cell) からネガティブセレクションにより精製したCD4+ T細胞 (純度85-90%) を用いた。抗CD3抗体 (UCHT1、クローン名) とPD-L1.Igまたは対照IgGを共有結合させたトシル活性化磁気ビーズ (Dynabeads) を用いてT細胞を刺激した。培養上清中のIFN-g、IL-10、IL-2濃度は市販のELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) キットを用いて測定した。共刺激シグナルの影響を評価するため、可溶性抗CD28抗体 (CD28.2、クローン名) を添加した培養系も用いた。統計解析には Student t-test を用いて群間比較を実施した。
発現分布および遺伝子マッピング: ヒト末梢血単球 (IFN-g 500 U/mlまたはTNF-a 100 U/ml刺激)、B細胞 (抗IgM刺激)、末梢血由来樹状細胞 (GM-CSF+LPS+IFN-g刺激)、およびヒト角化細胞 (PMA+IFN-g刺激) におけるmRNA発現を、Northern blotおよびTaqManリアルタイム定量PCRにより解析した。マウス組織 (心臓、胸腺、肺、腎臓、脾臓、肝臓) における発現は、polyA+ RNAを用いたNorthern blotにより評価した。ヒトPD-L1遺伝子の染色体局在は、単染色体ヒト体細胞ハイブリッドDNAパネルをテンプレートとしたPCR増殖法により同定した。