- 著者: Hiroyuki Nishimura, Masato Nose, Hiroshi Hiai, Nagahiro Minato, Tasuku Honjo
- Corresponding author: Tasuku Honjo (Department of Medical Chemistry, Faculty of Medicine, Kyoto University, Kyoto 606-8501, Japan)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 1999
- Epub日: 1999-08-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 10485649
背景
末梢自己寛容 (peripheral self-tolerance) は、中枢のネガティブセレクションを逃れた自己反応性T細胞・B細胞の活性化を抑制する機構として、クローン性アネルギー、抗原受容体ダウンレギュレーション、能動的抑制など複数の様式が提唱されてきたが、その関与分子の遺伝学的証明は限定的であった。CD22、FcγRIIB、KIRs (killer cell inhibitory receptors) などのITIM (immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif) を持つ抑制性受容体がSHP-1/SHIP (Src homology 2 domain-containing inositol 5-phosphatase) を介してチロシンキナーゼシグナルを抑制する分子機構は明らかにされていた。しかし、これらを欠失したマウスはB細胞応答の亢進を示すものの、全身性の自己免疫疾患(糸球体腎炎・関節炎など)を発症することは報告されていなかった (O’Keefe et al. 1996; Takai et al. 1996)。
一方、ヒト全身性エリテマトーデス (SLE) やNZB、MRL/Mp-lpr/lpr、BXSBなどの自然発症ループスモデルマウスでは、増殖性糸球体腎炎と関節炎が特徴的な病態として認められたが、その原因遺伝子の同定は遅れていた (Theofilopoulos and Dixon 1985; Kotzin 1996)。本庶研究室は1992年にプログラム細胞死関連分子としてPD-1 (Programmed cell Death 1, PDCD1) を同定し (Ishida et al. 1992)、ITIM/ITSM (immunoreceptor tyrosine-based switch motif) を持つ55 kDaのtype I膜タンパク質であること、活性化T/B細胞・骨髄系細胞で誘導されることを既に報告していた (Agata et al. 1996)。先行するPD-1⁻/⁻マウス(mixed background)ではIgG3の上昇と軽度脾腫が報告されていたが (Nishimura et al. 1998)、全身性自己免疫疾患との関連は未確定であり、PD-1が末梢自己寛容の維持に果たす役割についてはさらなる検証が不足していた。特に、PD-1欠損が全身性の自己免疫疾患、特にループス様の糸球体腎炎や関節炎の発症に直接的に寄与するかどうかは未解明であった。このような背景から、PD-1が末梢自己寛容の維持に果たす役割を遺伝学的に明確にすることが重要な課題として残されていた。
目的
本研究の目的は、PD-1が末梢自己寛容の維持にどのように関与するかを遺伝学的に検証することである。具体的には、PD-1⁻/⁻マウスを純系C57BL/6 (B6) 背景に11世代以上バッククロスし、加齢に伴う臓器病変(糸球体腎炎・関節炎)を組織学的に評価する。さらに、Fas (lpr) 変異との二重欠損マウスを作製し、その表現型が増悪するかを比較することで、PD-1とFasが自己寛容維持において相補的に機能するかを検討する。加えて、H-2Lᵈ特異的な2C-TCRトランスジェニック系を用いて、抗原特異的なPD-1欠損T細胞の機能異常をin vivoおよびin vitroで解析し、PD-1がT細胞応答の負の制御因子として機能する分子メカニズムの一端を明らかにすることを目指す。これらの解析を通じて、PD-1が全身性自己免疫疾患の発症に寄与するメカニズムを解明し、末梢自己寛容におけるPD-1の役割を確立することを目的とした。
結果
B6-PD-1⁻/⁻マウスにおけるループス様疾患の自然発症: 14ヶ月齢のB6-PD-1⁻/⁻マウス4匹中2匹で、grade 2の典型的なループス様endocapillary増殖性糸球体腎炎を認め、PAS陽性物質の沈着を伴った (Figure 2B, 2C)。同年齢のB6対照マウスではgrade 1程度の加齢性変化のみであった (Figure 2A)。関節炎はB6-PD-1⁻/⁻マウス4匹全例で組織学的所見を認め、grade 1–3に分布した (Figure 2E, 2F)。14ヶ月齢時の関節炎発症はB6対照と比較してMann-Whitney検定で有意差が認められた (p=0.02)。6ヶ月齢のB6-PD-1⁻/⁻マウス10匹中3匹に軽度糸球体腎炎(grade 1)、4匹に軽度関節炎(grade 1)を認め、B6対照(0/5匹)と比較して早期発症傾向が確認された (Table 1)。
IgG3の選択的沈着と血清上昇: B6-PD-1⁻/⁻マウスの腎糸球体には、C3沈着を伴う有意なIgG3沈着が認められた (Figure 1)。B6対照マウスではIgG2aの限定的沈着のみであった。血清IgG3もPD-1⁻/⁻マウスで選択的に上昇し、TI-2抗原応答亢進と整合した。IgM沈着は両群で認められたが、病理学的変化とは関連がなかった。
Fas (lpr) 変異との相乗効果: B6-lpr/lpr-PD-1⁻/⁻二重欠損マウスでは、6ヶ月齢時点でgrade 2–3の重篤な糸球体腎炎を高頻度に発症し (8/9匹)、B6-lpr/lpr単独マウス(1/15匹がgrade 2)と比較して有意に増悪した (p=0.003) (Figure 2H, 2I, 2G)。関節炎もgrade 2–3が高頻度で出現した (6/9匹、p=0.003) (Figure 2K, 2L, 2J)。これらの表現型はMRL-lpr/lprマウスと同等の早期・重症化を示し (Table 1)、PD-1とFasが独立かつ相補的に末梢自己寛容を維持していることを示した。B6-lpr/lpr-PD-1⁻/⁻マウスでは、B6-lpr/lprマウスと比較してリンパ節腫脹が著しく増悪し(最大腋窩リンパ節重量 475.7 ± 171.2 mg vs 39.4 ± 6.9 mg, n=4 mice, p<0.01)、MRL-lpr/lprマウス(207.5 ± 126.2 mg)よりも大きかった。組織学的に、B6-lpr/lpr-PD-1⁻/⁻マウスのリンパ節では異常な有糸分裂像が頻繁に観察され (Figure 2O)、骨髄の広範な過形成も認められた (Figure 2N)。フローサイトメトリー解析では、B6-lpr/lpr-PD-1⁻/⁻マウスのリンパ節における「異常な」B220⁺Thy1⁺T細胞の割合がB6-lpr/lprマウスと比較して著しく増加した (65.1% vs 39.3%) (Figure 3A)。
2C-TCRトランスジェニック系でのGVH様疾患: H-2ᵇ/ᵈ半同種背景下の2C-TCR/PD-1⁻/⁻マウスは慢性GVH様疾患を発症し、10週齢までに69匹中17匹が瀕死または死亡し、残りのマウスも有意な成長遅延(体重 22.0 ± 3.8 g vs 31.1 ± 3.7 g, p<5×10⁻⁶)と脾腫(脾臓重量 284.3 ± 141.4 mg vs 113.9 ± 26.6 mg, p=0.0005)を呈した。皮膚病変(皮膚炎様病変、壊死性病変、紅斑)は69匹中23匹で認められ、表皮への炎症細胞浸潤を伴った (Figure 4A-4C)。心臓 (Figure 4E, 4F)、肺 (Figure 4H, 4I)、肝臓 (Figure 4J)、唾液腺 (Figure 4K)、膵臓 (Figure 4L) など多くの臓器で炎症細胞の密な浸潤が観察された。免疫組織化学解析により、CD8⁺および2C-TCR⁺T細胞が表皮基底層に浸潤していることが確認された (Figure 4N, 4P)。同系のPD-1⁺/⁺マウスではGVH様疾患は発症しなかった。PD-1欠損は胸腺におけるネガティブセレクションを加速する傾向を示し、CD4⁺CD8⁺胸腺細胞数が有意に減少した(37.7 ± 23.9 × 10⁴ cells vs 5.75 ± 4.21 × 10⁴ cells, p<0.05)(Figure 5A)。しかし、脾臓におけるCD8⁺T細胞の総数はPD-1欠損マウスで有意に増加した(6.19 ± 4.51 × 10⁶ cells vs 1.35 ± 0.81 × 10⁶ cells, n=16 mice, p=0.0005)(Figure 5B)。これらのCD8⁺T細胞はCD45RBlowCD62LlowCD69⁺の「抗原プライミング済み」表現型を示した (Figure 5C)。
CD8⁺2C-TCR⁺T細胞の同種抗原応答亢進: PD-1⁻/⁻由来CD8⁺2C-TCR⁺T細胞は、H-2ᵈアロジェニック細胞に対してin vitroで著明な増殖亢進を示した (Figure 6D)。一方、IL-2や抗CD3抗体刺激に対する増殖応答はPD-1欠損の有無にかかわらず同程度であった (Figure 6B, 6C)。これはPD-1が抗原刺激後のT細胞応答を直接抑制することを示し、PD-1がITIMを介してTCRシグナルを負に制御するという分子モデルと整合する。この増殖亢進は、PD-1欠損により抗原提示細胞からの特異的刺激に対するT細胞の応答が脱抑制された結果であると考えられた。
考察/結論
本研究は、PD-1が末梢自己寛容の負の調節因子として機能することを遺伝学的に初めて証明し、全身性自己免疫疾患、特にループス様病態を発症する初のITIM受容体欠損モデルを確立した。
先行研究との違い: これまでのITIM含有受容体欠損マウス(CD22、FcγRIIBなど)はB細胞応答の亢進を示すものの、全身性自己免疫疾患の発症は報告されていなかった (O’Keefe et al. 1996; Takai et al. 1996)。本研究で示したPD-1⁻/⁻ B6マウスは、BALB/c背景での拡張型心筋症 (Nishimura et al. 2001) とは異なるループス様表現型を示し、遺伝背景依存的に多様な臓器特異的自己免疫を発症する可能性を示唆した点で、これまでの知見と対照的である。
新規性: 本研究で初めて、PD-1欠損が加齢に伴う増殖性糸球体腎炎と破壊性関節炎というループス様病態を自然発症させることを示した。さらに、Fas (lpr) 変異との組み合わせにより病態が著しく加速・増悪すること、および自己反応性T細胞のin vivoでの活性化と増殖を促進することを明らかにした点は新規の発見である。PD-1が免疫応答の負の調節因子として機能し、末梢自己寛容の維持に重要な役割を果たすという概念を遺伝学的に確立したことは、免疫学における重要な貢献である。
臨床応用: 本知見は、PD-1/PD-L1経路を「自己寛容の生理的ブレーキ」として位置づけ、Honjo研究室によるPD-L1同定 (Freeman et al. 2000) とPD-1抗体療法の腫瘍応用 (Iwai et al. 2002) の概念的基盤となった。PD-1経路の阻害が腫瘍免疫療法(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)として臨床応用され、がん治療に革命をもたらしたことを考えると、本論文の臨床的意義は極めて大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、(i) ループス様疾患の発症率が背景遺伝子と環境要因に強く依存し、後続の独立追試では発症頻度に差があったこと、(ii) PD-1の細胞内シグナル分子(SHP-2 vs SHP-1)の詳細は本論文では未確定であったこと、(iii) 自己抗原特異性が2C-TCR以外で解析されていないこと、という点が挙げられる。また、PD-1欠損マウスにおけるIgG3選択的沈着のメカニズムや、PD-1がマクロファージなどの炎症細胞に与える影響についてもさらなる研究が必要である。これらのlimitationにもかかわらず、本論文は免疫チェックポイント阻害による腫瘍免疫療法の理論的出発点であり、本庶博士の2018年ノーベル生理学・医学賞受賞対象研究の中核を構成する歴史的論文である。
方法
PD-1⁻/⁻マウス (Nishimura et al. 1998) をC57BL/6マウスと11世代以上バッククロスし、B6-PD-1⁻/⁻コンジェニックラインを樹立した。これらのマウスは、特定の病原体を持たない施設で飼育された。マウスを6ヶ月齢および14ヶ月齢で犠牲解剖し、腎臓と足関節を組織学的に評価した。腎臓はPAS染色および免疫蛍光法によりIgG、IgG3、IgM、C3の沈着を評価し、病変の重症度をgrade 0–3で半定量化した。足関節はHE染色により滑膜増殖、パンヌス形成、炎症細胞浸潤を評価し、同様にgrade 0–3で半定量化した。
並行して、B6-lpr/lpr (Fas機能喪失) マウスとの交配によりB6-lpr/lpr-PD-1⁻/⁻二重欠損マウスを作出し、6ヶ月齢でMRL-lpr/lprマウスと比較して表現型を評価した。リンパ節細胞のフローサイトメトリー解析により、B220⁺Thy1⁺T細胞およびCD4⁺CD8⁻T細胞の割合と活性化マーカー(CD44、CD69、PD-1)の発現を評価した。使用した抗体は、FITC標識抗マウスCD8a、PE標識抗CD4、FITC標識抗マウスThy-1、PE標識抗マウスCD45R/B220、ビオチン標識抗マウスCD25、ビオチン標識抗マウスCD44、ビオチン標識抗マウスCD45RB、ビオチン標識抗マウスCD62L、ビオチン標識抗マウスCD69、ビオチン標識抗2C-TCRクローン性mAb (1B2)、およびビオチン標識抗マウスPD-1 mAb (J43) であった。
さらに、H-2Lᵈ特異的な2C-TCRトランスジェニックマウスをH-2ᵇ/ᵈ半同種背景下にPD-1⁻/⁻と交配し、2C-TCR/PD-1⁻/⁻マウスを作製した。これらのマウスにおける移植片対宿主病 (GVH) 様疾患の発症を観察し、体重減少、脾腫、臓器浸潤を組織学的に評価した。脾臓細胞のフローサイトメトリー解析により、CD8⁺2C-TCR⁺T細胞の数と活性化マーカー(CD45RB、CD62L、CD69、CD44)の発現を比較した。in vitroでは、B6-2CおよびB6-2C-PD-1⁻/⁻マウス由来の脾臓細胞をBALB/c脾臓細胞で前刺激した後、IL-2、抗CD3抗体、またはH-2ᵈアロジェニック細胞で再刺激し、³H-チミジン取り込みアッセイにより増殖応答を評価した。統計検定にはMann-Whitney U testを用い、p値が0.05未満を有意とした。各群のサンプルサイズはn=4–15であった。